“ねぇ、お母さんどうしちゃったの？一緒に遊ぼうと約束したのに”

今日の夢は珍しくはっきり覚えていた。僕が小さいときの夢だ。まだ物心つく前なのに、どうして母親の葬式の夢なんか。
過去のことを夢に見るのは正夢と言えるのだろうか。そんなことを考えながら階下へ降りる。
もう六時か。時計を見た後、キッチンに立つ。
今日もハムエッグ。冷蔵庫から卵とハムを出して、乾燥機からフライパンを持ってきた。
僕は地味なのが好きだ。だから朝ご飯はハムエッグなんだ。夕飯は和食が多い。納豆と味噌汁と米。この組み合わせがとても美味しい。
味噌汁の具も地味なものだ。わかめとか大根とか。きっと義母の影響だろう。
母さんがなくなった後、父さんは、自らが主催する劇団の女優と結婚した。名は小鳥遊凪。父さんは当時２０歳で、彼女は１５歳だった。まだ結婚してはいけない年齢だ。でも、凪さんは身寄りがなくて、いつも施設から劇団に通っていたんだ。
そのうち、父さんの方が好きになってしまったらしい。役者魂に惹かれてさ。凄い結婚さ。凪さんの気持ちは…聞いたことがあったけれど、答えてくれなかった。
僕はもうすぐ出来上がりそうなハムエッグをお皿に盛る準備をする。

“恭君、具は何にしようか”
今日はいつもとちがい朝に味噌汁が飲みたくなったから、少し義母のことを想いだしていた。
“シンプルなのがいい”
“そうだね”
凪さんとは趣味が合った。だから味噌汁の具材も二人で決めていた。
彼女が父の元へ来たのが１５だから僕は10歳だったな。5歳違いの親子さ。
“じゃあ大根でいっか”
義母の昔の言葉に導かれるように、大根を切る。
“あっ、早くしないと…”
僕は職場に行く際、待ち合わせ人がいる。その…僕の彼女さ。
“いっただっきまーす！！”
昔の義母と僕の声が重なる。穏やかな義母にしては大きな声ないただきますだった。