二次創作
イカれたメンバーを紹介するぜ!
side ヒノ
私は泥のように眠ってしまっていたらしい。目が覚めると、荷解きもしていない山積みの私物が映った。ああ、そうだ。あそこから逃げ出したのだ。今日からここが私の寝室となり、自室となる。
「…おはようございます。随分と遅いお目覚めでございましたね。」
プレイグサンは椅子に腰かけており、随分と寛いでいる様子であった。にこにこと笑みは絶やさず、礼儀正しい口調で話しかけてくる。他人の部屋に侵入してしまう男に礼儀正しい、という言葉は似合わないが。
「ああ…おはよう…昨日の私は、鍵の一つも閉めていなかったか?」
身体を起こし、ぐいっと背伸びをしながら彼に問いかけた。
「はい。まあお疲れのようでしたからね。」
そう言えば、昨日は気を張り続けていたような記憶がある。いきなりの襲撃だとか、弟達への憎悪だとかで。頭が痛くなってしまいそうなことばかりが立て続けに私を襲い続け、一度でも気を休める暇などなかったのだから。プレイグサンは柔らかな笑みを浮かべたまま、私に目を遣った。
「まだ貴方にここを紹介していませんでしたね。さぁ、朝から少ししんどいでしょうが……。」
「せめて顔ぐらい洗いたいんだが。あと歯磨き。」
荷造りの最中、私にきちんと日用品を入れるという発想があってよかった。それがなければどうすればいいのか頭を悩ませていたところである。彼は盲点、という腑抜けた表情を一瞬だけ浮かばせたがすぐさま取り繕い「こちらです。」と相も変わらない表情と声色で部屋から出ていった。それを何とかして追いかける。こちらは地図の少しも頭に入れていないのだから、もう少し優しく扱ってほしいものだ。
「ここが洗面台ですね。あちらにはお手洗いもございます。」
私と、案内を続けるプレイグサンの姿が鏡に映る。とりあえずはここでいい。手櫛で髪を梳かしながら、彼の説明を聞き流す。
「…なァ、見られているとなんだか気持ちが悪いのだが。」
いつも行っている事であろうと観覧される続けるのは心地が悪い。せめてそっぽを向くなり、説明に夢中になるなりしてくれればよいのだが。そう私が説得するとプレイグサンは笑みを崩さないまま口を開いた。
「わたくしは今案内中でございますから。あなたが道を覚えるまでは暫くご一緒させていただきますよ。」
過保護なのか、それとも別の何かなのか。まあどうでもよい事である。一通り終わったルーティンを確認したプレイグサンは、その不気味とも言えるほど崩さない笑みのまま歩き始めた。
「あ、歯ブラシはそこの黄色のコップに置いてください。」
「分かったよ。」
そのコップには、何本かもうすでに歯ブラシがささっている。プレイグサンが使ってるであろう一本と私の分を抜けば、六本程だろうか。ここには、それなりの人数が住んでいるらしい。ぼーっと考え事をしていると、プレイグサンの大きな声が私の鼓膜を震わせた。
「ヒノさん!」
何とか気を取り直す事が出来た私はプレイグサンがゆくままに、まるで雛鳥が親鳥の後をついて行くように離れず歩を進める。すると、二人の男が談笑する楽し気な声が聞こえてきた。彼は無言のままである。なんだか居心地が悪い。無言の時間が続くと、なぜだか気分が悪くなる。これは人間のサガという奴であろうか。
「着きました。ここがリビングです。」
ここは大きく開けており、生活感と落ち着きが溢れた場所であった。暖色で統一された壁紙と家具達がここを小さい子供二人と両親の仲がよい家族だけで住んでいるような温かさを演出している。そしてソファーには、二人の男が談笑していた。恐らく、先程の声の主は彼らだろう。
「ン。リタか。おはようさん! あれ、そっちの子見た事ない人やけど。」
訛りの酷い、金髪の青年が私を凝視する。先程からプレイグサンには見つめられるは金髪の青年には凝視されるわで今日は不運な日だ。観察されると言う事は得意でないのに。
「こちらはヒノさんです。仲良くしてくださいね。」
二人の視線には濁りがなく、表情と声が二人のフレンドリーさを物語っていた。もう片方の青年が、太陽よりも眩しい笑顔を私に向ける。
「よ、こんにちは! 俺の名前はラク! こっちは相棒の……。」
「ラバンやで!」
「よろしくね。ラクサンとラバンサン。」
彼らに敵対意思はないらしく、私を受け入れているようだ。信用にはまだ値しないが、彼らの純真さは疑わせる余地もない程である。
「それでは。わたくしは他の者を起こしてまいりますので。」
プレイグサンはそう告げると、そのまま来た道を戻っていった。仲の良い二人と、まだ彼らと出会って十分未満の私だけが残される。飲み込みにくいような空気が流れると思ったが、案外そうではなかった。
「ヒノだっけ? リタから話は聞いたぜ!」
「あー自分なんか!」
ラクとラバンは合致した、という表情を浮かべる。彼らと話していて悪い気はしない、いやそれどころではない、前より居心地がよかった気すらもしていた。来て一日も経っていないというのに、なんだろうか、この落ち着きは。
「ああ、プレイグサンから話を聞いていたのか…ならば早いね。」
自己紹介はもうしなくていいだろう、プレイグサンがどこまで離しているのか気になるところだが、彼の事だ。私が話した事情殆ど全てを彼らや他の者達にまで話しているに違いない。まあ、どうでもよい事だ。もし付き合いが長くなるならば、いつか話していた事だろうから。
「そういや、自分さ、ほんまに男なん? 男にしてはえらい華奢なべっぴんさんやなァ。」
「男だ、一応ついてるが…見るかい?」
「遠慮しとくわ。」
「…すげえ速度で冗談言うな、ヒノ。」
ただのからかいであるので、気にされる必要も気にする必要性も何もない。まあ、彼らにジョークを飛ばすタイミングは間違ったかもしれないが。
「ま、[漢字]冗談[/漢字][ふりがな]そーいう事[/ふりがな]言う奴やって分かってなんか安心出来るわァ、上手い事やれそーやん?」
ラバンはまた眩しいような笑みを私に向けた。それに倣うよう、ラクも明るすぎる破顔を見せてくる。
「仲よくしような! きっと出来るしよ!」
彼らは、私が今まで関わってきたことのない人種だった。熱血漢で、楽観的で他人を助けずにはいられないような人間。軍なんかにも、過去にもどこにもそんないい奴が一度でもいた事か。トチ狂っている奴しか軍になんて入れないし、身の回りの人間もそういう奴。昔一人だけ、友人なんてものを作った記憶があるがいつのまにかいなくなっていたし。自負している、自らがよい環境に置かれた経験がないという事ぐらい。
「……おーいヒノ? 無反応だけどどうしたんだよ? 体調でも悪いのか?」
「ほんまや、なんかぼんやりしとるわ。吐き気でもあるんちゃう?」
とんとんとん、と何度も肩を叩かれ、目の前で手を何度も振られる。その刺激に、やっと私の頭は目を覚ました。
「ン、ああ、すまない。」
なんだろうか、なぜだか無駄に考え事を続けてしまう。どうやら今日のコンディションは不調らしい。こういう日は何も考えず赴くままに筆をとるのが一番なのだが。
「ああ、よかったわ…って、またぼんやりしとるやん! ほんまに大丈夫なんか自分!?」
「えっ、ああ、大丈夫さ。」
「…マジで? マジに体調悪いならさっさと言えよ?」
ああ、またやってしまった。今日は本当にどうしてしまったのだ私。とりあえず気を逸らせるような事を考えたり、訊いたり見たりするしかないだろう。もっと刺激的になるようなものを探してみる。
「…なァ、ここにいる人達って……何か共通点でもあったりするのかい? だって、私のような複雑な人間の扱いにも手慣れていたではないか。」
ああ、それか。と言いそうな表情で二人は私を見つめた。少々空気の圧を感じられたが、きっと気のせいであろう。ラバンが開口する前に、ラクが先に独り言ちのような声色で、苦笑いを浮かべたまま話す。
「まあ、社会からはぐれた奴の集まりだよな。みんなでフツーに生きてる。[漢字]頭[/漢字][ふりがな]ここ[/ふりがな]が可笑しい奴が多いから犯罪だとかはするけどよ。」
「…ふうん、そういう感じなのか。」
社会から、はぐれた者達。私も社会からはぐれた一人だと言えるだろう。散々な目に遭って、弟を憎み続けて。まだ思い出すべき記憶じゃあないが、気を抜くとフラッシュバックしてきてしまう。
「そう! 誰も他人を拒否せえへん。仲間と思ってくれて構わへんで!」
なんだか、ふっと肩の力が抜けた気がする。もっと殺伐としているところだと考えていたが仲のよい友人だけで集まり過ごしているかのような、自分達だけが知っている秘密基地で寝泊まりを繰り返しているかのような。私が味わった事のない、遠い世界の事が少し理解出来た気がした。
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ。」
「ま、新入りさんとかここに来る人いる人ァみんな人様に言いにくいような理由あるしなー、当たり前ってヤツやで!」
こんな、楽観的で悩みなんてなさそうな人達でも何か事情を抱えてここまでやってきた。ここにいる人達はみんなお仲間で、私の味方。やはりあそこから抜け出してよかった、あんな奴らより、ここの方が安心するではないか。
「…なんだか、君達とはうまくやれそうだよ。」
一言こう告げただけで、彼らの表情がぱっと明るくなった。
「マジで!? よかった~…全然話とかしてくれよ! 俺らそーいうの好きだし! 他人と一緒にいるの好きだし!」
ラクはそう言いながら私の手を握ってくる。久しぶりに握手なんてしたな、どうしようかと考え込んでいるうちにラバンも話しかけてきた。
「リタから話聞いてるだけやとさ、複雑そうな事情ばっかであんまり元気ないんかな、って思ってて心配しててん。やけどいい奴やし、俺らに心ちょっとでも開いてくれてありがとうな! たまにこうやって話そうや。」
「そう提案してくれると、こちらも安心出来るよ。」と話すだけで、ますます明るくなっていくばかり。眩しい、と感じる程に彼らの笑みは明るく、恒星すらも凌駕してしまう明るさだ。私達は、すっかりプレイグサンが眠っている人達を連れて帰ってくるまで話し込んでしまった。この時間があった事で、すっかり仲良くなったような感覚がある。こんな感覚、いつぶりだったろうか。遠い昔の事は、いくら思い出そうとしても思い出せない。あの日の、友人の顔さえ名前さえ。彼は今どこで生きていて、何をしているのだろうか。落ちぶれていなければいいのだが。
私は泥のように眠ってしまっていたらしい。目が覚めると、荷解きもしていない山積みの私物が映った。ああ、そうだ。あそこから逃げ出したのだ。今日からここが私の寝室となり、自室となる。
「…おはようございます。随分と遅いお目覚めでございましたね。」
プレイグサンは椅子に腰かけており、随分と寛いでいる様子であった。にこにこと笑みは絶やさず、礼儀正しい口調で話しかけてくる。他人の部屋に侵入してしまう男に礼儀正しい、という言葉は似合わないが。
「ああ…おはよう…昨日の私は、鍵の一つも閉めていなかったか?」
身体を起こし、ぐいっと背伸びをしながら彼に問いかけた。
「はい。まあお疲れのようでしたからね。」
そう言えば、昨日は気を張り続けていたような記憶がある。いきなりの襲撃だとか、弟達への憎悪だとかで。頭が痛くなってしまいそうなことばかりが立て続けに私を襲い続け、一度でも気を休める暇などなかったのだから。プレイグサンは柔らかな笑みを浮かべたまま、私に目を遣った。
「まだ貴方にここを紹介していませんでしたね。さぁ、朝から少ししんどいでしょうが……。」
「せめて顔ぐらい洗いたいんだが。あと歯磨き。」
荷造りの最中、私にきちんと日用品を入れるという発想があってよかった。それがなければどうすればいいのか頭を悩ませていたところである。彼は盲点、という腑抜けた表情を一瞬だけ浮かばせたがすぐさま取り繕い「こちらです。」と相も変わらない表情と声色で部屋から出ていった。それを何とかして追いかける。こちらは地図の少しも頭に入れていないのだから、もう少し優しく扱ってほしいものだ。
「ここが洗面台ですね。あちらにはお手洗いもございます。」
私と、案内を続けるプレイグサンの姿が鏡に映る。とりあえずはここでいい。手櫛で髪を梳かしながら、彼の説明を聞き流す。
「…なァ、見られているとなんだか気持ちが悪いのだが。」
いつも行っている事であろうと観覧される続けるのは心地が悪い。せめてそっぽを向くなり、説明に夢中になるなりしてくれればよいのだが。そう私が説得するとプレイグサンは笑みを崩さないまま口を開いた。
「わたくしは今案内中でございますから。あなたが道を覚えるまでは暫くご一緒させていただきますよ。」
過保護なのか、それとも別の何かなのか。まあどうでもよい事である。一通り終わったルーティンを確認したプレイグサンは、その不気味とも言えるほど崩さない笑みのまま歩き始めた。
「あ、歯ブラシはそこの黄色のコップに置いてください。」
「分かったよ。」
そのコップには、何本かもうすでに歯ブラシがささっている。プレイグサンが使ってるであろう一本と私の分を抜けば、六本程だろうか。ここには、それなりの人数が住んでいるらしい。ぼーっと考え事をしていると、プレイグサンの大きな声が私の鼓膜を震わせた。
「ヒノさん!」
何とか気を取り直す事が出来た私はプレイグサンがゆくままに、まるで雛鳥が親鳥の後をついて行くように離れず歩を進める。すると、二人の男が談笑する楽し気な声が聞こえてきた。彼は無言のままである。なんだか居心地が悪い。無言の時間が続くと、なぜだか気分が悪くなる。これは人間のサガという奴であろうか。
「着きました。ここがリビングです。」
ここは大きく開けており、生活感と落ち着きが溢れた場所であった。暖色で統一された壁紙と家具達がここを小さい子供二人と両親の仲がよい家族だけで住んでいるような温かさを演出している。そしてソファーには、二人の男が談笑していた。恐らく、先程の声の主は彼らだろう。
「ン。リタか。おはようさん! あれ、そっちの子見た事ない人やけど。」
訛りの酷い、金髪の青年が私を凝視する。先程からプレイグサンには見つめられるは金髪の青年には凝視されるわで今日は不運な日だ。観察されると言う事は得意でないのに。
「こちらはヒノさんです。仲良くしてくださいね。」
二人の視線には濁りがなく、表情と声が二人のフレンドリーさを物語っていた。もう片方の青年が、太陽よりも眩しい笑顔を私に向ける。
「よ、こんにちは! 俺の名前はラク! こっちは相棒の……。」
「ラバンやで!」
「よろしくね。ラクサンとラバンサン。」
彼らに敵対意思はないらしく、私を受け入れているようだ。信用にはまだ値しないが、彼らの純真さは疑わせる余地もない程である。
「それでは。わたくしは他の者を起こしてまいりますので。」
プレイグサンはそう告げると、そのまま来た道を戻っていった。仲の良い二人と、まだ彼らと出会って十分未満の私だけが残される。飲み込みにくいような空気が流れると思ったが、案外そうではなかった。
「ヒノだっけ? リタから話は聞いたぜ!」
「あー自分なんか!」
ラクとラバンは合致した、という表情を浮かべる。彼らと話していて悪い気はしない、いやそれどころではない、前より居心地がよかった気すらもしていた。来て一日も経っていないというのに、なんだろうか、この落ち着きは。
「ああ、プレイグサンから話を聞いていたのか…ならば早いね。」
自己紹介はもうしなくていいだろう、プレイグサンがどこまで離しているのか気になるところだが、彼の事だ。私が話した事情殆ど全てを彼らや他の者達にまで話しているに違いない。まあ、どうでもよい事だ。もし付き合いが長くなるならば、いつか話していた事だろうから。
「そういや、自分さ、ほんまに男なん? 男にしてはえらい華奢なべっぴんさんやなァ。」
「男だ、一応ついてるが…見るかい?」
「遠慮しとくわ。」
「…すげえ速度で冗談言うな、ヒノ。」
ただのからかいであるので、気にされる必要も気にする必要性も何もない。まあ、彼らにジョークを飛ばすタイミングは間違ったかもしれないが。
「ま、[漢字]冗談[/漢字][ふりがな]そーいう事[/ふりがな]言う奴やって分かってなんか安心出来るわァ、上手い事やれそーやん?」
ラバンはまた眩しいような笑みを私に向けた。それに倣うよう、ラクも明るすぎる破顔を見せてくる。
「仲よくしような! きっと出来るしよ!」
彼らは、私が今まで関わってきたことのない人種だった。熱血漢で、楽観的で他人を助けずにはいられないような人間。軍なんかにも、過去にもどこにもそんないい奴が一度でもいた事か。トチ狂っている奴しか軍になんて入れないし、身の回りの人間もそういう奴。昔一人だけ、友人なんてものを作った記憶があるがいつのまにかいなくなっていたし。自負している、自らがよい環境に置かれた経験がないという事ぐらい。
「……おーいヒノ? 無反応だけどどうしたんだよ? 体調でも悪いのか?」
「ほんまや、なんかぼんやりしとるわ。吐き気でもあるんちゃう?」
とんとんとん、と何度も肩を叩かれ、目の前で手を何度も振られる。その刺激に、やっと私の頭は目を覚ました。
「ン、ああ、すまない。」
なんだろうか、なぜだか無駄に考え事を続けてしまう。どうやら今日のコンディションは不調らしい。こういう日は何も考えず赴くままに筆をとるのが一番なのだが。
「ああ、よかったわ…って、またぼんやりしとるやん! ほんまに大丈夫なんか自分!?」
「えっ、ああ、大丈夫さ。」
「…マジで? マジに体調悪いならさっさと言えよ?」
ああ、またやってしまった。今日は本当にどうしてしまったのだ私。とりあえず気を逸らせるような事を考えたり、訊いたり見たりするしかないだろう。もっと刺激的になるようなものを探してみる。
「…なァ、ここにいる人達って……何か共通点でもあったりするのかい? だって、私のような複雑な人間の扱いにも手慣れていたではないか。」
ああ、それか。と言いそうな表情で二人は私を見つめた。少々空気の圧を感じられたが、きっと気のせいであろう。ラバンが開口する前に、ラクが先に独り言ちのような声色で、苦笑いを浮かべたまま話す。
「まあ、社会からはぐれた奴の集まりだよな。みんなでフツーに生きてる。[漢字]頭[/漢字][ふりがな]ここ[/ふりがな]が可笑しい奴が多いから犯罪だとかはするけどよ。」
「…ふうん、そういう感じなのか。」
社会から、はぐれた者達。私も社会からはぐれた一人だと言えるだろう。散々な目に遭って、弟を憎み続けて。まだ思い出すべき記憶じゃあないが、気を抜くとフラッシュバックしてきてしまう。
「そう! 誰も他人を拒否せえへん。仲間と思ってくれて構わへんで!」
なんだか、ふっと肩の力が抜けた気がする。もっと殺伐としているところだと考えていたが仲のよい友人だけで集まり過ごしているかのような、自分達だけが知っている秘密基地で寝泊まりを繰り返しているかのような。私が味わった事のない、遠い世界の事が少し理解出来た気がした。
「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいよ。」
「ま、新入りさんとかここに来る人いる人ァみんな人様に言いにくいような理由あるしなー、当たり前ってヤツやで!」
こんな、楽観的で悩みなんてなさそうな人達でも何か事情を抱えてここまでやってきた。ここにいる人達はみんなお仲間で、私の味方。やはりあそこから抜け出してよかった、あんな奴らより、ここの方が安心するではないか。
「…なんだか、君達とはうまくやれそうだよ。」
一言こう告げただけで、彼らの表情がぱっと明るくなった。
「マジで!? よかった~…全然話とかしてくれよ! 俺らそーいうの好きだし! 他人と一緒にいるの好きだし!」
ラクはそう言いながら私の手を握ってくる。久しぶりに握手なんてしたな、どうしようかと考え込んでいるうちにラバンも話しかけてきた。
「リタから話聞いてるだけやとさ、複雑そうな事情ばっかであんまり元気ないんかな、って思ってて心配しててん。やけどいい奴やし、俺らに心ちょっとでも開いてくれてありがとうな! たまにこうやって話そうや。」
「そう提案してくれると、こちらも安心出来るよ。」と話すだけで、ますます明るくなっていくばかり。眩しい、と感じる程に彼らの笑みは明るく、恒星すらも凌駕してしまう明るさだ。私達は、すっかりプレイグサンが眠っている人達を連れて帰ってくるまで話し込んでしまった。この時間があった事で、すっかり仲良くなったような感覚がある。こんな感覚、いつぶりだったろうか。遠い昔の事は、いくら思い出そうとしても思い出せない。あの日の、友人の顔さえ名前さえ。彼は今どこで生きていて、何をしているのだろうか。落ちぶれていなければいいのだが。