完全読み切り恋愛短編集
side 嶺
「.....恋、したかもしれないんだ。」
「........は?」
幼馴染兼親友のあらたに漏らしたその言葉は、あらたの顔を見事に歪めた。
「お前...本当に[漢字]嶺[/漢字][ふりがな]れい[/ふりがな]か?」
「嶺だよ」とぶっきらぼうに返事を返した後、俺は再度あらたの机に腕をたてけかける。
さっきから目の瞳孔が開きっぱなしのあらただが、俺はそんなものには気も留めず言葉を続けた。
「この前俺、足折ったんだよ。体育館裏で誰も来ねえようなところで1人で派手にずっこけてさ。」
「あ...ああ、バスケ部のくせに足折って試合出してもらえなかったってやつか。」
あらたは体制を立て直しながら、余計な一言を加えてそう言った。
...俺はそれを聞かなかった事にして、俺が彼女に惚れ込んだ経緯の説明を続ける。
「そしたら後ろから、『大丈夫ですか?』って声かけられて。いつもならテキトーに無視するんだけど、その声がなんていうか、すげー好きでさ。振り返ったら天使がいた。」
マジであれは、運命だと思う。
めったに人が来ない上に、しげみだらけで歩きにくい場所にも関わらずどうして彼女がいたのかはわからないが....
それでも、名前も知らない彼女に俺は相当惚れ込んでしまっている事を自覚している。
あらたの反応を確認しようと視線をうつすと、あらたは心底俺をドン引きするかのようにして頭を抱えていた。
...まあ無理もない、今まで散々口を開けばバスケバスケだったやつが急に好きな女を始めたのだから、そのくらいの反応は許容範囲だ。
「.....その人、誰なの?」
一応気にはしてくれているのか、あらたはそう問いてきた。
「それが、わからない。」
「......は?お前何言ってんの?」
「だから、わからないんだ。」
そう。俺はあの時、致命的なミスをしてしまった。
『大丈夫ですか?』と言った後彼女は俺の足を軽くテーピングして、すぐさま去っていってしまったから。
「名前は?」その一言さえも発せないほど、俺はその時切羽詰まっていた。
「....特徴教えてよ。探すくらいならしてやる。」
「え?い、いいのか!?」
「いいよ。むしろ俺にそれを頼みたくて話してきたんでしょ、どーせ。」
大当たりだ。人探しには、人が多ければ多いほどいいからな。
あらた以外に友達のいない俺は、勝手にあらただけで百人力だと思っていた。
「そうだな...眼鏡の黒髪で、2つに結んでいる。身長は俺よりちっちゃくて...」
俺がまだらまだらに特徴を言うと、あらたは「あー」と言いながら、何か心当たりがあるのかすぐさまスマホを取り出す。
そしてまだたいした特徴を言っていないにも関わらず「こいつじゃね」と俺にスマホを見せつけてきた。
「......び、ビンゴだ...!!」
間違いない、この俺が見間違えるはずがない。
肩くらいにキレイに切り揃えられた漆黒の黒髪で、大縁の眼鏡のせいか異常に小さく見えてしまう顔。小柄で...きっと控えめな性格で、隣にうつっているやつにピースのポーズがかぶらないように配慮しながら小さくポーズをとっている。
ああ、好きだ.....
「でもまあ[漢字]増田[/漢字][ふりがな]ますだ[/ふりがな]先輩と仲良い人って意味で、校内では割と有名だよ。」
そうなのか...?ほぼあらたの言葉が入ってこなかったが、『有名』という単語だけは聞き取れた。
でも有名だという事は、俺以外のやつにも彼女の良さを分かっているやつが大勢いるという事。
彼女の良さは、俺だけが分かればいい....
....って、そういえばどうしてあらたは彼女を写真を持っているんだ?
「...違うからな、俺の委員の先輩の...増田先輩のLINEのアイコンがそれなだけだからな。」
「あー、なるほどな....で?あらた、彼女の名前は何ていうんだ?」
別にもうあらたが写真を持っている経緯なんてどうでもよかった。
今はただ、早く彼女の名が知りたい。
あらたはなんだっけなーと口をつむがせたあと、はっと思い出したようにその名を呼んだ。
「[漢字]新城[/漢字][ふりがな]しんじょう[/ふりがな]、[漢字]奈子[/漢字][ふりがな]なこ[/ふりがな]...だったっけな?」
俺は込み上げる嬉しさのまま、思いっきりあらたの肩に腕をまわした。
そして同時に、自分はここまで口角が上がったのかというほどニヤけた顔をしている事実すらもどうでもよくなってしまった。
奈子....新城奈子.....今すぐ会いたい、俺が呼ぶ名で君を振り向かせたい。
「1つ上の先輩だけどな。」
俺が1人勝手に舞い上がっていると、あらたは流すようにとんでもない事実を告げた。
.......ひとつ、上.....?
俺が、年下だという事か...!?
いや、年齢なんて関係ない。俺が惚れたのは奈子だ。奈子以外の誰でもない。
それに、あらたの委員の先輩とやらのアイコンが奈子との写真だったものにも納得できる。という事は...情報収集に期待できるな。
年齢なんて関係ない。奈子は絶対______俺のものにする。
[水平線]
side 奈子
大きい縁の眼鏡のせいか、やけに狭く感じる視界。
わたしの視力は2.0と、割と良いほうだ。それなのに、どうして眼鏡をかけているかって?それは.....
「奈子ちゃん、きーてる?眼鏡してなくても、ことが男の子から奈子ちゃんをまもってあげるからさ!」
満面の笑みでそう言うお友達の[漢字]琴葉[/漢字][ふりがな]ことは[/ふりがな]ちゃん。
相変わらずかわいいなあと思いながら、「大丈夫だよ」と微笑んで返した。
そう、わたしが眼鏡をかけている理由。それは主に小学生時代の男の子に原因があった。
何も気に障るような事はしていないはずなのに無駄に嫌がらせしてくる男の子。
わたしの何が悪いのかな?何を直せばいいのかな?もちろんそんな事を聞けるわけがないので黙っていたけれど、ヒートアップする嫌がらせに限界を感じる日々だった事を覚えている。
そんな時に、眼鏡と出会った。お父さんの引き出しから、勝手に取り出した縁の大きい眼鏡。
それを身につけるとなぜかとてつもない安心感に包まれた事を、今でもよく覚えている。
翌日からはもう、嫌がらせも落ち着いたし本当に眼鏡が手放せなくなってしまって...という具合に、今の状況が完成してしまっていた。
「髪の毛も...せっかくとてもきれいなのに!」
琴葉ちゃんは「もー!」と口をふくらませてわたしの顔をじいっと見つめる。
今はウィッグでなんとかごまかしているけど、実はわたしの髪色は生まれつき、白に近いプラチナブランドの髪色。
わたしはお母さんがスェーデン人でお父さんが日本人のハーフで、お母さんの遺伝子を受け継ぎすぎてしまったのかほぼ白の髪色に生まれてしまったのだ。
...の割に、顔はお父さんによく似た純日本人顔だから、よく「染めてるの?」なんて聞かれてしまって、それが苦痛の1つだったから、中学に上がると同時にウィッグへと路線変更をした。
琴葉ちゃんにも、お泊まり会をした時にバレてしまって...その時はすごく焦ったけど、ちゃんと受け入れてくれて「きれい」なんてお世辞も言ってくれるから、今は案外気に入っている。
「琴葉ちゃんは、お世辞が上手だね。次理科室に移動だから...一緒に行こうか。」
わたしはにこりと微笑んで、琴葉ちゃんと一緒に理科室へ移動した。
教室を出て、2階へ向かう階段に続く廊下を歩いていく。
その時だった。
「え......」
曲がり角で、突如誰かとぶつかったかと思えば頭上から降り注がれる間投詞の言葉。
「すみませんっ...」と謝り、反射的に上を向くと、わたしよりも随分と身長の高い男の人がいた。それも、とても顔が整った人で。
「な、こ......?」
...え?今、わたしのこと.....
「あれーっ、あっくんだー!」
「げ...増田先輩......」
ぶつかった人に視線を奪われていて気が付かなかったけど、ぶつかった人の隣には同じく身長の高いまた別の男の人がいた。
琴葉ちゃんから聞いたことのある、「あっくん」という単語。一度フルネームを聞いた事があり、確か藤あらた...さんだったと思う。
委員の後輩くんと聞いた事はあったけど...後輩には到底見えないくらいに背が高い。
「どうしたのー、あっくん!」
「いや、こいつが行くって聞かなくて....」
「やべっ」と言って、口を塞いだ藤くん。
かと思えば急に視線の方向を変えるので、その後を追ってみると、もう1人の男の人の瞳と一致した。
「あらた......」
「...睨むな、悪かった。でもお前そのつもりで来たんだろ。」
「.....今言うべきなのか?」
「言うならさっさとしろよ。」
頭上で繰り返される、主語のない会話。
一体、どういう事だろうっ.....
疑問に思っていると、もう1人の男の人がわたしに向けた真っ直ぐな視線を送ってきた。
「俺、[漢字]石堂[/漢字][ふりがな]いしどう[/ふりがな]嶺って言います。」
「えっ....?あ、えっと、わたしは新城奈子ですっ...」
「......知ってる」
ん...?今何か言ったような...
「あ、あの....」
「あ、す、すまない、怖がらせたいわけじゃない...!...です」
何をそんなに焦っているのか、さっきまで固めていてた暗めの雰囲気がころっと変わった。
案外、怖い人じゃないのかな...?
「今日はその、な...じゃなくて、新城先輩に伝えたい事があって。」
え...わたしに?
わたしと彼は、初対面のはず。何か知らないところで話したりしていたのかもしれないけど...こんなにかっこいい人の事、忘れるはずがないもん。
「____好きです」
「.........えっ...!?」
一瞬何を言われているのか理解できなかった。
それ、本当にわたし?
「あの、多分人違いで....こっちの琴葉ちゃんの方じゃ...」
「人違いなんかじゃない!...他の誰でもない、新城先輩です。」
う、うそ....
でも、わたしと石堂くんは全く関わりがなかったはず。なのにどうして....
「...急に言われても、困るって感じですよね。年下だし。」
「そ、そんな...!」
本人は年齢の事を気にしているのか、シュンと視線を下げてしまった。
わたしは年齢の事なんて、言われてから気づいたようなものなのに。
「でも俺、先輩が優しい事知ってるんで。」
なぜだろう_____瞳の奥を、見透かされた感じがした。
きっとこの人は、わたし自身を見てくれている。
見た目がこんなに本当の自分じゃないわたしを...内側から愛してくれている。そんな感じがした。
「あの、よかったら今日一緒に帰りませんか。俺の事知ってほしいし...あ、もちろんそこの先輩も一緒で大丈夫なので。」
真っ黒の髪の毛に、赤い瞳。
じいっとこちらを見つめてくる石堂くんが...なんだか少し、気になってしまった。
それにわたしも、こんなわたしを少しでも好きになってくれた彼の事を知りたい。
_______そう強く願っている自分がいる事に、わたし自身は気がつく由もなかった。
「い、いえっ...わたしも、石堂くんの事、知りたいですっ...」
男の子が苦手だから基本話さないせいで、何か変な事を言ってしまっているかもしれない。
でもわたしは、彼にこの声を届けたい。だって彼ならきっと、聞いてくれるから。
「なので、ふ、2人で...帰ってくれませんか....?」
「信じられない」とでも言いたげな、ぽかんとした表情を浮かべる石堂くん。
隣には同じく...いやそれ以上に驚いている藤くんと、「あっくん?どーしたの?」と藤くんの肩をさする琴葉ちゃん。
数秒してから怖くなって石堂くんの方へ視線をうつすと、今度はさっきと対象的な、やわらかい笑みを浮かべていた。
「...放課後、迎えに行きます。」
そう言って、石堂くんと藤くんは足早にその場を去る。
こんなに放課後が楽しみなのは、わたしにとって生まれて初めての事だった。
新城奈子、高校1年生にして、初めての恋をするかもしれませんっ。
「.....恋、したかもしれないんだ。」
「........は?」
幼馴染兼親友のあらたに漏らしたその言葉は、あらたの顔を見事に歪めた。
「お前...本当に[漢字]嶺[/漢字][ふりがな]れい[/ふりがな]か?」
「嶺だよ」とぶっきらぼうに返事を返した後、俺は再度あらたの机に腕をたてけかける。
さっきから目の瞳孔が開きっぱなしのあらただが、俺はそんなものには気も留めず言葉を続けた。
「この前俺、足折ったんだよ。体育館裏で誰も来ねえようなところで1人で派手にずっこけてさ。」
「あ...ああ、バスケ部のくせに足折って試合出してもらえなかったってやつか。」
あらたは体制を立て直しながら、余計な一言を加えてそう言った。
...俺はそれを聞かなかった事にして、俺が彼女に惚れ込んだ経緯の説明を続ける。
「そしたら後ろから、『大丈夫ですか?』って声かけられて。いつもならテキトーに無視するんだけど、その声がなんていうか、すげー好きでさ。振り返ったら天使がいた。」
マジであれは、運命だと思う。
めったに人が来ない上に、しげみだらけで歩きにくい場所にも関わらずどうして彼女がいたのかはわからないが....
それでも、名前も知らない彼女に俺は相当惚れ込んでしまっている事を自覚している。
あらたの反応を確認しようと視線をうつすと、あらたは心底俺をドン引きするかのようにして頭を抱えていた。
...まあ無理もない、今まで散々口を開けばバスケバスケだったやつが急に好きな女を始めたのだから、そのくらいの反応は許容範囲だ。
「.....その人、誰なの?」
一応気にはしてくれているのか、あらたはそう問いてきた。
「それが、わからない。」
「......は?お前何言ってんの?」
「だから、わからないんだ。」
そう。俺はあの時、致命的なミスをしてしまった。
『大丈夫ですか?』と言った後彼女は俺の足を軽くテーピングして、すぐさま去っていってしまったから。
「名前は?」その一言さえも発せないほど、俺はその時切羽詰まっていた。
「....特徴教えてよ。探すくらいならしてやる。」
「え?い、いいのか!?」
「いいよ。むしろ俺にそれを頼みたくて話してきたんでしょ、どーせ。」
大当たりだ。人探しには、人が多ければ多いほどいいからな。
あらた以外に友達のいない俺は、勝手にあらただけで百人力だと思っていた。
「そうだな...眼鏡の黒髪で、2つに結んでいる。身長は俺よりちっちゃくて...」
俺がまだらまだらに特徴を言うと、あらたは「あー」と言いながら、何か心当たりがあるのかすぐさまスマホを取り出す。
そしてまだたいした特徴を言っていないにも関わらず「こいつじゃね」と俺にスマホを見せつけてきた。
「......び、ビンゴだ...!!」
間違いない、この俺が見間違えるはずがない。
肩くらいにキレイに切り揃えられた漆黒の黒髪で、大縁の眼鏡のせいか異常に小さく見えてしまう顔。小柄で...きっと控えめな性格で、隣にうつっているやつにピースのポーズがかぶらないように配慮しながら小さくポーズをとっている。
ああ、好きだ.....
「でもまあ[漢字]増田[/漢字][ふりがな]ますだ[/ふりがな]先輩と仲良い人って意味で、校内では割と有名だよ。」
そうなのか...?ほぼあらたの言葉が入ってこなかったが、『有名』という単語だけは聞き取れた。
でも有名だという事は、俺以外のやつにも彼女の良さを分かっているやつが大勢いるという事。
彼女の良さは、俺だけが分かればいい....
....って、そういえばどうしてあらたは彼女を写真を持っているんだ?
「...違うからな、俺の委員の先輩の...増田先輩のLINEのアイコンがそれなだけだからな。」
「あー、なるほどな....で?あらた、彼女の名前は何ていうんだ?」
別にもうあらたが写真を持っている経緯なんてどうでもよかった。
今はただ、早く彼女の名が知りたい。
あらたはなんだっけなーと口をつむがせたあと、はっと思い出したようにその名を呼んだ。
「[漢字]新城[/漢字][ふりがな]しんじょう[/ふりがな]、[漢字]奈子[/漢字][ふりがな]なこ[/ふりがな]...だったっけな?」
俺は込み上げる嬉しさのまま、思いっきりあらたの肩に腕をまわした。
そして同時に、自分はここまで口角が上がったのかというほどニヤけた顔をしている事実すらもどうでもよくなってしまった。
奈子....新城奈子.....今すぐ会いたい、俺が呼ぶ名で君を振り向かせたい。
「1つ上の先輩だけどな。」
俺が1人勝手に舞い上がっていると、あらたは流すようにとんでもない事実を告げた。
.......ひとつ、上.....?
俺が、年下だという事か...!?
いや、年齢なんて関係ない。俺が惚れたのは奈子だ。奈子以外の誰でもない。
それに、あらたの委員の先輩とやらのアイコンが奈子との写真だったものにも納得できる。という事は...情報収集に期待できるな。
年齢なんて関係ない。奈子は絶対______俺のものにする。
[水平線]
side 奈子
大きい縁の眼鏡のせいか、やけに狭く感じる視界。
わたしの視力は2.0と、割と良いほうだ。それなのに、どうして眼鏡をかけているかって?それは.....
「奈子ちゃん、きーてる?眼鏡してなくても、ことが男の子から奈子ちゃんをまもってあげるからさ!」
満面の笑みでそう言うお友達の[漢字]琴葉[/漢字][ふりがな]ことは[/ふりがな]ちゃん。
相変わらずかわいいなあと思いながら、「大丈夫だよ」と微笑んで返した。
そう、わたしが眼鏡をかけている理由。それは主に小学生時代の男の子に原因があった。
何も気に障るような事はしていないはずなのに無駄に嫌がらせしてくる男の子。
わたしの何が悪いのかな?何を直せばいいのかな?もちろんそんな事を聞けるわけがないので黙っていたけれど、ヒートアップする嫌がらせに限界を感じる日々だった事を覚えている。
そんな時に、眼鏡と出会った。お父さんの引き出しから、勝手に取り出した縁の大きい眼鏡。
それを身につけるとなぜかとてつもない安心感に包まれた事を、今でもよく覚えている。
翌日からはもう、嫌がらせも落ち着いたし本当に眼鏡が手放せなくなってしまって...という具合に、今の状況が完成してしまっていた。
「髪の毛も...せっかくとてもきれいなのに!」
琴葉ちゃんは「もー!」と口をふくらませてわたしの顔をじいっと見つめる。
今はウィッグでなんとかごまかしているけど、実はわたしの髪色は生まれつき、白に近いプラチナブランドの髪色。
わたしはお母さんがスェーデン人でお父さんが日本人のハーフで、お母さんの遺伝子を受け継ぎすぎてしまったのかほぼ白の髪色に生まれてしまったのだ。
...の割に、顔はお父さんによく似た純日本人顔だから、よく「染めてるの?」なんて聞かれてしまって、それが苦痛の1つだったから、中学に上がると同時にウィッグへと路線変更をした。
琴葉ちゃんにも、お泊まり会をした時にバレてしまって...その時はすごく焦ったけど、ちゃんと受け入れてくれて「きれい」なんてお世辞も言ってくれるから、今は案外気に入っている。
「琴葉ちゃんは、お世辞が上手だね。次理科室に移動だから...一緒に行こうか。」
わたしはにこりと微笑んで、琴葉ちゃんと一緒に理科室へ移動した。
教室を出て、2階へ向かう階段に続く廊下を歩いていく。
その時だった。
「え......」
曲がり角で、突如誰かとぶつかったかと思えば頭上から降り注がれる間投詞の言葉。
「すみませんっ...」と謝り、反射的に上を向くと、わたしよりも随分と身長の高い男の人がいた。それも、とても顔が整った人で。
「な、こ......?」
...え?今、わたしのこと.....
「あれーっ、あっくんだー!」
「げ...増田先輩......」
ぶつかった人に視線を奪われていて気が付かなかったけど、ぶつかった人の隣には同じく身長の高いまた別の男の人がいた。
琴葉ちゃんから聞いたことのある、「あっくん」という単語。一度フルネームを聞いた事があり、確か藤あらた...さんだったと思う。
委員の後輩くんと聞いた事はあったけど...後輩には到底見えないくらいに背が高い。
「どうしたのー、あっくん!」
「いや、こいつが行くって聞かなくて....」
「やべっ」と言って、口を塞いだ藤くん。
かと思えば急に視線の方向を変えるので、その後を追ってみると、もう1人の男の人の瞳と一致した。
「あらた......」
「...睨むな、悪かった。でもお前そのつもりで来たんだろ。」
「.....今言うべきなのか?」
「言うならさっさとしろよ。」
頭上で繰り返される、主語のない会話。
一体、どういう事だろうっ.....
疑問に思っていると、もう1人の男の人がわたしに向けた真っ直ぐな視線を送ってきた。
「俺、[漢字]石堂[/漢字][ふりがな]いしどう[/ふりがな]嶺って言います。」
「えっ....?あ、えっと、わたしは新城奈子ですっ...」
「......知ってる」
ん...?今何か言ったような...
「あ、あの....」
「あ、す、すまない、怖がらせたいわけじゃない...!...です」
何をそんなに焦っているのか、さっきまで固めていてた暗めの雰囲気がころっと変わった。
案外、怖い人じゃないのかな...?
「今日はその、な...じゃなくて、新城先輩に伝えたい事があって。」
え...わたしに?
わたしと彼は、初対面のはず。何か知らないところで話したりしていたのかもしれないけど...こんなにかっこいい人の事、忘れるはずがないもん。
「____好きです」
「.........えっ...!?」
一瞬何を言われているのか理解できなかった。
それ、本当にわたし?
「あの、多分人違いで....こっちの琴葉ちゃんの方じゃ...」
「人違いなんかじゃない!...他の誰でもない、新城先輩です。」
う、うそ....
でも、わたしと石堂くんは全く関わりがなかったはず。なのにどうして....
「...急に言われても、困るって感じですよね。年下だし。」
「そ、そんな...!」
本人は年齢の事を気にしているのか、シュンと視線を下げてしまった。
わたしは年齢の事なんて、言われてから気づいたようなものなのに。
「でも俺、先輩が優しい事知ってるんで。」
なぜだろう_____瞳の奥を、見透かされた感じがした。
きっとこの人は、わたし自身を見てくれている。
見た目がこんなに本当の自分じゃないわたしを...内側から愛してくれている。そんな感じがした。
「あの、よかったら今日一緒に帰りませんか。俺の事知ってほしいし...あ、もちろんそこの先輩も一緒で大丈夫なので。」
真っ黒の髪の毛に、赤い瞳。
じいっとこちらを見つめてくる石堂くんが...なんだか少し、気になってしまった。
それにわたしも、こんなわたしを少しでも好きになってくれた彼の事を知りたい。
_______そう強く願っている自分がいる事に、わたし自身は気がつく由もなかった。
「い、いえっ...わたしも、石堂くんの事、知りたいですっ...」
男の子が苦手だから基本話さないせいで、何か変な事を言ってしまっているかもしれない。
でもわたしは、彼にこの声を届けたい。だって彼ならきっと、聞いてくれるから。
「なので、ふ、2人で...帰ってくれませんか....?」
「信じられない」とでも言いたげな、ぽかんとした表情を浮かべる石堂くん。
隣には同じく...いやそれ以上に驚いている藤くんと、「あっくん?どーしたの?」と藤くんの肩をさする琴葉ちゃん。
数秒してから怖くなって石堂くんの方へ視線をうつすと、今度はさっきと対象的な、やわらかい笑みを浮かべていた。
「...放課後、迎えに行きます。」
そう言って、石堂くんと藤くんは足早にその場を去る。
こんなに放課後が楽しみなのは、わたしにとって生まれて初めての事だった。
新城奈子、高校1年生にして、初めての恋をするかもしれませんっ。