「オマエをブチのめすまで、たとえこの体が使い物にならなくなったとしても……ブッ飛ばしてやる」
その目には揺るぎない殺意が刻まれていた。

体から噴き出る白い蒸気がさらに勢いを増す。深い森が1人の盗賊の情熱に包まれた。

しかし、敵の男の方を見てみれば余裕を感じさせるような風格。手を顎に当てると嬉しそうに言ったのだ。
「キミの眼差しには、今まで手合わせしてきた者の中で、最も嘘偽りのない[太字]『狂気』[/太字]を秘めているッ！！　それは
まさしく[太字]『[漢字]誠心[/漢字][ふりがな]せいしん[/ふりがな]』[/太字]……[太字]『狂気の誠心』[/太字]ッ！！」

嘘偽りなくただ真っ直ぐに狂っている様子、それが「狂気の誠心」だ。
しかし、エイキチには言葉を聞き取れるほどの暇はなかった。

首を左右に振って何かを探していた。
その何かを見つけると、近づいて手に取る。
それは、[太字]『岩』[/太字]だった。

両手でやっと持ち上げられるぐらいの岩を、鷲掴みにして持ち上げる。
そして、ボールを投げるかのようにその岩を投げ飛ばした。

飛ばされた岩は空気を割り、目に止まらぬ速度で男の胸に勢いよく衝突する。それはまるで交通事故のようだった。

そんな衝撃をまともに喰らった男は勢いよく真後ろへ吹き飛んだ。後ろの木に叩きつけられて、崩れるように地面に座り込む。胸を抑えて苦しそうにつぶやいた。

「この馬鹿げた威力、見事だ……この私を殺そうとしている…」
胸を抑えていた右手を握りしめ、左の手首にその拳を叩きつけた。

その一連の行動は、時が戻るスイッチを押すようなものだ。
また、時間が歪んだ。
[水平線]

再び二人が睨み合う。

男の傷は時間の波に飲み込まれて、元通りになっている。
エイキチの体も元通り。

「まだまだァ〜……」
見せかけの余裕な表情を見せながら、決意が染み付いたエイキチは親指を噛もうとしている。

しかし、自分がピンチになってしまうようなことを見過ごすような男ではない。

男は隠し持っていたハンドガンでエイキチの脇腹を狙った。
脇腹に穴を開けられエイキチは少しよろけた。脇腹から出てくる血がポタポタとこぼれ落ちている。
だが、なんとか親指を噛むことはできた。

白い蒸気が火山のように噴き出してくる。そして、さっき投げた岩が落ちているところにゆっくりと向かった。
一つの大きい岩を掴み、精一杯の力で投げつけた。

いかにも危ない岩は男の胸に痛々しい音を立てて激突する。
さっきと同じ光景だ。しかし、男は吹っ飛びながらも、時間を戻すために手首を触ろうとしている。

そのときだった。

[太字]「もおォ〜イッパァーツッ！！」[/太字]
服に隠し持っていた岩を、間髪入れずに投げつけたのだ。