静かなイーグルジャンプのオフィス。夕方の陽射しがカーテンの隙間から差し込み、机の上に柔らかな光を投げかけていた。ほとんどの社員が帰宅した後、滝本ひふみは一人、モニターとにらめっこしていた。目の前のキャラクターデザインの線画が、どうにも気に入らない。
「うぅ…この目の角度、なんか…変、かな…」ひふみは小さく呟き、鉛筆を握りしめる。だが、集中が途切れ、ちらりと視線を隣の席へ。そこには、いつも落ち着いた微笑みを浮かべる遠山りんが、書類を整理しながら座っていた。
「ひふみちゃん、まだ残ってるの？ 真面目ねぇ、感心しちゃうわ。」りんが柔らかく笑いながら声をかける。その声に、ひふみはビクッと肩を震わせた。
「り、りんちゃん…！ え、っと、その…まだ、ちょっと…デザインが…」ひふみは目を泳がせ、顔を赤らめながら言葉を詰まらせる。りんと話すのは好きだけど、こうやって急に話しかけられると、頭が真っ白になってしまうのだ。
りんはそんなひふみの様子を見て、くすっと笑う。「ふふ、ひふみちゃんったら、相変わらず可愛い反応ね。ほら、ちょっと休憩しない？ 実はね、私、秘密のおやつを持ってるのよ。」りんはそう言うと、バッグから小さな紙袋を取り出した。中から現れたのは、色とりどりのマカロンだった。
「ま、マカロン…！？」ひふみの目がキラリと光る。彼女のスイーツ好きは、社内でもちょっとした話題だ。だが、すぐに恥ずかしさが勝り、俯いてしまう。「…りんちゃん、いつも…気、遣ってくれて…ありがとう…」
「もう、ひふみちゃんったら、気にしないでいいのよ。ほら、どれがいい？ このピスタチオ、すっごく美味しいんだから。」りんはマカロンを一つ手に取り、ひふみに差し出す。その仕草は、まるで子猫にエサをあげるような優しさだった。
ひふみはモジモジしながら、そっとピスタチオのマカロンを受け取る。「…じゃ、じゃあ…これ…」小さな声で呟き、口に運ぶ。サクッとした食感と、濃厚な甘さが広がり、ひふみの表情がふわっと緩んだ。「…お、おいしい…！」
「でしょ？ やっぱりひふみちゃんの『美味しい顔』、最高に癒されるわ。」りんは頬杖をつき、にこにこしながらひふみを見つめる。その視線に、ひふみはまたしても真っ赤になってしまう。
「り、りんちゃん…！ そ、そういうこと…言うの、ずるい…よ…」ひふみは両手で顔を覆い、机に突っ伏す。心臓がドキドキして、仕事の疲れなんて吹き飛んでしまいそうだった。
りんはそんなひふみを眺めながら、楽しそうに笑う。「ふふ、ひふみちゃん、ホントに可愛いんだから。ね、たまにはこうやって二人でゆっくりおやつタイム、いいと思わない？」
ひふみは顔を上げ、こくこくと小さく頷く。「…う、うん…りんちゃんと…こうやってると…安心、する…」その言葉は、ひふみにとっては精一杯の気持ちの表現だった。
「なら、決まりね！ また美味しいおやつ、探してくるわよ。」りんはウィンクして、マカロンをもう一つ手に取る。二人の小さな笑い声が、オフィスの静かな夕暮れに響いた。