一目惚れだった。あの子の描く絵が好きだった。可愛らしい少女を描いていた。こんなにも素敵な絵を描ける人がいることに驚いた。すると気がつけば口が勝手に開いていた。「素敵な絵ですね。ボク、この絵好きです。」ボクはハッとした。初対面で何を言ってるんだろう。ボクがあたふたしていると、彼女は優しく笑い「ありがとうございます。嬉しいです。」とふわふわした可愛らしい声で言った。ボクがぼうっとしていると彼女は次々にたくさんの人から声をかけられていた。ここにいても邪魔になると感じたボクは静かにその場を離れた。
次の日、ボクの元に彼女が現れ「綺麗な絵ですね。」と言った。ボクは嬉しくて舞い上がりそうだった。今まで絵を褒められることなんてなかった。ましてや「綺麗」だなんて。嬉しさで固まっていると彼女は「失礼ですが、おいくつですか？」と聞いてきた。しばらく硬直していたボクは再び動き出し、「13です。」と偽りなく答えた。「同い年なんですね。とても綺麗な絵だったので年上かと。」また「綺麗」と言った。「よければタメ口で行きませんか？せっかく同じ界隈での同い年ですし」という彼女。タメ口。友達同士が使うものでは？と思いながらもボクは「いいですよ。そういえば名前を聞いてませんでしたね。ボクの名前はさとかのです。あなたは？」と聞く。「では早速タメ口で失礼します。私の名前はすみれ。さとかのさん…さとかのんって呼んでもいい？」「いいね！じゃあ…すみれもん…でいいかな？」あだ名呼びとタメ口。すっかり友達みたい。「それじゃさとかのん！これからよろしくね！」と彼女は太陽のような笑顔を向けて言った。
そこからボクたちはどんどん仲良くなっていき、limeも繋いだ。彼女は「lime繋ぐの初めて。」と柔らかく笑っていた。
ボクは段々と彼女に向ける感情が変わっていった。気持ちの変化を不思議に思いながら過ごしていると、彼女はこう言った。「さとかのん。私ね、好きな人ができたんだ。」その言葉を聞いた瞬間胸がチクっと痛んだ。その痛みを悟られないようにボクは「おめでとう。」と祝福した。
家に帰り、ボクはずっとあの時感じた胸の痛みについて考えていた。友人にも相談してやっとわかった。これは恋なんだ。気がついたところでボクの行動は変わらない。知られて、避けられては困る。次の日も、そのまた次の日も、ボクはいつも通りであり続けた。彼女に気持ちを悟られないように。
数ヶ月後ボクらは久しぶりに会うことになった。しばらく会っていなかった理由はお互いに忙しかったから。二人とも学生ということもあり、学業が疎かになってしまうのは避けたいところだ。ボクはとても緊張している。久しぶりに彼女に会えるのだ。楽しみで仕方がない。予定していた電車に乗って、ボクは彼女に会いに行った。待ち合わせの時間より少し早く着いてしまった。夏だからか、かなり暑い。引きこもりにとっては辛い日だ。
数分後、彼女はボクの前に現れた。少し不安そうな顔をして。その表情が気になったものの、ボクは聞くのをやめた。しばらく沈黙が流れる。正直気まずい。ボクが何を言おうか考えているうちに彼女は口を開いた。「そろそろ…行こっか。」「そうだね。」それからボクたちは街の中を歩き回った。
陽が傾いてきたころ、彼女は言った。「友達から聞いたんだけどさ、さとかのんって私のことが好きなの？」ドキッとした。どうしてわかったんだろう。どう答えようかとボクが焦っていると「答えないってことは図星…なの？」と続ける彼女。嘘をつきたくなかったボクは「そうだよ。ボクは君が好き。」と答えてしまった。「そっか…」沈黙が流れる。そういえば近くに海があったっけ。波の音がよく聞こえる。「変な空気にしちゃったね。解散しよっか」彼女は言う。「そうだね。帰ろう。元気でね。」ボクは答える。静かに手を振る彼女。振り返すボク。それからボクたちはもう会わなくなった。
[打消し][打消し][打消し][/打消し][/打消し][/打消し] 気まずくなったのか、彼女はボクのSNSをブロックした。正直助かる。彼女は今元気にしてるだろうか。ブロックし忘れたのかlimeだけは残っている。もう聞けない彼女の声。もう見れない彼女の笑顔。自然と涙が溢れてきた。「最後があんなのって酷いな…」ボクの呟きは空気に溶けていった。