燃揺る魂、その刃に乗せて
「チィッ…!やっぱり威力は出ないわ、ね…ッ!」
渾身の蹴りを受け止められたとみるや、少女は反転。鬼を壁と見立て、反対側の足で押し出すことで支配から逃れた。
直後、少女の足から真っ赤な火が噴き出る。
「シ―――――アアアァァッ!」
「何度やろうと、同じ結果に過ぎぬ」
さっきと同じように、少女の右足が鬼の頭を捉える。しかしまた同じように――その右手に与えられた真赤な手甲で防がれてしまった。
二○○年程前に、時の魔王がとある鬼の戦士に下賜した――とされる伝説の防具。
耐魔法に優れるとされる純金でできた下地に旧魔王領北部にあるガザル洞窟から採取した耐火の宝玉、[漢字]紅玉[/漢字][ふりがな]ルビー[/ふりがな]をはめ込み、下地は鋼鉄の一〇〇〇倍ともいわれる強度を持つ魔導鋼糸で編まれた布が関節部の動きを妨げないように配置され、『武具の隙間を狙え』という言葉にもある武具の欠陥――即ち動きを固定しないが為に脆い関節部を露出しているという事実を、ほぼ完璧に克服している。
ただ使い込まれたのか、今彼がつけているソレは錆びて、元あった純金の輝きを放ってはいない。しかしその効果は健在なようで、『輪廻』の火をまとった蹴りをものともしていない。
「んだコイツ…!?」
「先も言っただろう。我鬼人。誉の為に命を[漢字]擲[/漢字][ふりがな]なげう[/ふりがな]ち、答えの為に日々走る者為り…名を暴虐のフラグイン」
「そーゆー意味じゃねえッ…!」
鬼人の左側でも、これまた同じく攻撃を受け止められていた。
前述の抵抗故に本来の威力を発揮できない絶技を封じ、一介の剣士となったジードが必死に暴力の体現へ噛みついている。
しかし、此方は『輪廻』よりも酷い有様だ。刀を避けるでもなく、防具で受けるでもなく、鬼人は自らの肉体でその刃を受け止めているからだ。ジードが刀を打つたびに火花が散るものの、その肉には傷一つ着く気配がない。
「弱い」
「――ッ!?」
「ガッ――…」
まるで蠅を払うがごとく、鬼は無造作に両手を払う。…それだけで周囲に強風が吹き荒れ、両側に立つ二人は吹き飛ばされた。
飛んでもない勢いで地面を転がるが、ジードは咄嗟に刀を地面に突き刺して動きを止めた。それでも勢いを殺しきれずに滑ったため、彼の通った軌跡をなぞるかのように地が割れている。
一方『輪廻』は、足が地面に向いた瞬間にジードに会う際使っていた浮遊魔法を使った。こちらは負荷をほぼ完璧に殺し切り、只の少し滑っただけでとどまる。
「フランヴェスタ。貴殿はまだ良い…問題は、其処に転がる剣士紛いよ」
「お褒めに預かり光栄だわ…!」
「故に」
「貴殿にはこの場より退場してもらう」
がり、と地が削れる音がした。粉塵が舞い、地に埋まった石が飛び出る。
意思が恐怖を告げている。入ってはいけないと。近づいてはいけないと。――然し、当の鬼は一歩進んだだけ。
「ッ…!?」
『輪廻』は、鬼の魔力が揺らいですらいないのを見た。即ち魔力ではなく、為らば答えは一つ。
[漢字]踏み込んだだけなのだ[/漢字][ふりがな]・・・・・・・・・・[/ふりがな]。その踏み込み一つで大地が割れ、それだけで範囲に入っていないジードですら、恐怖によって地に縫い付けられる。
刹那、『輪廻』の間合いに拳が入り込んだ。その素早さに『輪廻』は防御魔法を展開することも儘ならず、そのまま拳がめり込む。
吹き荒れる暴風、粉塵。さっきまで只の地面として朽ちるハズだったそれらはジードの頬を叩き、傷を増やしていく。
「邪魔者は――いや、強者はこの場より去った。もう、止める者はいない」
「『武士』ジード。"救世の英傑"、"絶対の剣"。"死神"、"紅刀"、"刹那を行くもの"。…""虐殺者""」
「…?」
唐突に羅列される、かつてジードに名付けられていた二つ名。今となっては統合され『武士』ただ一つになっているものの、十年前五英傑という概念がなかったころの、戦場での[漢字]字[/漢字][ふりがな]あざな[/ふりがな]だった。
「何故、貴様は今我らに剣を向ける。――今日はそれを聞きに来た」
渾身の蹴りを受け止められたとみるや、少女は反転。鬼を壁と見立て、反対側の足で押し出すことで支配から逃れた。
直後、少女の足から真っ赤な火が噴き出る。
「シ―――――アアアァァッ!」
「何度やろうと、同じ結果に過ぎぬ」
さっきと同じように、少女の右足が鬼の頭を捉える。しかしまた同じように――その右手に与えられた真赤な手甲で防がれてしまった。
二○○年程前に、時の魔王がとある鬼の戦士に下賜した――とされる伝説の防具。
耐魔法に優れるとされる純金でできた下地に旧魔王領北部にあるガザル洞窟から採取した耐火の宝玉、[漢字]紅玉[/漢字][ふりがな]ルビー[/ふりがな]をはめ込み、下地は鋼鉄の一〇〇〇倍ともいわれる強度を持つ魔導鋼糸で編まれた布が関節部の動きを妨げないように配置され、『武具の隙間を狙え』という言葉にもある武具の欠陥――即ち動きを固定しないが為に脆い関節部を露出しているという事実を、ほぼ完璧に克服している。
ただ使い込まれたのか、今彼がつけているソレは錆びて、元あった純金の輝きを放ってはいない。しかしその効果は健在なようで、『輪廻』の火をまとった蹴りをものともしていない。
「んだコイツ…!?」
「先も言っただろう。我鬼人。誉の為に命を[漢字]擲[/漢字][ふりがな]なげう[/ふりがな]ち、答えの為に日々走る者為り…名を暴虐のフラグイン」
「そーゆー意味じゃねえッ…!」
鬼人の左側でも、これまた同じく攻撃を受け止められていた。
前述の抵抗故に本来の威力を発揮できない絶技を封じ、一介の剣士となったジードが必死に暴力の体現へ噛みついている。
しかし、此方は『輪廻』よりも酷い有様だ。刀を避けるでもなく、防具で受けるでもなく、鬼人は自らの肉体でその刃を受け止めているからだ。ジードが刀を打つたびに火花が散るものの、その肉には傷一つ着く気配がない。
「弱い」
「――ッ!?」
「ガッ――…」
まるで蠅を払うがごとく、鬼は無造作に両手を払う。…それだけで周囲に強風が吹き荒れ、両側に立つ二人は吹き飛ばされた。
飛んでもない勢いで地面を転がるが、ジードは咄嗟に刀を地面に突き刺して動きを止めた。それでも勢いを殺しきれずに滑ったため、彼の通った軌跡をなぞるかのように地が割れている。
一方『輪廻』は、足が地面に向いた瞬間にジードに会う際使っていた浮遊魔法を使った。こちらは負荷をほぼ完璧に殺し切り、只の少し滑っただけでとどまる。
「フランヴェスタ。貴殿はまだ良い…問題は、其処に転がる剣士紛いよ」
「お褒めに預かり光栄だわ…!」
「故に」
「貴殿にはこの場より退場してもらう」
がり、と地が削れる音がした。粉塵が舞い、地に埋まった石が飛び出る。
意思が恐怖を告げている。入ってはいけないと。近づいてはいけないと。――然し、当の鬼は一歩進んだだけ。
「ッ…!?」
『輪廻』は、鬼の魔力が揺らいですらいないのを見た。即ち魔力ではなく、為らば答えは一つ。
[漢字]踏み込んだだけなのだ[/漢字][ふりがな]・・・・・・・・・・[/ふりがな]。その踏み込み一つで大地が割れ、それだけで範囲に入っていないジードですら、恐怖によって地に縫い付けられる。
刹那、『輪廻』の間合いに拳が入り込んだ。その素早さに『輪廻』は防御魔法を展開することも儘ならず、そのまま拳がめり込む。
吹き荒れる暴風、粉塵。さっきまで只の地面として朽ちるハズだったそれらはジードの頬を叩き、傷を増やしていく。
「邪魔者は――いや、強者はこの場より去った。もう、止める者はいない」
「『武士』ジード。"救世の英傑"、"絶対の剣"。"死神"、"紅刀"、"刹那を行くもの"。…""虐殺者""」
「…?」
唐突に羅列される、かつてジードに名付けられていた二つ名。今となっては統合され『武士』ただ一つになっているものの、十年前五英傑という概念がなかったころの、戦場での[漢字]字[/漢字][ふりがな]あざな[/ふりがな]だった。
「何故、貴様は今我らに剣を向ける。――今日はそれを聞きに来た」
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