文字サイズ変更

1日1回、キャベツを崖から落とす。

#1


佐藤亮太(さとうりょうた)は、いつもと同じように目を覚ました。目覚まし時計の音が鳴り響き、無意識に手を伸ばし、それを止める。朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、部屋を薄暗く照らしている。いつも通りの始まり。

「またか…」

自分でもわかっていた。どこか心の奥で、この繰り返しが壊れないことに不安を感じていた。毎日、同じ街を歩き、同じ電車に乗り、同じ仕事をして、同じベッドで眠りにつく。こんな日々が永遠に続くのだろうか。考えると、どうしてもやるせなかった。

ある日、街を歩いていると、目の前の掲示板に一枚の紙が貼られているのを見つけた。普段ならスルーするだろうが、何故かその文字が目に飛び込んできた。

「一日一回、キャベツを崖から落とすバイト募集!」

条件:詮索しないこと。
報酬:日給5000円

「キャベツを…崖から…?」

その言葉が頭の中でぐるぐると回る。心の中で何かが響いた。普段は気にも止めない掲示板の内容に、なぜか引き寄せられている自分に気づいた。刺激を求めていたのだろうか。何かを変えたかったのだろうか。

そのバイトのことが頭から離れず、次の日、僕はその場所に向かった。

小さな建物に入り、扉を開けると、すでに数人の応募者が集まっていた。どれも年齢も性別も様々だが、どこかしら疲れた表情をしている。それぞれが無言で、ただ待っているだけだ。

中に入ると、男が一人、無表情で僕たちを見ていた。

「ここでは、簡単な仕事だ。ただ、一日一回、キャベツを崖から落とす。それだけだ。わかるな?」

その男の声には、何の感情も込められていなかった。

「ただ、それだけ…?」

「はい。ルールはただ一つ。詮索しないこと。」

男の言葉には何か重い意味が含まれているようだったが、僕はそれ以上何も聞けなかった。

その日から、僕の奇妙な日常が始まった。

バイトは非常にシンプルだった。毎日決まった時間、指定された崖に向かい、渡されたキャベツをただ崖から落とす。それだけの行為だ。キャベツは風に吹かれて、空中でひとときの浮遊感を味わい、最後は岩に当たって砕け散る。

最初のうちは何も感じなかった。キャベツを落とすことに、何の意味もないことを頭では理解していたからだ。しかし、日に日に、だんだんとその繰り返しが何かしら引っかかるようになってきた。

そして、ある日、僕は気づいた。キャベツを落とす場所に、微かな違和感があることに。

その崖のすぐ下には、何かが埋まっている。最初は気づかなかったが、何度も崖からキャベツを落としているうちに、岩の隙間に何かがあるのを見た気がした。その何かが、時折、光を反射することに気づいた。それは、まるで埋められた何かのようだった。

「ただの岩か…?」僕は自分に言い聞かせるように呟いた。しかし、どうしても気になった。

「もし、あれが…?」

次の日、僕は自分でも知らないうちに、少しだけ崖の近くに足を運んでいた。だが、そこで足を止めた。手を伸ばしそうになったその瞬間、背後から男の声が聞こえた。

「詮索はしないことだ。」その男の声は、今まで以上に冷たく響いた。

僕は息を呑み、足を引っ込めた。心の中で、何かがひっかかった。あの光、あれが何であるかを知りたくて仕方がなかった。しかし、同時に怖さも感じていた。

その後、バイトを続けるうちに、奇妙な感覚が僕の中で大きくなっていった。それは、キャベツを落とす行為自体が、ただの「儀式」のようなものに思えてきたことだ。毎日、同じ崖からキャベツを落とし、同じ場所に立っていると、時間が歪んでいるような、そんな不安な感覚に囚われていった。

そして、最終日。僕は再びあの光が気になり、思わず手を伸ばしそうになった。しかし、その瞬間、崖の下から何かが浮かび上がってきた。

「これは…?」

それは、確かに埋まっていたものだ。しかし、僕が想像していたものとは全く違っていた。

「…もう一度、キャベツを落としてきなさい。」男が一言だけ言った。

僕は何も言わず、またキャベツを手に取り、崖の縁に立った。

その時、ふと気づいた。毎日繰り返してきた行為が、無意味ではなかったのかもしれないということに。だが、それが何を意味するのか、僕にはまだわからない。

キャベツが空を舞い、崖から落ちる。音もなく、ただそれだけ。

その後、僕はそのバイトを辞めた。あの崖の真実を知ることはなかった。しかし、あのバイトが示していた何かが、僕の中でずっとくすぶり続けている。あの場所、あの光、そして、あの崖の下に埋まっていたもの――。

誰もその答えを知らない。誰も、詮索しなかった。それが、僕が学んだことだ。

作者メッセージ

本作をお読みいただき、誠にありがとうございました。

「一日一回、キャベツを崖から落とす」という奇妙なバイトから始まる物語ですが、最後まで読んでいただき、いかがだったでしょうか。繰り返される日常の中で、主人公が感じた違和感や謎に対して、皆様がどのような解釈をされたのか、とても気になります。

この物語には、問いかけとともに「意味とは何か?」というテーマが込められています。崖の下に埋まっていたもの、そしてバイトの本当の目的。これらの謎について、皆様はどう思われたでしょうか?解けた方も、解けなかった方も、その答えはおそらく一人一人違うことでしょう。

ぜひ、この謎が心に残り、少しでも考えるきっかけとなったなら幸いです。今後も、皆様に新たな視点をお届けできるよう努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

月影

2025/03/13 21:33

月影 ID:≫ 5iUgeXQ3Vbsck
小説を編集

パスワードをおぼえている場合はご自分で小説を削除してください。(削除方法
自分で削除するのは面倒くさい、忍びない、自分の責任にしたくない、などの理由で削除を依頼するのは絶対におやめください。

→本当に小説のパスワードを忘れてしまった
▼小説の削除を依頼する

小説削除依頼フォーム

お名前 ※必須
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
削除の理由 ※必須

なぜこの小説の削除を依頼したいですか

ご自分で投稿した小説ですか? ※必須

この小説は、あなたが投稿した小説で間違いありませんか?

削除後に復旧はできません※必須

削除したあとに復旧はできません。クレームも受け付けません。

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL
/ 1

コメント
[2]

小説通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

※できるだけ具体的に記入してください。
特に盗作投稿については、どういった部分が元作品と類似しているかを具体的にお伝え下さい。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
小説のタイトル
小説のURL