楊鳴翠は嫌な気配を感じ取った。
「今日は平和ですね〜」とのんきなことを言っている真奈佳に対し、「フラグ立てないでヨ」と言おうとしたがもう遅かった。
店のドアが勢いよく開き、若い男性がふらふらと入ってきた。
「あーあ、やっちゃったぁ」
うわごとのように呟きながら、男は本を並べていた栄に目を向けた。
「お姉さん、どうしよっかあ。おれ、ひところしちゃったや」
定まらない視線を鳴翠の方へ移すと、男はにやにやと笑った。
「なぁ探偵さん。こんなおれにも、合う小説ある?」
鳴翠は目を見開いていたが、やがてゆっくりと明日から立ち上がり、本を選び始めた。
真奈佳と栄は手を握り合い、その様子を見るのが精一杯だった。
「ああ、あった。コレ、丁度いいと思うヨ」
鳴翠が選んだのは、「瞳を映す」という小説だった。
確か、ミステリー系だったはず。
こないだ来たお客さんが売りに来たんだっけ、なんてことを栄は考えていた。
なんとも緊張感のないことを考えている自分を見つめていると、現状が見えてきた。
「人を殺した」と言う男がいる。
これはかなりまずいのでは?
鳴翠先生が対応してるけど、何かあったら大変なのでは?
ぐるぐると考えていると、鳴翠がこちらを振り返った。
「小真、お茶入れて」
いつもの怪しいチャイナマフィアスマイル。
鳴翠がこの笑顔を浮かべているときは、大抵相手に興味を持ったときだ。
真奈佳は嫌々といった顔で奥へ引っこんだ。
[水平線]
「探偵さぁん。聞いてくれよ。おれ、塾生のこと殺しちまったよ」
男は間延びした声で繰り返す。
鳴翠は時々頷きながら、話の主旨を掴むのに苦戦した。
要約すると、こんな具合らしい。
男の名前は[漢字]田辺敬[/漢字][ふりがな]たなべけい[/ふりがな]。24歳のフリーターで、今は塾でバイトをしているらしい。
そんな彼は、書店に来る前、塾生を殺してしまったそうだ。
「ナイフでさぁ、グサっといったのよ。可哀想にねえ」
田辺は何度もそう繰り返した。
しかし、彼にはいくつか不可解なところがあった。
まず、やけに間延びした話し方。
ハイになっていると言われればそれまでだが、それにしても普通ならもっと取り乱したりするだろう。
次に、警察ではなく鳴翠に話した点だ。
犯行後、罪悪感などから出頭するのはよくあることだが、探偵に話すというのはあまり聞かない。
「えーとね、田辺サン。うちはしがない本屋さんだよ?ワタシだってただの探偵なのに、どうしてウチに来たの?」
鳴翠が尋ねると、男は視線をさまよわせた。
「そりゃあ、…あれ?なんでだっけ。確か、ええと……?」
「田辺サン、一旦落ち着こっか。ホラ、お菓子あるヨ」
真奈佳がクッキーを差し出すと、田辺は一つつまんだ。
「ん、ああ。あんがと」
二人の間で交わされるどこかかみ合わない会話を聞きながら、栄は鳴翠に話しかけた。
「先生、この人ちょっと変じゃないですか?殺したって言う割には、なんか落ち着いてません?」
「ワタシもそれ、気になってたヨ。それに、血の匂いがしない。風呂に入ったなら当たり前だけど、それにしては石鹸の匂いが弱いネ。田辺サン、ここに来る前、お風呂とか入った?」
「いやぁ。入ってないよ」
「じゃあ、服は着替えた?」
「着替えてない」
やはり怪しい。
「んー、もう率直に聞くけど、本当に殺したのアナタ?」
「はぁ?おれに決まってんじゃんさっきから言ってんだろ」
田辺はいらだったように答える。
「それにしては血の匂いがしないネ。それと、凶器はどこに隠したノ?」
田辺は答えに詰まった。
「田辺サン、ホントの事言った方がいいヨ」
「今日は平和ですね〜」とのんきなことを言っている真奈佳に対し、「フラグ立てないでヨ」と言おうとしたがもう遅かった。
店のドアが勢いよく開き、若い男性がふらふらと入ってきた。
「あーあ、やっちゃったぁ」
うわごとのように呟きながら、男は本を並べていた栄に目を向けた。
「お姉さん、どうしよっかあ。おれ、ひところしちゃったや」
定まらない視線を鳴翠の方へ移すと、男はにやにやと笑った。
「なぁ探偵さん。こんなおれにも、合う小説ある?」
鳴翠は目を見開いていたが、やがてゆっくりと明日から立ち上がり、本を選び始めた。
真奈佳と栄は手を握り合い、その様子を見るのが精一杯だった。
「ああ、あった。コレ、丁度いいと思うヨ」
鳴翠が選んだのは、「瞳を映す」という小説だった。
確か、ミステリー系だったはず。
こないだ来たお客さんが売りに来たんだっけ、なんてことを栄は考えていた。
なんとも緊張感のないことを考えている自分を見つめていると、現状が見えてきた。
「人を殺した」と言う男がいる。
これはかなりまずいのでは?
鳴翠先生が対応してるけど、何かあったら大変なのでは?
ぐるぐると考えていると、鳴翠がこちらを振り返った。
「小真、お茶入れて」
いつもの怪しいチャイナマフィアスマイル。
鳴翠がこの笑顔を浮かべているときは、大抵相手に興味を持ったときだ。
真奈佳は嫌々といった顔で奥へ引っこんだ。
[水平線]
「探偵さぁん。聞いてくれよ。おれ、塾生のこと殺しちまったよ」
男は間延びした声で繰り返す。
鳴翠は時々頷きながら、話の主旨を掴むのに苦戦した。
要約すると、こんな具合らしい。
男の名前は[漢字]田辺敬[/漢字][ふりがな]たなべけい[/ふりがな]。24歳のフリーターで、今は塾でバイトをしているらしい。
そんな彼は、書店に来る前、塾生を殺してしまったそうだ。
「ナイフでさぁ、グサっといったのよ。可哀想にねえ」
田辺は何度もそう繰り返した。
しかし、彼にはいくつか不可解なところがあった。
まず、やけに間延びした話し方。
ハイになっていると言われればそれまでだが、それにしても普通ならもっと取り乱したりするだろう。
次に、警察ではなく鳴翠に話した点だ。
犯行後、罪悪感などから出頭するのはよくあることだが、探偵に話すというのはあまり聞かない。
「えーとね、田辺サン。うちはしがない本屋さんだよ?ワタシだってただの探偵なのに、どうしてウチに来たの?」
鳴翠が尋ねると、男は視線をさまよわせた。
「そりゃあ、…あれ?なんでだっけ。確か、ええと……?」
「田辺サン、一旦落ち着こっか。ホラ、お菓子あるヨ」
真奈佳がクッキーを差し出すと、田辺は一つつまんだ。
「ん、ああ。あんがと」
二人の間で交わされるどこかかみ合わない会話を聞きながら、栄は鳴翠に話しかけた。
「先生、この人ちょっと変じゃないですか?殺したって言う割には、なんか落ち着いてません?」
「ワタシもそれ、気になってたヨ。それに、血の匂いがしない。風呂に入ったなら当たり前だけど、それにしては石鹸の匂いが弱いネ。田辺サン、ここに来る前、お風呂とか入った?」
「いやぁ。入ってないよ」
「じゃあ、服は着替えた?」
「着替えてない」
やはり怪しい。
「んー、もう率直に聞くけど、本当に殺したのアナタ?」
「はぁ?おれに決まってんじゃんさっきから言ってんだろ」
田辺はいらだったように答える。
「それにしては血の匂いがしないネ。それと、凶器はどこに隠したノ?」
田辺は答えに詰まった。
「田辺サン、ホントの事言った方がいいヨ」