世界に溢れる夢
――「この場所から見るこの景色はいつも変わらないように見える。だけど、この世界に変わらないモノなんてものは無いんだよ。」――
ここは都市·ノルストラの郊外の町、ミストル。
町のはずれにある古い石レンガで造られた時計塔にあるいくつかの窓、その1つから町を見下ろしている少年がいた。
「今日も階段の掃除をしただけで夜になっちゃった…。」
彼の名前はノイト。この時計塔の管理を代々受け継いでいるソルフォトス家の後継ぎだ。
(疲れた…とはいっても、働いた後のこの時間が1番好きなんだよな…。)
濡れた雑巾をバケツに入れて伸びをする。
カーキ色のボタン付きシャツの隙間からは白いシャツが見えていて、焦げ茶色のズボンは靴と同じ色で一体感がある。
螺旋階段を上がり、4階の広間からバルコニーに出て石レンガの手すりに寄りかかりながら町を眺める。夜の闇の中に点々と明かりが灯っていて、温かみがある。
(また同じような1日を過ごしちゃったなぁ…。毎日変わらない景色、つまらないようだけど気に入ってる。)
そのとき、最上階のバルコニーからピアノの音が聴こえた。
(ん?誰かいる…誰だろう?)
広間から螺旋階段をさらに上がり、バルコニーに出る。ピアノを弾いているのは同い年くらいの少女に見える。
(この曲…「別れの曲」[小文字]※[/小文字]かな?)
この世界にはこの曲は存在しない。つまり、この曲を知ったのは前世であり、この少年と少女は転生者である。
(同じ転生者…。すごい…演奏が上手いな。)
曲が一段落ついたところで少女が手を止めてノイトの方を見てほほえむ。
「こんばんは。月がきれいな夜ですね!」
「…こんばんは。あの、さっきの曲って『別れの曲』ですよね?知ってるってことはもしかしてあなたも…」
少女は少し驚いたような表情をして
「あなたもこの曲知ってるの?!」
転生者はこの世界で才能を持つ者として周りから浮く。しかしノイトは今まで同じ転生者と出会ったことがない。
「初めて会った…僕と同じ転生者…!!僕はノイト。この時計塔の管理をしてる。よろしくね!」
「……。私のことはリーリャって呼んで。よろしくね。」
ノイトは自分以外の転生者に出会い気分が高揚していたが、あることを思い出した。
「そういえば、リーリャはどうやってここまで来たの?住んでるところは?」
リーリャは少し俯いた。
「それが…全然覚えてないの。」
「…前世のことは?」
リーリャはピアノから手を離す。
「かろうじてピアノの弾き方は覚えてる。だけどそれ以外は…。」
「そっか…。でもそんなに気に病む必要は無いと思うよ?」
ノイトはバルコニーの手すりに手をおいて町を眺める。
「この場所から見るこの景色はいつも変わらないように見える。だけど、この世界に変わらないモノなんてものは無いんだよ。」
ノイトはリーリャの方を見て話し続ける。
「本当に必要な記憶ならいつか必ず思い出せるはずだよ。ただ焦ってるだけじゃ疲れちゃうでしょ?」
リーリャは目を丸くした後に笑った。
「そう…だね。うん、そうする。」
「…今日はもう遅いし、そろそろ寝よう。ついてきて。」
時計塔の螺旋階段を降りて時計塔を出る。少し離れた所にある小屋の扉を開けて中に入り、部屋のベッドの上に寝転んだ。
「そこのハンモック、リーリャが使って良いよ。」
「あ、…うん。ありがとう!」
リーリャがハンモックに乗って寝転ぶ。
「あ、そうだ。リーリャってこの世界のことどのくらい知ってる?」
「えっと…。前世とは違う雰囲気の世界みたいな感じがするってことくらいしか…。」
(なるほど。この世界に来てからの記憶もほとんど無いのか。)
「それじゃあ、詳しいことはまた明日教えるね。おやすみ。」
「ありがとう。おやすみ。」
[小文字]※[/小文字]「別れの曲」(練習曲作品10第3番)/フレデリック・フランソワ・ショパン
ここは都市·ノルストラの郊外の町、ミストル。
町のはずれにある古い石レンガで造られた時計塔にあるいくつかの窓、その1つから町を見下ろしている少年がいた。
「今日も階段の掃除をしただけで夜になっちゃった…。」
彼の名前はノイト。この時計塔の管理を代々受け継いでいるソルフォトス家の後継ぎだ。
(疲れた…とはいっても、働いた後のこの時間が1番好きなんだよな…。)
濡れた雑巾をバケツに入れて伸びをする。
カーキ色のボタン付きシャツの隙間からは白いシャツが見えていて、焦げ茶色のズボンは靴と同じ色で一体感がある。
螺旋階段を上がり、4階の広間からバルコニーに出て石レンガの手すりに寄りかかりながら町を眺める。夜の闇の中に点々と明かりが灯っていて、温かみがある。
(また同じような1日を過ごしちゃったなぁ…。毎日変わらない景色、つまらないようだけど気に入ってる。)
そのとき、最上階のバルコニーからピアノの音が聴こえた。
(ん?誰かいる…誰だろう?)
広間から螺旋階段をさらに上がり、バルコニーに出る。ピアノを弾いているのは同い年くらいの少女に見える。
(この曲…「別れの曲」[小文字]※[/小文字]かな?)
この世界にはこの曲は存在しない。つまり、この曲を知ったのは前世であり、この少年と少女は転生者である。
(同じ転生者…。すごい…演奏が上手いな。)
曲が一段落ついたところで少女が手を止めてノイトの方を見てほほえむ。
「こんばんは。月がきれいな夜ですね!」
「…こんばんは。あの、さっきの曲って『別れの曲』ですよね?知ってるってことはもしかしてあなたも…」
少女は少し驚いたような表情をして
「あなたもこの曲知ってるの?!」
転生者はこの世界で才能を持つ者として周りから浮く。しかしノイトは今まで同じ転生者と出会ったことがない。
「初めて会った…僕と同じ転生者…!!僕はノイト。この時計塔の管理をしてる。よろしくね!」
「……。私のことはリーリャって呼んで。よろしくね。」
ノイトは自分以外の転生者に出会い気分が高揚していたが、あることを思い出した。
「そういえば、リーリャはどうやってここまで来たの?住んでるところは?」
リーリャは少し俯いた。
「それが…全然覚えてないの。」
「…前世のことは?」
リーリャはピアノから手を離す。
「かろうじてピアノの弾き方は覚えてる。だけどそれ以外は…。」
「そっか…。でもそんなに気に病む必要は無いと思うよ?」
ノイトはバルコニーの手すりに手をおいて町を眺める。
「この場所から見るこの景色はいつも変わらないように見える。だけど、この世界に変わらないモノなんてものは無いんだよ。」
ノイトはリーリャの方を見て話し続ける。
「本当に必要な記憶ならいつか必ず思い出せるはずだよ。ただ焦ってるだけじゃ疲れちゃうでしょ?」
リーリャは目を丸くした後に笑った。
「そう…だね。うん、そうする。」
「…今日はもう遅いし、そろそろ寝よう。ついてきて。」
時計塔の螺旋階段を降りて時計塔を出る。少し離れた所にある小屋の扉を開けて中に入り、部屋のベッドの上に寝転んだ。
「そこのハンモック、リーリャが使って良いよ。」
「あ、…うん。ありがとう!」
リーリャがハンモックに乗って寝転ぶ。
「あ、そうだ。リーリャってこの世界のことどのくらい知ってる?」
「えっと…。前世とは違う雰囲気の世界みたいな感じがするってことくらいしか…。」
(なるほど。この世界に来てからの記憶もほとんど無いのか。)
「それじゃあ、詳しいことはまた明日教えるね。おやすみ。」
「ありがとう。おやすみ。」
[小文字]※[/小文字]「別れの曲」(練習曲作品10第3番)/フレデリック・フランソワ・ショパン