燃揺る魂、その刃に乗せて
「―――あ゛ー、クッソ疲れたーッ……」
本体を失ったことで、さっきまで咲き誇っていた花たちが急速に萎れていく。枯れてゆく花畑の中で、ジードは仰向けに寝転んでいた。
穴の開いた腹からは未だ血が流れだしているが、応急処置として巻いた上衣がイイ仕事をしているようだ。かなり顔色も良くなっている。
そうしている間にも地平の向こうに堕ちていこうとする太陽を横目で眺めつつ、刀の鍔を撫でている。彼にとっては太陽も夜空に浮かぶ星も、さして変わらないモノなのかもしれない。
「太陽?…まあ、別にあってもなくても変わらんだろ。んなことよりやっぱ相棒を労わねえとな。今日もありがとよ~!?」
膝を組んで、オマケに鼻歌まで歌い始めた。本当にどうでもいいらしい。ケガは治っていないからすぐに治療しないと激痛で動けないはずなのだが、なんとジードはそのまま刀の手入れをし始めた。袖を切って布を作り、刃を撫でるように拭き取る。特に今日はキンポウゲの毒が付着しているから――と、もうすっかり自分の世界に没頭している。
とそんなことをしていたら、堕ちようとする太陽の動きが止まった。直後に轟音が響き渡り突風が吹き荒れ、ジードの髪を揺らす。
枯れて茶色に染まったキンポウゲの花びらが彼の頬を叩いて流れていくが、当の本人は一切気にする様子がない。
二つに割れた太陽の欠片が紫色の光に包まれ、元あった形へと戻っていく。暗がりに包まれていたこの辺りが段々明るくなり始め、日に照らされた刃が煌めきを放ち始めた。
「ジード!?どうせあなたでしょ!?早く出てき――あ、いた」
太陽が元通りにくっ付いてから、10分ほど経っただろうか。
ジードの隣で、少女がふよふよ浮いていた。
年齢は15ぐらいだろうか。つややかな黒いロングヘア―を流し、最近町娘に人気な服を着ているさまは、まるで中流階級の一人娘だ。そんなどこにでもいそうな少女が、さも当然なことのように地面から30センチぐらいの高さで浮いている。
呼ばれたジードは鼻歌を止め、刀に集中していた顔をぐりっと回して少女を見上げる。
「ああ、[漢字]手前[/漢字][ふりがな]テメー[/ふりがな]か。元気してたか?」
「真っ二つに割れた太陽の修復で魔力が四割飛んでヘットヘトよ。…いったい誰のせいなんでしょうね?」
「さあ、誰だろうな」
再び鼻歌を歌いながら、刀を磨き始めた。そこには真面目さの一欠けらもなく、ましてやミスをカバーしてくれた年下の少女へ払うべき敬意なんて持ち合わせていないようだ。
「アンタでしょ!太陽切り飛ばすなんていうインチキ芸当できるヤツ限られてるのよ!」
「………スマン」
「近くに私がいて良かったわね。もう少しでとんでもないことになってたわ。死者どころか気が付いてた人すらいなかったの、奇跡よ。わかってる?」
「…………」
「貸し、一つね」
バツの悪そうな顔でジードは顔を背ける。それを見て少女はふんっと鼻を鳴らした。
「―――ちょ、ひどい怪我じゃない。治療するから少し待って。もしかしてそんな姿のまま帰ろうとしたの?やってみなさい、王様が悲しむわよ」
そうしてようやっと、少女はジードが酷く重症なことに気が付いた。顔含めた色々な場所からの出血、出血、内出血。
何よりも大穴の開いた腹の存在に。高度を降ろし、座り込んだジードの前に立つ。
「『治癒魔h』――ぁ゛?」
刹那、少女の首から上が切り飛ばされた。倒れこんでジードのほうを向いた首の断面から、血がぶしゅりと噴き出して袴にかかる。
「………は?」
本体を失ったことで、さっきまで咲き誇っていた花たちが急速に萎れていく。枯れてゆく花畑の中で、ジードは仰向けに寝転んでいた。
穴の開いた腹からは未だ血が流れだしているが、応急処置として巻いた上衣がイイ仕事をしているようだ。かなり顔色も良くなっている。
そうしている間にも地平の向こうに堕ちていこうとする太陽を横目で眺めつつ、刀の鍔を撫でている。彼にとっては太陽も夜空に浮かぶ星も、さして変わらないモノなのかもしれない。
「太陽?…まあ、別にあってもなくても変わらんだろ。んなことよりやっぱ相棒を労わねえとな。今日もありがとよ~!?」
膝を組んで、オマケに鼻歌まで歌い始めた。本当にどうでもいいらしい。ケガは治っていないからすぐに治療しないと激痛で動けないはずなのだが、なんとジードはそのまま刀の手入れをし始めた。袖を切って布を作り、刃を撫でるように拭き取る。特に今日はキンポウゲの毒が付着しているから――と、もうすっかり自分の世界に没頭している。
とそんなことをしていたら、堕ちようとする太陽の動きが止まった。直後に轟音が響き渡り突風が吹き荒れ、ジードの髪を揺らす。
枯れて茶色に染まったキンポウゲの花びらが彼の頬を叩いて流れていくが、当の本人は一切気にする様子がない。
二つに割れた太陽の欠片が紫色の光に包まれ、元あった形へと戻っていく。暗がりに包まれていたこの辺りが段々明るくなり始め、日に照らされた刃が煌めきを放ち始めた。
「ジード!?どうせあなたでしょ!?早く出てき――あ、いた」
太陽が元通りにくっ付いてから、10分ほど経っただろうか。
ジードの隣で、少女がふよふよ浮いていた。
年齢は15ぐらいだろうか。つややかな黒いロングヘア―を流し、最近町娘に人気な服を着ているさまは、まるで中流階級の一人娘だ。そんなどこにでもいそうな少女が、さも当然なことのように地面から30センチぐらいの高さで浮いている。
呼ばれたジードは鼻歌を止め、刀に集中していた顔をぐりっと回して少女を見上げる。
「ああ、[漢字]手前[/漢字][ふりがな]テメー[/ふりがな]か。元気してたか?」
「真っ二つに割れた太陽の修復で魔力が四割飛んでヘットヘトよ。…いったい誰のせいなんでしょうね?」
「さあ、誰だろうな」
再び鼻歌を歌いながら、刀を磨き始めた。そこには真面目さの一欠けらもなく、ましてやミスをカバーしてくれた年下の少女へ払うべき敬意なんて持ち合わせていないようだ。
「アンタでしょ!太陽切り飛ばすなんていうインチキ芸当できるヤツ限られてるのよ!」
「………スマン」
「近くに私がいて良かったわね。もう少しでとんでもないことになってたわ。死者どころか気が付いてた人すらいなかったの、奇跡よ。わかってる?」
「…………」
「貸し、一つね」
バツの悪そうな顔でジードは顔を背ける。それを見て少女はふんっと鼻を鳴らした。
「―――ちょ、ひどい怪我じゃない。治療するから少し待って。もしかしてそんな姿のまま帰ろうとしたの?やってみなさい、王様が悲しむわよ」
そうしてようやっと、少女はジードが酷く重症なことに気が付いた。顔含めた色々な場所からの出血、出血、内出血。
何よりも大穴の開いた腹の存在に。高度を降ろし、座り込んだジードの前に立つ。
「『治癒魔h』――ぁ゛?」
刹那、少女の首から上が切り飛ばされた。倒れこんでジードのほうを向いた首の断面から、血がぶしゅりと噴き出して袴にかかる。
「………は?」
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