文字サイズ変更

運命の天秤

#8

6 アフターサービス

「ここでの暮らしも悪くはなかった」

サタナが窓を開け放つ。アガリはぎこちなく口の端を釣り上げた。

「さらばだ、人間」

空気が揺れ、カーテンが翻る。サタナはもう外に出て、優美なアクロバット演出をしていた。半分外に出ていたアガリは、思い出したように振り返った。

「そうそう、もしまた奴らが攻め入ろうとしてくれば、倉庫の奥にある酒を使え。うまく飲ませるんだ。そうすると酔いが回って言いなりになる」

アフターサービスというアレだ。サタナなどの気前がいい悪魔は、度々後のことに対して助言を残す。不愛想なアガリには、珍しい行動だ。

側近たちはただ唖然としていたが、アガリの言葉には反応を示した。微かにうなずく。

二柱の悪魔は、暗夜の鴉模様に等しい美しい羽根をはためかせ、空高く舞い上がった。

[水平線]

「珍しいな。アフターサービスなんて」
「あのままでは2度と本から出られなかっただろう。そのお礼だ」
サタナは笑う。
「国王はもういないのに、か?」
「ああ」

サタナはその美貌をさらに際立たせて、感慨深くつぶやいた。

「アガリの成長期…」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も言っていません!」

二柱は肩をぶつけ合い、笑いあった。

「いまでも人間を滅ぼそうと思っているか?」

サタナは顔色をうかがいながらそう尋ねた。先ほどまでの笑みは、もうない。

「当たり前だ」
「人間は欲の塊だ。まだそう思っている?」
「ああ。だが…」
「だが?」
「少しだけ面白いと思った。短い命を、精一杯生きている。くだらないこともするが、な」

アガリは苦笑した。脳裏にあの国王の姿が浮かぶ。彼の身体を引き継いだ時、記憶の断片が垣間見えたのだ。

「いまでも滅ぼしたい気持ちは変わらない。だが、もう少し様子見にする」
「…そうか」

悪魔城が、霧の中に浮かび上がる。
とても幻想的な光景だった。






作者メッセージ

ご拝読、ありがとうございましたm(_ _)m

2024/04/23 18:56

月乃 彩 ID:≫upqNHwYnCWVss
続きを執筆
小説を編集
/ 8

コメント
[0]

小説通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

※できるだけ具体的に記入してください。
特に盗作投稿については、どういった部分が元作品と類似しているかを具体的にお伝え下さい。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL