喋れなくなった、女王様
『もっと早く!』
違うの、私が貴方達に合わせられなかっただけなの
『無駄口叩く暇あるなら練習して』
休息も必要だったよね。ごめんなさい
『もっと早く動いて』
充分早かった。焦ってた。貴方達のペースがあった
『ちゃんと本気でやって』
本気でやってない人なんか居なかった。何も見えてなかった
『もっと.....私のために動いて!!』
私が貴方達に合わせなければならなかった。セッターだから。
だからこそツケが回ってきた。
優勝決定戦が終わり、男子、女子とも準優勝で終わった。
あの後私は負けを知り、頭が冷えていった。私は何てことをしたんだろう。全ての言動が、行動が準優勝になった原因だ
私が歩きながらトイレに向かっていると声が聞こえた
「こっちは本気でやってんのに、何でそんなこと言われなきゃなんないんだよ」
「それな。自分中心で回ってると思ってんなよって感じ。私たちが合わせてあげてんのに」
「絶対優勝出来なかったのも○○のせいだよねぇ」
「あんな無茶振りなトス無理だって。相手チーム行きたかったわ」
「私たちの中学最後の大会だったのに」
「誰も仲間だなんて思ってないよね」
「さすが"コートの女王様"」
それらの陰口全て、私に深く突き刺さった。私が悪い。自分が招き起こした事態だ。
仲間だと思ってたのは自分自身だけ。誰も仲間だなんて思ってなかった。
皆んながトイレから出てくると同時に目が合った。
あっちはやばいと思った顔だったが、その後に
『.....』
「なんか言うんだったら言えば?」
「[小文字]どうせ憎まれ口だって[/小文字]」
「[小文字]負けた後に説教とか無理なんですけどー[/小文字]」
なんて、言えば....
謝る?謝っても今更?謝っても許してくれる?
どうし、よう。何を言っても、わたしは......準優勝は変わらないし、
過去は変わらない
『ぁ......ご、め......』
「はぁ?なんて?」
なんて言えば....なんて言えば...!!
その後監督から早くバスに行けと言われ、その場は凌いだ
帰り道頭を冷やして考えた。さっきの恐怖は何なのか。なぜ喋れなかったのか。
全て整理した結果分かった
私は声が出なくなった
出そうとしてもどうしても喉に突っかかったように、言葉が出てこない
私はもう謝ることも喋ることもできない。
一生この罪悪感を背負って生きて行く
「○○ちゃん」
後ろから声が聞こえて振り向く。今、本当に誰とも喋れないのにな。
...及川さん
「単刀直入に聞くね。.....今回の試合、どうだった?」
『.....!』
見られていた。及川さんは尊敬していた先輩の1人だ。バレーだけだが。
プレースタイルは如何にも、チームプレイ。皆んなの1番打ちやすいところに持って行くトス。
私も教えてもらっていた時期がある。
みんなに合わせるトス。打った後は褒めていたセッター。
「....?○○ちゃん?何で話さないの?」
ごめんなさい。話さないんじゃなくて、話せないんです。
無視しているような形ですみません。私が悪いから、ごめんなさい
『......』
「○○ちゃん..........もしかして......
声、出せない...?」
そうですとは言えない。だからこくりと一回縦に首を振る。
すると及川さんは
「ぇ.....うそ........今日の、試合が原因なの...?」
違う、原因は、わたし、だから。今までのツケが回ってきただけで.....みんなはわるくなくて....
『っ......』
喉から息をしていると思えない、浅い呼吸音が出る
「ちょ....!○○ちゃん!落ち着いて!」
及川さんはそんな私に背中を摩って落ち着かせてくれた。
そして一旦公園に移動することにした。
ベンチに移動して私は携帯に文字を打っていく
《今日、最後の試合で、私のせいで準優勝になったんです》
《私の自分勝手なセットアップのせいで、皆んなに迷惑かけて、準優勝になっちゃって》
打つたびに呼吸が荒くなる気がする。その度に及川さんは背中を摩ってくれる
《終わった後、トイレに行ったら、皆んなの陰口が聞こえちゃって》
《自分勝手だって、無茶振りだって、合わせてあげてるって、
仲間だと思ってないって》
《そう言われて、出てきた時に目があって、謝ろうとしたら声が出なくて、監督が来てバスに戻って今です》
及川さんは最後まで相槌を打って聞いてくれた。どこまで人のことが考えられるんだろうこの人は。本当に尊敬する
「....そっか。今日の試合は見てたんだけどね、俺も○○ちゃんのプレーには思うところがあったんだ。」
『......』
そりゃそうですよね。あのプレーで思わないところがないわけがない。同じセッターとして。真反対のプレーをしていた及川さんとして
「声が出なくなったのは、もうどうしようもない。だからさ、○○ちゃん。ずっと背負って行けとは言わないけど、反省していこう」
「○○ちゃんの努力は無駄じゃなかったんだからさ。セッターとして才能はあったし、努力をずっと続けてきたじゃんか」
「準優勝まで来れたのは少なくとも、○○ちゃんの力もあると思うよ、俺は」
『.......』
《皆んなが、私に合わせてくれたから来れただけです》
「そこまで合わせてくれたのは、○○ちゃんの実力があったからでしょ?監督だって、実力があるからプレースタイルには目を瞑った。チームメイトも」
「ね?○○ちゃんが重ねたものが無駄ってことはないし、俺は○○ちゃんのこと見てきたんだよ。○○ちゃんが変わった瞬間も」
『.....!』
「○○ちゃんが変わった"あの事件"見てたんだ。ごめんね」
《別に、いいです》
「俺はアレがあったから今回が出来たとも思ってるよ。でも、そこからの○○ちゃんの判断も悪かった。少し頭を冷やしたら良かったかもしれない」
「○○ちゃんも悪いし、チームメイトも悪い。そんなとこかな。1番は、○○ちゃんを支えてくれる仲間が居なかったことだね。悪く言うと、チームメイトに恵まれなかった。」
少し考えた後に文字を打った
《....ありがとうございます。もう少し、考えてみます》
「何かあったら、すぐ俺に電話でも何でもいいから頼って」
分かった?そう及川さんは続けてくれた。私は縦に首を振って泣きそうになった目を擦る。
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本当に及川さんは優しかった。あの後家まで送ってくれたのだ。
生憎、親は居なく一人暮らしでお金は、残してくれたものでやりくりしている。
あと、知り合いの八百屋で裏仕事もしたりしている。知り合いには声が出なくなったことを言わなきゃ行けない。
学校は最悪、行かない。先生に言って、大事になるのが嫌だからだ。
後今は受験で大切な時期。そんなので揉めてる暇などなかったのだ
明日から、喋れない日々が始まる。
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