運命の天秤
「ここでの暮らしも悪くはなかった」
サタナが窓を開け放つ。アガリはぎこちなく口の端を釣り上げた。
「さらばだ、人間」
空気が揺れ、カーテンが翻る。サタナはもう外に出て、優美なアクロバット演出をしていた。半分外に出ていたアガリは、思い出したように振り返った。
「そうそう、もしまた奴らが攻め入ろうとしてくれば、倉庫の奥にある酒を使え。うまく飲ませるんだ。そうすると酔いが回って言いなりになる」
アフターサービスというアレだ。サタナなどの気前がいい悪魔は、度々後のことに対して助言を残す。不愛想なアガリには、珍しい行動だ。
側近たちはただ唖然としていたが、アガリの言葉には反応を示した。微かにうなずく。
二柱の悪魔は、暗夜の鴉模様に等しい美しい羽根をはためかせ、空高く舞い上がった。
[水平線]
「珍しいな。アフターサービスなんて」
「あのままでは2度と本から出られなかっただろう。そのお礼だ」
サタナは笑う。
「国王はもういないのに、か?」
「ああ」
サタナはその美貌をさらに際立たせて、感慨深くつぶやいた。
「アガリの成長期…」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も言っていません!」
二柱は肩をぶつけ合い、笑いあった。
「いまでも人間を滅ぼそうと思っているか?」
サタナは顔色をうかがいながらそう尋ねた。先ほどまでの笑みは、もうない。
「当たり前だ」
「人間は欲の塊だ。まだそう思っている?」
「ああ。だが…」
「だが?」
「少しだけ面白いと思った。短い命を、精一杯生きている。くだらないこともするが、な」
アガリは苦笑した。脳裏にあの国王の姿が浮かぶ。彼の身体を引き継いだ時、記憶の断片が垣間見えたのだ。
「いまでも滅ぼしたい気持ちは変わらない。だが、もう少し様子見にする」
「…そうか」
悪魔城が、霧の中に浮かび上がる。
とても幻想的な光景だった。
サタナが窓を開け放つ。アガリはぎこちなく口の端を釣り上げた。
「さらばだ、人間」
空気が揺れ、カーテンが翻る。サタナはもう外に出て、優美なアクロバット演出をしていた。半分外に出ていたアガリは、思い出したように振り返った。
「そうそう、もしまた奴らが攻め入ろうとしてくれば、倉庫の奥にある酒を使え。うまく飲ませるんだ。そうすると酔いが回って言いなりになる」
アフターサービスというアレだ。サタナなどの気前がいい悪魔は、度々後のことに対して助言を残す。不愛想なアガリには、珍しい行動だ。
側近たちはただ唖然としていたが、アガリの言葉には反応を示した。微かにうなずく。
二柱の悪魔は、暗夜の鴉模様に等しい美しい羽根をはためかせ、空高く舞い上がった。
[水平線]
「珍しいな。アフターサービスなんて」
「あのままでは2度と本から出られなかっただろう。そのお礼だ」
サタナは笑う。
「国王はもういないのに、か?」
「ああ」
サタナはその美貌をさらに際立たせて、感慨深くつぶやいた。
「アガリの成長期…」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も言っていません!」
二柱は肩をぶつけ合い、笑いあった。
「いまでも人間を滅ぼそうと思っているか?」
サタナは顔色をうかがいながらそう尋ねた。先ほどまでの笑みは、もうない。
「当たり前だ」
「人間は欲の塊だ。まだそう思っている?」
「ああ。だが…」
「だが?」
「少しだけ面白いと思った。短い命を、精一杯生きている。くだらないこともするが、な」
アガリは苦笑した。脳裏にあの国王の姿が浮かぶ。彼の身体を引き継いだ時、記憶の断片が垣間見えたのだ。
「いまでも滅ぼしたい気持ちは変わらない。だが、もう少し様子見にする」
「…そうか」
悪魔城が、霧の中に浮かび上がる。
とても幻想的な光景だった。
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