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本作の主人公は男主となっております。男主が苦手な方は、ブラウザバックなどの対処を個々人で行う事を強く推奨いたします。

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二次創作
糖花のような恋に落つ

#6

episode5

「__であるからして、この場合は__」
遥に金平糖を渡した次の日。オレは大学には来たものの、昨日の事で講義が全く頭に入ってこなかった。こんな事なら、コマ数気にして一限なんて取らなければよかった。頭に入らない講義を受けるくらいなら、休んだ方がマシだったかもしれない。教授の話がろくに頭に入らない。
「おい、樫木くん。ちゃんと僕の話、聞いているかい?」
「えっ?あ、あの、すあせん……」
あまり話を聞いていないのがバレたか、教授に注意されてしまった。注意を受け、姿勢を改めて、ちゃんと聞こうとはしてみるのだが、やっぱり昨日の事が頭の中でループ再生され続ける。もう講義を聴いていられる状態ではないような気すらある。こっそりと途中退室してしまおうか。この教授はテストの成績重視な人だし、ここで途中退室しても良いのかな。
そうこう考えていると、教授と一瞬目が合った。睨まれているのか、ただ教授の目つきが悪いだけか、教授の視線がとても気まずい。もうここまで来たら、吹っ切れて早退しようか。メモでも書き残せば問題はないだろう。ただ出席が取り消されるかもしれないだけで。
オレはノートをリュックに入れた代わりにメモを取り出し、メモにさらっとそれっぽい事を書いておいた。頭痛とだるさがあるため早退しますと書いて、オレは静かに講義室から去っていった。
頭痛とだるさは、別に言い訳じゃない。実際ぐるぐる思考のせいでだるいし、頭は重いし、合っていると言えば合っているし、合っていないと言えば合っていないのだ。それだけだ。
「あー、コマ数どうしよ……。まあギリギリ足りるし、いっかな……」
早退した事に少しばかり悩みつつも、もう取り消せないし、講義室までは遠いし、もう疲れてしまったのでこのまま帰ろうかと思う。帰ったら、適当に遥へのお礼でも考えるか。

[水平線]
家までの帰り道には、オレがいつも店番をしている駄菓子屋がある。今日はオレが大学に行く言っていたので、バアちゃんが店番をしていた。
「……おう、バアちゃん」
オレが声をかけると、バアちゃんはびっくりしたような顔を浮かべた。そりゃそうだろう、大学に行っていると思っていたヤツが、急に目の前に現れたのだから。
「まあ、●●くん。どうしたの!」
「さっき講義早退してきたんだよ……」
「どうして……!」
「その……考え事があってよ。全然講義に集中できなかったんだわ」
バアちゃんはオレの話を聞きながら、心配そうな表情をしていた。なんでそんな顔をするんだと思いつつも、嘘は吐いていないはずなのに、オレはバアちゃんのその顔のせいで、感じなくて良いはずの罪悪感と背徳感にざわついた。
「まあそうなの。お疲れ様。お菓子食べるかい?」
「おう……」
バアちゃんは、いつもオレに心配そうな顔を向けてくる。そんな顔をする正確な理由は知らないが、それを見ていると、うっすらとワケが分かってくるような、分かってこないような、そんな気がする。
きっとバアちゃんは、もうオレに親と呼べる親がいないのを心配しているんだろう。実際、バアちゃんがオレに不安そうな眼差しを向けてきたのは、オレの親がふたりとも死んだ時からだった。
オレの親は、どちらも老衰でこの世を去った。父親も母親も、どちらも死ぬ時は眠っているようだったのをよく覚えている。でも、血の気は全く通っていなかったから、それを見た時に、オレはどんな気持ちを抱えればいいのか分からなくて、泣く事さえできなかった。それからだった。バアちゃんがオレを気遣うようになったのは。バアちゃんが心配そうな顔をするようになったのは。
「お菓子、何が良いかい?」
でも、バアちゃんはいつも優しい。無理な気遣いみたいな優しさじゃなくて、オレを理解したうえでの優しさだと感じる事ができる。
「……じゃあ、金平糖で」
「金平糖ね。●●くんは金平糖が好きね。そこにあるから、お食べ」
オレはお菓子が並ぶ棚の中から、金平糖を一袋取り出した。昨日、オレが遥に渡したのも、この金平糖だったな。
思い出すと、またあの気持ちが蘇ってきた。本当に、この気持ちはなんなのだろうか。これが俗に言う恋や愛というものなのなら、なんだか拍子抜けだ。というか、そもそもオレは男に恋をするのか。それが嫌という訳ではないのだが、信じたくないような感じがする。でも、もしこれが恋慕からくる愛情だったとしたら、それを信じるしかないのか。
「うーん……」
気付けば考え事をしてしまう。そしてアイツの事を思い出してしまう。止められそうにはないのかもしれない。
「……●●くん。さっきから悩んで、どうしたの?」
「バアちゃん。恋ってさ、どんな気持ちになるんだ……?」
「え?」
「ん……。ああ、わりい!そのさ、色々考え事あってよ……」
オレは気付けば、バアちゃんに質問してしまった。この人に聞いてどうなるかは知らないが、とりあえず人に聞きたいと本能が言ったのだろう。
バアちゃんは、少し考えてから、こう答えた。
「そうだね……。私が恋した時はね、胸がドキドキして、この人を大切にしたいっていう気持ちになったね。あとは、少し不安な気持ちにもなるかな」
バアちゃんが言った内容は、おおかたオレが遥に感じた事と共通していた。守りたい、というのは少し違うが。だって、アイツは自分で自分の身を守るだろうし、オレが守ろうもんなら逆に嫌われそうだし。
守りたいは無かったが、それ以外はほとんど同じだ。ドキドキして、不安な気持ちになる。
もしかしたら、これは本当に恋なのかもしれない。
「●●くん。もしかして、恋したの?」
バアちゃんはいきなりそんな事を言う。急すぎるもんだったから、オレはびっくりして金平糖の袋を落とした。拾いながら返事する。
「いきなりんな事言うなよ…………。その、バアちゃん」
そこまで言いかけて、オレは一瞬言葉を詰まらせた。同性に恋したかもしれない、しかも相手は高校一年生だなんて、本当に言っていいのだろうか。言って幻滅されたらと考えると、少し怖いような気もする。
でも、ここで助言を求めないとまずいような気もした。幻滅されるかもしれないのは怖かったけど、オレはとりあえず、一歩だけ踏み出してみる事にした。
「その、オレさ……。男に恋しちまったかもしれねえ」
予想通りと言うべきか、バアちゃんはオレの言葉を聞くやいなや、唖然としていた。失望されてしまっただろうか。
「相手はさ、風鈴の……一年……なんだけど」
バアちゃんは静かにこっちを見つめる。その視線は、今までの迷いあるような不安な目とは違って、驚いているものの、迷いがない目だった。どんな感情なのか分からない。
「その……バアちゃん、ごめ」
「●●くん……!すごいねぇ!」
「え?」
しかし予想に反して、バアちゃんから出てきた言葉は、オレを肯定するような、暖かい言葉だった。
「す、すごいって?」
「男の子でも、年下の子でもね、恋するっているのはおめでたい事だし、間違っていないよ。それで考えていたのかい?大丈夫だよ。恋っていうのはね、人を傷つけない限りは、どんな形であってもいいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中のわだかまりが一気にほどけたような、そんな感覚がした。ほどくための鍵は、答えはシンプルだったのだ。
「そっか。間違ってないのか」
「そうだよ。応援してるよ!」
バアちゃんのきらきらとした目を見たのは、いつぶりなんだろう。いつも以上に清んだ瞳を向けてくるから、こっちが感動してしまう。
こんなちっぽけな事で思い悩んでいたのが、なんだかバカみたいだった。
「応援してくれるのか」
「うん!」
「じゃあ期待には応えねえとな」
オレは立ち上がった。店の外を見ると、青空が[漢字]燦然[/漢字][ふりがな]さんぜん[/ふりがな]と輝いていた。きらきらとしていた。
「早速遥に会いてえな……」
「その子は、遥くんっていうのかい?素敵なお名前だねぇ」
「そうだな」
なんだか、気持ちに一段落ついた気がした。
オレは恋をした。

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作者メッセージ

樫木さんは完結したみたいな口ぶりしてますが、まだ全然続きます。ただ、ここからはほぼ短編集みたいな感じになります。よろしくお願いします。

2024/10/27 20:53

夢野 シオン@水野志恩SS ID:≫7tLEh4qnMjetA
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