「一億光年先/遥か彼方」からも、君の光を見つけられるか?
#1
ガタンゴトンと静かに揺れるいつもの電車の中で落ちそうな瞼を無理矢理持ち上げて、高校二年生の俺……[漢字]東雲[/漢字][ふりがな]しののめ[/ふりがな] [漢字]奏多[/漢字][ふりがな]かなた[/ふりがな]は、静かにため息を吐いた。
拝啓兄上(それなりにモテる)へ、助けて下さい。俺は今めっちゃくちゃに緊張してます。ぶっちゃけ、中学二年生の時のスピーチ大会なんて目じゃないぐらいに。
十六年と半年ぐらいの間生きて来たけど、こんなにどうすればいいか困った事はない。頼むから教えて下さい、いや教えやがれ……って無理だな、動けないからスマホが出せない。
えー、それと言うのも。
「なんでコイツ、呑気に寝てんのかなぁ……」
俺の好きな人であり一学年下の後輩、[漢字]風早[/漢字][ふりがな]かぜはや[/ふりがな] [漢字]春香[/漢字][ふりがな]はるか[/ふりがな]が、よりにもよって俺の真横で、すやすやと呑気に寝ているからだ。
「ん゛ー……」
あー、クッソ可愛いかよ。
って違うだろ。もう駅近いんだよなぁ。
あのさぁ。
いくら学校帰りで疲れてるとは言えさぁ。
一緒に帰ろうとか誘っといた本人が、呑気に寝てるって何?
しかも、肩にもたれかかって。
自由人かよ。
……いや、自由人だったな。知ってた。
付き合ってもない相手にこれってコイツ、ホントに恋愛回路的なモンが死んでるな。
あ、なんかむにゃむにゃ言ってる。可愛い。
…いや待って何?この状況ホント何なの??バグなの???
神様、いくら俺でもさすがにここまでしてくれなんて祈ってない。確かにもうちょいこう、ただの幼馴染のお兄さんから脱却したい的なコトは願ったけど。
でもここまで行っちゃうとこう、どうすればいいのかちっとも分からないんだが。
とりあえずなんか良い匂いして辛いから肩にもたれかからないでほしい…ってあーあーダメだこりゃ完全に寝てるよコイツ。下手に身動きしたら、膝まで倒れ込まれかねない。
できれば起こさないようにしてやりたいけど……
起こさないとマズい。主に俺が。
あと、正直に言うと結構肩もキツい。いくら好きな人だからと言って、重さまで喜べるようなMじゃないぞ俺は。
「おーい、起きろー…生きてっかー?」
「…るせぇ……」
おいおい、シンプル口が悪いなコイツ。いや、昔からそうだし全然知ってたけど。
あーもーなんで俺、コイツ好きになっちゃったんだろ。
家近いから保育園から小中まで一緒なのは当たり前でも、高校は別に合わせた訳じゃないんだけどな。
……いや嘘、ちょっと偏差値下げてコイツならここ行きそうかなって思った学力帯から選びました。しかも、コイツがやってる吹奏楽部が割とデカい所を。
いや、うん。進学率も良かったしさ、確実に受かれる方がいいじゃん?それに、俺がやってる軽音部もデカいんだよ。だから、コイツが100%の理由ってワケじゃ…ワケ……じゃ………
……うん。ここでどっちかに言い切れないヘタレな自分が割と嫌いだよ、俺は。
まぁそんなワケで、実は学校の勉強はあんまり辛くない。それでも眠いのは単純に、電話越しにコイツの勉強に付き合っていたからだ。
でも生憎と、今の俺は寝てらんない。なぜかっつーとコイツも連れてあと二駅で降りなきゃいけないからだ。
「……いや起きろって、デコピンすんぞ。」
あれ、俺普段コイツとどうやって話してたっけ。もう嫌だ、本格的にワケ分かんなくなって来たんだが。
「やめろし……起きるから……」
「いや起きてないし、頭どけろって。」
「ん゛ー……うるさ……」
あーあー起きる気配ないよコイツ。返事だけして寝やがったよ。こっちの気も知らず呑気にスヤァしてんじゃないよ馬鹿。
はい、そうこうしてる内にあと一駅でーす。どう見ても起きる気配はありませーん、お疲れ様ですごりんじゅー。
……馬鹿なのか。いや疑問系付けるまでもなく馬鹿だな俺。
相も変わらずガタンゴトンと、静かに電車は揺れている。まるで、コイツのための揺籠みたいだ。
この揺れがコイツを眠りに誘っている原因の一つだと思うと、恨めしいけどありがたい。でもやっぱり腹立たしくて、心地良くて。あーもう、ワケわかんねぇな。
ぐちゃぐちゃに掻き回された感情の中、目の前でただ吊り革が揺れている。
窓の向こうには紺が混ざった茜空、ほのかに差した西日が金色の雲越しに薄ぼんやりと揺れていて。
それがあまりにも柔らかくてあったかいから、神様とやらにも応援されてるんだろうか、なんて不覚にも考えてしまった。
ま、もしもそうならもうとっくのとうに俺の想いも上手く伝わってるんだろうし、むしろ気まぐれって奴なのかな。
見慣れた景色、見慣れた色、見慣れた街。
なのに普段より景色が悪く見えるのは、色がくすんで見えるのは、街が汚れて見えるのは、曇り空のせいだけじゃない。
きっと、唯一無二の比較対象がいるからだ。
少女漫画だかなんだかで、「恋をすると世界が綺麗に見える」、なんて言葉があるらしい。けど俺には到底、そうは思えなかった。
まぁ、コイツに対する感情が本当に恋なのかは俺にも分からない。
適当に連むような相手はいても、なんでも打ち明けられるような親友とでも言うべき相手はいた事がないし、好きな人だってコイツ以外では小学生の時の初恋以来いた事がない。
結局何が言いたいのかって言うと、親愛レベルマックスを恋とごっちゃにしてる可能性だって全然あるって話。
「気づいたら目で追っている」…ただそれだけを、果たして恋と呼んでいいものか。
あーあ、俺も大概イカれてんな。
けどコイツは多分、俺に“カレシ”なんてジョブをハナっから求めちゃいない。
俺だって、わやわやな感情のままコイツに“カノジョ”ってジョブを押し付けられるほどの勇気があるワケじゃない。
だから、「俺たちは多分一生このまま変わらないんだ」、と、心のどこかで諦めていた。
その方が辛くないし、頭のいいやり方だから。
あれ、これ……俺も寝てたって事にすれば、もう少しコイツと一緒にいられるって事になるのかな。
降りるハズの駅乗り過ごして、次かその次ぐらいで降りて……で、二人して「やらかしたな」ってホームで笑うんだ。
そんな日常を、捨てる勇気はまだ持てない。
拝啓兄上(それなりにモテる)へ、助けて下さい。俺は今めっちゃくちゃに緊張してます。ぶっちゃけ、中学二年生の時のスピーチ大会なんて目じゃないぐらいに。
十六年と半年ぐらいの間生きて来たけど、こんなにどうすればいいか困った事はない。頼むから教えて下さい、いや教えやがれ……って無理だな、動けないからスマホが出せない。
えー、それと言うのも。
「なんでコイツ、呑気に寝てんのかなぁ……」
俺の好きな人であり一学年下の後輩、[漢字]風早[/漢字][ふりがな]かぜはや[/ふりがな] [漢字]春香[/漢字][ふりがな]はるか[/ふりがな]が、よりにもよって俺の真横で、すやすやと呑気に寝ているからだ。
「ん゛ー……」
あー、クッソ可愛いかよ。
って違うだろ。もう駅近いんだよなぁ。
あのさぁ。
いくら学校帰りで疲れてるとは言えさぁ。
一緒に帰ろうとか誘っといた本人が、呑気に寝てるって何?
しかも、肩にもたれかかって。
自由人かよ。
……いや、自由人だったな。知ってた。
付き合ってもない相手にこれってコイツ、ホントに恋愛回路的なモンが死んでるな。
あ、なんかむにゃむにゃ言ってる。可愛い。
…いや待って何?この状況ホント何なの??バグなの???
神様、いくら俺でもさすがにここまでしてくれなんて祈ってない。確かにもうちょいこう、ただの幼馴染のお兄さんから脱却したい的なコトは願ったけど。
でもここまで行っちゃうとこう、どうすればいいのかちっとも分からないんだが。
とりあえずなんか良い匂いして辛いから肩にもたれかからないでほしい…ってあーあーダメだこりゃ完全に寝てるよコイツ。下手に身動きしたら、膝まで倒れ込まれかねない。
できれば起こさないようにしてやりたいけど……
起こさないとマズい。主に俺が。
あと、正直に言うと結構肩もキツい。いくら好きな人だからと言って、重さまで喜べるようなMじゃないぞ俺は。
「おーい、起きろー…生きてっかー?」
「…るせぇ……」
おいおい、シンプル口が悪いなコイツ。いや、昔からそうだし全然知ってたけど。
あーもーなんで俺、コイツ好きになっちゃったんだろ。
家近いから保育園から小中まで一緒なのは当たり前でも、高校は別に合わせた訳じゃないんだけどな。
……いや嘘、ちょっと偏差値下げてコイツならここ行きそうかなって思った学力帯から選びました。しかも、コイツがやってる吹奏楽部が割とデカい所を。
いや、うん。進学率も良かったしさ、確実に受かれる方がいいじゃん?それに、俺がやってる軽音部もデカいんだよ。だから、コイツが100%の理由ってワケじゃ…ワケ……じゃ………
……うん。ここでどっちかに言い切れないヘタレな自分が割と嫌いだよ、俺は。
まぁそんなワケで、実は学校の勉強はあんまり辛くない。それでも眠いのは単純に、電話越しにコイツの勉強に付き合っていたからだ。
でも生憎と、今の俺は寝てらんない。なぜかっつーとコイツも連れてあと二駅で降りなきゃいけないからだ。
「……いや起きろって、デコピンすんぞ。」
あれ、俺普段コイツとどうやって話してたっけ。もう嫌だ、本格的にワケ分かんなくなって来たんだが。
「やめろし……起きるから……」
「いや起きてないし、頭どけろって。」
「ん゛ー……うるさ……」
あーあー起きる気配ないよコイツ。返事だけして寝やがったよ。こっちの気も知らず呑気にスヤァしてんじゃないよ馬鹿。
はい、そうこうしてる内にあと一駅でーす。どう見ても起きる気配はありませーん、お疲れ様ですごりんじゅー。
……馬鹿なのか。いや疑問系付けるまでもなく馬鹿だな俺。
相も変わらずガタンゴトンと、静かに電車は揺れている。まるで、コイツのための揺籠みたいだ。
この揺れがコイツを眠りに誘っている原因の一つだと思うと、恨めしいけどありがたい。でもやっぱり腹立たしくて、心地良くて。あーもう、ワケわかんねぇな。
ぐちゃぐちゃに掻き回された感情の中、目の前でただ吊り革が揺れている。
窓の向こうには紺が混ざった茜空、ほのかに差した西日が金色の雲越しに薄ぼんやりと揺れていて。
それがあまりにも柔らかくてあったかいから、神様とやらにも応援されてるんだろうか、なんて不覚にも考えてしまった。
ま、もしもそうならもうとっくのとうに俺の想いも上手く伝わってるんだろうし、むしろ気まぐれって奴なのかな。
見慣れた景色、見慣れた色、見慣れた街。
なのに普段より景色が悪く見えるのは、色がくすんで見えるのは、街が汚れて見えるのは、曇り空のせいだけじゃない。
きっと、唯一無二の比較対象がいるからだ。
少女漫画だかなんだかで、「恋をすると世界が綺麗に見える」、なんて言葉があるらしい。けど俺には到底、そうは思えなかった。
まぁ、コイツに対する感情が本当に恋なのかは俺にも分からない。
適当に連むような相手はいても、なんでも打ち明けられるような親友とでも言うべき相手はいた事がないし、好きな人だってコイツ以外では小学生の時の初恋以来いた事がない。
結局何が言いたいのかって言うと、親愛レベルマックスを恋とごっちゃにしてる可能性だって全然あるって話。
「気づいたら目で追っている」…ただそれだけを、果たして恋と呼んでいいものか。
あーあ、俺も大概イカれてんな。
けどコイツは多分、俺に“カレシ”なんてジョブをハナっから求めちゃいない。
俺だって、わやわやな感情のままコイツに“カノジョ”ってジョブを押し付けられるほどの勇気があるワケじゃない。
だから、「俺たちは多分一生このまま変わらないんだ」、と、心のどこかで諦めていた。
その方が辛くないし、頭のいいやり方だから。
あれ、これ……俺も寝てたって事にすれば、もう少しコイツと一緒にいられるって事になるのかな。
降りるハズの駅乗り過ごして、次かその次ぐらいで降りて……で、二人して「やらかしたな」ってホームで笑うんだ。
そんな日常を、捨てる勇気はまだ持てない。
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