完全読み切り恋愛短編集
【恋愛要素激薄(てかほぼない)です!】
(13話を読んでからの方が楽しめるかも?)
わたしには、妹がいた。
それはもう可愛くて可愛くて、まるで世界の「かわいい」をすべて詰め込んだかのような存在だった。
愛しくてたまらなかったし、わたしが渡韓するまで毎日これでもかってくらいに甘やかしていたし。
でもその存在は、一瞬にして奪われてしまって。
もっと早く[漢字]杏[/漢字][ふりがな]あん[/ふりがな]の異変に気づけていれば...何度そう思ったか。
杏がいなくなってしまってから、もう2ヶ月は経った。
わたしは韓国の大手事務所に所属するアイドル、YUZU。
だけど、杏の死の知らせを聞いて1日も経たずに日本へ戻ってきた。
それと同時にグループ活動での活動休止も明記し、しばらくは家で療養するつもり。
わたしにとって、杏という存在がどれほど大きかったのか。
杏という存在が、どれほど大切だったのか。
改めて再確認した。でもそれは、最悪の確認方法。
もう本当に立ち直れそうにない。
アイドル活動も再開できるか分からないし、このまま実家に引きこもり続けるという未来も十分見える。
すると、部屋の扉がノックとともに開いた。
「柚。[漢字]倫[/漢字][ふりがな]りん[/ふりがな]くんが来てるわ。」
「え...倫くん?」
倫くんとは、杏が当時仲の良かった友達。
....なのかな、もう2人はほとんど相思相愛に見えたし、実質は付き合っていたのかも。
そんなことを考えながら、わたしは倫くんの前に顔を出した。
「あ...柚さん、お久しぶりです。」
うん、と会釈をして、倫くんの前の席へ座る。
菓子折りのようなものを差し出してくれて、倫くんは深く頭を下げた。
「今日は、お話があって。」
倫くんはそう言って、手際よくスマホを操作して、わたしに画面を見せてくれる。
それは、わたしのよく知った...というか、わたしの所属する事務所のロゴだった。
でもそれだけではなく、何か下に詳細が書かれている。
「このオーディションを、受けることになったんです。」
よく見るとそこには、『韓国最大級!サバイバルオーディション番組近日公開』と書かれていた。
しかも、わたしの所属する事務所のロゴ付きで。
え....一体、なにこれ。
「え...これ、何?わたしの事務所が主催するの?」
「...はい。丁度柚さんが日本に帰ってきたタイミングで公開された情報だったので、柚さんは初耳ですよね。」
待って、倫くんさっきこのオーディションを受けることになった、って言ったよね?
確かに倫くんは、怖いくらいに整った容姿をしている。それに歌もピカイチだと、以前杏と通話した時に聞いたことがある。
でもだからといって、それがアイドル活動と直結するかと言われればそういうわけではないのだ。
「もう最終選考も通過して...明日、渡韓予定です。」
「待って、なんでそんな...急すぎない?何かあった?」
そう言うと、倫くんは少し困ったように視線を下げる。
でもそれは一瞬で、倫くんはすぐにこちらに真っ直ぐな視線を送った。
「杏が俺に___音楽を辞めないでと言ってくれたから。」
その言葉に、わたしは何か喉に詰まるものを感じた。
『音楽を辞めないで』
[水平線]
15歳の頃韓国で合宿を行い、そこで中小事務所のアイドルとしてデビューすることになったわたし。
怒涛の出来事があったのは、その前のことだ。
『お姉ちゃん、そんなに泣かないで!』
合宿前の当時まだ中学3年生だったわたしは1人で韓国を渡ることに恐怖を覚えていて、空港での家族との別れ際に大泣きしてしまったことを思い出す。
『やっぱり合宿、行かない...アイドルも音楽も、やだ。韓国に行くのが怖い.....』
当時のわたしはそんなことをほざき、ここまでたくさん協力して準備してくれた家族を蔑ろにするようなことを言ってしまった。
でもわたしは本気だった。
『お姉ちゃん、そんなに泣いちゃだめだよ。お姉ちゃんは、未来の大スターなんだから!』
『無理だよ。やっぱりわたしにアイドルなんて、最初から無理だったんだ....』
渡韓が怖い。
それだけの理由でアイドルを諦める....音楽を辞めようとするわたしに、杏はこう言ったんだ。
『だめ!お姉ちゃんは絶対絶対、諦めちゃだめだよ!アイドルを諦めちゃだめ、音楽を辞めちゃだめ!』
杏は昔から、音楽が好きだった。
ギターはもちろん、家にはトランペットとヴァイオリンもあり、さらに杏はドラムとフルートを習っている。
そしてわたしは気付いた。
こんなにも音楽を愛する杏の前では、アイドルや音楽を諦めるようなことを言ってはいけない。
いや、杏に音楽を楽しみアイドルとして活躍する自分の姿を見せなければならない...と。
『お姉ちゃん、頑張れー!』
飛行機の窓からは、大きく手を振る杏の姿が見えたような気がした。
[水平線]
「......ねえ、倫くん。」
そっか。そうだったね。
杏、思い出したよ。
「わたし、近うちに活動に復帰する。」
「え.....[漢字]Chou²[/漢字][ふりがな]シュシュ[/ふりがな]にですか?柚さんが...!?」
Chou²とは、わたしの所属するグループの名前。
シュシュは元々中小事務所のグループだったけど、ある時に爆発的にヒットした曲があり、それにより事務所は超大手になった。
以降はオーディションの開催も一切しなくなったけど...まさかこのタイミングでボーイズグループのオーディションを開催するなんて思わなかった。
「倫くんありがとう。.....わたしも、音楽を手放すようなこと、しちゃだめよね。目が覚めた。」
そう言うと、倫くんは少し驚いたような表情を浮かべる。
でもすぐにふわりとした笑みで、こちらに微笑みかけてくれた。
[水平線]
「1位は.......[漢字]京極[/漢字][ふりがな]きょうごく[/ふりがな][漢字]倫[/漢字][ふりがな]りん[/ふりがな]!」
オーディション最終日、最終順位発表式当日。
わたしは特別待遇として関係者席で式を見届けられることになり、倫くんの両親たちとともに最終日を迎えていた。
そして無事、倫くんはデビューを掴み取ったのだ。
1位という誇り高き順位で。
あの後はわたしは韓国へ戻り、2ヶ月の活動休止の空白期間を経て活動を再開した。
もしあのまま倫くんに気付かされることなく活動の復帰ができていなければ...そう考えると、恐ろしくてたまらない。
そしてふいに遠く離れた倫くんへ視線を移すと、何やら少し口が動いているのが分かった。
『ありがとう、杏』
そう言ってるように見えた。
倫くん。
あなたはこれから、韓国のボーイズトップアイドルになるの。
その覚悟は___ある?
.....ないわけないか。
だって倫くん。
あなたはこれからもきっと、杏に音楽を届け続けてくれるでしょう。
天にも届く素敵な歌声を、杏に届けてくれるでしょう。
だからわたしは、あなたに何度でも言うわ。
『音楽を辞めないで』
(13話を読んでからの方が楽しめるかも?)
わたしには、妹がいた。
それはもう可愛くて可愛くて、まるで世界の「かわいい」をすべて詰め込んだかのような存在だった。
愛しくてたまらなかったし、わたしが渡韓するまで毎日これでもかってくらいに甘やかしていたし。
でもその存在は、一瞬にして奪われてしまって。
もっと早く[漢字]杏[/漢字][ふりがな]あん[/ふりがな]の異変に気づけていれば...何度そう思ったか。
杏がいなくなってしまってから、もう2ヶ月は経った。
わたしは韓国の大手事務所に所属するアイドル、YUZU。
だけど、杏の死の知らせを聞いて1日も経たずに日本へ戻ってきた。
それと同時にグループ活動での活動休止も明記し、しばらくは家で療養するつもり。
わたしにとって、杏という存在がどれほど大きかったのか。
杏という存在が、どれほど大切だったのか。
改めて再確認した。でもそれは、最悪の確認方法。
もう本当に立ち直れそうにない。
アイドル活動も再開できるか分からないし、このまま実家に引きこもり続けるという未来も十分見える。
すると、部屋の扉がノックとともに開いた。
「柚。[漢字]倫[/漢字][ふりがな]りん[/ふりがな]くんが来てるわ。」
「え...倫くん?」
倫くんとは、杏が当時仲の良かった友達。
....なのかな、もう2人はほとんど相思相愛に見えたし、実質は付き合っていたのかも。
そんなことを考えながら、わたしは倫くんの前に顔を出した。
「あ...柚さん、お久しぶりです。」
うん、と会釈をして、倫くんの前の席へ座る。
菓子折りのようなものを差し出してくれて、倫くんは深く頭を下げた。
「今日は、お話があって。」
倫くんはそう言って、手際よくスマホを操作して、わたしに画面を見せてくれる。
それは、わたしのよく知った...というか、わたしの所属する事務所のロゴだった。
でもそれだけではなく、何か下に詳細が書かれている。
「このオーディションを、受けることになったんです。」
よく見るとそこには、『韓国最大級!サバイバルオーディション番組近日公開』と書かれていた。
しかも、わたしの所属する事務所のロゴ付きで。
え....一体、なにこれ。
「え...これ、何?わたしの事務所が主催するの?」
「...はい。丁度柚さんが日本に帰ってきたタイミングで公開された情報だったので、柚さんは初耳ですよね。」
待って、倫くんさっきこのオーディションを受けることになった、って言ったよね?
確かに倫くんは、怖いくらいに整った容姿をしている。それに歌もピカイチだと、以前杏と通話した時に聞いたことがある。
でもだからといって、それがアイドル活動と直結するかと言われればそういうわけではないのだ。
「もう最終選考も通過して...明日、渡韓予定です。」
「待って、なんでそんな...急すぎない?何かあった?」
そう言うと、倫くんは少し困ったように視線を下げる。
でもそれは一瞬で、倫くんはすぐにこちらに真っ直ぐな視線を送った。
「杏が俺に___音楽を辞めないでと言ってくれたから。」
その言葉に、わたしは何か喉に詰まるものを感じた。
『音楽を辞めないで』
[水平線]
15歳の頃韓国で合宿を行い、そこで中小事務所のアイドルとしてデビューすることになったわたし。
怒涛の出来事があったのは、その前のことだ。
『お姉ちゃん、そんなに泣かないで!』
合宿前の当時まだ中学3年生だったわたしは1人で韓国を渡ることに恐怖を覚えていて、空港での家族との別れ際に大泣きしてしまったことを思い出す。
『やっぱり合宿、行かない...アイドルも音楽も、やだ。韓国に行くのが怖い.....』
当時のわたしはそんなことをほざき、ここまでたくさん協力して準備してくれた家族を蔑ろにするようなことを言ってしまった。
でもわたしは本気だった。
『お姉ちゃん、そんなに泣いちゃだめだよ。お姉ちゃんは、未来の大スターなんだから!』
『無理だよ。やっぱりわたしにアイドルなんて、最初から無理だったんだ....』
渡韓が怖い。
それだけの理由でアイドルを諦める....音楽を辞めようとするわたしに、杏はこう言ったんだ。
『だめ!お姉ちゃんは絶対絶対、諦めちゃだめだよ!アイドルを諦めちゃだめ、音楽を辞めちゃだめ!』
杏は昔から、音楽が好きだった。
ギターはもちろん、家にはトランペットとヴァイオリンもあり、さらに杏はドラムとフルートを習っている。
そしてわたしは気付いた。
こんなにも音楽を愛する杏の前では、アイドルや音楽を諦めるようなことを言ってはいけない。
いや、杏に音楽を楽しみアイドルとして活躍する自分の姿を見せなければならない...と。
『お姉ちゃん、頑張れー!』
飛行機の窓からは、大きく手を振る杏の姿が見えたような気がした。
[水平線]
「......ねえ、倫くん。」
そっか。そうだったね。
杏、思い出したよ。
「わたし、近うちに活動に復帰する。」
「え.....[漢字]Chou²[/漢字][ふりがな]シュシュ[/ふりがな]にですか?柚さんが...!?」
Chou²とは、わたしの所属するグループの名前。
シュシュは元々中小事務所のグループだったけど、ある時に爆発的にヒットした曲があり、それにより事務所は超大手になった。
以降はオーディションの開催も一切しなくなったけど...まさかこのタイミングでボーイズグループのオーディションを開催するなんて思わなかった。
「倫くんありがとう。.....わたしも、音楽を手放すようなこと、しちゃだめよね。目が覚めた。」
そう言うと、倫くんは少し驚いたような表情を浮かべる。
でもすぐにふわりとした笑みで、こちらに微笑みかけてくれた。
[水平線]
「1位は.......[漢字]京極[/漢字][ふりがな]きょうごく[/ふりがな][漢字]倫[/漢字][ふりがな]りん[/ふりがな]!」
オーディション最終日、最終順位発表式当日。
わたしは特別待遇として関係者席で式を見届けられることになり、倫くんの両親たちとともに最終日を迎えていた。
そして無事、倫くんはデビューを掴み取ったのだ。
1位という誇り高き順位で。
あの後はわたしは韓国へ戻り、2ヶ月の活動休止の空白期間を経て活動を再開した。
もしあのまま倫くんに気付かされることなく活動の復帰ができていなければ...そう考えると、恐ろしくてたまらない。
そしてふいに遠く離れた倫くんへ視線を移すと、何やら少し口が動いているのが分かった。
『ありがとう、杏』
そう言ってるように見えた。
倫くん。
あなたはこれから、韓国のボーイズトップアイドルになるの。
その覚悟は___ある?
.....ないわけないか。
だって倫くん。
あなたはこれからもきっと、杏に音楽を届け続けてくれるでしょう。
天にも届く素敵な歌声を、杏に届けてくれるでしょう。
だからわたしは、あなたに何度でも言うわ。
『音楽を辞めないで』