泡になって消えてくれ
学校からの帰り道だった。
その尾びれを見た。
美しく光るうろこを。
滑らかに流れるひれを。
太陽の光を溜め込んだ彼女は、今までに見たどんなものよりも美しかった。
◇◇◇
「また水泳の授業休んでる」
ああそうだ。みんなの前で水に浸かることなんてできない。
「水泳全部休んでるくね?」
絶対に、バレてはいけない秘密。
わたしは、人魚だ。
お母さんが人魚で、お父さんは人間。
二人の間にできたのがわたし。
普段は人の姿で、普通の人として生活している。
けれど、水に入ると即座に人魚化してしまうのだ。
だから学校でも水泳の授業は全て休んでいる。
まだ終わらないかな、と時計を確認するとあと30分。そろそろ片付けに入ることだろう。
水面を眺めていると、声をかけられた。
「ねえ」
「どうしていつも、水泳の授業休んでんの?」
同じクラスの男子に声をかけられた。
少し驚きつつも、もう慣れているので自然に答える。
「体が弱くてそういう激しい運動ができないの」
「ふーん」
これで十分。下手に詮索させない。
しばらくしてから、先生のホイッスルが鳴り響いた。
◇◇◇
放課後。みな教室から飛び出し、部活や下校など各々のやることに取り掛かる。
今日は部活がある。俺も教室から出て、更衣室に向かう。
「今日部活中止だってよ」
そんな声が、教室から出た瞬間聞こえてきた。
「え?」そんな声がふと漏れる。
「なんか、プールに欠陥があってそれの修理するらしい」
そんな。じゃあ今日は何もないじゃないか!
まあいいや、そう思って、けどなんとなくプールに向かってみることにした。
放課後のやわらかな太陽光が水に反射して、ときほぐされていた。
ふと、視界の端で何かが動いた。
「あれは…」
いつも水泳の授業を休んでいる人だ。
彼女はプールサイドに近づき、さらにプールのふちにまで歩みを進めた。まさか、ここで水泳の練習?
しかし、挙動が変だ。不安になって、俺も歩みを進める。
刹那、彼女はそのままプールに身を投げた。
「おい!何して________」
咄嗟に体が動く。彼女はそのまま水中に落ちていった。やがて…
なにかの尾びれのようなものが、水面から現れる。
彼女は顔を出した。下半身はみずみずしいうろこに覆われていて、少なくとも人間の足ではなかった。
光をたっぷりと浴びて、星のようにきらめいていたそれは、水を叩きつけ、大きな水飛沫をつくった。
咄嗟に動いた体は硬直して、ただ見惚れることしかできなかった。
「すげぇ……」
感嘆の声が漏れる。
彼女は水中から出てきて、プールサイドに上半身を出す。
俺ははっとして彼女に駆け寄る。
「な、なぁ今のって」
すると彼女は目を見開き、固まっていた。おそらく厳重な秘密だったのだろう。
数秒の間をおいて、彼女はため息をついた。
「バレたか…」
「誰にも言わない、わかるよね?」
そう静かに告げた。勿論だけど、それよりも伝えたいことがあった。
「あのさ」
「すごい綺麗だと思ったんだ」
今の気持ちを変換する言葉が出てこない。けど、とにかく口にしたかったのは。
「君のことを好きになった」
「驚きもしたけど…それよりも凄いと思ったんだ」
「…はっ?」
そりゃあ当然の反応だろう。けど、どうしても伝えたかった。
「もっと君のこと、知りたいって思ったんだ」
「それに尽きる」
彼女は少し考えたようにした後、口を開いた。
「…それはありがとう?」困惑した素ぶりだ。
「けど…たぶんあなたの気持ちは叶わない」
胸がちくりと痛む。けど、我慢した。
「わたしは人魚。普段は人の形をしていても、その事実は揺るがない。
人間と人魚は、結ばれてはいけないの。それがお互いのためでもあるし、何より人魚の世界でのルール。
わたしのお母さんも人魚だけど、お母さんは人魚としての自分を捨ててでもお父さんが好きだったから、今のわたしがいる」
突然告げられた衝撃の事実に頭がこんがらがる。
自分勝手だと心から思うが、彼女を理解したい一心だった。
だからこそ。
「…そっか」
「ならさ、君を好きにさせてみせる」
「え」
「君が選びたくなるような男になるよ」
今、決意した。そんなルールなんか関係なく。君を理解したいから。
「だから、待ってて」
「いつか、君と対等な関係になれる日まで」
夕日が差し込んできて、眩しい。
君のうろこは橙の太陽に照らされて、切ないほどにきらめく。
ああ、眩しいな。
その尾びれを見た。
美しく光るうろこを。
滑らかに流れるひれを。
太陽の光を溜め込んだ彼女は、今までに見たどんなものよりも美しかった。
◇◇◇
「また水泳の授業休んでる」
ああそうだ。みんなの前で水に浸かることなんてできない。
「水泳全部休んでるくね?」
絶対に、バレてはいけない秘密。
わたしは、人魚だ。
お母さんが人魚で、お父さんは人間。
二人の間にできたのがわたし。
普段は人の姿で、普通の人として生活している。
けれど、水に入ると即座に人魚化してしまうのだ。
だから学校でも水泳の授業は全て休んでいる。
まだ終わらないかな、と時計を確認するとあと30分。そろそろ片付けに入ることだろう。
水面を眺めていると、声をかけられた。
「ねえ」
「どうしていつも、水泳の授業休んでんの?」
同じクラスの男子に声をかけられた。
少し驚きつつも、もう慣れているので自然に答える。
「体が弱くてそういう激しい運動ができないの」
「ふーん」
これで十分。下手に詮索させない。
しばらくしてから、先生のホイッスルが鳴り響いた。
◇◇◇
放課後。みな教室から飛び出し、部活や下校など各々のやることに取り掛かる。
今日は部活がある。俺も教室から出て、更衣室に向かう。
「今日部活中止だってよ」
そんな声が、教室から出た瞬間聞こえてきた。
「え?」そんな声がふと漏れる。
「なんか、プールに欠陥があってそれの修理するらしい」
そんな。じゃあ今日は何もないじゃないか!
まあいいや、そう思って、けどなんとなくプールに向かってみることにした。
放課後のやわらかな太陽光が水に反射して、ときほぐされていた。
ふと、視界の端で何かが動いた。
「あれは…」
いつも水泳の授業を休んでいる人だ。
彼女はプールサイドに近づき、さらにプールのふちにまで歩みを進めた。まさか、ここで水泳の練習?
しかし、挙動が変だ。不安になって、俺も歩みを進める。
刹那、彼女はそのままプールに身を投げた。
「おい!何して________」
咄嗟に体が動く。彼女はそのまま水中に落ちていった。やがて…
なにかの尾びれのようなものが、水面から現れる。
彼女は顔を出した。下半身はみずみずしいうろこに覆われていて、少なくとも人間の足ではなかった。
光をたっぷりと浴びて、星のようにきらめいていたそれは、水を叩きつけ、大きな水飛沫をつくった。
咄嗟に動いた体は硬直して、ただ見惚れることしかできなかった。
「すげぇ……」
感嘆の声が漏れる。
彼女は水中から出てきて、プールサイドに上半身を出す。
俺ははっとして彼女に駆け寄る。
「な、なぁ今のって」
すると彼女は目を見開き、固まっていた。おそらく厳重な秘密だったのだろう。
数秒の間をおいて、彼女はため息をついた。
「バレたか…」
「誰にも言わない、わかるよね?」
そう静かに告げた。勿論だけど、それよりも伝えたいことがあった。
「あのさ」
「すごい綺麗だと思ったんだ」
今の気持ちを変換する言葉が出てこない。けど、とにかく口にしたかったのは。
「君のことを好きになった」
「驚きもしたけど…それよりも凄いと思ったんだ」
「…はっ?」
そりゃあ当然の反応だろう。けど、どうしても伝えたかった。
「もっと君のこと、知りたいって思ったんだ」
「それに尽きる」
彼女は少し考えたようにした後、口を開いた。
「…それはありがとう?」困惑した素ぶりだ。
「けど…たぶんあなたの気持ちは叶わない」
胸がちくりと痛む。けど、我慢した。
「わたしは人魚。普段は人の形をしていても、その事実は揺るがない。
人間と人魚は、結ばれてはいけないの。それがお互いのためでもあるし、何より人魚の世界でのルール。
わたしのお母さんも人魚だけど、お母さんは人魚としての自分を捨ててでもお父さんが好きだったから、今のわたしがいる」
突然告げられた衝撃の事実に頭がこんがらがる。
自分勝手だと心から思うが、彼女を理解したい一心だった。
だからこそ。
「…そっか」
「ならさ、君を好きにさせてみせる」
「え」
「君が選びたくなるような男になるよ」
今、決意した。そんなルールなんか関係なく。君を理解したいから。
「だから、待ってて」
「いつか、君と対等な関係になれる日まで」
夕日が差し込んできて、眩しい。
君のうろこは橙の太陽に照らされて、切ないほどにきらめく。
ああ、眩しいな。
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