嘘の私、本当の私
#1
「紗衣ちゃんってさ、自分勝手だよね」
その日から、私は「みんなに好かれる優等生」になった。
***
「乙葉ちゃーん、数学の課題って、今日までだよね!?どーしよっ!!!!」
「私、やってきたから教えようか?」
「えー、ありがとっ!さすが乙葉ちゃん!」
『さすが』。この言葉に胸が痛んだのは、これで何度目だろうか?
「そういえば乙葉ちゃん、この間のテストで『王子』に続いて2位だったんでしょ?」
「『王子』と一点差って、やばくない?」
「美人で、性格良くて天才って、神様与えすぎだよねww」
そんなわけないじゃん。美人なのも性格良いのも天才なのも、全部私が努力したからに決まってる。
私、乙葉紗衣(いつはさえ)は、「みんなに好かれている優等生」だ。少なくとも、表面上は。
本当の私は、自分勝手で、傲慢で、どこか冷めてる卑屈な人間。まあ、それをクラスメイトの前で明かす気はないけど。
「優等生」を演じている私は、ニコニコ笑顔を貼り付けて、ちょっと自分の本性を飲み込めば、もう完璧なのだ。
翌る日の昼休み。「優等生」という仮面に疲れた私は、人気のないところを探して歩き回っていた。もちろん、クラスメイトには「先生から頼まれごとをしている」と言ってある。
やっとのことで人がいない裏庭に辿り着くと、私はベンチに座って本を広げた。
「あー、だるい」
「へぇ、乙葉さんってそういう人だったんだ。」
「……へっ?」
—————ダレカニキカレテイタ?
慌てて後ろを振り返ると、そこには『王子』こと、霧谷蓮(きりたにれん)が、イジワルな笑みを浮かべて立っていた。
「……っ、何のことかな、霧谷くん?」
「べつに隠さなくてもいいんじゃないの?ここには俺しかいないわけだし。」
かろうじて「優等生」な口調を意識するけど、霧谷蓮には通じなかった。
「で、何?言われなくてもだいたいわかるけど。何でこんなことしてるかって聞きたいんでしょ?」
「まあね。いつも優等生な乙葉さんが、まさかこんなキャラだったとは驚いたかな。」
対して驚いてもいない口調で、彼は言った。
「で、何してんの?まさか、これで好感度上げたいとか思ってるわけ?」
「……、私はみんなに好かれたい、ただそれだけ。何か悪い?」
「『つくってる自分』を好きになられたって嬉しくないだろ。」
「……っ!で、でも、私にはこの仮面が必要なの!!これがなきゃ、また嫌われちゃう…。」
「俺は好きだよ。本当の、自分の意見を包み隠さず、はっきり言う乙葉さんも。」
「私も。」
「なんか乙葉ちゃんって、いつも考えてることがわからなかったけど、はっきり言ってくれてとっても嬉しい。」
「うんうん、なんか安心したよね。」
「えっ……!」
どこから出てきたのか、いつのまにかクラスメイトたちも笑顔で頷いている。
————びっくりした。
みんな、私のことは、嫌いだと思っていた。こんな自分勝手な人間、嫌われて当然だと。でも、こんな私でも、好いてくれる人がいたなんて。
「みんなっ…!ありがとうっ……」
新しい風が、私たちの周りを優しく包んだ気がした。
その日から、私は「みんなに好かれる優等生」になった。
***
「乙葉ちゃーん、数学の課題って、今日までだよね!?どーしよっ!!!!」
「私、やってきたから教えようか?」
「えー、ありがとっ!さすが乙葉ちゃん!」
『さすが』。この言葉に胸が痛んだのは、これで何度目だろうか?
「そういえば乙葉ちゃん、この間のテストで『王子』に続いて2位だったんでしょ?」
「『王子』と一点差って、やばくない?」
「美人で、性格良くて天才って、神様与えすぎだよねww」
そんなわけないじゃん。美人なのも性格良いのも天才なのも、全部私が努力したからに決まってる。
私、乙葉紗衣(いつはさえ)は、「みんなに好かれている優等生」だ。少なくとも、表面上は。
本当の私は、自分勝手で、傲慢で、どこか冷めてる卑屈な人間。まあ、それをクラスメイトの前で明かす気はないけど。
「優等生」を演じている私は、ニコニコ笑顔を貼り付けて、ちょっと自分の本性を飲み込めば、もう完璧なのだ。
翌る日の昼休み。「優等生」という仮面に疲れた私は、人気のないところを探して歩き回っていた。もちろん、クラスメイトには「先生から頼まれごとをしている」と言ってある。
やっとのことで人がいない裏庭に辿り着くと、私はベンチに座って本を広げた。
「あー、だるい」
「へぇ、乙葉さんってそういう人だったんだ。」
「……へっ?」
—————ダレカニキカレテイタ?
慌てて後ろを振り返ると、そこには『王子』こと、霧谷蓮(きりたにれん)が、イジワルな笑みを浮かべて立っていた。
「……っ、何のことかな、霧谷くん?」
「べつに隠さなくてもいいんじゃないの?ここには俺しかいないわけだし。」
かろうじて「優等生」な口調を意識するけど、霧谷蓮には通じなかった。
「で、何?言われなくてもだいたいわかるけど。何でこんなことしてるかって聞きたいんでしょ?」
「まあね。いつも優等生な乙葉さんが、まさかこんなキャラだったとは驚いたかな。」
対して驚いてもいない口調で、彼は言った。
「で、何してんの?まさか、これで好感度上げたいとか思ってるわけ?」
「……、私はみんなに好かれたい、ただそれだけ。何か悪い?」
「『つくってる自分』を好きになられたって嬉しくないだろ。」
「……っ!で、でも、私にはこの仮面が必要なの!!これがなきゃ、また嫌われちゃう…。」
「俺は好きだよ。本当の、自分の意見を包み隠さず、はっきり言う乙葉さんも。」
「私も。」
「なんか乙葉ちゃんって、いつも考えてることがわからなかったけど、はっきり言ってくれてとっても嬉しい。」
「うんうん、なんか安心したよね。」
「えっ……!」
どこから出てきたのか、いつのまにかクラスメイトたちも笑顔で頷いている。
————びっくりした。
みんな、私のことは、嫌いだと思っていた。こんな自分勝手な人間、嫌われて当然だと。でも、こんな私でも、好いてくれる人がいたなんて。
「みんなっ…!ありがとうっ……」
新しい風が、私たちの周りを優しく包んだ気がした。
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