二次創作
夜は人ならざるもの
#1
移動中、何かに足をぶつけた。それも小指に、薬指が巻き添えだ。爪が割れていないか心配になるが、見るのもどこか憚られるから気にしないでおくことにする。
常夜灯だけが、ひとりぶんの寝台をぼんやりと照らす。主も、リリも、恐らく他のみんなも、もう朝まで目を覚まさない。本当の夜がそっと帳を開け、そこへ引きずり込まれた。
寝台にあがり、大の字で寝っ転がっても、誰も笑いやしない。驚きやしないし、気づいてくれやしない。それはそうだ。なんてったって、今は一人だから。(いくら騎士だからといって、主と添い寝するわけにもいかない)
ああ、きっといまごろ、ピケロなら相も変わらず研究の続きをしているだろう。タッサムは……寝てる。確か9時には寝ていた。よくあんなルーティーンが組めるものだ。
そういえば、アルペックも9時に寝ていたっけか───
しばらく瞼すら閉じれずにいると、ふと昔小耳に挟んだある詩を思い出した。
「夜は人ならざるもの。人ならざるもののもの。
決して近づいてはいけないよ。ほら、聞こえるだろう、
草花のざわめき、獣の鳴き声、鳥がはしばみを啄む音。
私達が近づいたら、それは私達でなくなってしまう。」
これをあまりに幼い頃に聞いたものだから、悪影響で暗いところが嫌いになってしまった。
だから、つい数時間前まではあの街もネオン一色だった。国全体に広がる街、というより繁華街は、あのチャコの国の都会っぷりに優ると自負している。人の創り出す、楽園だ。しかし、
この一節には、続きがある。
「人が人でなくなる瞬間。そのいっときの、
感覚の乖離するのが、たまらなくおぞましく愉しいんだ!」
楽園は崩れ去る。時代は移り変わり、新たなるものの支配が頭上を覆う。あのミルトンの『失楽園』の天使たちの世界が、いま訪れるべき夜なのだろう。
私達が私達でなくならないように。あのおぞましい快楽に、溺れてしまう前に。寝返りをうち、そそくさと眠りにつくのだった。
常夜灯だけが、ひとりぶんの寝台をぼんやりと照らす。主も、リリも、恐らく他のみんなも、もう朝まで目を覚まさない。本当の夜がそっと帳を開け、そこへ引きずり込まれた。
寝台にあがり、大の字で寝っ転がっても、誰も笑いやしない。驚きやしないし、気づいてくれやしない。それはそうだ。なんてったって、今は一人だから。(いくら騎士だからといって、主と添い寝するわけにもいかない)
ああ、きっといまごろ、ピケロなら相も変わらず研究の続きをしているだろう。タッサムは……寝てる。確か9時には寝ていた。よくあんなルーティーンが組めるものだ。
そういえば、アルペックも9時に寝ていたっけか───
しばらく瞼すら閉じれずにいると、ふと昔小耳に挟んだある詩を思い出した。
「夜は人ならざるもの。人ならざるもののもの。
決して近づいてはいけないよ。ほら、聞こえるだろう、
草花のざわめき、獣の鳴き声、鳥がはしばみを啄む音。
私達が近づいたら、それは私達でなくなってしまう。」
これをあまりに幼い頃に聞いたものだから、悪影響で暗いところが嫌いになってしまった。
だから、つい数時間前まではあの街もネオン一色だった。国全体に広がる街、というより繁華街は、あのチャコの国の都会っぷりに優ると自負している。人の創り出す、楽園だ。しかし、
この一節には、続きがある。
「人が人でなくなる瞬間。そのいっときの、
感覚の乖離するのが、たまらなくおぞましく愉しいんだ!」
楽園は崩れ去る。時代は移り変わり、新たなるものの支配が頭上を覆う。あのミルトンの『失楽園』の天使たちの世界が、いま訪れるべき夜なのだろう。
私達が私達でなくならないように。あのおぞましい快楽に、溺れてしまう前に。寝返りをうち、そそくさと眠りにつくのだった。
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