春嵐
#1
5月。
こんな暑くなるとは思わなかった。
梅雨入り前なんじゃないのか。
まあ、どうでもいいか。
暖かい。暖かい日。
15歳の年だった。
僕は今年、15歳になるはずだった。
なんて言い方は変か。
死ぬことは、死ぬことに夢を憶えた。
生きることに絶望を感じた。
生きたくなかった。死んで死んで死んで死んでしまいたかった。
何も考えられない。
何も考えたくない。
笑えない。
泣けない。
怒れない。
喜べない。
悲しめない。
僕は生きた亡霊のようだった。
階段を上る。
無機質なコンクリートの汚い階段。
きっとほとんど掃除していないのだろう。
隅に埃が見えた。
ふー、と細く息を吐く。
ドアノブに手を掛け回して押す。
屋上。
雲ひとつない青空、なんてことはなく晴れているのに辺りは暗かった。
僕の雰囲気かななんて考えて独りで失笑した。
死ぬのなら学校がいいと思った。
1年過ごしたこの学校で、飛ぶ。
僕は鳥になる。
引き金も分からない。
なにがきっかけだった。
なにが原因だった。
始まりは、終わりは。
いや。僕がここに入学したときから、間違っていた。運命は決まってた。
静かに深呼吸した。
何度も、何度も。
屋上の転落防止なんだか知らないけどあってもなくても同じなのに建てられているフェンスを飛び越える。
このフェンスは何を守ろうとしていたのだろうか。
何を守るために置かれたのだろうか。
何も守れない。僕と一緒。
守ったふりをして、[漢字]恰[/漢字][ふりがな]あたか[/ふりがな]も守っているかのように取り繕って。
馬鹿で愚かだった。
僕はずっと。
辺りを見回す。
高いビルと低いビル、マンション、家家家。
真下を見下ろしたって人通りは少ない。
きっと誰も巻き込まずに死ねる。
ああ、やっとだ。
感嘆。歓喜。
久し振りの、感情。
この学校に「自殺者を出す」という泥を塗りたくり、家には"悲しみ"をプレゼントするよ。
家の人が本気で心から悲しむかどうかは別として。
なんならきっと家族は喜ぶよ。
表では泣き、裏では喜び笑うだろう。
やっとお荷物が死んでくれたって。
それを僕はどこからか見ることができるだろうか。
悲しいことにもそうして、僕は死んでいく。
目を閉じて、開ける。
何度か繰り返し後ろを振り返る。
何気なく、なんとなく振り返った。
息を呑む。
「なん、で」
ぽろりと言葉が漏れた。
桜が、生えていた。
屋上に、屋上に。
4階の屋上に。
コンクリートの地面に、木が、立っている。
土もない。水もない。
ただのコンクリートに。
「………え」
意味が分からず桜に近付く。
不思議と恐怖はなかった。
何が起こってもおかしくないのに。
満開。満開の桜。
鮮やかなピンクだった。
きっと気の所為だけれど微かに発行しているようにも見える。
桜を見上げる。
考える。
少しずつ息が荒くなるのを感じながら幹に触れた。
目を閉じる。
時間が過ぎる。
このまま逝けそうな気がする。
僕は桜を利用してそこから勢いよく駆け出した。
僕は飛ぶだろう。
きっといつか。必ず。
でもだったら、もっといい日を選びたい。
今日みたいな、桜の日でもいいかもしれない。
土砂降りの雨の日でもいいかもしれない。
炎天下の日でもいいかもしれない。
紅葉の日でもいいかもしれない。
雪の日でもいいかもしれない。
でも、今日は嫌かもしれない。
こんな暑くなるとは思わなかった。
梅雨入り前なんじゃないのか。
まあ、どうでもいいか。
暖かい。暖かい日。
15歳の年だった。
僕は今年、15歳になるはずだった。
なんて言い方は変か。
死ぬことは、死ぬことに夢を憶えた。
生きることに絶望を感じた。
生きたくなかった。死んで死んで死んで死んでしまいたかった。
何も考えられない。
何も考えたくない。
笑えない。
泣けない。
怒れない。
喜べない。
悲しめない。
僕は生きた亡霊のようだった。
階段を上る。
無機質なコンクリートの汚い階段。
きっとほとんど掃除していないのだろう。
隅に埃が見えた。
ふー、と細く息を吐く。
ドアノブに手を掛け回して押す。
屋上。
雲ひとつない青空、なんてことはなく晴れているのに辺りは暗かった。
僕の雰囲気かななんて考えて独りで失笑した。
死ぬのなら学校がいいと思った。
1年過ごしたこの学校で、飛ぶ。
僕は鳥になる。
引き金も分からない。
なにがきっかけだった。
なにが原因だった。
始まりは、終わりは。
いや。僕がここに入学したときから、間違っていた。運命は決まってた。
静かに深呼吸した。
何度も、何度も。
屋上の転落防止なんだか知らないけどあってもなくても同じなのに建てられているフェンスを飛び越える。
このフェンスは何を守ろうとしていたのだろうか。
何を守るために置かれたのだろうか。
何も守れない。僕と一緒。
守ったふりをして、[漢字]恰[/漢字][ふりがな]あたか[/ふりがな]も守っているかのように取り繕って。
馬鹿で愚かだった。
僕はずっと。
辺りを見回す。
高いビルと低いビル、マンション、家家家。
真下を見下ろしたって人通りは少ない。
きっと誰も巻き込まずに死ねる。
ああ、やっとだ。
感嘆。歓喜。
久し振りの、感情。
この学校に「自殺者を出す」という泥を塗りたくり、家には"悲しみ"をプレゼントするよ。
家の人が本気で心から悲しむかどうかは別として。
なんならきっと家族は喜ぶよ。
表では泣き、裏では喜び笑うだろう。
やっとお荷物が死んでくれたって。
それを僕はどこからか見ることができるだろうか。
悲しいことにもそうして、僕は死んでいく。
目を閉じて、開ける。
何度か繰り返し後ろを振り返る。
何気なく、なんとなく振り返った。
息を呑む。
「なん、で」
ぽろりと言葉が漏れた。
桜が、生えていた。
屋上に、屋上に。
4階の屋上に。
コンクリートの地面に、木が、立っている。
土もない。水もない。
ただのコンクリートに。
「………え」
意味が分からず桜に近付く。
不思議と恐怖はなかった。
何が起こってもおかしくないのに。
満開。満開の桜。
鮮やかなピンクだった。
きっと気の所為だけれど微かに発行しているようにも見える。
桜を見上げる。
考える。
少しずつ息が荒くなるのを感じながら幹に触れた。
目を閉じる。
時間が過ぎる。
このまま逝けそうな気がする。
僕は桜を利用してそこから勢いよく駆け出した。
僕は飛ぶだろう。
きっといつか。必ず。
でもだったら、もっといい日を選びたい。
今日みたいな、桜の日でもいいかもしれない。
土砂降りの雨の日でもいいかもしれない。
炎天下の日でもいいかもしれない。
紅葉の日でもいいかもしれない。
雪の日でもいいかもしれない。
でも、今日は嫌かもしれない。
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