二次創作
イカれたメンバーを紹介するぜ!
side クイ
ボク様はカノ様に手が離せないからと買い物を頼まれた。一通り買い物が終わり、帰路につこうとしていた時、見慣れないような人影が前から走ってくるのが見える。なんだろうか、と思っていたのも束の間。すぐにその正体は判明する。
「[太字]クイく~ん♡!![/太字]」
あいつはボク様の名を呼びながら走ってきていた。ボク様は元軍人で、陸軍幹部だったという過去がある。その時代についたファンだろうか。だが、今はただの買い物中。そんな野郎に構う暇などないのだ。
「[太字]クイくんっ!! 昨夜はカノくんと一緒にお出かけしてたねっ!! 昨夜は見ていたオレすらも楽しくなってしまうような手裁きで…とても綺麗でかっこよかったよっ!! 拉致にはなれてるのかなあ? よかったらなんだけど、答えてほしいなっ![/太字]」
「おい待てキサマァ…聞き捨てならんなァ? 今なんと言ったのだ? てめーの言葉がマヌケすぎて聞こえなかったぜ…もう一度言ってみろじゃねーと今すぐにでも殴殺してやるからなァ。」
なぜこいつは昨夜男を拉致したという事実を知っているのだ。あの現場をどうやら見られてしまっていたようだ。情報がばら撒かれぬうちに、さっさとこいつを殺してしまわねば。ノア様とカノ様とヒノ様の障害となってしまう。
「あっ。名乗るのを忘れてたね。オレの名前は[太字]ラン[/太字]だよっ。覚えててほしいな。」
話が通じないのかもしれない。名乗らなければ不敬だと感じたのだろうか。まず名乗るより先にボク様の質問に答えてほしいのだが、シンプルに身勝手すぎるのか人の話を聞いていないのかどちらに分類されるのだろうか。
「キサマの名前などどーでもいいんだよォ…さっきなんつったかって訊いてンだよォ。このボク様の質問に答えろ…それ以外はなにも話さなくていいんだ…。」
ボク様はこいつの腕を引っ張り、路地裏に連れこむ。そして、いつも携帯している拳銃をこいつの頭に突きつけた。ノア様とカノ様とヒノ様をお守りする為に、と持っていた物なのだがまさかこんな使う場面が出来るとは思ってすらいなかった。
「妙な声を出すなよォゲボカス野郎…今すぐにでも殺してやるからなァ…。」
「クイくんに殺されるなら、大歓迎…!! はあ…クイくんにオレは脅されている…!! すっごい興奮する…♡」
怖がるどころか恍惚としている。もしかすればこいつは『そういう趣味』を持っているのかもしれない。ノア様やヒノ様が世間一般では言われる、異常性癖と呼ばれるようにこいつだっていじめられるのが好きだとかいう気持ち悪い性癖を持っているのだろうか。やはりノア様とカノ様とヒノ様以外の人間の異常性癖はやはり受け付けない。確か被虐性愛好性、マゾヒストというものだったろうか。そんな事はどうでもいいのだ。
「質問だけ聞いておけよォ…分かったな? もう一度とてキサマに何かを言う道理なんてねぇからな。」
一応脅しておいたものの、はやりこいつには全く効いていない。カノ様もボク様と同じように様付けしていた所から、このボク様と同じようにカノ様を崇拝しているのだろうか。もちろんの事、カノ様やノア様、ヒノ様を崇拝するという事は全人類がやるべき行為だ。崇拝するのはいいが、ノア様とカノ様とヒノ様に迷惑がかかるようなら速攻で始させてもらう。もちろん、今から[太字]値踏み[/太字]する必要があるようだ。
「…まァ、見られてるなら逃がすわけにはいかねンだよなァ。なァ、寝てこのボク様に運ばれるか、そのままボク様に大人しーく連れられるか。おすすめは前者だぜ。さっさとこっちに来い。てめーにわざわざかけてやるような時間が無駄になってるんだぜ?」
ボク様がそう脅しても、こいつはにっこりと笑って恍惚の表情で「オレの体はクイくんに好きにしてもらっていいよ。オレは抵抗もしないし、暴れもしないから。」と優しく微笑む。口では暴れない等と言っているが、そうだとは信じる事など出来ない。赤の他人に騙され嘲笑われるなど、このボク様のプライドが許可しないのだ。騙し騙されという事はヒノ様が裏切りこちらの国についた時に理解した。昔からそういう世界だろうという事は理解していたのだが、あの一件で更に確信を得る事が出来たのだ。だからボク様はヒノ様を崇拝している。ボク様の価値観について多大な影響を与えてくださったから。
「…あァ。そうか。だが騙されるのは嫌いなんだよなァ。だけどよォ~…てめーを縛って気絶させて運びゃあ職務質問は避けられねェだろ? ならさァ…約束を守るっつーなら、お前の命は助けてやるよォ。まァそれも、お三方の気分によるがなァ。」
「それでもいいよ。オレはクイくんの役に立てればそれでいいから…。」
こいつと共に、そこら辺にいる友達と歩いているであろう人間どもの真似をしつつ、出来るだけ怪しまれぬように動いた。こいつは本当に道中で抵抗をせず、その予兆かと思われる行為すらする事がない。本当にこいつは約束を守る気でいるらしい。ボク様も警戒しており、カバンの中で拳銃を構えていたのだが、それが無意味となってしまっていた。そして、いつの間にかボク様達は家に着いていた。
「…おい。キサマ。ここからは更に慎重に行動しろよ。不審な動きを見せてみれば一瞬で殺してやる。
ボク様はそう言いながら、こいつのこめかみに拳銃を突きつけた。もう引き金すら引いてしまえばこいつを殺せる状況。そうだというのに、こいつは冷や汗一つ流さずににこにこと笑っているだけ。その瞳は恍惚に溺れている。ボク様が家のドアを開けると、空っぽなリビングが目に映る。
「ただいま。」
そうだとしてもただいまだけは欠かせない。ノア様とカノ様とヒノ様が挨拶をしない人間は大嫌いだからだ。ノア様とカノ様とヒノ様の為ならば、なんだって出来る。
「おかえりなさい、クイ兄貴っ!」
いないかと思えば、レノがひょこりと顔を出してくる。ノア様とカノ様とヒノ様はどうやらいらっしゃらないようだ。
「…あれ? 誰っすかそれ? また拉致ってきたんですか? まあいいや…とりあえず地下室に案内してあげましょ。こっちっすよクイ兄貴。あ…そいつ起きてるんすか。ならあっちの方がいいっすよね。」
相変わらずの手際の良さでレノはボク様を地下室へと案内する。レノは要領がとてもよく、マルチタスクが得意だ。こういう所もボク様達が教育した成果だと思うと、とても誇らしい気分になる。
「わあああああ…!! [太字]いつも見てる[/太字]おうちだあ…! 初めて中に入れたよ…!」
一瞬聞き捨てならない言葉が聞こえた。こいつはいくら失言すれば気が済むのだ。もはやわざとしているのではないかと錯覚するほどこいつは失言が多い。
「おい。いつも見てるとはなんだ。ボク様達を監視しているとでもいうのか?」
ボク様がそう言うと、こいつはにっこりと笑って「そうだよ~♡ クイくんとおっても勘が鋭いね♡ やっぱりクイくんはすごいね♡」と言い出す始末。誤魔化す事すらしないとは、こんなにも肝が据わっている人間は久しぶりに見た。カノ様好みの人間だろう。こいつを監禁し、お三方にこいつをどうするか判断してもらおう。
「レノ。こいつを黙らせる方法とかねェか? この野郎を放っておくと癪に障るような発言しかしねェからなァ。」
「…首蹴ります? クイ兄貴の筋力なら蹴り殺しそうっすけど。」
「…そうだよなァ。」
こいつを蹴り殺してしまう、という事はいつだって出来るが、こんな人間は初めてだ。正直言ってしまうと、初めての経験という事でボク様が少し昂ぶってしまっているのは事実。好奇心には抗うな従え、とノア様とカノ様が教えてくださった。それに則ってボク様は好奇心の赴くままに行動するのだ。
「まァ、こいつがどんな人間なのか気になっているんでなァ…生かしてやろーぜ。殺すかどうかはノア様とカノ様とヒノ様にこいつを見せてから決めりゃあいいだろ。」
そう他愛もない話をボク様とレノで行いながら、こいつを運んだ。話してる最中に多少口を挟んできたが、少し黙れと言うとすぐに静かになった。こんな胆力のない野郎ではないと思っていたのだが、もしかすれば違うのだろうか。
「よし…これでいいなァ。」
牢屋にぶちこみ、手錠をつけ足枷をつけ手錠を鉄格子につければ、これで動けない。これで黙らせる事もでき、一石二鳥だ。こいつはうごうごと蠢く事なくずっと静かに蹲っている。こんな野郎は初めて見た。どんどんとこいつに対して興味が湧いてくる。
「…そういや、この人の名前は知っているんですか?」
「ランだ。ラン。こいつの名前はランだ。苗字は知らん。」
「きゃー♡ オレの名前呼んでくれたーッ♡」
やはりこいつは失言が多すぎる。もういっその事猿轡を噛ませてやろうかと持ってこようとした瞬間、こつこつこつ、と廊下を歩く足音が聞こえてくる。この足音は恐らくノア様だ。その足音がこちらに向いてやってくる。恐らくだが先程の地下室に運び込む現場をご覧になっていたのだろう。
「あっ。誰これ? さっきの話聞いてる限りだとランくん…だったかな?」
ノア様がこいつを指差す。ノア様のお声が聞こえた瞬間、こいつはまた騒ぎ始める。こんなにいらつきしょうもないと思ってしまったのはいつぶりだろうか。
「えっノアくん!? ノアくんなの!? きゃー♡ 声可愛すぎるよぉ♡」
ノア様のお声が美しいのは同意するが、先ほどからノア様を君付けで呼ぶとは中々いい度胸だ。こいつを今すぐにでも葬ってしまいたいところだが、ノア様はご興味をお持ちになられたようなのでまだ殺さない。許可が出たのならすぐに殺してしまおう。
「えっと…名前はなんだい? わたしの名前はノア。よろしく。」
ノア様が少しびっくりしながら、珍妙な物を見る目で話すと、こいつは更にテンションが上がった様子で、歓喜の悲鳴をあげながらうっとりとした瞳で愛しそうにノア様を見つめている。
「ああっ!! ノアくんっ!! やっぱりお顔整ってて可愛いねっ!! お肌白いしギザ歯なのめっちゃ萌えるっ!! オレの名前はランっ!! ノアくんっ♡!! はああ…みんな顔面偏差値高すぎなんだけど…愛してる…一生推す…可愛すぎ…♡ 心臓何個あっても持たん…いつグッズ出すの…? 出さなくてもいいから一生貢がせてお願い…養いたい…でろでろに甘やかしてそんな愛情を注ぎ慣れてないみんな挙動不審になって怖がって…♡ というかお名前までみんな可愛いとか…もう…好き…♡ 可愛い…♡ みんな可愛い…♡ ノアくんはとっても真面目でお料理も出来るママなの可愛いね…♡ カノくんはいつもによによしてて口調ふわふわしてて可愛いね…♡ ヒノくんはお兄ちゃんで一番おっとりしてるのにギザ歯一番鋭いとかいうギャップ可愛いね…♡ クイくんはあんなにノアくんカノくんヒノくんの事尊敬してるのに親分肌で他人引っ張っていけるの可愛いね…♡ レノくんはいつもおどおどしてるのにたまに覚悟決まってイケメンになるの可愛いね…♡ 全部が天才過ぎる…♡ これもう世界遺産レベル…♡」
こいつは相変わらず一人妄想に耽ったりしている。顔面偏差値が高いというのはどういう意味なのだろうか。やはり字面通りのものなのだろうが。先ほどからずっとボク様達の事を可愛い可愛いと言い続けているのだが、そんなに可愛いものなのだろうか。やはりこいつの考えている事はよく分らん。そもそも、こいつはいきなり大声を出したり黙ったりと情緒が不安定だ。何を考えているのか分からない挙句、なぜかこの場にいないはずのカノ様とヒノ様の魅力まで語り始めやがった。こいつが言っている事はよく分からない。そしてまた、かつかつかつ、と足音が聞こえる。次はカノ様だ。ノア様伝いに話が回ったのだろうか。
「なんか野郎を監禁したって聞いたけど、本当? あっ、これが監禁した野郎だね? ワタシの名前はカノだよ。君のお名前は何かな?」
「ああああああ!!♡ オレの名前はランっ♡ 覚えててくれると嬉しいなっ♡」
また悲鳴をあげ、その甲高い悲鳴はボク様達の鼓膜を貫いた。耳がずっと痛い。もう耳が悪くなってしまうのではないのだろうか。時たまこいつの悲鳴によって耳が聞こえなくなる挙句、耳も悪くなってしまうだなんて害しか及ぼさない。さっさとこいつを殺してしまった方が好都合なのではないのだろうか。そしてまた、こつこつこつ、と足音が聞こえてくる。この足音は間違いない、ヒノ様だ。
「…ここにいたのかい。ン…? なんだいこれは。実験台かなにかか? まあまず…名前は何だい? 私の名前はヒノ。よろしくね。」
「オレの名前はランだよぉっ♡ ヒノくん♡ 可愛すぎる…♡ ああっ♡」
ヒノ様はいきなりの奇声に驚いたのか、目を少し丸くしてこいつを見つめる。そしてまたこいつは歓喜の悲鳴を上げた。一瞬だけ音が聞こえなくなる。こいつの声量はどうなっているのだ。人間の声でこんなに耳が聞こえなくなるという体験は初めてだ。未体験で少しわくわくしているが、だがそれにしても人外じみた肺活量に声量。まさかこんな所で被害を受けるなど思ってもいなかった。それにのどを痛めていない様子のこいつはどんな喉をしているのだ。そしてこいつはわくわくした様子で話し始める。
「待って推しが全員視界に揃ってて、間近にいる…? なにこのご褒美…眼福すぎるんだが…一生分の運使ったかも…ここを墓場にしたいよぉ…♡」
また意味の分からない言葉を発している。ここでこいつを葬り、墓場にする事は可能だがそれをする意味が分からない。ボク様達に囲まれて死にたいとでも言っているのだろうか。そして、カノ様があいつが閉じ込められていいる牢屋へとゆっくり近づいていく。
「ふーん…さっきから結構面白い話してるね。気に入ったよ。どうだい? ワタシ達と…『お友達』にならないかい…?」
「えっ…きゃあああああああああああああああああああああああああっ!! 推しに!! お友達になろうって言われたっ!! うわあああああああああああああああああああっ!!」
とんでもないほどの肺活量と、死体を見つけた時の悲鳴レベルにうるさい悲鳴をこいつは出しやがった。うるさすぎてたまらない。声が大きすぎて、耳が痛い。蜘蛛やらゴキブリを見つけた女ほど叫ぶじゃないか。
「…………………あっごめんっ!!」
ボク様達はいつの間にか蹲っていたらしい。手錠に繋がれ足枷をつけられ、縄でぐるぐる巻きに縛られているのだから動けないものの、声色から心配しているのは分かる。
「うっ……今の何デシベルだ…?」
心なしかヒノ様は少し嬉しそうに微笑んでおり喜んでいる様子だ。何に喜んでいるのだろうか。ノア様とカノ様は喜んでいないどころか、苦しそうに蹲っているというのに、ヒノ様は一人喜んでいる。ヒノ様は一体どこで鍛えられたのだろうか。
「えっ…へへへへへへ…ヒノ兄さん…鼓膜鍛えられすぎじゃない…?」
なぜかカノ様も笑っており、なぜだろうかとは思うものの、もう回復しているカノ様とヒノ様とは違い、ノア様はずっと苦しそうに蹲っており頭を抱え寝ている猫のようにしている。そしてずっとぷるぷると震えており、怯えて子供の様子だ。そして、レノがいつの間にか復活しており、ノア様の傍にやってきている。あの様子だとすぐに復活出来たのだろう。
「…大丈夫っすかノア兄貴。」
「ううっ…耳がいいのがこんな所で仇に…。」
「ノア兄貴耳良いっすからね…。」
ノア様はまだ回復出来ていない様子で、ずっと蹲っている。基本的に静かで騒ぐ事や大声を聞く事があまりないノア様は、どうやら大声に慣れていないらしい。
「…レノ。ノア様はキサマが看病していろ。ボク様はこの野郎を…少し。」
「分かりましたっす。」
こいつを殺さなければいけないという衝動に駆られる。ノア様が聴覚障害になりかけているというのに、黙って見ているのは我慢ならない。こいつに、携帯していたあの拳銃を突きつける。
「…オレが抵抗する道理はない…だから、殺してくれ…。推しを傷つけてしまったんだから、オレはその何倍も苦しまなければならない。」
大人しくなり、こいつは手を上げる。ボク様達のこの姿とこの行動に、誰も口は挟まなかった。カノ様は多少残念そうにボク様を見つめ、ヒノ様は平然とボク様達を見つめており、レノはノア様を休ませながら不安そうな視線をボク様達に向ける。
「…処刑してしまって、よろしいでしょうか。許可をください。」
ボク様がそう言うと、カノ様は困り眉気味に「いいよ~まあ、クイはそうなるよね。しょうがないよ。」と。ヒノ様は面倒くさそうに、興味がないのか素っ気なく「全然いーよ。」と。レノは不安そうな顔をしつつ、ボク様の話を聞き首を縦に振った。全員の許可を得た時、ランはにっこりと最後に微笑んでボク様に体を差し出す。だが、ノア様がそれを止めた。
「…二人とも。わたしはいい…逆に、面白いじゃないか…こんな体験は初めてなんだ…少し楽しんでいる節はあるよ…怖いという事が分かり切っている癖に、ジェットコースターや絶叫系マシンに乗るのと同じような道理だ…。」
やはりノア様もしんどそうにはしていたものの、こいつを許してやるという心優しい一面を見せる。やはりノア様もカノ様もヒノ様も崇拝すべき人物なのだ。こんな慈悲深い所があるなどとてもお優しい。全人類はノア様の慈悲深さに感謝するべきだ。
「このクイ、感動いたしましたっ!! 危害を加えられたというのにも関わらず、そいつを許すだなんて…!!」
「クイくんそんな所もとっても可愛いよぉっ!! ああっ!! ノアくんとカノくんとヒノくん一番なの可愛いねっ♡ ずっと推すっ♡ ノアくんも許してくれて嬉しいよ♡ 絶対貢し死ぬまで推す♡ 推し変なんてしないからね♡」
ボク様と共鳴するようにこいつは叫んだ。いちいちボク様達の発言に言及し、叫び可愛いや尊いと叫ぶので、面倒くさいといったらありゃしない。指摘するのすら面倒な為、もう誰もがこの奇行について放置をしている。
「…そういや、ワタシ達はずっと名前を呼んでいないのに悲しくないのかい? ずっと二人称か三人称じゃないか。」
カノ様がそう訊く。今思い出せば、確かにノア様とカノ様とヒノ様も、ボク様もレノも誰もが名前を知っているはずなのに
「認識してくれてるだけで嬉しいんだよ…とっても尊い…二人称でも三人称でも、オレの事を認識してくれてるだなんて、オレにとってはご褒美すぎる…♡」
やはりこいつはそういう人間らしい。何度言っても同じ事を言っても無駄なのだからきっとこいつを止めるすべなどもう見当たらないのだろう。
「マジでみんな可愛すぎるよおおおおお♡」
こいつはそう叫ぶ。何度こいつの叫び声を聞いたのだろうか。もう聞きなれたが、想像以上の声量で耳が壊れてしまったのかもしれない。
「限界オタクの限界オタクをするとこうなるのか…。」
レノが少し下がった場所で一人冷ややかな瞳でボク様達を見つめる。なんとなく軽蔑されているような気もする。後でどんな意図だったのかをレノを聞き出す必要性が出てきたようだ。
ボク様はカノ様に手が離せないからと買い物を頼まれた。一通り買い物が終わり、帰路につこうとしていた時、見慣れないような人影が前から走ってくるのが見える。なんだろうか、と思っていたのも束の間。すぐにその正体は判明する。
「[太字]クイく~ん♡!![/太字]」
あいつはボク様の名を呼びながら走ってきていた。ボク様は元軍人で、陸軍幹部だったという過去がある。その時代についたファンだろうか。だが、今はただの買い物中。そんな野郎に構う暇などないのだ。
「[太字]クイくんっ!! 昨夜はカノくんと一緒にお出かけしてたねっ!! 昨夜は見ていたオレすらも楽しくなってしまうような手裁きで…とても綺麗でかっこよかったよっ!! 拉致にはなれてるのかなあ? よかったらなんだけど、答えてほしいなっ![/太字]」
「おい待てキサマァ…聞き捨てならんなァ? 今なんと言ったのだ? てめーの言葉がマヌケすぎて聞こえなかったぜ…もう一度言ってみろじゃねーと今すぐにでも殴殺してやるからなァ。」
なぜこいつは昨夜男を拉致したという事実を知っているのだ。あの現場をどうやら見られてしまっていたようだ。情報がばら撒かれぬうちに、さっさとこいつを殺してしまわねば。ノア様とカノ様とヒノ様の障害となってしまう。
「あっ。名乗るのを忘れてたね。オレの名前は[太字]ラン[/太字]だよっ。覚えててほしいな。」
話が通じないのかもしれない。名乗らなければ不敬だと感じたのだろうか。まず名乗るより先にボク様の質問に答えてほしいのだが、シンプルに身勝手すぎるのか人の話を聞いていないのかどちらに分類されるのだろうか。
「キサマの名前などどーでもいいんだよォ…さっきなんつったかって訊いてンだよォ。このボク様の質問に答えろ…それ以外はなにも話さなくていいんだ…。」
ボク様はこいつの腕を引っ張り、路地裏に連れこむ。そして、いつも携帯している拳銃をこいつの頭に突きつけた。ノア様とカノ様とヒノ様をお守りする為に、と持っていた物なのだがまさかこんな使う場面が出来るとは思ってすらいなかった。
「妙な声を出すなよォゲボカス野郎…今すぐにでも殺してやるからなァ…。」
「クイくんに殺されるなら、大歓迎…!! はあ…クイくんにオレは脅されている…!! すっごい興奮する…♡」
怖がるどころか恍惚としている。もしかすればこいつは『そういう趣味』を持っているのかもしれない。ノア様やヒノ様が世間一般では言われる、異常性癖と呼ばれるようにこいつだっていじめられるのが好きだとかいう気持ち悪い性癖を持っているのだろうか。やはりノア様とカノ様とヒノ様以外の人間の異常性癖はやはり受け付けない。確か被虐性愛好性、マゾヒストというものだったろうか。そんな事はどうでもいいのだ。
「質問だけ聞いておけよォ…分かったな? もう一度とてキサマに何かを言う道理なんてねぇからな。」
一応脅しておいたものの、はやりこいつには全く効いていない。カノ様もボク様と同じように様付けしていた所から、このボク様と同じようにカノ様を崇拝しているのだろうか。もちろんの事、カノ様やノア様、ヒノ様を崇拝するという事は全人類がやるべき行為だ。崇拝するのはいいが、ノア様とカノ様とヒノ様に迷惑がかかるようなら速攻で始させてもらう。もちろん、今から[太字]値踏み[/太字]する必要があるようだ。
「…まァ、見られてるなら逃がすわけにはいかねンだよなァ。なァ、寝てこのボク様に運ばれるか、そのままボク様に大人しーく連れられるか。おすすめは前者だぜ。さっさとこっちに来い。てめーにわざわざかけてやるような時間が無駄になってるんだぜ?」
ボク様がそう脅しても、こいつはにっこりと笑って恍惚の表情で「オレの体はクイくんに好きにしてもらっていいよ。オレは抵抗もしないし、暴れもしないから。」と優しく微笑む。口では暴れない等と言っているが、そうだとは信じる事など出来ない。赤の他人に騙され嘲笑われるなど、このボク様のプライドが許可しないのだ。騙し騙されという事はヒノ様が裏切りこちらの国についた時に理解した。昔からそういう世界だろうという事は理解していたのだが、あの一件で更に確信を得る事が出来たのだ。だからボク様はヒノ様を崇拝している。ボク様の価値観について多大な影響を与えてくださったから。
「…あァ。そうか。だが騙されるのは嫌いなんだよなァ。だけどよォ~…てめーを縛って気絶させて運びゃあ職務質問は避けられねェだろ? ならさァ…約束を守るっつーなら、お前の命は助けてやるよォ。まァそれも、お三方の気分によるがなァ。」
「それでもいいよ。オレはクイくんの役に立てればそれでいいから…。」
こいつと共に、そこら辺にいる友達と歩いているであろう人間どもの真似をしつつ、出来るだけ怪しまれぬように動いた。こいつは本当に道中で抵抗をせず、その予兆かと思われる行為すらする事がない。本当にこいつは約束を守る気でいるらしい。ボク様も警戒しており、カバンの中で拳銃を構えていたのだが、それが無意味となってしまっていた。そして、いつの間にかボク様達は家に着いていた。
「…おい。キサマ。ここからは更に慎重に行動しろよ。不審な動きを見せてみれば一瞬で殺してやる。
ボク様はそう言いながら、こいつのこめかみに拳銃を突きつけた。もう引き金すら引いてしまえばこいつを殺せる状況。そうだというのに、こいつは冷や汗一つ流さずににこにこと笑っているだけ。その瞳は恍惚に溺れている。ボク様が家のドアを開けると、空っぽなリビングが目に映る。
「ただいま。」
そうだとしてもただいまだけは欠かせない。ノア様とカノ様とヒノ様が挨拶をしない人間は大嫌いだからだ。ノア様とカノ様とヒノ様の為ならば、なんだって出来る。
「おかえりなさい、クイ兄貴っ!」
いないかと思えば、レノがひょこりと顔を出してくる。ノア様とカノ様とヒノ様はどうやらいらっしゃらないようだ。
「…あれ? 誰っすかそれ? また拉致ってきたんですか? まあいいや…とりあえず地下室に案内してあげましょ。こっちっすよクイ兄貴。あ…そいつ起きてるんすか。ならあっちの方がいいっすよね。」
相変わらずの手際の良さでレノはボク様を地下室へと案内する。レノは要領がとてもよく、マルチタスクが得意だ。こういう所もボク様達が教育した成果だと思うと、とても誇らしい気分になる。
「わあああああ…!! [太字]いつも見てる[/太字]おうちだあ…! 初めて中に入れたよ…!」
一瞬聞き捨てならない言葉が聞こえた。こいつはいくら失言すれば気が済むのだ。もはやわざとしているのではないかと錯覚するほどこいつは失言が多い。
「おい。いつも見てるとはなんだ。ボク様達を監視しているとでもいうのか?」
ボク様がそう言うと、こいつはにっこりと笑って「そうだよ~♡ クイくんとおっても勘が鋭いね♡ やっぱりクイくんはすごいね♡」と言い出す始末。誤魔化す事すらしないとは、こんなにも肝が据わっている人間は久しぶりに見た。カノ様好みの人間だろう。こいつを監禁し、お三方にこいつをどうするか判断してもらおう。
「レノ。こいつを黙らせる方法とかねェか? この野郎を放っておくと癪に障るような発言しかしねェからなァ。」
「…首蹴ります? クイ兄貴の筋力なら蹴り殺しそうっすけど。」
「…そうだよなァ。」
こいつを蹴り殺してしまう、という事はいつだって出来るが、こんな人間は初めてだ。正直言ってしまうと、初めての経験という事でボク様が少し昂ぶってしまっているのは事実。好奇心には抗うな従え、とノア様とカノ様が教えてくださった。それに則ってボク様は好奇心の赴くままに行動するのだ。
「まァ、こいつがどんな人間なのか気になっているんでなァ…生かしてやろーぜ。殺すかどうかはノア様とカノ様とヒノ様にこいつを見せてから決めりゃあいいだろ。」
そう他愛もない話をボク様とレノで行いながら、こいつを運んだ。話してる最中に多少口を挟んできたが、少し黙れと言うとすぐに静かになった。こんな胆力のない野郎ではないと思っていたのだが、もしかすれば違うのだろうか。
「よし…これでいいなァ。」
牢屋にぶちこみ、手錠をつけ足枷をつけ手錠を鉄格子につければ、これで動けない。これで黙らせる事もでき、一石二鳥だ。こいつはうごうごと蠢く事なくずっと静かに蹲っている。こんな野郎は初めて見た。どんどんとこいつに対して興味が湧いてくる。
「…そういや、この人の名前は知っているんですか?」
「ランだ。ラン。こいつの名前はランだ。苗字は知らん。」
「きゃー♡ オレの名前呼んでくれたーッ♡」
やはりこいつは失言が多すぎる。もういっその事猿轡を噛ませてやろうかと持ってこようとした瞬間、こつこつこつ、と廊下を歩く足音が聞こえてくる。この足音は恐らくノア様だ。その足音がこちらに向いてやってくる。恐らくだが先程の地下室に運び込む現場をご覧になっていたのだろう。
「あっ。誰これ? さっきの話聞いてる限りだとランくん…だったかな?」
ノア様がこいつを指差す。ノア様のお声が聞こえた瞬間、こいつはまた騒ぎ始める。こんなにいらつきしょうもないと思ってしまったのはいつぶりだろうか。
「えっノアくん!? ノアくんなの!? きゃー♡ 声可愛すぎるよぉ♡」
ノア様のお声が美しいのは同意するが、先ほどからノア様を君付けで呼ぶとは中々いい度胸だ。こいつを今すぐにでも葬ってしまいたいところだが、ノア様はご興味をお持ちになられたようなのでまだ殺さない。許可が出たのならすぐに殺してしまおう。
「えっと…名前はなんだい? わたしの名前はノア。よろしく。」
ノア様が少しびっくりしながら、珍妙な物を見る目で話すと、こいつは更にテンションが上がった様子で、歓喜の悲鳴をあげながらうっとりとした瞳で愛しそうにノア様を見つめている。
「ああっ!! ノアくんっ!! やっぱりお顔整ってて可愛いねっ!! お肌白いしギザ歯なのめっちゃ萌えるっ!! オレの名前はランっ!! ノアくんっ♡!! はああ…みんな顔面偏差値高すぎなんだけど…愛してる…一生推す…可愛すぎ…♡ 心臓何個あっても持たん…いつグッズ出すの…? 出さなくてもいいから一生貢がせてお願い…養いたい…でろでろに甘やかしてそんな愛情を注ぎ慣れてないみんな挙動不審になって怖がって…♡ というかお名前までみんな可愛いとか…もう…好き…♡ 可愛い…♡ みんな可愛い…♡ ノアくんはとっても真面目でお料理も出来るママなの可愛いね…♡ カノくんはいつもによによしてて口調ふわふわしてて可愛いね…♡ ヒノくんはお兄ちゃんで一番おっとりしてるのにギザ歯一番鋭いとかいうギャップ可愛いね…♡ クイくんはあんなにノアくんカノくんヒノくんの事尊敬してるのに親分肌で他人引っ張っていけるの可愛いね…♡ レノくんはいつもおどおどしてるのにたまに覚悟決まってイケメンになるの可愛いね…♡ 全部が天才過ぎる…♡ これもう世界遺産レベル…♡」
こいつは相変わらず一人妄想に耽ったりしている。顔面偏差値が高いというのはどういう意味なのだろうか。やはり字面通りのものなのだろうが。先ほどからずっとボク様達の事を可愛い可愛いと言い続けているのだが、そんなに可愛いものなのだろうか。やはりこいつの考えている事はよく分らん。そもそも、こいつはいきなり大声を出したり黙ったりと情緒が不安定だ。何を考えているのか分からない挙句、なぜかこの場にいないはずのカノ様とヒノ様の魅力まで語り始めやがった。こいつが言っている事はよく分からない。そしてまた、かつかつかつ、と足音が聞こえる。次はカノ様だ。ノア様伝いに話が回ったのだろうか。
「なんか野郎を監禁したって聞いたけど、本当? あっ、これが監禁した野郎だね? ワタシの名前はカノだよ。君のお名前は何かな?」
「ああああああ!!♡ オレの名前はランっ♡ 覚えててくれると嬉しいなっ♡」
また悲鳴をあげ、その甲高い悲鳴はボク様達の鼓膜を貫いた。耳がずっと痛い。もう耳が悪くなってしまうのではないのだろうか。時たまこいつの悲鳴によって耳が聞こえなくなる挙句、耳も悪くなってしまうだなんて害しか及ぼさない。さっさとこいつを殺してしまった方が好都合なのではないのだろうか。そしてまた、こつこつこつ、と足音が聞こえてくる。この足音は間違いない、ヒノ様だ。
「…ここにいたのかい。ン…? なんだいこれは。実験台かなにかか? まあまず…名前は何だい? 私の名前はヒノ。よろしくね。」
「オレの名前はランだよぉっ♡ ヒノくん♡ 可愛すぎる…♡ ああっ♡」
ヒノ様はいきなりの奇声に驚いたのか、目を少し丸くしてこいつを見つめる。そしてまたこいつは歓喜の悲鳴を上げた。一瞬だけ音が聞こえなくなる。こいつの声量はどうなっているのだ。人間の声でこんなに耳が聞こえなくなるという体験は初めてだ。未体験で少しわくわくしているが、だがそれにしても人外じみた肺活量に声量。まさかこんな所で被害を受けるなど思ってもいなかった。それにのどを痛めていない様子のこいつはどんな喉をしているのだ。そしてこいつはわくわくした様子で話し始める。
「待って推しが全員視界に揃ってて、間近にいる…? なにこのご褒美…眼福すぎるんだが…一生分の運使ったかも…ここを墓場にしたいよぉ…♡」
また意味の分からない言葉を発している。ここでこいつを葬り、墓場にする事は可能だがそれをする意味が分からない。ボク様達に囲まれて死にたいとでも言っているのだろうか。そして、カノ様があいつが閉じ込められていいる牢屋へとゆっくり近づいていく。
「ふーん…さっきから結構面白い話してるね。気に入ったよ。どうだい? ワタシ達と…『お友達』にならないかい…?」
「えっ…きゃあああああああああああああああああああああああああっ!! 推しに!! お友達になろうって言われたっ!! うわあああああああああああああああああああっ!!」
とんでもないほどの肺活量と、死体を見つけた時の悲鳴レベルにうるさい悲鳴をこいつは出しやがった。うるさすぎてたまらない。声が大きすぎて、耳が痛い。蜘蛛やらゴキブリを見つけた女ほど叫ぶじゃないか。
「…………………あっごめんっ!!」
ボク様達はいつの間にか蹲っていたらしい。手錠に繋がれ足枷をつけられ、縄でぐるぐる巻きに縛られているのだから動けないものの、声色から心配しているのは分かる。
「うっ……今の何デシベルだ…?」
心なしかヒノ様は少し嬉しそうに微笑んでおり喜んでいる様子だ。何に喜んでいるのだろうか。ノア様とカノ様は喜んでいないどころか、苦しそうに蹲っているというのに、ヒノ様は一人喜んでいる。ヒノ様は一体どこで鍛えられたのだろうか。
「えっ…へへへへへへ…ヒノ兄さん…鼓膜鍛えられすぎじゃない…?」
なぜかカノ様も笑っており、なぜだろうかとは思うものの、もう回復しているカノ様とヒノ様とは違い、ノア様はずっと苦しそうに蹲っており頭を抱え寝ている猫のようにしている。そしてずっとぷるぷると震えており、怯えて子供の様子だ。そして、レノがいつの間にか復活しており、ノア様の傍にやってきている。あの様子だとすぐに復活出来たのだろう。
「…大丈夫っすかノア兄貴。」
「ううっ…耳がいいのがこんな所で仇に…。」
「ノア兄貴耳良いっすからね…。」
ノア様はまだ回復出来ていない様子で、ずっと蹲っている。基本的に静かで騒ぐ事や大声を聞く事があまりないノア様は、どうやら大声に慣れていないらしい。
「…レノ。ノア様はキサマが看病していろ。ボク様はこの野郎を…少し。」
「分かりましたっす。」
こいつを殺さなければいけないという衝動に駆られる。ノア様が聴覚障害になりかけているというのに、黙って見ているのは我慢ならない。こいつに、携帯していたあの拳銃を突きつける。
「…オレが抵抗する道理はない…だから、殺してくれ…。推しを傷つけてしまったんだから、オレはその何倍も苦しまなければならない。」
大人しくなり、こいつは手を上げる。ボク様達のこの姿とこの行動に、誰も口は挟まなかった。カノ様は多少残念そうにボク様を見つめ、ヒノ様は平然とボク様達を見つめており、レノはノア様を休ませながら不安そうな視線をボク様達に向ける。
「…処刑してしまって、よろしいでしょうか。許可をください。」
ボク様がそう言うと、カノ様は困り眉気味に「いいよ~まあ、クイはそうなるよね。しょうがないよ。」と。ヒノ様は面倒くさそうに、興味がないのか素っ気なく「全然いーよ。」と。レノは不安そうな顔をしつつ、ボク様の話を聞き首を縦に振った。全員の許可を得た時、ランはにっこりと最後に微笑んでボク様に体を差し出す。だが、ノア様がそれを止めた。
「…二人とも。わたしはいい…逆に、面白いじゃないか…こんな体験は初めてなんだ…少し楽しんでいる節はあるよ…怖いという事が分かり切っている癖に、ジェットコースターや絶叫系マシンに乗るのと同じような道理だ…。」
やはりノア様もしんどそうにはしていたものの、こいつを許してやるという心優しい一面を見せる。やはりノア様もカノ様もヒノ様も崇拝すべき人物なのだ。こんな慈悲深い所があるなどとてもお優しい。全人類はノア様の慈悲深さに感謝するべきだ。
「このクイ、感動いたしましたっ!! 危害を加えられたというのにも関わらず、そいつを許すだなんて…!!」
「クイくんそんな所もとっても可愛いよぉっ!! ああっ!! ノアくんとカノくんとヒノくん一番なの可愛いねっ♡ ずっと推すっ♡ ノアくんも許してくれて嬉しいよ♡ 絶対貢し死ぬまで推す♡ 推し変なんてしないからね♡」
ボク様と共鳴するようにこいつは叫んだ。いちいちボク様達の発言に言及し、叫び可愛いや尊いと叫ぶので、面倒くさいといったらありゃしない。指摘するのすら面倒な為、もう誰もがこの奇行について放置をしている。
「…そういや、ワタシ達はずっと名前を呼んでいないのに悲しくないのかい? ずっと二人称か三人称じゃないか。」
カノ様がそう訊く。今思い出せば、確かにノア様とカノ様とヒノ様も、ボク様もレノも誰もが名前を知っているはずなのに
「認識してくれてるだけで嬉しいんだよ…とっても尊い…二人称でも三人称でも、オレの事を認識してくれてるだなんて、オレにとってはご褒美すぎる…♡」
やはりこいつはそういう人間らしい。何度言っても同じ事を言っても無駄なのだからきっとこいつを止めるすべなどもう見当たらないのだろう。
「マジでみんな可愛すぎるよおおおおお♡」
こいつはそう叫ぶ。何度こいつの叫び声を聞いたのだろうか。もう聞きなれたが、想像以上の声量で耳が壊れてしまったのかもしれない。
「限界オタクの限界オタクをするとこうなるのか…。」
レノが少し下がった場所で一人冷ややかな瞳でボク様達を見つめる。なんとなく軽蔑されているような気もする。後でどんな意図だったのかをレノを聞き出す必要性が出てきたようだ。