コード:リヴィングデッド
本日A.M.8:30からフェレデル地区工廠『[漢字]背面の熱機関[/漢字][ふりがな]リア・エンジン[/ふりがな]』にて、二年前の[漢字]あの事件[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]で大破した俺の機体―――尤も二年前はただの訓練機だった―――を俺好みのモノに仕上げるためのブリーフィング。それが先日下された、俺への任務内容だった。
左腕に身に着けた時計を見やる。8:00――30分前行動。敬礼の次に染み込んだ習慣を噛みしめながら、高さ95[漢字]ft[/漢字][ふりがな]フィート[/ふりがな]近くある鉄の箱へと一歩を踏み出した。
―――――
ほどなく案内を受け、鉄の箱に唯一開いた穴―――機密事項が多いので、帝国直下の工廠は窓という窓が塞がれているのだ―――扉が開かれる。
ぶわん、と熱風が通り過ぎる。
機械油と血が体の全身にぶちまけられたかのような錯覚を感じて、目を瞑る。―――やがて開けば、何か大型のものがこちらを覗いている感覚がした。
「オーイ!そこの13mmボルト取ってくれー!黒色のヤツだ!」
「リフト降下ーッ!」
赤色のハザードランプが鳴り響き、ごうごうと音を立ててリフトが下がっていく。
よく見れば、銀色の盾が一斉に動き出し、ほぼ同時に止まる動作を繰り返している。
その一糸乱れぬ動きは正しく[漢字]管絃楽[/漢字][ふりがな]オーケストラ[/ふりがな]か。美しい――と息を吐き出すように呟けば、案内役の汚れきった作業服を着た、すらっとした長身の男性が話しかけてくる。
「でしょう?もう基礎部分の改修はほとんど終わったので、一先ずこうして本体部分を弄ってるんですよ」
その言葉で、銀の盾は何か大きな人型のものを取り囲むように設置されていると気がついた。
──アレは。
「…おぉ」
「識別番号O-23、個体名“[漢字]北極星[/漢字][ふりがな]ポラリス[/ふりがな]”。塗装色は未定のため今は真っ白、武装はまだ搭載しておらず、破損が酷かった腕部や脚部は後々換装することも見越して倉庫にあった予備パーツを換装──主力機関装置や[漢字]加速器[/漢字][ふりがな]ブースター[/ふりがな]等は既に改修済みですので、今から飛ばせと言われても…まあ、行けます」
天井に取り付けられた電灯に照らされ、薄ぼんやりと純白の巨人が顔を見せる。
こちらを見下ろすT字型の[漢字]単眼[/漢字][ふりがな]モノ・アイ[/ふりがな]。細身の胴体には少しアンバランスな太い両脚と、その脚に比べれば少し細い両腕。
二年前に使った訓練機"O-23"が思い出され懐かしい気持ちになる。──最もカーキとモスグリーンに覆われていた鉄の体は、今や白亜と成って陽光を反射している──つい一年ほど前に士官学校を卒業したはずが、遠い昔のことのように思えてならない。
いや、変わったところはあるか。
その関節部や[漢字]装甲[/漢字][ふりがな]アーマー[/ふりがな]からは所々配線が見え隠れし、正しく今から[漢字]完成さ[/漢字][ふりがな]つくら[/ふりがな]れ、"O-23"とは別物になるのだ――と嫌でも実感させられる。
「――素晴らしいな。素晴らしいが―――」
「…!何か不手際が――!」
「すまない、そういう事ではない。――早く完成形をこの目に収めたいと思っただけだ。いち軍人としても、いちパイロットしても。…専属開発師が待っているのだろう?行こう」
怯えてくれるな、若き忠臣。
俺と君はそこまで年も離れていないだろう。この帝国において、軍事面こそ絶対の面があるこの帝国に於いて、手を油で汚し善良な文民足る君よりも、手を血で濡らす俺のほうが優遇されるような――少し力を加えれば捻じ曲がる危うい真理の上に、俺は甘んじているだけだ。――少し、歯が軋む。
「…はいっ!わかりました!」
汚れ切った作業服が、活性を取り戻して動き始めた。
そうだ、それでいい。
―――
一分ほど歩いただろうか。「こちらです」と赤茶けた扉を示され、指示通りに開けば――[漢字]ソレ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]はいた。
「ドーモ」
入り頭に投げつけられる、[漢字]星街[/漢字][ふりがな]ステラ・クラスター[/ふりがな]訛りの帝国語。
大きな図面の上に頬杖を突き、冷めた目で長ソファーに深々と座り込む金髪碧眼。
彫りの深いその顔と、薄茶色のコートから覗く皺だらけの指はその苦労を伺わせる。―――待った、[漢字]碧眼[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]?
「………」
「お前さんも気になるか。ケッ……これだから軍人は」
「いいえ。上層部が信用していますから――深く探ることはしません」
堅物。謎多き岩。――鉄の箱の悪魔。
「専属整備長、ハンス・テティスだ。席座れや、グンジンさん」
なるほど、これは悪魔だ。
左腕に身に着けた時計を見やる。8:00――30分前行動。敬礼の次に染み込んだ習慣を噛みしめながら、高さ95[漢字]ft[/漢字][ふりがな]フィート[/ふりがな]近くある鉄の箱へと一歩を踏み出した。
―――――
ほどなく案内を受け、鉄の箱に唯一開いた穴―――機密事項が多いので、帝国直下の工廠は窓という窓が塞がれているのだ―――扉が開かれる。
ぶわん、と熱風が通り過ぎる。
機械油と血が体の全身にぶちまけられたかのような錯覚を感じて、目を瞑る。―――やがて開けば、何か大型のものがこちらを覗いている感覚がした。
「オーイ!そこの13mmボルト取ってくれー!黒色のヤツだ!」
「リフト降下ーッ!」
赤色のハザードランプが鳴り響き、ごうごうと音を立ててリフトが下がっていく。
よく見れば、銀色の盾が一斉に動き出し、ほぼ同時に止まる動作を繰り返している。
その一糸乱れぬ動きは正しく[漢字]管絃楽[/漢字][ふりがな]オーケストラ[/ふりがな]か。美しい――と息を吐き出すように呟けば、案内役の汚れきった作業服を着た、すらっとした長身の男性が話しかけてくる。
「でしょう?もう基礎部分の改修はほとんど終わったので、一先ずこうして本体部分を弄ってるんですよ」
その言葉で、銀の盾は何か大きな人型のものを取り囲むように設置されていると気がついた。
──アレは。
「…おぉ」
「識別番号O-23、個体名“[漢字]北極星[/漢字][ふりがな]ポラリス[/ふりがな]”。塗装色は未定のため今は真っ白、武装はまだ搭載しておらず、破損が酷かった腕部や脚部は後々換装することも見越して倉庫にあった予備パーツを換装──主力機関装置や[漢字]加速器[/漢字][ふりがな]ブースター[/ふりがな]等は既に改修済みですので、今から飛ばせと言われても…まあ、行けます」
天井に取り付けられた電灯に照らされ、薄ぼんやりと純白の巨人が顔を見せる。
こちらを見下ろすT字型の[漢字]単眼[/漢字][ふりがな]モノ・アイ[/ふりがな]。細身の胴体には少しアンバランスな太い両脚と、その脚に比べれば少し細い両腕。
二年前に使った訓練機"O-23"が思い出され懐かしい気持ちになる。──最もカーキとモスグリーンに覆われていた鉄の体は、今や白亜と成って陽光を反射している──つい一年ほど前に士官学校を卒業したはずが、遠い昔のことのように思えてならない。
いや、変わったところはあるか。
その関節部や[漢字]装甲[/漢字][ふりがな]アーマー[/ふりがな]からは所々配線が見え隠れし、正しく今から[漢字]完成さ[/漢字][ふりがな]つくら[/ふりがな]れ、"O-23"とは別物になるのだ――と嫌でも実感させられる。
「――素晴らしいな。素晴らしいが―――」
「…!何か不手際が――!」
「すまない、そういう事ではない。――早く完成形をこの目に収めたいと思っただけだ。いち軍人としても、いちパイロットしても。…専属開発師が待っているのだろう?行こう」
怯えてくれるな、若き忠臣。
俺と君はそこまで年も離れていないだろう。この帝国において、軍事面こそ絶対の面があるこの帝国に於いて、手を油で汚し善良な文民足る君よりも、手を血で濡らす俺のほうが優遇されるような――少し力を加えれば捻じ曲がる危うい真理の上に、俺は甘んじているだけだ。――少し、歯が軋む。
「…はいっ!わかりました!」
汚れ切った作業服が、活性を取り戻して動き始めた。
そうだ、それでいい。
―――
一分ほど歩いただろうか。「こちらです」と赤茶けた扉を示され、指示通りに開けば――[漢字]ソレ[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]はいた。
「ドーモ」
入り頭に投げつけられる、[漢字]星街[/漢字][ふりがな]ステラ・クラスター[/ふりがな]訛りの帝国語。
大きな図面の上に頬杖を突き、冷めた目で長ソファーに深々と座り込む金髪碧眼。
彫りの深いその顔と、薄茶色のコートから覗く皺だらけの指はその苦労を伺わせる。―――待った、[漢字]碧眼[/漢字][ふりがな]・・[/ふりがな]?
「………」
「お前さんも気になるか。ケッ……これだから軍人は」
「いいえ。上層部が信用していますから――深く探ることはしません」
堅物。謎多き岩。――鉄の箱の悪魔。
「専属整備長、ハンス・テティスだ。席座れや、グンジンさん」
なるほど、これは悪魔だ。
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