果実戦争
[中央寄せ]時刻:8月18日11時00分
場所:くろめだか 1F バックヤード[/中央寄せ]
[太字]「キミ……何してるの?」[/太字]
巻機の後ろに突如現れた白い服の男。少し乾いた声が巻機に送られた。
「な…!? いつの間に!?」
大量の果実を抱えていた巻機は、思わず後退りをしてしまう。しかし、脇に挟んでいた果実をペシャッと落としてしまった。果実は思いの外脆かったようで、中身が床にブチまけられた。
その様子を見て、白い服の男が一歩踏み込む。手を差し出して呟いたのは[下線]たった一言[/下線]だけだった。
[太字]「弁償、一億円。今すぐ現金で払える?」[/太字]
弁償の話だった。今はそんな状況ではないだろうと思ってしまうが、この男にとって、果実は一種の[下線]商売道具[/下線]なのだ。
「……オレに払えるとでも? あと、アンタは何者だ?」
「あのねぇ……こっちが質問してるんだけど。払えるの? 払えないの?……もしかして、臓器払いとか?」
男は一向に食い下がらない。代金を迫られている巻機が取った行動は…。
「ま、そもそもオレはこれを盗るために来たんだから、何が起きても払わないし、払う必要も無い」
無茶苦茶理論をカマしてやると、巻機は片手に持ってた果実を脇に抱えて、両手を軽快に叩いてみせた。次の瞬間、巻機の体が[太字]斜めに飛び上がる[/太字]、そして扉の僅かな隙間から、脱出を成功させた。
[太字]「こっちは覚悟決めてんだッ! 命大切に生きていくって覚悟をなッ!」[/太字]
巻機はバックヤードを駆け抜けていく。果実を栽培している部屋に一人取り残された謎の男。
感情の読めない無表情で、ポケットから一つのビンを取り出した。ビンの中には、[太字]銀色の蝶が数匹バサバサと蠢いている[/太字]。ビンを振りかぶり、狙いを定める。
そして、ビンを巻機の方向へ投げつけた。男の狙い通り、ビンは巻機の近くで砕け散る。ガラスの破片と同時に、中に入っている銀色の蝶々が華麗に放たれた。
この蝶々は不思議なことに、まるで[下線]未来の機械のような姿[/下線]だった。骨格むき出しの構造はいかにも不気味。そして、刃のように薄い二枚の翅には、[下線]裁縫針ぐらい細い針が、針先を前に向けてびっしりと横に並んでいた。[/下線]
「なんだよあれはァーッ!? 蝶々みたいだが、どうみても何かが違う……まさか……虫型ロボットってヤツか?」
銀色の蝶々は巻機の上空で不気味に羽ばたいていた。一刻も早くここを脱出しなければならない。巻機は滅多に出さない全速力でバックヤードへ向かう。在庫の商品カートに身を隠しながら逃走を図るも、上空を飛ぶ蝶々には何の影響もなかった。
ついに出口の扉が目に見えてきた。あともう少し、ここで止まれば蝶々に何をされるか予想もできない。あと少し、腕を伸ばし扉のドアノブに手をかけようとした、[太字]その時だった。[/太字]
ふくらはぎに鋭い痛みが襲いかかった。足の力が無くなり前に崩れ落ちる。持っていた果実が辺りに転がっていく。痛みの方向を見てみれば、[下線]注射針のように細い針がふくらはぎに突き刺さっていた。[/下線]
「クソ……アキレス健に刺さった……! あのロボット蝶々共の仕業か……。コントロールもとんでもない」
「……でも、あと少しだ……! このドアノブを捻れば……なんとかなる……!」
諦めずに体を起き上がらせ、再びドアノブに手をかけようとする。[太字]しかし[/太字]、気付いたときには、[下線]手の甲が真っ赤に染まり、まるで裁縫中の針山に変貌した。[/下線]
「……こいつら慈悲もねェのかよ……!」
針山と化した手を見つめ、顔を歪める巻機。無事な左手を必死に動かし、扉に寄りかかる。
扉からは、外の騒がしい音が伝わってきた。何かが倒れる音、誰かが何かを叫ぶ声、[下線]外でも戦いが起きている[/下線]ようだ。
「……この外に京斗がいるはずだ。なんとか、耐えねェと……!」
一方、逃げてきたバックヤードの廊下から聞こえたのは、[太字]重く鈍い足音[/太字]だった。一歩一歩鳴り響く足音に、自然と重圧に怯えた汗が湧き出てくる。
息を切らしながら、その時を待つ。しばらくすると、暗がりの角から男が身を現した。
[太字]「もう金は払わなくていいよ。その代わりキミには、[下線]これ[/下線]の実験体になってもらうから」[/太字]
男が新たにビンを一本取り出した。中には[太字]蝉[/太字]が入っていた。
場所:くろめだか 1F バックヤード[/中央寄せ]
[太字]「キミ……何してるの?」[/太字]
巻機の後ろに突如現れた白い服の男。少し乾いた声が巻機に送られた。
「な…!? いつの間に!?」
大量の果実を抱えていた巻機は、思わず後退りをしてしまう。しかし、脇に挟んでいた果実をペシャッと落としてしまった。果実は思いの外脆かったようで、中身が床にブチまけられた。
その様子を見て、白い服の男が一歩踏み込む。手を差し出して呟いたのは[下線]たった一言[/下線]だけだった。
[太字]「弁償、一億円。今すぐ現金で払える?」[/太字]
弁償の話だった。今はそんな状況ではないだろうと思ってしまうが、この男にとって、果実は一種の[下線]商売道具[/下線]なのだ。
「……オレに払えるとでも? あと、アンタは何者だ?」
「あのねぇ……こっちが質問してるんだけど。払えるの? 払えないの?……もしかして、臓器払いとか?」
男は一向に食い下がらない。代金を迫られている巻機が取った行動は…。
「ま、そもそもオレはこれを盗るために来たんだから、何が起きても払わないし、払う必要も無い」
無茶苦茶理論をカマしてやると、巻機は片手に持ってた果実を脇に抱えて、両手を軽快に叩いてみせた。次の瞬間、巻機の体が[太字]斜めに飛び上がる[/太字]、そして扉の僅かな隙間から、脱出を成功させた。
[太字]「こっちは覚悟決めてんだッ! 命大切に生きていくって覚悟をなッ!」[/太字]
巻機はバックヤードを駆け抜けていく。果実を栽培している部屋に一人取り残された謎の男。
感情の読めない無表情で、ポケットから一つのビンを取り出した。ビンの中には、[太字]銀色の蝶が数匹バサバサと蠢いている[/太字]。ビンを振りかぶり、狙いを定める。
そして、ビンを巻機の方向へ投げつけた。男の狙い通り、ビンは巻機の近くで砕け散る。ガラスの破片と同時に、中に入っている銀色の蝶々が華麗に放たれた。
この蝶々は不思議なことに、まるで[下線]未来の機械のような姿[/下線]だった。骨格むき出しの構造はいかにも不気味。そして、刃のように薄い二枚の翅には、[下線]裁縫針ぐらい細い針が、針先を前に向けてびっしりと横に並んでいた。[/下線]
「なんだよあれはァーッ!? 蝶々みたいだが、どうみても何かが違う……まさか……虫型ロボットってヤツか?」
銀色の蝶々は巻機の上空で不気味に羽ばたいていた。一刻も早くここを脱出しなければならない。巻機は滅多に出さない全速力でバックヤードへ向かう。在庫の商品カートに身を隠しながら逃走を図るも、上空を飛ぶ蝶々には何の影響もなかった。
ついに出口の扉が目に見えてきた。あともう少し、ここで止まれば蝶々に何をされるか予想もできない。あと少し、腕を伸ばし扉のドアノブに手をかけようとした、[太字]その時だった。[/太字]
ふくらはぎに鋭い痛みが襲いかかった。足の力が無くなり前に崩れ落ちる。持っていた果実が辺りに転がっていく。痛みの方向を見てみれば、[下線]注射針のように細い針がふくらはぎに突き刺さっていた。[/下線]
「クソ……アキレス健に刺さった……! あのロボット蝶々共の仕業か……。コントロールもとんでもない」
「……でも、あと少しだ……! このドアノブを捻れば……なんとかなる……!」
諦めずに体を起き上がらせ、再びドアノブに手をかけようとする。[太字]しかし[/太字]、気付いたときには、[下線]手の甲が真っ赤に染まり、まるで裁縫中の針山に変貌した。[/下線]
「……こいつら慈悲もねェのかよ……!」
針山と化した手を見つめ、顔を歪める巻機。無事な左手を必死に動かし、扉に寄りかかる。
扉からは、外の騒がしい音が伝わってきた。何かが倒れる音、誰かが何かを叫ぶ声、[下線]外でも戦いが起きている[/下線]ようだ。
「……この外に京斗がいるはずだ。なんとか、耐えねェと……!」
一方、逃げてきたバックヤードの廊下から聞こえたのは、[太字]重く鈍い足音[/太字]だった。一歩一歩鳴り響く足音に、自然と重圧に怯えた汗が湧き出てくる。
息を切らしながら、その時を待つ。しばらくすると、暗がりの角から男が身を現した。
[太字]「もう金は払わなくていいよ。その代わりキミには、[下線]これ[/下線]の実験体になってもらうから」[/太字]
男が新たにビンを一本取り出した。中には[太字]蝉[/太字]が入っていた。