果実戦争
[中央寄せ]時刻:8月18日10時50分
場所:くろめだか 1F 鮮魚コーナー [/中央寄せ]
京斗は鮮魚コーナーの角でビクついていた。また火の玉に出会ったらどうしようか。しかし、ビクついていては何もできない。ガタガタな決心を無理やり積み上げる。
「よし……怖いけど、行くか……!」
勇気を振り絞って立ち上がった。そこで真っ先に目に入ったのは、自分に向けられた[太字]懐中電灯[/太字]。なんと人がいたのだ。
藍色の警備服を着用しており、おそらく[太字]このスーパーの警備員[/太字]だろう。京斗は足早に立ち去ろうとするも、その男に呼び止められてしまった。
「ん?……待て!! [太字]テメエ何モンだァ!![/太字]」
耳を塞ぎたくなるような凄まじい声、反射的に思わず京斗は逃走してしまった。そんな事がありながらも、警備員の男は、休み時間の小学生のように楽しそうな表情をしていた。
「へぇ〜追いかけっこかァ!? そんなら、オレ[太字]たち[/太字]がサイキョーだぜぇぇ!!」
懐中電灯を振り回しながら、野性味あふれる走り方で突っ走る。
一方、京斗は荒い息を撒き散らしながら、逃げ彷徨っていた。
「……やっぱりだッ! やっぱり人がいたッ!!……ということは、[下線]あの火の玉はアイツが[/下線]……?」
驚愕の連鎖にもう心が持たない京斗も、一筋の予想を的中させたことでちょっぴり余裕が生まれてきた。
「……あれもただの能力の産物と考えてみれば、なんだか……怖くなくなってきたな……」
(……そもそもなんで怖がってるんだ?)
京斗はふと考え出した。
今も含めて、全ては[太字]兄を探すために始めた冒険[/太字]だ。その途中で見つけた『禁断の果実』という存在、人間のようで人間ではない敵。これだけ不思議な体験をしたというのに、今更この程度で怯えていては、誰も守れない。
(……そうだよな。僕はなんて意気地なしだったんだ……)
いつの間にか京斗の眼差しには、山から汲み取った真水のように透き通った光が生まれていた。
(すでに殺し合いが始まっているというのに……ボクに足らないのは心の強さだ。[太字]『足らず』を『足りる』に替えてやる……!![/太字])
逃げ足が完全に止まった。今からは駆け足のみ。握りしめた拳にあざとい光沢が纏わりついた。
警備員の男もすぐに追いつく。懐中電灯を指先でグルグルと操りながら、目の前の勇気のある侵入者に、ハッハッと口を開けて笑ってみせる。
「オレさまに勝てるとでも思ってんのかァ〜? ドナスヤローォァァ!!」
すると、男は懐中電灯を天井に向けた。その時、懐中電灯の光に[太字]火の玉が浮かび上がる[/太字]。あの時の火の玉だ。
「[太字]『ステレオフェニックス』[/太字]!! ドナスヤローをコゲドナスヤローに変えてやれッ!」
懐中電灯を前に振りかざした、その光を追ってくかのように火の玉が前へと飛び進む。
「……もうさっきまでのボクとは違うんだ……!!」
京斗は腕を振り抜く、俊足の水弾が火の玉に激突する。しかし、一瞬のうちに水は蒸発してしまった。この火の玉、かなりの高温を秘めている。
まだまだ勢いの止まらない火の玉、京斗は攻撃を身構える。だが、防御なんて無意味でしかなかった。火の玉は激速で京斗の体を通り抜けた。
すぐに痛みは感じず、それは遅れてやってくる。
通った痕から、身の焼き焦げるような苦痛が襲った。神経から来る痛みに耐えるなんて、どんな人間にも出来ない。
それは、火の玉の恐ろしさを伝えるには十分すぎた。もう抗ってはこないだろうと思ったのか、警備員の男はこちらへ歩み寄ってくる。
「どうしたァァ〜? さっきまで[下線]アレ[/下線]切ってただろォ? ……[太字]タンク[/太字]……じゃなくて、[太字]バンク[/太字]……でもなくて……」
「……[太字]タンカ[/太字]、じゃないのか?」
苦痛を抑えながら、京斗は答える。その瞬間、男は狂ったように怒りだした。
「[太字]ウッルセェェんだよォォ!![/太字] オレさまがショウソツなことをバカにしてんだろォォ!? さてはダイソツだなテメェ!!」
どうやら男の地雷を踏み抜いてしまったらしい、プライドを傷つけられた男は怒り狂っている。
「オレだって行けるなら行ってたんだよォ!! 今は、大学メザしてんだけどォ、[下線]上のヤツらが金を落とさねェんだ![/下線] 来年に、来年に、とか言われて延ばされたけどヨォ……ゼンゼン行ける気配がしねェ……」
「[太字]だから……[/太字]」
男は、懐中電灯を振り回しながら言った。
「[太字]オメェみてぇな侵入者をカエリウチにしてやれば、オレが大学に行けるカクリツが上がるって……思ってる[/太字]」
それはまさしく魂の叫びだった。自分の夢を語る姿に、ただ京斗は圧倒されていた。
「そうなのか……。だったら、お互い夢があるってことだな。夢は勝った方に訪れる」
お互いの夢の為、戦いは更に佳境を迎えることとなる。
場所:くろめだか 1F 鮮魚コーナー [/中央寄せ]
京斗は鮮魚コーナーの角でビクついていた。また火の玉に出会ったらどうしようか。しかし、ビクついていては何もできない。ガタガタな決心を無理やり積み上げる。
「よし……怖いけど、行くか……!」
勇気を振り絞って立ち上がった。そこで真っ先に目に入ったのは、自分に向けられた[太字]懐中電灯[/太字]。なんと人がいたのだ。
藍色の警備服を着用しており、おそらく[太字]このスーパーの警備員[/太字]だろう。京斗は足早に立ち去ろうとするも、その男に呼び止められてしまった。
「ん?……待て!! [太字]テメエ何モンだァ!![/太字]」
耳を塞ぎたくなるような凄まじい声、反射的に思わず京斗は逃走してしまった。そんな事がありながらも、警備員の男は、休み時間の小学生のように楽しそうな表情をしていた。
「へぇ〜追いかけっこかァ!? そんなら、オレ[太字]たち[/太字]がサイキョーだぜぇぇ!!」
懐中電灯を振り回しながら、野性味あふれる走り方で突っ走る。
一方、京斗は荒い息を撒き散らしながら、逃げ彷徨っていた。
「……やっぱりだッ! やっぱり人がいたッ!!……ということは、[下線]あの火の玉はアイツが[/下線]……?」
驚愕の連鎖にもう心が持たない京斗も、一筋の予想を的中させたことでちょっぴり余裕が生まれてきた。
「……あれもただの能力の産物と考えてみれば、なんだか……怖くなくなってきたな……」
(……そもそもなんで怖がってるんだ?)
京斗はふと考え出した。
今も含めて、全ては[太字]兄を探すために始めた冒険[/太字]だ。その途中で見つけた『禁断の果実』という存在、人間のようで人間ではない敵。これだけ不思議な体験をしたというのに、今更この程度で怯えていては、誰も守れない。
(……そうだよな。僕はなんて意気地なしだったんだ……)
いつの間にか京斗の眼差しには、山から汲み取った真水のように透き通った光が生まれていた。
(すでに殺し合いが始まっているというのに……ボクに足らないのは心の強さだ。[太字]『足らず』を『足りる』に替えてやる……!![/太字])
逃げ足が完全に止まった。今からは駆け足のみ。握りしめた拳にあざとい光沢が纏わりついた。
警備員の男もすぐに追いつく。懐中電灯を指先でグルグルと操りながら、目の前の勇気のある侵入者に、ハッハッと口を開けて笑ってみせる。
「オレさまに勝てるとでも思ってんのかァ〜? ドナスヤローォァァ!!」
すると、男は懐中電灯を天井に向けた。その時、懐中電灯の光に[太字]火の玉が浮かび上がる[/太字]。あの時の火の玉だ。
「[太字]『ステレオフェニックス』[/太字]!! ドナスヤローをコゲドナスヤローに変えてやれッ!」
懐中電灯を前に振りかざした、その光を追ってくかのように火の玉が前へと飛び進む。
「……もうさっきまでのボクとは違うんだ……!!」
京斗は腕を振り抜く、俊足の水弾が火の玉に激突する。しかし、一瞬のうちに水は蒸発してしまった。この火の玉、かなりの高温を秘めている。
まだまだ勢いの止まらない火の玉、京斗は攻撃を身構える。だが、防御なんて無意味でしかなかった。火の玉は激速で京斗の体を通り抜けた。
すぐに痛みは感じず、それは遅れてやってくる。
通った痕から、身の焼き焦げるような苦痛が襲った。神経から来る痛みに耐えるなんて、どんな人間にも出来ない。
それは、火の玉の恐ろしさを伝えるには十分すぎた。もう抗ってはこないだろうと思ったのか、警備員の男はこちらへ歩み寄ってくる。
「どうしたァァ〜? さっきまで[下線]アレ[/下線]切ってただろォ? ……[太字]タンク[/太字]……じゃなくて、[太字]バンク[/太字]……でもなくて……」
「……[太字]タンカ[/太字]、じゃないのか?」
苦痛を抑えながら、京斗は答える。その瞬間、男は狂ったように怒りだした。
「[太字]ウッルセェェんだよォォ!![/太字] オレさまがショウソツなことをバカにしてんだろォォ!? さてはダイソツだなテメェ!!」
どうやら男の地雷を踏み抜いてしまったらしい、プライドを傷つけられた男は怒り狂っている。
「オレだって行けるなら行ってたんだよォ!! 今は、大学メザしてんだけどォ、[下線]上のヤツらが金を落とさねェんだ![/下線] 来年に、来年に、とか言われて延ばされたけどヨォ……ゼンゼン行ける気配がしねェ……」
「[太字]だから……[/太字]」
男は、懐中電灯を振り回しながら言った。
「[太字]オメェみてぇな侵入者をカエリウチにしてやれば、オレが大学に行けるカクリツが上がるって……思ってる[/太字]」
それはまさしく魂の叫びだった。自分の夢を語る姿に、ただ京斗は圧倒されていた。
「そうなのか……。だったら、お互い夢があるってことだな。夢は勝った方に訪れる」
お互いの夢の為、戦いは更に佳境を迎えることとなる。