ベルク『さあ、本題に入りましょうか。』

思わず私は息を飲んだ。緊張する。危険な感じがするが、まあいい。護衛を呼べばいいだけだ。客室は、大声を出しただけで廊下にいる人に聞こえる。いわゆる壁が薄いのだ。

だから、大声を出せば護衛が来るだろう。…私のことが心配なのか、きっとドアの向こうで会話を盗み聞きしようと…、いや、私を守ろうとしている護衛がいるはずだ。見張りぐらいはいるだろう。

ベルク様は、一つの白い紙をポケットから取り出し、机の上に置いた。紙は、黒い小さな文字がたくさん書かれている。老眼の人じゃ、メガネをかけないと見えないであろう大きさだ。そして私に見せるように、読んでほしいと思われる文字のところにペンで線を引いた。

ベルク『ヘアンナ様。あなたは私たちの仲間になるべきです。』

…やはりそうきたか。反社会派のお誘いだ。恐らく先程のベルク様が言った私への褒め言葉で、私が調子に乗るとでも思ったのだろうか。だが、今のヘアンナはヘアンナじゃない、私である。
簡単に反社会派の方へ来ると思ったのだろうか？

ベルク様はニヤッとした顔で、私の顔を見つめる。私は数秒黙ったあと、ベルク様に言った。

ヘアンナ『お断りしますわ。』

ベルク『どうして！？この紙を見てください！あなたにとって素晴らしい条件がたくさんです！！』

ベルクは焦ったかのように、すぐ私に言い返した。紙を見ろと言われ、私は紙の文字を読む。…確かにペペロンチーノ家には有利な条件かもしれないが、どうせ何かしらの裏があるだろう。書かれていない事実こそあるはずだ。

信じれば終わりだと感じている。ペペロンチーノ家は順社会派だ。この提案に賛成してしまったら、正義が一瞬に悪へと変わってしまう。光に闇が覆いかぶさるように。

どう言い返そうか。正義に従って言うか？それとも私なりに言おうか。

ヘアンナ『あら…。けれど、私が決めたことですわ。意見を変える気はございませんの。』

ベルク『し、しかし…！！』

ヘアンナ『あなたは私に[太字]反抗[/太字]するおつもりなんでしょうか？』

ベルク『くっ…』

ベルクは静かに立ち上がり、持ってきたものを全て手に取り、客室を後にした。ドアの前に張り付いていた護衛は、急にドアが開いたことに驚き、すぐに仕事へ戻った。小さな声で話していたし、聞き取りにくかったろう。

まったく、反社会派が絡んでくるとこんな感じになるのか。

ヘアンナ様が対応されていたら、きっとこの提案を賛成していたと思われる…。私が転生していなければ、別に私には関係なかったことだが…。

[太字]戻りたくない。[/太字]これが私の本音だ。

私は客室を出て、自分の部屋に帰ろうとした。その時だ。

メイド『…様！？そんなに走ったらあぶないですよ…！』

私は声が聞こえた方へ振り返る。振り返った先には、人がいた。派手な髪に服装だったのですぐに誰かわかった。


ケイク『お嬢ちゃん！…じゃなくて、ヘアンナ！名前教えてもらっていたよね。

ケイク『会うのは、あの食事会以来じゃないかな？遊びに来ちゃったよ。』

[右寄せ][/右寄せ]
ケイク・アローズ様だ。