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コード:リヴィングデッド

#1

プロローグ:覚悟

『………先輩』

真っ黒な塗料をぶちまけたようなこの[漢字]宇宙[/漢字][ふりがな]そら[/ふりがな]に、真っ白な機体が白鳥めいた翼を広げ、こちらを見下ろしていた。

ニューロンリンク・アーマー…通称、"NA"。
特殊金属テレンスリニウムを使用することにより、従来不可能とされていた人型兵器を実現。脊椎から専用のプラグを使って神経と機体の動きをシンクロさせることで、素の肉体とほぼ変わらない動きを可能とした、文字通り夢の塊。

目の前に浮かぶのはその技術の最先端を集約した[漢字]固有[/漢字][ふりがな]ワンオペ[/ふりがな]機――名前を『[漢字]白の猟犬[/漢字][ふりがな]ホワイト・ハウンド[/ふりがな]』と言ったか。なるほど言われてみれば犬に見えなくもない三角錐を横倒しにしたような頭部、そして何より黒の空には眩しい真っ白な体──確かにそう言えなくもなさそうだ。

あれに乗っている人物とは、数年前までは隣に立って共に[漢字]人殺し[/漢字][ふりがな]ハンティング[/ふりがな]に勤しんだ。あの時はこの白い影が頼もしく見えたものだが、しかし今回ばかりはその[漢字]得物[/漢字][ふりがな]さつい[/ふりがな]――彼の為にチューニングされ、そのコードネームにまで為った[漢字]細剣[/漢字][ふりがな]レイピア[/ふりがな]状のエネルギーブレード――を抜き放ち、その切っ先を俺に向けてくる。

[漢字]無線通信[/漢字][ふりがな]オープンチャンネル[/ふりがな]から伝わる声は、ほんの少しだけ揺れている。
……それは、それは間違いだぞ『紫微星』。『相手に情を持ってはいけない』――それが兵士だ。剣が鈍るぞ『紫微星』。早く斬るために、[漢字]情[/漢字][ふりがな]それ[/ふりがな]だけは捨てなくてはならない。

『先輩………!』
「生憎と、当機は話し合いに応じるつもりはない。………どうした、剣が震えているぞ『紫微星』。お前は俺を斬りに来たんだろう?」
『……ビスタ先輩…!』
「心が壊れたか。―――ふむ、俺の記憶ではお前はそこまで感受性の強い人間ではなかったハズだが」

俺と『[漢字]紫微星[/漢字][ふりがな]あいつ[/ふりがな]』はそこまで親しい間柄ではなかった。
士官学校では先輩後輩、少し縁があってそこからかなりの間同じ部隊に配属。その後共に死地へ赴いた記憶も確かにあるが、片手あれば足りるぐらいには少ない―――その程度だ。そんな人間ごまんといるだろう。

つくづく兵士に向いてないと思い知らされた。――残念だよ、アレフ・ヴィルキス中尉。戦闘センスを買っていたばかりに、その精神性にはほとほと呆れた。
精神が完璧でなければ兵士として完璧であれない。ソレが幼稚なお前は完璧にはなれないだろう。

『先輩…!俺は、あなたを信じてました…!慕ってました…!』
「そうか」

だから殺さないで、戦わないでくれと?――これ以上怒らせてくれるな『紫微星』。俺はお前に何を言われようとも、帝国を墜とすという選択を捻じ曲げるつもりはない。……例え、何万人が屍と成り果てたとしても。

『あなたに救ってもらった時も…!あなたの隣で戦った時も…!!』
「…」
『あなたは…!俺の目標だった…!道標だった…!』
「そうか」
『答えてください!どうして貴方は俺達の敵になった!どうして僕の前に敵として立っているんだッ!どうして!どうして……』
「どうして?…簡単だ。貴官らは俺と違う道を歩んだ。そこに敗者と勝者が生まれるのは仕方のないことだ。…貴官にはもう少し、思考力を養う訓練を行ったほうが良かったと後悔している。……どうした、止めないのか?アレフ・ヴァルキス中尉」

口から抜け出そうになる空気を嚙み砕く。……どうにも退屈でいけない。

『止めてください!少なくとも僕らはそんな呼び方をする間柄じゃないはずだ――そして僕に必要なのは訓練じゃない!哲学じゃない![漢字]どうして[/漢字][ふりがな]・・・・[/ふりがな]、説明が必要なんだッ!…僕の知る限りでは、あなたはもっと優しかったはずだ…!それがどうして!』
「そうか?至って哲学の問題だと思うが。人間というものは誰しも二面性を抱えている。[漢字]後輩[/漢字][ふりがな]アレフ・ヴァルキス[/ふりがな]に向けた優しい顔と、敵足る『[漢字]紫微星[/漢字][ふりがな]アレフ・ヴァルキス中尉[/ふりがな]』に向けた顔が違ったとしても、大して不思議なことではない…それだけだ。戦わないなら退いてくれ。俺は帝国を墜とす」

それまで言っても、しかし空のハクチョウは動く気配がない。
機体の後ろに備え付けられた[漢字]推進機[/漢字][ふりがな]ジェネレーター[/ふりがな]が火を吹くために信号を発し、機体が大きく前へ進む――ハズだった。

「………止めるか」
『当たり前です――!』

俺が咄嗟に抜き放った黒檀を映したかのような真っ黒いエネルギーブレードを、紫色に煌めく細剣状のソレが受け止めていた。握る相手はもちろん、アレフ・ヴァルキス――コード、『紫微星』。

『あなたが何を背負ったのかわからない!もしかしたらあなたこそ正義で、僕ら帝国が間違っているのかもしれない!でも、だからこそ――あなたを打倒して、全部聞き出す!あなたを―――止める!』

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2024/03/13 21:49

Oden ID:≫.pohaXhpvydZ6
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