完全読み切り恋愛短編集
※お目汚し失礼致します。
注意書きにも明記している通り本小説では同じキャラクターを使い回して話を制作しております。ですがその使い回しにも限界があるため、9話までに登場したカップル達のその後の様子を短くまとめた短編集を区切りとして10話毎に綴ります。11話以降は新キャラクター達で短編を構成していく予定です。よろしくお願い致します。
今回は1番最後のお話が普段投稿している小説レベル(には満たないかもだけど)に長いのでお時間がある際に読んで頂けると幸いです。
[水平線]
[太字]第1話◇卯月 胡桃(Uduki Kurumi)×風浦 春(Kazaura Syun)[/太字]
大学受験も終わり、安堵に包まれた2月上旬の教室。
もちろんわたしも例外なく無事受験する事ができてほっとしていた。
結果が届くのは1ヶ月以上先だから、本当に安心できるかはまた別の話なんだけどね...あはは...
「[漢字]胡桃[/漢字][ふりがな]くるみ[/ふりがな]ちゃん、4月から東京の大学に通うんだよね...」
そう言って、悲しそうに視線を下げる親友の[漢字]小冬[/漢字][ふりがな]こと[/ふりがな]ちゃん。
「...うん、受かってれば。でも、もう一生会えなくなるわけじゃないから、ね?」
「悲しいよ〜!」と言って抱きついてくる小冬ちゃんの頭を軽く撫でる。
肩くらいに短く切り揃えられた漆黒の小冬ちゃんの髪は、いつ見ても飽きないくらいに綺麗だ。
小冬ちゃんの魅力は正直並のものじゃなくて...なんだろう、アイドル級のかわいさを放っている。
しばらく2人でじゃれ合いを続けていると、後ろから声がかかった。
「胡桃、先生からのプリント」
その声の持ち主は、3年生に上がってすぐの頃からお付き合いしている風浦春くん。
すごくかっこよくて優しくて...好きだった人にフラれて本当に辛かった時、1番そばにいてくれた大好きな人。
「わざわざありがとうっ...」
未だに春くんと話すのは慣れておらず、どうしても変な緊張をしてしまう。
ついいつものクセで小冬ちゃんの後ろにひっそり身を隠すようにしてしまうけど、それを見かねた春くんがわたしの耳元で耳打ちした。
「同じ大学通えるの、すごい楽しみにしてるから」
それだけ言って、春くんは元いた友達の方へ戻っていってしまう。
そしてそれが小冬ちゃんの耳にも入っていたのか、興味津々に声を上げた。
「えっ...どういうこと?胡桃ちゃん風浦と同じ大学行くの...!?」
もう...小冬ちゃん声が大きいよー!
クラス中に驚きの声と視線を浴びる中、春くんだけがにやりとした笑みを浮かべていたのはまた別のお話___
[水平線]
[太字]第2話◇増田 琴葉(Masuda Kotoha)×真田 琉(Sanada Ryuu)[/太字]
「ことは...おい、起きろって....」
ことははどれだけ月日が経っても変わらないなと、つくづく思う。
俺が毎朝ことはを起こしに向かうけど、俺が起こしてもことはは一向に起きる気配がなく結局ことはの母さんの一言でばっちり目が覚めるという、なんとも俺が可哀想に見える構図。
「んー.....」
小さく声を発しながら、布団に埋もれていくことは。
相変わらずかわいい...
こんなにかわいい寝顔を無料で見られている俺は本当に幸せものだと改めて思った。
かわいすぎて、一生見てたい。
「琴葉ー!今日の朝ご飯はベーグルよー!」
1階から聞こえてくることはの母さんの声。
途端にことははガバっとベッドから起床し、俺のことなんて気にもとめずに階段をかけおりていった。
あーあ、残念...あと15分くらいなら寝ててもよかったのに。
マジでことは、食いもんの事になると目が星になるよな...
そういうところも好きだ、と思いながら、ことはの後を追うように1階に降りていった。
「琉くん今日もありがとう〜!ベーグル、食べていってちょうだいね」
ありがとうございます、と言って、ことはの隣の席につく。
ことは今俺の存在に気がついたのか、きょとんとした目でこちらを見つめてきた。
「あれ、りゅーちゃんいつからいたの?おはようっ、りゅーちゃん!」
そしてすぐ、太陽のような笑みを向けてきて。
寝顔ですら完全にキャパオーバーだったのに、そんな眩しいカオ向けられた俺は、完全にことはにロックオンされてしまった。
「.......はよ」
多分俺は、極度の「ツンデレ」というやつだ。
いや、好きなヤツにも正直な態度を取れないあたりもはやただの「ツン」でしかないのかもしれない。
あーーー、くそ...
「琉くん、四葉大に合格したって聞いたわよ。ふふっ、琴葉と一緒ね。」
「えっ、りゅーちゃん四葉なの?じゃああと1年したら同じがっこーに通えるねー!」
四葉校とは中学から大学までの一貫校で、この辺の学区的には一応トップの学校。
俺はもうずっと決めていたんだ、絶対に大学で四葉に入って琴葉と同じ学校に通うって。
まあでも琴葉は春から高3だし、もう少し待たないといけないけど。
「りゅーちゃん、たのしみだねー!」
そんな笑顔に魅せられながら、俺はベーグルを一口かじった。
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[太字]第3話◇三松 環(Mimatsu Tamaki)×蓮沼 翠(Hasunuma Sui)[/太字]
「明日から大学生とか、実感ない....」
「ふふっ、大学生のすーちゃんも楽しみだよ」
すーちゃんこと、わたしの彼氏の蓮沼翠くんは、朝からずっとこの調子だ。
今日は3月最後の休日という事なのですーちゃんのお家にお邪魔させてもらっていて、午後からはすーちゃんのお友達を数人呼んでミニ送別会的なものを行おうと思っている。
といっても、わたし以外のみんなは全員春から大学生だから、実質進級パーティーと言ったほうがしっくりくるのかもしれないけど...
「はあ、環と同じ学校に通えないとかキツすぎる....」
「わっ....」
そう言って、わたしの肩に体を預けるすーちゃん。で、でた、たまに出るすーちゃんの激甘モード...!
すーちゃんがわたしにこの態度を取る時は、大抵構ってほしい時。
丁度今日は、すーちゃんが好きそうなフィナンシェのお菓子を買ってきた。
一緒に食べようと思い持ってきた紙袋に手を伸ばそうとするけれど、すらりと伸びた手に遮られる。
「ねえ、環。それ何?」
「え?あ...すーちゃんが好きそうだなあと思って買ってきたフィナンシェだよ」
ふーん、と言ってにやりとした笑みを浮かべるすーちゃん。
「それ、俺のためってこと?」
「もちろんっ...すーちゃんのために決まってるっ!」
わたしはすーちゃんに向かって笑顔でそう言うと、途端すーちゃんは頭を抱えた。
えっ...ど、どうしたのかな....
「環って本当...無自覚すぎる」
む、無自覚?わたしが...?
一体何に対してなのかは分からないけど、そんな事ないと思うんだけどなっ...
わたしが頭にはてなマークを浮かべていると、インターホンが鳴る音がした。
と思ったら、玄関の扉が開いてこちらに向かう足音も聞こえてきた。
「やっほー!」
ものの数秒で、わたしたちのいる部屋のドアが開けられた。
そこにはすーちゃんの親友の[漢字]赤坂[/漢字][ふりがな]あかさか[/ふりがな]くんや綺麗な女の方、同じ部活の先輩なんかも混じっている。
すーちゃんのお家はマンションだけど、タワーマンションの最上階だからとても広い。
なのにインターホンを押してすぐ、玄関からだいぶ離れているこの部屋のドアを開けたということは...よっぽど急いでくれたのかな、あはは....
「お前ら...送別会は午後からだって言っただろ」
「赤坂が行くって聞かねえからよー!!」
そう言って、わんさか入ってくる先輩方。
す、すごい...すーちゃんって、すごく人気者なんだなあ...
改めてそう感じた、その時だった。
「環」
ふいにすーちゃんから名前を呼ばれて、そちらの方を向く。
「こいつら帰ったら、2人でフィナンシェ食べよう」
すーちゃんはさっきの不敵な笑みではなく、今度はふわりと笑ったカオでわたしにそう告げた。
「うんっ...!」
とても幸せな、高校2年生最後の休日になりそうです。
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[太字]第4話◇國府 深雪(Kokubu Miyuki)×赤坂 李市(Akasaka Riichi)[/太字]
舞い散る桜が茜色の夕日よく映える。
隣を歩く李市もまた、夕日に美しく魅せられていた。
「入学式疲れたなー」
そう、今日は大学の入学式。
って言っても、わたしはエスカレーター方式で高校からそのまま進学しただけだから、あまり入学した感は感じられない。
でも、1つ感じられるものがあるとしたら...李市と同じ学校に通えるという点。
今までは高校が別々だったから登下校もたまに一緒にする程度だったけど、今年からずっとそばにいられる。
「今年からはずっと一緒にいられるな!」
「ふふっ、わたしも同じ事考えてた」
「えぐ、運命?」と言いながらわたしの腰に腕を回す李市。
夕方という、なんともムーディーな空気感のせいで無意識に心臓がどきりと跳ねた。
「でも李市、本当に良かったの?私大で...」
李市は元々、県内の国立を目指していたらしい。
付き合い始めた当初に、前からずっと決めてた、って話を一度聞いたことがあったけれど、未だにどうして高3の冬に志望校を変更したのかわからなかった。
「え?そんなのみゆのそばに居たかったからに決まってんじゃん」
「....え!?」
え、なにそれ?初めて聞いたんだけど!?
てかそもそも李市目指してた職業があったんだよね?それに就職するために国立を志望してたんだよね!?
...わたしは、李市の夢を壊してしまったの?わたしと一緒にいるために?
そんなの...大学が離れても、わたしからいくらでも会いに行くのに。
同じ大学じゃなくてもわたし達の関係性が崩れるとは思わない。だって高校生の頃も、学校は別々だったけれどやってこれた。
「....ってのは、半分嘘で半分ほんと。俺、IT系のとこに就職したくてずっと国立目指してるって前言ったじゃん。」
「....うん」
「でも高3になってから...みゆと出逢って関わって付き合ってから...誰かの役に立つ事をちゃんと目に見える形でやりたいって思うようになったんだ。で色々調べてて、俺の新しく就きたいと思った仕事が丁度みゆのとこでしか学べない分野だったんだよ」
わたしと出逢って、関わって、付き合ってから...?
それは、わたしが李市の将来を狂わせたと言っているようなものじゃ...
「俺、国立目指してた頃より断然今のが楽しいんだよ。みゆの事だし、どうせ自分のせいで俺の将来がー、とか思ってるんでしょ」
「な、なんでわかるの...!」
「いいんだよみゆ」
李市はそう言って、優しくわたしを包みこんだ。
「俺と一緒にいてくれるなら、もうなんでもいいから」
「言われなくても、離すつもりないし....」
ちらりと李市の顔を見ると、赤い夕日のせいか...それとも本当に赤らんでいるのか、少し赤く見えた。
「...俺の顔に何かついてる?」
「李市」
「え、本当に何?」と言いながら首をかしげる李市。
愛おしいなあと思いながら、わたしは李市に向かってこう言った。
「だいすき...!」
「......そーいうの、本当勘弁して...」
だいすきだよ、李市___
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[太字]第5話◇藤 あいら(Fuji Aira)×天王寺 蓮(Tennouji Ren)[/太字]
俺は無事大学4年生に上がり、あいらは一貫校から抜け俺と同じ大学の1年生として入学してから2週間が経とうとする。
だが、俺たちの関係性はいつまで経っても色褪せないものだった。
いつものクレープ屋で、いつもの会話を交わす。
「もー、蓮くんいつまで経っても上達しないんだから!」
「...俺はきっとクレープに嫌われてるんだ」
あいらはそう言って、俺がぐちゃぐちゃに仕上げたクレープを丁寧に手直しし始めた。
前までの俺ならきっとクレープ作りなんて速攻で諦めていたはずだけど、そんな俺が変わった理由はすべてあいらにある。
俺は器用な方じゃないし、自分からクレープ屋でバイトしているのではなく姉に人手が足りないから自分の店でバイトしてほしいと頼まれたからだ。
初回の時にあいらと出逢って、頑張ろうと思った事を思い出す。
やりたくもない仕事でも、好きなやつが近くにいると何倍も頑張れた。
「蓮くんは、やればできる人ってわたし知ってるから。もう1回やってみよう!」
俺にそう言って微笑みかけるあいら。
.....マジで、かわいい。
今すぐ抱きしめたい衝動を必死に抑えながら、俺は再びクレープ生地の入ったボウルを手に取った。
「あ、そうそう!良い感じ!!」
俺がクレープ焼き器にクレープ生地を流し込んで、専用のクレープトンボと呼ばれる棒状のもので生地を薄く伸ばしただけにも関わらずそう言ってくれるあいら。
「蓮くん、裏返すのうまー!」
ただ生地をひっくり返しただけのに、そう言ってくれるあいら。
それにただ言うだけではなく、こちらを向いてにこりと微笑んでくれる。
ああ、くそ...あいらが居てくれるなら、俺はもうなんでもできるような気がした。
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[太字]第6話◇白雪 小冬(Shirayuki Koto)×秋葉 レオ(Akiba Reo)
[/太字]
4月下旬のはずだけど、とても暑苦しい店内。わたし達は目を合わせて、「せーの」と合図をした。
「全国ツアーお疲れー!」
「お疲れー!!」
リーダーの掛け声に続いて、メンバー全員と乾杯する。
「ツアーの熱狂ガチえぐかったよねー!」
「ほんとそれ!どこの[漢字]ハコ[/漢字][ふりがな]会場[/ふりがな]も大きいから緊張しっぱなしだったー!」
わたし達のアイドルグループ「Milky♡Ribbon」略してみるりぼは、今年度に突入してからとんでもない大躍進をした。
メンバーの1人がSNS載せたオフショットが「可愛すぎる」として話題になったり、動画サイトに載せた新曲のMVが瞬く間に拡散され気がつけばサビの部分が大バズリしたり、特に極めつけなのが____ファンの1人がSNSに載せた、ライブの撮可の際のわたしの動画。
色々なバズり要素がこの時期に重ねに重なって、今は大きな会場を借りて全国ツアーができるほどのアイドルになった。
「正直ここまで来れたのも『れおさん』のおかげだよね!」
その名前を聞いて、心臓が跳ねる。
だって『れおさん』は______わたしの彼氏だから。
ま、まずい、この話に交じると余計な事を言いそう...
「ごめん、わたしちょっとメイク直してくる」
そう言って、わたしはお手洗いの方へと向かった。
向かっている途中、ポケットに入れていたスマホが震えている事に気がついた。
電話かな、誰からだろ。
そう思いスマホを取り出すと、その画面に表示されたのは「レオ」という文字で。
わたしは速攻で応答ボタンを押した。
『あ、小冬?今大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうかした?」
わたしは春から大学生になったのだけど、まさかのレオと同じ大学で本名が必然的に知られてしまったためレオはわたしを「ユキ」ではなく「小冬」と呼ぶようになった。
ユキって呼ばれてた頃が、懐かしい...
『前バズった動画あるじゃん、僕が載せたやつ』
レオがSNSに載せてくれたわたしのライブの際の動画。
あれがどうしたんだろう。
『今案件が来てて。企業名忘れたんだけど、動画をCMの一部に使いたいって。一応小冬にも了承を得ないとと思ってね』
「えっ...それ、すごくない!?」
『すごいのは小冬ね』と言うレオ。
レオの撮影技術がすごいんだよ...!!
「是非バンバン使って!」
わたしは勢いよくそう返事した。
でも、レオからかえってきたのは『.....ふーん』と言ったそっけない態度。
『これ以上、僕のかわいい小冬が世界に広まってほしくない』
「....え?...え?」
すねているのか、単に機械から声の発信元が離れているのか分からないけど、レオの声がやけに小さく聞こえた。
『じゃあね、帰ったら抱きしめさせて』
今度はレオの声でそうはっきりと聞こえた。
レオ、付き合い始めてからどんどん愛が重くなってる気がする...
これからも、アイドルとしての「ユキ」も大学生としての「小冬」もずっとずっと好きで居てね。
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[太字]第8話◇新城 奈子(Shinjo Nako)×石堂 嶺(Ishido Rei)[/太字]
「新城先輩!」
「い、石堂くんっ...!」
わたしが高校2年生、石堂くんが高校1年生に進級してから約1ヶ月が経った5月上旬。
石堂くんは中学を卒業する直前にわたしに告白してくれて、それ以来毎日のように放課後わたしの教室まで迎えにきてくれていた。
中高大一貫校のため、石堂くんは中等部から高等部の校舎にうつった事もあり「新城先輩の近くにいられてうれしい」なんて言ってくれたりする。
「今日も送っていきますね」
「毎日毎日ごめんね...」
「いえ、俺が好きでやってる事なんで。気にしないでください」
石堂くんはそう言って、わたしに変わらない眼差しをくれた。
....なんでこんなに、尽くしてくれるんだろう...
校舎を出てしばらく2人で歩いている頃、後ろから声がかかった。
「奈子?」
「....っ、お、お兄ちゃん...!?」
お兄ちゃんは会社の社長さんで、滅多に家に帰ってこない。
だから学校帰りに会うなんて思ってもみなかった。それに隣には、綺麗な女の人も。
「ほ、本当に奈子なのか?」
「え?奈子だよ.......あ...」
わ、忘れてた...わたし、学校ではこの姿だという事は家族には秘密にしていたんだ。
わたしは本来目が良いから眼鏡はかけていないし、髪も黒くて短いウィッグをかぶっているだけで普段は腰あたりまでの伸ばした色素の薄いプラチナブロンドの髪色。眼鏡も伊達だし髪ももちろん染めていない、生まれつきこの髪色。
なんでお兄ちゃんはわたしが奈子だという事がわかったかという疑問も浮かんだけど、今はそれところではない。
ま、まずいっ....!
「眼鏡と...その髪色は、どうしたんだ?」
「あ...あ、あの...」
わたしが返答に困っていると、わたしとお兄ちゃんの間にすっと誰かの手が伸びた。
「新城先輩困ってるんで、失礼します」
石堂、くん...?
お兄ちゃんの隣にいた女の人は「あらやだー」と語尾にハートがつきそうなくらいに可愛らしい声でそう言った。
そしてわたしはされるがまま、石堂くんと手を繋いで道路を小走りで進んだ。
ごめんね、お兄ちゃん。今度ちゃんと説明するから...
「新城先輩、大丈夫なんで安心してください」
「ご、ごめんね、変なとこ見せちゃって...」
「いえ、そんな」
石堂くん、わたしに...その、髪の事とか眼鏡の事とか、聞かないんだ。
わたしが触れてほしくない話題だって、もしかして、理解してくれているの?
以降歩くスピードはゆっくりになり、手は繋がれただった。
少しだけ胸の鼓動が高鳴る。
...って、そうじゃなくて。
優しい石堂くんにわたしの事、知ってもらいたい。意を決して口を開いた。
「あ、あのね、石堂くん」
「ん?どうしましたか?」
やっぱり怖いっ...
でも話すんだ。彼ならきっと受け入れてくれるから。
わたしは眼鏡とウィッグを外して、石堂くんと目を合わせた。
「わたし実は、スウェーデン人のお母さんがいて...お兄ちゃん..あ、さっきの男の人もそうだったと思うんだけど髪がプラチナブロンドの色なの。でも顔はお父さんに似た純日本人顔で...よく染めてるの?とか聞かれるのが嫌で、ウィッグをかぶって、ました...」
「......」
黙り込んでしまった石堂くん。
でもその目は拒絶でもなんでもなく、ただ純粋に驚いた、という目をしていた。
「そして、その...小さい頃から男の子に目をつけられる事が多くてよくいじめられてて、それでずっと男の子が怖かったんだけど、眼鏡をかけてからそれがなくなって...度も入っていなくて伊達なんです...石堂くんを騙すような事をしてごめんなさいっ...」
ないと思うけど、もしわたしの見た目を好いてくれていたなら___申し訳なさすぎて、胸が痛くなる。
元々地味だし変装してても地味だから、さすがにそれはないと思うけど...
「....待って。じゃあ、俺めっちゃ先輩の事怖がらせてたんじゃ...」
「え?」
「急に告白して毎日つきまとって...俺、本当に先輩の事怖がらせるつもりじゃ____
「ち、違うのっ....」
違う、そうじゃない。
石堂くん、違うよ。
「石堂くんは...石堂くんだけは、違うのっ...!初めて会った時から今までもずっと怖くない。石堂くんだけは...本当に、怖くないの...!」
「俺、だけ?」
途端、石堂くんは大きなため息をついた。
と思ったらぎゅっとわたしを抱きしめて。
「........可愛すぎて、死ぬかと思った」
「えっ...?」
石堂くん...?
「あーーー...新城先輩、学校でこの姿になった事ありますか?」
「ううん、ないよ」
「これからも絶対、俺以外の前でその姿にならないでください」
「え?う、うん...?」
「ていうか俺の前でもこの姿にならないで。...かわいすぎて、心臓に悪いです」
え、えっと...髪の色が派手すぎて、心臓に悪いってことかな?
うん、きっとそうだ。
「あー、もう、どんどん欲しくなる...」
「石堂くん?」
「...家まで、送ります」
「え?あ、うんっ、ありがとう...!」
あれ、そういえば...
手って、繋いだままでいいんだっけ....?
まだわからないこの気持ちに名前がある事を知るのは、もう少し先のお話_____
注意書きにも明記している通り本小説では同じキャラクターを使い回して話を制作しております。ですがその使い回しにも限界があるため、9話までに登場したカップル達のその後の様子を短くまとめた短編集を区切りとして10話毎に綴ります。11話以降は新キャラクター達で短編を構成していく予定です。よろしくお願い致します。
今回は1番最後のお話が普段投稿している小説レベル(には満たないかもだけど)に長いのでお時間がある際に読んで頂けると幸いです。
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[太字]第1話◇卯月 胡桃(Uduki Kurumi)×風浦 春(Kazaura Syun)[/太字]
大学受験も終わり、安堵に包まれた2月上旬の教室。
もちろんわたしも例外なく無事受験する事ができてほっとしていた。
結果が届くのは1ヶ月以上先だから、本当に安心できるかはまた別の話なんだけどね...あはは...
「[漢字]胡桃[/漢字][ふりがな]くるみ[/ふりがな]ちゃん、4月から東京の大学に通うんだよね...」
そう言って、悲しそうに視線を下げる親友の[漢字]小冬[/漢字][ふりがな]こと[/ふりがな]ちゃん。
「...うん、受かってれば。でも、もう一生会えなくなるわけじゃないから、ね?」
「悲しいよ〜!」と言って抱きついてくる小冬ちゃんの頭を軽く撫でる。
肩くらいに短く切り揃えられた漆黒の小冬ちゃんの髪は、いつ見ても飽きないくらいに綺麗だ。
小冬ちゃんの魅力は正直並のものじゃなくて...なんだろう、アイドル級のかわいさを放っている。
しばらく2人でじゃれ合いを続けていると、後ろから声がかかった。
「胡桃、先生からのプリント」
その声の持ち主は、3年生に上がってすぐの頃からお付き合いしている風浦春くん。
すごくかっこよくて優しくて...好きだった人にフラれて本当に辛かった時、1番そばにいてくれた大好きな人。
「わざわざありがとうっ...」
未だに春くんと話すのは慣れておらず、どうしても変な緊張をしてしまう。
ついいつものクセで小冬ちゃんの後ろにひっそり身を隠すようにしてしまうけど、それを見かねた春くんがわたしの耳元で耳打ちした。
「同じ大学通えるの、すごい楽しみにしてるから」
それだけ言って、春くんは元いた友達の方へ戻っていってしまう。
そしてそれが小冬ちゃんの耳にも入っていたのか、興味津々に声を上げた。
「えっ...どういうこと?胡桃ちゃん風浦と同じ大学行くの...!?」
もう...小冬ちゃん声が大きいよー!
クラス中に驚きの声と視線を浴びる中、春くんだけがにやりとした笑みを浮かべていたのはまた別のお話___
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[太字]第2話◇増田 琴葉(Masuda Kotoha)×真田 琉(Sanada Ryuu)[/太字]
「ことは...おい、起きろって....」
ことははどれだけ月日が経っても変わらないなと、つくづく思う。
俺が毎朝ことはを起こしに向かうけど、俺が起こしてもことはは一向に起きる気配がなく結局ことはの母さんの一言でばっちり目が覚めるという、なんとも俺が可哀想に見える構図。
「んー.....」
小さく声を発しながら、布団に埋もれていくことは。
相変わらずかわいい...
こんなにかわいい寝顔を無料で見られている俺は本当に幸せものだと改めて思った。
かわいすぎて、一生見てたい。
「琴葉ー!今日の朝ご飯はベーグルよー!」
1階から聞こえてくることはの母さんの声。
途端にことははガバっとベッドから起床し、俺のことなんて気にもとめずに階段をかけおりていった。
あーあ、残念...あと15分くらいなら寝ててもよかったのに。
マジでことは、食いもんの事になると目が星になるよな...
そういうところも好きだ、と思いながら、ことはの後を追うように1階に降りていった。
「琉くん今日もありがとう〜!ベーグル、食べていってちょうだいね」
ありがとうございます、と言って、ことはの隣の席につく。
ことは今俺の存在に気がついたのか、きょとんとした目でこちらを見つめてきた。
「あれ、りゅーちゃんいつからいたの?おはようっ、りゅーちゃん!」
そしてすぐ、太陽のような笑みを向けてきて。
寝顔ですら完全にキャパオーバーだったのに、そんな眩しいカオ向けられた俺は、完全にことはにロックオンされてしまった。
「.......はよ」
多分俺は、極度の「ツンデレ」というやつだ。
いや、好きなヤツにも正直な態度を取れないあたりもはやただの「ツン」でしかないのかもしれない。
あーーー、くそ...
「琉くん、四葉大に合格したって聞いたわよ。ふふっ、琴葉と一緒ね。」
「えっ、りゅーちゃん四葉なの?じゃああと1年したら同じがっこーに通えるねー!」
四葉校とは中学から大学までの一貫校で、この辺の学区的には一応トップの学校。
俺はもうずっと決めていたんだ、絶対に大学で四葉に入って琴葉と同じ学校に通うって。
まあでも琴葉は春から高3だし、もう少し待たないといけないけど。
「りゅーちゃん、たのしみだねー!」
そんな笑顔に魅せられながら、俺はベーグルを一口かじった。
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[太字]第3話◇三松 環(Mimatsu Tamaki)×蓮沼 翠(Hasunuma Sui)[/太字]
「明日から大学生とか、実感ない....」
「ふふっ、大学生のすーちゃんも楽しみだよ」
すーちゃんこと、わたしの彼氏の蓮沼翠くんは、朝からずっとこの調子だ。
今日は3月最後の休日という事なのですーちゃんのお家にお邪魔させてもらっていて、午後からはすーちゃんのお友達を数人呼んでミニ送別会的なものを行おうと思っている。
といっても、わたし以外のみんなは全員春から大学生だから、実質進級パーティーと言ったほうがしっくりくるのかもしれないけど...
「はあ、環と同じ学校に通えないとかキツすぎる....」
「わっ....」
そう言って、わたしの肩に体を預けるすーちゃん。で、でた、たまに出るすーちゃんの激甘モード...!
すーちゃんがわたしにこの態度を取る時は、大抵構ってほしい時。
丁度今日は、すーちゃんが好きそうなフィナンシェのお菓子を買ってきた。
一緒に食べようと思い持ってきた紙袋に手を伸ばそうとするけれど、すらりと伸びた手に遮られる。
「ねえ、環。それ何?」
「え?あ...すーちゃんが好きそうだなあと思って買ってきたフィナンシェだよ」
ふーん、と言ってにやりとした笑みを浮かべるすーちゃん。
「それ、俺のためってこと?」
「もちろんっ...すーちゃんのために決まってるっ!」
わたしはすーちゃんに向かって笑顔でそう言うと、途端すーちゃんは頭を抱えた。
えっ...ど、どうしたのかな....
「環って本当...無自覚すぎる」
む、無自覚?わたしが...?
一体何に対してなのかは分からないけど、そんな事ないと思うんだけどなっ...
わたしが頭にはてなマークを浮かべていると、インターホンが鳴る音がした。
と思ったら、玄関の扉が開いてこちらに向かう足音も聞こえてきた。
「やっほー!」
ものの数秒で、わたしたちのいる部屋のドアが開けられた。
そこにはすーちゃんの親友の[漢字]赤坂[/漢字][ふりがな]あかさか[/ふりがな]くんや綺麗な女の方、同じ部活の先輩なんかも混じっている。
すーちゃんのお家はマンションだけど、タワーマンションの最上階だからとても広い。
なのにインターホンを押してすぐ、玄関からだいぶ離れているこの部屋のドアを開けたということは...よっぽど急いでくれたのかな、あはは....
「お前ら...送別会は午後からだって言っただろ」
「赤坂が行くって聞かねえからよー!!」
そう言って、わんさか入ってくる先輩方。
す、すごい...すーちゃんって、すごく人気者なんだなあ...
改めてそう感じた、その時だった。
「環」
ふいにすーちゃんから名前を呼ばれて、そちらの方を向く。
「こいつら帰ったら、2人でフィナンシェ食べよう」
すーちゃんはさっきの不敵な笑みではなく、今度はふわりと笑ったカオでわたしにそう告げた。
「うんっ...!」
とても幸せな、高校2年生最後の休日になりそうです。
[水平線]
[太字]第4話◇國府 深雪(Kokubu Miyuki)×赤坂 李市(Akasaka Riichi)[/太字]
舞い散る桜が茜色の夕日よく映える。
隣を歩く李市もまた、夕日に美しく魅せられていた。
「入学式疲れたなー」
そう、今日は大学の入学式。
って言っても、わたしはエスカレーター方式で高校からそのまま進学しただけだから、あまり入学した感は感じられない。
でも、1つ感じられるものがあるとしたら...李市と同じ学校に通えるという点。
今までは高校が別々だったから登下校もたまに一緒にする程度だったけど、今年からずっとそばにいられる。
「今年からはずっと一緒にいられるな!」
「ふふっ、わたしも同じ事考えてた」
「えぐ、運命?」と言いながらわたしの腰に腕を回す李市。
夕方という、なんともムーディーな空気感のせいで無意識に心臓がどきりと跳ねた。
「でも李市、本当に良かったの?私大で...」
李市は元々、県内の国立を目指していたらしい。
付き合い始めた当初に、前からずっと決めてた、って話を一度聞いたことがあったけれど、未だにどうして高3の冬に志望校を変更したのかわからなかった。
「え?そんなのみゆのそばに居たかったからに決まってんじゃん」
「....え!?」
え、なにそれ?初めて聞いたんだけど!?
てかそもそも李市目指してた職業があったんだよね?それに就職するために国立を志望してたんだよね!?
...わたしは、李市の夢を壊してしまったの?わたしと一緒にいるために?
そんなの...大学が離れても、わたしからいくらでも会いに行くのに。
同じ大学じゃなくてもわたし達の関係性が崩れるとは思わない。だって高校生の頃も、学校は別々だったけれどやってこれた。
「....ってのは、半分嘘で半分ほんと。俺、IT系のとこに就職したくてずっと国立目指してるって前言ったじゃん。」
「....うん」
「でも高3になってから...みゆと出逢って関わって付き合ってから...誰かの役に立つ事をちゃんと目に見える形でやりたいって思うようになったんだ。で色々調べてて、俺の新しく就きたいと思った仕事が丁度みゆのとこでしか学べない分野だったんだよ」
わたしと出逢って、関わって、付き合ってから...?
それは、わたしが李市の将来を狂わせたと言っているようなものじゃ...
「俺、国立目指してた頃より断然今のが楽しいんだよ。みゆの事だし、どうせ自分のせいで俺の将来がー、とか思ってるんでしょ」
「な、なんでわかるの...!」
「いいんだよみゆ」
李市はそう言って、優しくわたしを包みこんだ。
「俺と一緒にいてくれるなら、もうなんでもいいから」
「言われなくても、離すつもりないし....」
ちらりと李市の顔を見ると、赤い夕日のせいか...それとも本当に赤らんでいるのか、少し赤く見えた。
「...俺の顔に何かついてる?」
「李市」
「え、本当に何?」と言いながら首をかしげる李市。
愛おしいなあと思いながら、わたしは李市に向かってこう言った。
「だいすき...!」
「......そーいうの、本当勘弁して...」
だいすきだよ、李市___
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[太字]第5話◇藤 あいら(Fuji Aira)×天王寺 蓮(Tennouji Ren)[/太字]
俺は無事大学4年生に上がり、あいらは一貫校から抜け俺と同じ大学の1年生として入学してから2週間が経とうとする。
だが、俺たちの関係性はいつまで経っても色褪せないものだった。
いつものクレープ屋で、いつもの会話を交わす。
「もー、蓮くんいつまで経っても上達しないんだから!」
「...俺はきっとクレープに嫌われてるんだ」
あいらはそう言って、俺がぐちゃぐちゃに仕上げたクレープを丁寧に手直しし始めた。
前までの俺ならきっとクレープ作りなんて速攻で諦めていたはずだけど、そんな俺が変わった理由はすべてあいらにある。
俺は器用な方じゃないし、自分からクレープ屋でバイトしているのではなく姉に人手が足りないから自分の店でバイトしてほしいと頼まれたからだ。
初回の時にあいらと出逢って、頑張ろうと思った事を思い出す。
やりたくもない仕事でも、好きなやつが近くにいると何倍も頑張れた。
「蓮くんは、やればできる人ってわたし知ってるから。もう1回やってみよう!」
俺にそう言って微笑みかけるあいら。
.....マジで、かわいい。
今すぐ抱きしめたい衝動を必死に抑えながら、俺は再びクレープ生地の入ったボウルを手に取った。
「あ、そうそう!良い感じ!!」
俺がクレープ焼き器にクレープ生地を流し込んで、専用のクレープトンボと呼ばれる棒状のもので生地を薄く伸ばしただけにも関わらずそう言ってくれるあいら。
「蓮くん、裏返すのうまー!」
ただ生地をひっくり返しただけのに、そう言ってくれるあいら。
それにただ言うだけではなく、こちらを向いてにこりと微笑んでくれる。
ああ、くそ...あいらが居てくれるなら、俺はもうなんでもできるような気がした。
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[太字]第6話◇白雪 小冬(Shirayuki Koto)×秋葉 レオ(Akiba Reo)
[/太字]
4月下旬のはずだけど、とても暑苦しい店内。わたし達は目を合わせて、「せーの」と合図をした。
「全国ツアーお疲れー!」
「お疲れー!!」
リーダーの掛け声に続いて、メンバー全員と乾杯する。
「ツアーの熱狂ガチえぐかったよねー!」
「ほんとそれ!どこの[漢字]ハコ[/漢字][ふりがな]会場[/ふりがな]も大きいから緊張しっぱなしだったー!」
わたし達のアイドルグループ「Milky♡Ribbon」略してみるりぼは、今年度に突入してからとんでもない大躍進をした。
メンバーの1人がSNS載せたオフショットが「可愛すぎる」として話題になったり、動画サイトに載せた新曲のMVが瞬く間に拡散され気がつけばサビの部分が大バズリしたり、特に極めつけなのが____ファンの1人がSNSに載せた、ライブの撮可の際のわたしの動画。
色々なバズり要素がこの時期に重ねに重なって、今は大きな会場を借りて全国ツアーができるほどのアイドルになった。
「正直ここまで来れたのも『れおさん』のおかげだよね!」
その名前を聞いて、心臓が跳ねる。
だって『れおさん』は______わたしの彼氏だから。
ま、まずい、この話に交じると余計な事を言いそう...
「ごめん、わたしちょっとメイク直してくる」
そう言って、わたしはお手洗いの方へと向かった。
向かっている途中、ポケットに入れていたスマホが震えている事に気がついた。
電話かな、誰からだろ。
そう思いスマホを取り出すと、その画面に表示されたのは「レオ」という文字で。
わたしは速攻で応答ボタンを押した。
『あ、小冬?今大丈夫?』
「うん、大丈夫。どうかした?」
わたしは春から大学生になったのだけど、まさかのレオと同じ大学で本名が必然的に知られてしまったためレオはわたしを「ユキ」ではなく「小冬」と呼ぶようになった。
ユキって呼ばれてた頃が、懐かしい...
『前バズった動画あるじゃん、僕が載せたやつ』
レオがSNSに載せてくれたわたしのライブの際の動画。
あれがどうしたんだろう。
『今案件が来てて。企業名忘れたんだけど、動画をCMの一部に使いたいって。一応小冬にも了承を得ないとと思ってね』
「えっ...それ、すごくない!?」
『すごいのは小冬ね』と言うレオ。
レオの撮影技術がすごいんだよ...!!
「是非バンバン使って!」
わたしは勢いよくそう返事した。
でも、レオからかえってきたのは『.....ふーん』と言ったそっけない態度。
『これ以上、僕のかわいい小冬が世界に広まってほしくない』
「....え?...え?」
すねているのか、単に機械から声の発信元が離れているのか分からないけど、レオの声がやけに小さく聞こえた。
『じゃあね、帰ったら抱きしめさせて』
今度はレオの声でそうはっきりと聞こえた。
レオ、付き合い始めてからどんどん愛が重くなってる気がする...
これからも、アイドルとしての「ユキ」も大学生としての「小冬」もずっとずっと好きで居てね。
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[太字]第8話◇新城 奈子(Shinjo Nako)×石堂 嶺(Ishido Rei)[/太字]
「新城先輩!」
「い、石堂くんっ...!」
わたしが高校2年生、石堂くんが高校1年生に進級してから約1ヶ月が経った5月上旬。
石堂くんは中学を卒業する直前にわたしに告白してくれて、それ以来毎日のように放課後わたしの教室まで迎えにきてくれていた。
中高大一貫校のため、石堂くんは中等部から高等部の校舎にうつった事もあり「新城先輩の近くにいられてうれしい」なんて言ってくれたりする。
「今日も送っていきますね」
「毎日毎日ごめんね...」
「いえ、俺が好きでやってる事なんで。気にしないでください」
石堂くんはそう言って、わたしに変わらない眼差しをくれた。
....なんでこんなに、尽くしてくれるんだろう...
校舎を出てしばらく2人で歩いている頃、後ろから声がかかった。
「奈子?」
「....っ、お、お兄ちゃん...!?」
お兄ちゃんは会社の社長さんで、滅多に家に帰ってこない。
だから学校帰りに会うなんて思ってもみなかった。それに隣には、綺麗な女の人も。
「ほ、本当に奈子なのか?」
「え?奈子だよ.......あ...」
わ、忘れてた...わたし、学校ではこの姿だという事は家族には秘密にしていたんだ。
わたしは本来目が良いから眼鏡はかけていないし、髪も黒くて短いウィッグをかぶっているだけで普段は腰あたりまでの伸ばした色素の薄いプラチナブロンドの髪色。眼鏡も伊達だし髪ももちろん染めていない、生まれつきこの髪色。
なんでお兄ちゃんはわたしが奈子だという事がわかったかという疑問も浮かんだけど、今はそれところではない。
ま、まずいっ....!
「眼鏡と...その髪色は、どうしたんだ?」
「あ...あ、あの...」
わたしが返答に困っていると、わたしとお兄ちゃんの間にすっと誰かの手が伸びた。
「新城先輩困ってるんで、失礼します」
石堂、くん...?
お兄ちゃんの隣にいた女の人は「あらやだー」と語尾にハートがつきそうなくらいに可愛らしい声でそう言った。
そしてわたしはされるがまま、石堂くんと手を繋いで道路を小走りで進んだ。
ごめんね、お兄ちゃん。今度ちゃんと説明するから...
「新城先輩、大丈夫なんで安心してください」
「ご、ごめんね、変なとこ見せちゃって...」
「いえ、そんな」
石堂くん、わたしに...その、髪の事とか眼鏡の事とか、聞かないんだ。
わたしが触れてほしくない話題だって、もしかして、理解してくれているの?
以降歩くスピードはゆっくりになり、手は繋がれただった。
少しだけ胸の鼓動が高鳴る。
...って、そうじゃなくて。
優しい石堂くんにわたしの事、知ってもらいたい。意を決して口を開いた。
「あ、あのね、石堂くん」
「ん?どうしましたか?」
やっぱり怖いっ...
でも話すんだ。彼ならきっと受け入れてくれるから。
わたしは眼鏡とウィッグを外して、石堂くんと目を合わせた。
「わたし実は、スウェーデン人のお母さんがいて...お兄ちゃん..あ、さっきの男の人もそうだったと思うんだけど髪がプラチナブロンドの色なの。でも顔はお父さんに似た純日本人顔で...よく染めてるの?とか聞かれるのが嫌で、ウィッグをかぶって、ました...」
「......」
黙り込んでしまった石堂くん。
でもその目は拒絶でもなんでもなく、ただ純粋に驚いた、という目をしていた。
「そして、その...小さい頃から男の子に目をつけられる事が多くてよくいじめられてて、それでずっと男の子が怖かったんだけど、眼鏡をかけてからそれがなくなって...度も入っていなくて伊達なんです...石堂くんを騙すような事をしてごめんなさいっ...」
ないと思うけど、もしわたしの見た目を好いてくれていたなら___申し訳なさすぎて、胸が痛くなる。
元々地味だし変装してても地味だから、さすがにそれはないと思うけど...
「....待って。じゃあ、俺めっちゃ先輩の事怖がらせてたんじゃ...」
「え?」
「急に告白して毎日つきまとって...俺、本当に先輩の事怖がらせるつもりじゃ____
「ち、違うのっ....」
違う、そうじゃない。
石堂くん、違うよ。
「石堂くんは...石堂くんだけは、違うのっ...!初めて会った時から今までもずっと怖くない。石堂くんだけは...本当に、怖くないの...!」
「俺、だけ?」
途端、石堂くんは大きなため息をついた。
と思ったらぎゅっとわたしを抱きしめて。
「........可愛すぎて、死ぬかと思った」
「えっ...?」
石堂くん...?
「あーーー...新城先輩、学校でこの姿になった事ありますか?」
「ううん、ないよ」
「これからも絶対、俺以外の前でその姿にならないでください」
「え?う、うん...?」
「ていうか俺の前でもこの姿にならないで。...かわいすぎて、心臓に悪いです」
え、えっと...髪の色が派手すぎて、心臓に悪いってことかな?
うん、きっとそうだ。
「あー、もう、どんどん欲しくなる...」
「石堂くん?」
「...家まで、送ります」
「え?あ、うんっ、ありがとう...!」
あれ、そういえば...
手って、繋いだままでいいんだっけ....?
まだわからないこの気持ちに名前がある事を知るのは、もう少し先のお話_____