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楊翠書店の事件簿

#5

出藍の誉れ────事件編

楊鳴翠は嫌な気配を感じ取った。
「今日は平和ですね〜」とのんきなことを言っている真奈佳に対し、「フラグ立てないでヨ」と言おうとしたがもう遅かった。

店のドアが勢いよく開き、若い男性がふらふらと入ってきた。
「あーあ、やっちゃったぁ」
うわごとのように呟きながら、男は本を並べていた栄に目を向けた。
「お姉さん、どうしよっかあ。おれ、ひところしちゃったや」
定まらない視線を鳴翠の方へ移すと、男はにやにやと笑った。

「なぁ探偵さん。こんなおれにも、合う小説ある?」
鳴翠は目を見開いていたが、やがてゆっくりと明日から立ち上がり、本を選び始めた。
真奈佳と栄は手を握り合い、その様子を見るのが精一杯だった。

「ああ、あった。コレ、丁度いいと思うヨ」
鳴翠が選んだのは、「瞳を映す」という小説だった。
確か、ミステリー系だったはず。
こないだ来たお客さんが売りに来たんだっけ、なんてことを栄は考えていた。
なんとも緊張感のないことを考えている自分を見つめていると、現状が見えてきた。

「人を殺した」と言う男がいる。

これはかなりまずいのでは?
鳴翠先生が対応してるけど、何かあったら大変なのでは?
ぐるぐると考えていると、鳴翠がこちらを振り返った。
「小真、お茶入れて」
いつもの怪しいチャイナマフィアスマイル。
鳴翠がこの笑顔を浮かべているときは、大抵相手に興味を持ったときだ。
真奈佳は嫌々といった顔で奥へ引っこんだ。



[水平線]

「探偵さぁん。聞いてくれよ。おれ、塾生のこと殺しちまったよ」
男は間延びした声で繰り返す。
鳴翠は時々頷きながら、話の主旨を掴むのに苦戦した。
要約すると、こんな具合らしい。
男の名前は[漢字]田辺敬[/漢字][ふりがな]たなべけい[/ふりがな]。24歳のフリーターで、今は塾でバイトをしているらしい。
そんな彼は、書店に来る前、塾生を殺してしまったそうだ。
「ナイフでさぁ、グサっといったのよ。可哀想にねえ」
田辺は何度もそう繰り返した。

しかし、彼にはいくつか不可解なところがあった。
まず、やけに間延びした話し方。
ハイになっていると言われればそれまでだが、それにしても普通ならもっと取り乱したりするだろう。
次に、警察ではなく鳴翠に話した点だ。
犯行後、罪悪感などから出頭するのはよくあることだが、探偵に話すというのはあまり聞かない。

「えーとね、田辺サン。うちはしがない本屋さんだよ?ワタシだってただの探偵なのに、どうしてウチに来たの?」
鳴翠が尋ねると、男は視線をさまよわせた。
「そりゃあ、…あれ?なんでだっけ。確か、ええと……?」
「田辺サン、一旦落ち着こっか。ホラ、お菓子あるヨ」
真奈佳がクッキーを差し出すと、田辺は一つつまんだ。
「ん、ああ。あんがと」

二人の間で交わされるどこかかみ合わない会話を聞きながら、栄は鳴翠に話しかけた。

「先生、この人ちょっと変じゃないですか?殺したって言う割には、なんか落ち着いてません?」
「ワタシもそれ、気になってたヨ。それに、血の匂いがしない。風呂に入ったなら当たり前だけど、それにしては石鹸の匂いが弱いネ。田辺サン、ここに来る前、お風呂とか入った?」
「いやぁ。入ってないよ」
「じゃあ、服は着替えた?」
「着替えてない」

やはり怪しい。
「んー、もう率直に聞くけど、本当に殺したのアナタ?」
「はぁ?おれに決まってんじゃんさっきから言ってんだろ」
田辺はいらだったように答える。
「それにしては血の匂いがしないネ。それと、凶器はどこに隠したノ?」
田辺は答えに詰まった。

「田辺サン、ホントの事言った方がいいヨ」

作者メッセージ

二話ずつで済ませたいのでどうしても展開が速くなっちゃいますね…。

2026/08/10 13:06

月町 桔梗
ID:≫ 7r5tHLeuz1RfY
コメント

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謎解き中華街横浜故事

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