たゆたう草に隠る思い
#1
「アルハイゼンさん、先日に行われた調査の結果が出ましたので、これを…」
「ああ、分かった。後で記録しておこう。資料はそっちに置いてくれ」
「はい」
スメール教令院の書記官、アルハイゼンさん。
尊敬し慕う人であり、同時に、わたしの好きな人だ。
いつも何考えてるかよく分からないけど、博識で憧れている。
[水平線]
わたしの周りには、アルハイゼンさんの事をを「怖い」「何を考えてるのかわからない」と評価する人が多い。
前に、わたしの同僚にアルハイゼンさんが好きなんだ、と言った。
そしたら、それを聞いた同僚は驚いた顔をしていた。
「え、あの人が好きなの…?怖いじゃん、なんで●●はあの人好きなの?」
わたしは別に、他の人にどう言われてもいいんだが、傷つかないかと問われたら、嘘になる。
「そうだなー、まず賢いところとか…あと、あの人を知ってみたら、意外に怖くないんだよ。本当は優しい人なの」
いくら私がそう言っても、友達は「そうなんだね」と横に流すだけだった。
[水平線]
ある日、わたしは朝からとても緊張していた。
「はぁー…よし…」
今日はいつにも増して、前髪をいじってしまう。そろそろ家を出ないと遅刻しそうな時間なのに、まだ鏡の前で前髪をいじっている。
どうしてこんなに緊張しているのかというと、今日ついに、アルハイゼンさんに告白しようと思っているからだ。
「はぁ〜、大丈夫…大丈夫だよわたし…よし、行こう!」
やっと勇気が出てきたので、いつも通りバッグを肩にかけて、ヒールを履いてドアを開けた。今日は少し、おしゃれな靴を選んでみた。
[水平線]
今日一日は、アルハイゼンさんのことを心の片隅に置きながら、少しソワソワしつつ仕事をした。
仕事内容とかは別にいつも通りなのだが、それ以上に、これからの事が不安だった。
「やっと一日の仕事が終わった…よし、アルハイゼンさん呼ぼう!」
一人、そう大声で言ってみる。誰も聞いてないよね、なんて心配でつぶやき、周りを見てみるが、やっぱり誰もいなかった。安心でハァと一息ついてから、アルハイゼンさんを探しに行った。
「アルハイゼンさんいた……はぅ、心配だ…」
今も心配で胸がはち切れそうになるが、言わないという選択肢は存在しなかった。
「……あ、アルハイゼンさん!その、今ちょっと、お時間ありますか…?」
「ん?なんだ、君か。一体どんな要件だ?」
「あ、その…要件は言えないんですけど、本当にすぐに終わるので…二人きりになれる場所に行きませんか?」
「…分かった、いいだろう」
[水平線]
今の様子としては、私はアルハイゼンさんと、静かな部屋で向かい合ってる感じだ。
「それで、一体どんな要件だ?俺は早く帰りたい、できる限り手短に頼む」
彼の鋭い眼光を、私は上から見ている。彼とはかなりの身長差があって、軽く上を見ないと、顔が見られなかった。
「あの…………私!
アルハイゼンさんの事が、好きです。
付き合って、も、もらえませんか」
[水平線]
「…………」
帰路、私は静かに泣いていた。
あの後は記憶がない。彼に振られたこと、それだけを覚えている状態だった。
「……頑張ったんだけどなぁ」
そりゃ、悲しい気持ちはとてもある。
だけど、私は心のどこかで、この結果を分かっていたのかもしれない。
そもそも、あの人は誰かと付き合うタイプではないんだ。
あの人の、何事にも振り回されないところに惹かれたのに、今となってはこんなに悲しくなるなんて、想像もしていなかった。
「はぁ………」
ショックな気持ちと、当然だという気持ちが混ざった。
[水平線]
数日後。私は意外にも、いつも通りの生活を送っていた。
どういう事かというと、まぁ簡単に言うと、立ち直ったのだ。
__告白に失敗したあと、私は教令院生時代からの親友、○○に、話したいことがあると言って、そして一緒にどこかの店に行くことにした。
「久しぶり、だね●●!急に呼び出すなんて、何かあったの?」
「あのね……今日、好きな人に告白したんだけど、振られたの」
「えっ、そうなんだ。それは大変だね、お疲れ様」
○○は、うつむいて泣く私に対し、優しい言葉を投げかけてくれた。
「うーん、そのさ…●●が好きな人って、確かえっと…アルハイゼンさんだよね?」
○○はそう言ってから、話を続けた。
「あのさ…正直ね、思ったこと言っちゃうね。
●●が抱えてる『好き』ってさ…なんていうか、恋愛的なものじゃない気がするの。もっとこう…憧れ?とか、尊敬?みたいなさ、そういうものな気がするんだよね。
●●が彼の話をする時ってさ、恋愛的に好きって雰囲気がしない気がするの。尊敬してやまない人の話をしてる、って感じで。
今ショックなのは、振られたことがショックなんじゃなくて、あくまで『尊敬してる人に否定された』って部分が、ショックなんじゃないの?」
なぜかとても、しっくり来た気がした。
そうだ、よくよく考えてみたら、私は彼のことを恋愛的な「好き」で捉えていないのかもしれない。
ショックって、振られた事自体には無いのかもしれない。
「えーっとね、もし『尊敬してる人に否定されたからショック』っていうのが本当だとするよ?
そういう前提で話すけどさ、多分アルハイゼンさんは、●●の否定はしてないと思う。あの人、そういうタイプではないから。
キツイこと言っちゃうようだけどさ、●●が…そんなに落ち込む必要性は、ないんじゃないかな」
うつむきをやめて、○○の方を見る。
その言葉は、意図しない真実だった。
[水平線]
これがあり、私は立ち直ることができた。
仕事の効率は少し落ちたかもしれないけど、それでもいつも通りにはしているつもりだ。
元々私自身が、失敗しても、あまりショックを感じることがない人間なのも、かなりあるだろう。
私は、過去をいつまでも見る人間じゃない。過去を忘れる、というわけではないが。
もう振り返らないと、自分の中でそう決めた。
「ああ、分かった。後で記録しておこう。資料はそっちに置いてくれ」
「はい」
スメール教令院の書記官、アルハイゼンさん。
尊敬し慕う人であり、同時に、わたしの好きな人だ。
いつも何考えてるかよく分からないけど、博識で憧れている。
[水平線]
わたしの周りには、アルハイゼンさんの事をを「怖い」「何を考えてるのかわからない」と評価する人が多い。
前に、わたしの同僚にアルハイゼンさんが好きなんだ、と言った。
そしたら、それを聞いた同僚は驚いた顔をしていた。
「え、あの人が好きなの…?怖いじゃん、なんで●●はあの人好きなの?」
わたしは別に、他の人にどう言われてもいいんだが、傷つかないかと問われたら、嘘になる。
「そうだなー、まず賢いところとか…あと、あの人を知ってみたら、意外に怖くないんだよ。本当は優しい人なの」
いくら私がそう言っても、友達は「そうなんだね」と横に流すだけだった。
[水平線]
ある日、わたしは朝からとても緊張していた。
「はぁー…よし…」
今日はいつにも増して、前髪をいじってしまう。そろそろ家を出ないと遅刻しそうな時間なのに、まだ鏡の前で前髪をいじっている。
どうしてこんなに緊張しているのかというと、今日ついに、アルハイゼンさんに告白しようと思っているからだ。
「はぁ〜、大丈夫…大丈夫だよわたし…よし、行こう!」
やっと勇気が出てきたので、いつも通りバッグを肩にかけて、ヒールを履いてドアを開けた。今日は少し、おしゃれな靴を選んでみた。
[水平線]
今日一日は、アルハイゼンさんのことを心の片隅に置きながら、少しソワソワしつつ仕事をした。
仕事内容とかは別にいつも通りなのだが、それ以上に、これからの事が不安だった。
「やっと一日の仕事が終わった…よし、アルハイゼンさん呼ぼう!」
一人、そう大声で言ってみる。誰も聞いてないよね、なんて心配でつぶやき、周りを見てみるが、やっぱり誰もいなかった。安心でハァと一息ついてから、アルハイゼンさんを探しに行った。
「アルハイゼンさんいた……はぅ、心配だ…」
今も心配で胸がはち切れそうになるが、言わないという選択肢は存在しなかった。
「……あ、アルハイゼンさん!その、今ちょっと、お時間ありますか…?」
「ん?なんだ、君か。一体どんな要件だ?」
「あ、その…要件は言えないんですけど、本当にすぐに終わるので…二人きりになれる場所に行きませんか?」
「…分かった、いいだろう」
[水平線]
今の様子としては、私はアルハイゼンさんと、静かな部屋で向かい合ってる感じだ。
「それで、一体どんな要件だ?俺は早く帰りたい、できる限り手短に頼む」
彼の鋭い眼光を、私は上から見ている。彼とはかなりの身長差があって、軽く上を見ないと、顔が見られなかった。
「あの…………私!
アルハイゼンさんの事が、好きです。
付き合って、も、もらえませんか」
[水平線]
「…………」
帰路、私は静かに泣いていた。
あの後は記憶がない。彼に振られたこと、それだけを覚えている状態だった。
「……頑張ったんだけどなぁ」
そりゃ、悲しい気持ちはとてもある。
だけど、私は心のどこかで、この結果を分かっていたのかもしれない。
そもそも、あの人は誰かと付き合うタイプではないんだ。
あの人の、何事にも振り回されないところに惹かれたのに、今となってはこんなに悲しくなるなんて、想像もしていなかった。
「はぁ………」
ショックな気持ちと、当然だという気持ちが混ざった。
[水平線]
数日後。私は意外にも、いつも通りの生活を送っていた。
どういう事かというと、まぁ簡単に言うと、立ち直ったのだ。
__告白に失敗したあと、私は教令院生時代からの親友、○○に、話したいことがあると言って、そして一緒にどこかの店に行くことにした。
「久しぶり、だね●●!急に呼び出すなんて、何かあったの?」
「あのね……今日、好きな人に告白したんだけど、振られたの」
「えっ、そうなんだ。それは大変だね、お疲れ様」
○○は、うつむいて泣く私に対し、優しい言葉を投げかけてくれた。
「うーん、そのさ…●●が好きな人って、確かえっと…アルハイゼンさんだよね?」
○○はそう言ってから、話を続けた。
「あのさ…正直ね、思ったこと言っちゃうね。
●●が抱えてる『好き』ってさ…なんていうか、恋愛的なものじゃない気がするの。もっとこう…憧れ?とか、尊敬?みたいなさ、そういうものな気がするんだよね。
●●が彼の話をする時ってさ、恋愛的に好きって雰囲気がしない気がするの。尊敬してやまない人の話をしてる、って感じで。
今ショックなのは、振られたことがショックなんじゃなくて、あくまで『尊敬してる人に否定された』って部分が、ショックなんじゃないの?」
なぜかとても、しっくり来た気がした。
そうだ、よくよく考えてみたら、私は彼のことを恋愛的な「好き」で捉えていないのかもしれない。
ショックって、振られた事自体には無いのかもしれない。
「えーっとね、もし『尊敬してる人に否定されたからショック』っていうのが本当だとするよ?
そういう前提で話すけどさ、多分アルハイゼンさんは、●●の否定はしてないと思う。あの人、そういうタイプではないから。
キツイこと言っちゃうようだけどさ、●●が…そんなに落ち込む必要性は、ないんじゃないかな」
うつむきをやめて、○○の方を見る。
その言葉は、意図しない真実だった。
[水平線]
これがあり、私は立ち直ることができた。
仕事の効率は少し落ちたかもしれないけど、それでもいつも通りにはしているつもりだ。
元々私自身が、失敗しても、あまりショックを感じることがない人間なのも、かなりあるだろう。
私は、過去をいつまでも見る人間じゃない。過去を忘れる、というわけではないが。
もう振り返らないと、自分の中でそう決めた。
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