時雨が降っていた夜に
「まま?ねぇ、まま」
__あの日は、よく晴れていた。
私が外に出た時も、暑すぎず、とても心地よく晴れていた。
今思えば、あの時の私は__バカだったと思う。
ろくに助けも呼べない。ろくに準備もしない。本当に、バカだった。
[水平線]
私には、父親が居ない。物心ついた時からずっとだ。
母親に何かを聞こうとはしなかった。なぜならば、私はまだ7歳の身。聞くという発想は、全くなかったのだ。
だけど、日々は楽しいものだった。母親がずっと仕事をしていて寂しいと思う日もあったが、そんな事は、いつしか日常茶飯事になっていて。
一人ぼっちに寂しさや辛さを感じなくなった頃には、私は幸せを謳歌できていた。
[水平線]
ある日、私の人生を揺るがす事件__事故、が起きた。
もしかしたら事件なのかもしれないが、ここでは事件と言う事にする。
「ねぇまま!きょう、きょうさ、おやすみでしょ?おでかけ!したい!」
「うん、分かったよ。じゃあ、どこ行こうか…」
よく晴れた春の日。私と母は、出かける予定を立てた。理由は見て分かるように、私がねだったから。
もしこの時、私がわがままを言わなければ、どうなっていたんだろう、とたまに思う。どうせ結果は変わらないんだろうが、あの時ああだったら、こうだったらと、つい考えてしまうものだ。
「えーっと…あの公園に行く?ちょっと遠いけど」
「うん。いくー!じゅんび!しよ!」
「ちょっと待ってねー…」
母は、私に急かされて、少し忙しそうな様子だった。あの時、何か作業をしていたのだろう。子供の私には、そんなもの見えないが。
「まま!あのねー、こうえんいったら、あれすべるの!」
「すべり台に?」
「そう!」
後のことを呑気に話す私。今思い出すと、いらだちを感じてしまう。あの時の私は、まだ7歳の子供だというのに。なんと理不尽な、やり場のない怒りなのだろうか。
「そっか。待っててね。水筒にお茶入れるから…。えーっと、お茶は……」
母は椅子から立ち上がって、冷蔵庫まで歩いた。歩いたと言っても、とても狭い家なので、ほんの数歩で着いてしまう。
「あ!おちゃのみたい!」
「うん、飲みたいよね。待ってて、えっと、確かここにあっ…………」
その瞬間。
声は止まり、代わりに聞こえたのは__母が倒れる音だった。
ドサッ、なんて大きな音が聞こえる。子供だった私も、流石にすぐ母の方を振り向き、走っていった。
「ままー?どうしたの、まま……?」
母を、小さな両手で揺さぶってみる。だが、そんなので母は起きない。
「ねむくなっちゃったの?」
あの時の私は、幼すぎて理解ができなかった。母が__あの時、死んでしまった事を。
「まま…まま?」
記憶を辿ってみれば、母は突然死だったんだと思う。急に倒れ、急に旅立ってしまったのだから。
子供の私は、そんな事は知らないし分からない。
分からないけど、今でも、たまに後悔をしてしまう。あの時、私が助けを呼べたら。母は助かったのだろうか。
「まま……」
私の願いは、言葉は__今も昔も、ずっと届かないままなのだ。
__あの日は、よく晴れていた。
私が外に出た時も、暑すぎず、とても心地よく晴れていた。
今思えば、あの時の私は__バカだったと思う。
ろくに助けも呼べない。ろくに準備もしない。本当に、バカだった。
[水平線]
私には、父親が居ない。物心ついた時からずっとだ。
母親に何かを聞こうとはしなかった。なぜならば、私はまだ7歳の身。聞くという発想は、全くなかったのだ。
だけど、日々は楽しいものだった。母親がずっと仕事をしていて寂しいと思う日もあったが、そんな事は、いつしか日常茶飯事になっていて。
一人ぼっちに寂しさや辛さを感じなくなった頃には、私は幸せを謳歌できていた。
[水平線]
ある日、私の人生を揺るがす事件__事故、が起きた。
もしかしたら事件なのかもしれないが、ここでは事件と言う事にする。
「ねぇまま!きょう、きょうさ、おやすみでしょ?おでかけ!したい!」
「うん、分かったよ。じゃあ、どこ行こうか…」
よく晴れた春の日。私と母は、出かける予定を立てた。理由は見て分かるように、私がねだったから。
もしこの時、私がわがままを言わなければ、どうなっていたんだろう、とたまに思う。どうせ結果は変わらないんだろうが、あの時ああだったら、こうだったらと、つい考えてしまうものだ。
「えーっと…あの公園に行く?ちょっと遠いけど」
「うん。いくー!じゅんび!しよ!」
「ちょっと待ってねー…」
母は、私に急かされて、少し忙しそうな様子だった。あの時、何か作業をしていたのだろう。子供の私には、そんなもの見えないが。
「まま!あのねー、こうえんいったら、あれすべるの!」
「すべり台に?」
「そう!」
後のことを呑気に話す私。今思い出すと、いらだちを感じてしまう。あの時の私は、まだ7歳の子供だというのに。なんと理不尽な、やり場のない怒りなのだろうか。
「そっか。待っててね。水筒にお茶入れるから…。えーっと、お茶は……」
母は椅子から立ち上がって、冷蔵庫まで歩いた。歩いたと言っても、とても狭い家なので、ほんの数歩で着いてしまう。
「あ!おちゃのみたい!」
「うん、飲みたいよね。待ってて、えっと、確かここにあっ…………」
その瞬間。
声は止まり、代わりに聞こえたのは__母が倒れる音だった。
ドサッ、なんて大きな音が聞こえる。子供だった私も、流石にすぐ母の方を振り向き、走っていった。
「ままー?どうしたの、まま……?」
母を、小さな両手で揺さぶってみる。だが、そんなので母は起きない。
「ねむくなっちゃったの?」
あの時の私は、幼すぎて理解ができなかった。母が__あの時、死んでしまった事を。
「まま…まま?」
記憶を辿ってみれば、母は突然死だったんだと思う。急に倒れ、急に旅立ってしまったのだから。
子供の私は、そんな事は知らないし分からない。
分からないけど、今でも、たまに後悔をしてしまう。あの時、私が助けを呼べたら。母は助かったのだろうか。
「まま……」
私の願いは、言葉は__今も昔も、ずっと届かないままなのだ。
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