Memoria bianca
春、麗らかな晴天の日。
十三日、四月。
───♪
忘れ物を取りに、教室を帰る途中だった。
とにかく、憂鬱で面倒だった私は、たった一つ、その旋律に心を打たれた。
音楽室の扉の前、早まる鼓動を感じながら扉に手を掛ける。
磨硝子越しに目が合う。
心臓が跳ねる。
ピアノの前に腰掛ける少年に手招きをされる。
何事も無かったように帰るつもりだったが、私はその先へと誘われる。
「何してたの?」
柔らかくて、暖かい、心に響く声。
「えっと、忘れ物したから」
「そうなんだ!僕も忘れ物だよ」
彼の言葉に首を傾げる。
だとすれば、何で此処に居るんだろう?
彼はただ、微笑んでいた。
「ねぇ、さっきの弾いてよ」
「えぇ?」
私は無理を承知で言ってみる。
彼は困ったように私を見てから、手を鍵盤に乗せた。
───♪
音一つ一つが丁寧で、とても美しかった。
気付けば、その曲は終わっていた。
余韻に浸りながら、彼に聞く。
「これ、何て曲?」
彼は再び苦笑する。
あんなに綺麗な演奏だったのだから、相当練習したんじゃないか。
だからこそ、次の言葉に驚いた。
「楽譜は手作りなんだ」
「自分で創ったの?」
驚く私に、照れ臭そうに笑いながら、彼は頷いた。
「凄いね。雨、だっけ?」
「知ってるの?」
「そりゃ、全校児童何人だと思ってるのさ」
悲しいことにかなりの田舎だ。
少子高齢化が課題となっている地区でもある。
「えーっと、君は」
「私は秋」
「そっか。ねぇ、秋──」
そこから、思い出せない。
でも、確かその後───
世界一美しい、雨降りを見たんだ。
十三日、四月。
───♪
忘れ物を取りに、教室を帰る途中だった。
とにかく、憂鬱で面倒だった私は、たった一つ、その旋律に心を打たれた。
音楽室の扉の前、早まる鼓動を感じながら扉に手を掛ける。
磨硝子越しに目が合う。
心臓が跳ねる。
ピアノの前に腰掛ける少年に手招きをされる。
何事も無かったように帰るつもりだったが、私はその先へと誘われる。
「何してたの?」
柔らかくて、暖かい、心に響く声。
「えっと、忘れ物したから」
「そうなんだ!僕も忘れ物だよ」
彼の言葉に首を傾げる。
だとすれば、何で此処に居るんだろう?
彼はただ、微笑んでいた。
「ねぇ、さっきの弾いてよ」
「えぇ?」
私は無理を承知で言ってみる。
彼は困ったように私を見てから、手を鍵盤に乗せた。
───♪
音一つ一つが丁寧で、とても美しかった。
気付けば、その曲は終わっていた。
余韻に浸りながら、彼に聞く。
「これ、何て曲?」
彼は再び苦笑する。
あんなに綺麗な演奏だったのだから、相当練習したんじゃないか。
だからこそ、次の言葉に驚いた。
「楽譜は手作りなんだ」
「自分で創ったの?」
驚く私に、照れ臭そうに笑いながら、彼は頷いた。
「凄いね。雨、だっけ?」
「知ってるの?」
「そりゃ、全校児童何人だと思ってるのさ」
悲しいことにかなりの田舎だ。
少子高齢化が課題となっている地区でもある。
「えーっと、君は」
「私は秋」
「そっか。ねぇ、秋──」
そこから、思い出せない。
でも、確かその後───
世界一美しい、雨降りを見たんだ。
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