「狐坂さん…」
変化した彼女を見てぼそっと呟いてしまった。
「は、はぁ！なんであんたがここにいるわけっ！？ていうかどうしよう。全部見ちゃった？そうに決まってるよね。ああ、私の学園ライフがー。終わった。」
困惑しながらも顔を真っ赤にした狐坂さんが僕の方を見た。彼女の様子はいつもの狐坂さんのようには見えなかった。
「あ、あなたってうちのクラスの岩森くんじゃ…」
「そんな人知りません！そもそも前髪で顔の下半分しか見えないのに勝手に決めつけないで頂いてよろしいですかぁ！？」
僕は自分の正体がバレそうになり、興奮しながらもすぐさま否定した。こんなに大きな声をあげたのは久しぶりだった。
「いやいや絶対そうでしょ！声が一緒だもん！」
僕はそう言われ、やっと気づいた。もうこれ以上は僕が岩森幸仁であることがバレてしまう。僕は咄嗟に走り出した。僕がその場から逃げると彼女は狐にもう一度変化し、僕を追いかけた。狐になった彼女は早かった。いつもとは全く違うように感じられた。気づけば彼女が目の前にいた。
「岩森くん！逃げるんじゃない！あなたはこのことを知ってしまったからにはどうなるかわかってるかしら？」
僕は死を悟った。多分彼女に僕は喰われるのだろう。そう考えるとゾッとしてしまい、僕はゆっくりと床に手をついた。そしてそのまま頭を下げた。
「本当に申し訳ございませんでしたっ！」
いわゆる土下座だ。
「このような糞が乙女の世界に入ってしまって、本当に本当に申し訳ございませんでしたっ！命だけは、命だけは。喰わないでください！」
自分でも何を言っているのかわからなかったが、彼女は僕を困惑した表情で見ていた。
「は、はぁ？土下座をしなきゃいけないのはこっちだし、喰うってなによ。狐がそんなもの喰うと思ったの？」
「へ？」
僕はとても間抜けな声を出した。しかし、それほど訳のわからない事態になってしまったのだ。
「まあ、乙女の世界に入ったことは許してあげる。その代わり、絶対に今日のことは誰にも言っちゃダメだから。言ったら、あーんな姿やこーんな姿を見られましたって警察に訴えるから。わかった？」
僕はもう一度土下座をした。
「絶対に約束を破りません」
そうしっかりと彼女に誓った。
「ちなみになんですが、服は着なくていいんですか？」
僕がそう言うと彼女は顔を真っ赤にして
「そんなの直ぐに着るわよ」
と怒りながら彼女は去っていった。僕の中で一番の親切だったのだが、なぜか彼女は怒って去っていってしまった。やはり、乙女というものはわからないな。