昨日の放課後のことを思い出しては、胸が締め付けられるような気分でいた。
『[明朝体]君の先輩、だね[/明朝体]』
この言葉が脳裏から離れない。意識してはダメだ、と思いつつも頭のどこかにあの言葉がある。無性に腹が立つ。
「何なの、あの先生…」
私は行きのバスの中で呟いた。
今日も九条先生は笑顔だった。今は早乙女さん(確かそんな名前)と横山さん(確かそんな名前)と話している。日に日に、九条先生のことが分からなくなっていく。先生って大変だなぁ、ってつくづく思う。
「ところで、みんなは部活動見学とか行った?」
HR後の10分間に、九条先生が問いかける。みんなは頭の上に「?」を浮かべている。
「部活動見学、明日までだから気になる部活はしっかり見ておくように。」
九条先生は生徒たちの目を見ながら言った。
部活動、か。以前配布された「部活動一覧」を見てみる。気になる部活…。
ひとつの部活が目に留まる。『新聞・文藝部』?文藝って何?
『半年に1枚、校内新聞を執筆し、文化祭時にはしおりを作成します。部員数は1名ですが、顧問の先生と仲良くやって
います。見学の際は3Fの第2図書準備室まで来てください。お待ちしています!』
説明文にはこう書かれている。部員数が1人で活動なんてできるのだろうか?顧問の先生ってどう思ってるのか?気が付けば、この部活の虜になっていた。今日、この部活に見学に行ってみよう。そう思った。
放課後は、いつもより早く教室を出て、九条先生とは話さないようにした。また調子を狂わされる気がして嫌だった。
急いで「第2図書準備室」へ向かう。3階って書いてあるけど、どの辺にあるのだろう?まだ全然場所を把握しきれてなくて、時間がかかってしまう。
「あった…。」
今何時かは知らないが、相当時間がかかった気がする。「第2図書準備室」という看板が掛けられたその部屋は、中に人がいるようには思えないくらいに静まり返っていた。
「おっ!見学の方?」
ふわふわとした声が背後から聞こえてきた。ビクッとした後に振り返る。
「あ、あの、見学に来ました…」
そこには髪を二つに結び眼鏡をかけ、私の同じくらいの身長の女の子が立っていた。
「そうかそうか!初めてのお客さんだ!」
彼女は嬉しそうに眼鏡を押し上げると、準備室の鍵を開け、私を中に誘導してくれた。私は会釈をした後、室内に入った。
中は暗く、少し埃っぽかった。
「いらっしゃい、わが新聞・文藝部へ!」
彼女は響く声で私に言う。私がビクッとした様子を見せると、「ごめんね!」と言い、荷物をそこら辺に放り投げ、この部の説明を始めた。
「部活動一覧、見た?」
彼女の問いかけに私は頷く。
「活動内容はホントそのまんまなんだけど、新聞としおり書く、みたいな?」
私は相槌を打つ。彼女は、
「何か分からないことある?」
と私に問いかける。私は素朴な質問を彼女に投げかける。
「しおりって文化祭のやつですよね?何書くんですか?」
「おっ!いいとこ突くね!」
彼女は満足そうに頷く。
「しおりには、文化祭の内容のほかに、自分の作品を掲載することができます!」
「じ、自分の作品?」
「そう、自分の作品!」
彼女はそう言うと、部屋の奥の方へ向かい、何かを持って戻ってきた。
「こんな感じのやつだよ。」
彼女が手にしていたのは、過去の文化祭のしおりだった。手渡されたしおりをパラパラとめくってみる。
本当だ。生徒たちが書いたであろう俳句や詩、小説などが載っている。
「す、凄いですね」
「そう?興味持ってくれた?」
彼女の問いかけに私は頷く。すると、彼女は満面の笑みを浮かべ、
「ホント⁉嬉しい!」
と飛び跳ねた。
「入部希望って事で、いい?」
私は迷った。学校生活と両立できる気がしなかったから。第一、この人とも仲良くなれるかどうか…。
「まあ、まだ迷うよね。」
空気を察したのか、彼女はトーンを抑えて言う。
「私もね、本当は友達と一緒に入部したんだよね。」
友達?しかし、どう見てもここには私と彼女の2人しかいない。
「でも、友達は途中でやめちゃって。私の先輩の代も、何人かやめちゃってて…。」
彼女は悲しそうに話を続ける。私まで悲しい気分になってくる。
「気づいたら、私一人になってたの、この部活。」
彼女は俯いたまま答える。しかし次の瞬間、
「けど私はやめなかった。楽しかったし、顧問の先生とも仲良くなれたから。」
彼女の言葉に胸が詰まった。悩んでいること自体が間違いなように感じた。
「1人だけどさ、意外と楽しいよ。」
彼女は気さくな笑みを浮かべる。私はこの部活に、
「入部したい」
と思った。しかし思わず口に出してしまう。
「え、ホント⁉」
彼女の大きな目はさらに見開かれた。私は頷き、
「はい、入部したいです。」
と言い直す。彼女は嬉しそうに「やったー!」と少し走り回る。しばらくそうした後、彼女は咳ばらいをし、
「じゃあ、明日もまた来てよ。そしたら、顧問の先生もいると思うから。」
今日は休みらしい。私は頷くと、準備室を出ようとした。すると、
「そういえば、名前、聞いてなかったね。」
と彼女の声。私はもう一度彼女の方を向き直り、
「1-Aの、柊木璃音です。」
と言う。「璃音ちゃんね」と私を呼ぶ彼女。恥ずかしいと思いながらも、
「えっと、あなたのお名前は…?」
と聞いてみる。彼女は姿勢を正して眼鏡をかけ直して言った。
「3-Bの、朝美琴音です。よろしくね、璃音ちゃん。」
屈託のない笑みが私を包み込んだ。
『[明朝体]君の先輩、だね[/明朝体]』
この言葉が脳裏から離れない。意識してはダメだ、と思いつつも頭のどこかにあの言葉がある。無性に腹が立つ。
「何なの、あの先生…」
私は行きのバスの中で呟いた。
今日も九条先生は笑顔だった。今は早乙女さん(確かそんな名前)と横山さん(確かそんな名前)と話している。日に日に、九条先生のことが分からなくなっていく。先生って大変だなぁ、ってつくづく思う。
「ところで、みんなは部活動見学とか行った?」
HR後の10分間に、九条先生が問いかける。みんなは頭の上に「?」を浮かべている。
「部活動見学、明日までだから気になる部活はしっかり見ておくように。」
九条先生は生徒たちの目を見ながら言った。
部活動、か。以前配布された「部活動一覧」を見てみる。気になる部活…。
ひとつの部活が目に留まる。『新聞・文藝部』?文藝って何?
『半年に1枚、校内新聞を執筆し、文化祭時にはしおりを作成します。部員数は1名ですが、顧問の先生と仲良くやって
います。見学の際は3Fの第2図書準備室まで来てください。お待ちしています!』
説明文にはこう書かれている。部員数が1人で活動なんてできるのだろうか?顧問の先生ってどう思ってるのか?気が付けば、この部活の虜になっていた。今日、この部活に見学に行ってみよう。そう思った。
放課後は、いつもより早く教室を出て、九条先生とは話さないようにした。また調子を狂わされる気がして嫌だった。
急いで「第2図書準備室」へ向かう。3階って書いてあるけど、どの辺にあるのだろう?まだ全然場所を把握しきれてなくて、時間がかかってしまう。
「あった…。」
今何時かは知らないが、相当時間がかかった気がする。「第2図書準備室」という看板が掛けられたその部屋は、中に人がいるようには思えないくらいに静まり返っていた。
「おっ!見学の方?」
ふわふわとした声が背後から聞こえてきた。ビクッとした後に振り返る。
「あ、あの、見学に来ました…」
そこには髪を二つに結び眼鏡をかけ、私の同じくらいの身長の女の子が立っていた。
「そうかそうか!初めてのお客さんだ!」
彼女は嬉しそうに眼鏡を押し上げると、準備室の鍵を開け、私を中に誘導してくれた。私は会釈をした後、室内に入った。
中は暗く、少し埃っぽかった。
「いらっしゃい、わが新聞・文藝部へ!」
彼女は響く声で私に言う。私がビクッとした様子を見せると、「ごめんね!」と言い、荷物をそこら辺に放り投げ、この部の説明を始めた。
「部活動一覧、見た?」
彼女の問いかけに私は頷く。
「活動内容はホントそのまんまなんだけど、新聞としおり書く、みたいな?」
私は相槌を打つ。彼女は、
「何か分からないことある?」
と私に問いかける。私は素朴な質問を彼女に投げかける。
「しおりって文化祭のやつですよね?何書くんですか?」
「おっ!いいとこ突くね!」
彼女は満足そうに頷く。
「しおりには、文化祭の内容のほかに、自分の作品を掲載することができます!」
「じ、自分の作品?」
「そう、自分の作品!」
彼女はそう言うと、部屋の奥の方へ向かい、何かを持って戻ってきた。
「こんな感じのやつだよ。」
彼女が手にしていたのは、過去の文化祭のしおりだった。手渡されたしおりをパラパラとめくってみる。
本当だ。生徒たちが書いたであろう俳句や詩、小説などが載っている。
「す、凄いですね」
「そう?興味持ってくれた?」
彼女の問いかけに私は頷く。すると、彼女は満面の笑みを浮かべ、
「ホント⁉嬉しい!」
と飛び跳ねた。
「入部希望って事で、いい?」
私は迷った。学校生活と両立できる気がしなかったから。第一、この人とも仲良くなれるかどうか…。
「まあ、まだ迷うよね。」
空気を察したのか、彼女はトーンを抑えて言う。
「私もね、本当は友達と一緒に入部したんだよね。」
友達?しかし、どう見てもここには私と彼女の2人しかいない。
「でも、友達は途中でやめちゃって。私の先輩の代も、何人かやめちゃってて…。」
彼女は悲しそうに話を続ける。私まで悲しい気分になってくる。
「気づいたら、私一人になってたの、この部活。」
彼女は俯いたまま答える。しかし次の瞬間、
「けど私はやめなかった。楽しかったし、顧問の先生とも仲良くなれたから。」
彼女の言葉に胸が詰まった。悩んでいること自体が間違いなように感じた。
「1人だけどさ、意外と楽しいよ。」
彼女は気さくな笑みを浮かべる。私はこの部活に、
「入部したい」
と思った。しかし思わず口に出してしまう。
「え、ホント⁉」
彼女の大きな目はさらに見開かれた。私は頷き、
「はい、入部したいです。」
と言い直す。彼女は嬉しそうに「やったー!」と少し走り回る。しばらくそうした後、彼女は咳ばらいをし、
「じゃあ、明日もまた来てよ。そしたら、顧問の先生もいると思うから。」
今日は休みらしい。私は頷くと、準備室を出ようとした。すると、
「そういえば、名前、聞いてなかったね。」
と彼女の声。私はもう一度彼女の方を向き直り、
「1-Aの、柊木璃音です。」
と言う。「璃音ちゃんね」と私を呼ぶ彼女。恥ずかしいと思いながらも、
「えっと、あなたのお名前は…?」
と聞いてみる。彼女は姿勢を正して眼鏡をかけ直して言った。
「3-Bの、朝美琴音です。よろしくね、璃音ちゃん。」
屈託のない笑みが私を包み込んだ。