after heaven
20xx年、人間は天使との戦争を始めたーーーーーー
結果は人類の圧勝。人類の化学と兵器の前には天使の魔法など無力なものに過ぎなかった。そしてーーーーー
「さぁ、新鮮な天使の眼球、値段は500万コインから!」
威勢のいい声が響き渡る。ここは天使の臓器、又は天使そのものを富裕層へ売りつける非合法のオークション会場だ。買われた天使の臓器は富裕層が自慢のために保管しておくらしい。そして買われた天使がどうなるのか、それはオークション司会者と買った富裕層にしか分からない。
捕獲した天使を状態がいいならそのまま売りに出し、状態のいい臓器があるなら解体して売りに出すのだ。
もちろん、政府に見つかったら懲役なんかでは済まない。即刻死刑になるだろう。
俺は、捕獲した天使の状態を見て、解体する仕事を手伝わされている。解体の手順は、まず捕獲された天使に睡眠薬を飲ませて、くまなく状態をチェックする。ひとつでも傷があれば、その天使は解体してオークションに出す。傷が見当たらなければ、買って貰えるように着飾り、会場へ運ぶ。俺は今日も仕事場の椅子に腰掛けた。
[水平線]
天使「やっ、やめてぇ………私の事、殺さないでくださいぃ………!」
今日、最初に担当する天使は目の前の解体用の椅子に腰かけ、俺を見ながら震えている。
余程俺の事が怖いのだろう。隙あらばこの縄を解こうと純白の綺麗な翼を必死にばたつかせている。
俺「安心しろ。お前が変なことしない限り俺はお前を傷つけない。」
そう言っても目の前の天使は聞く耳を持たず、彼女を縛っている縄と格闘している。
こんなにも暴れているのなら、睡眠薬と解体器具をこの部屋に運び込んでもいいだろうと、俺はこの部屋を出た。
薄暗い廊下を歩き続ける。所々から吹き付ける隙間風の音が、ホラー映画のような雰囲気を作り上げている。
突き当りを右に曲がると、『倉庫』と書かれた薄汚れた看板が有った。ここに天使の解体に使うものや、オークションの時に天使に着させる服が全て収納されている。
普段なら誰も居ないこの部屋だが、今日は先客がいた。
母「あら、アンタ。こんなところで何やってんのさ。」
今日も朝から強めの酒を飲んでいたのか、酒臭い母親が絡んで来た。
俺「っ………道具取りに来ただけだってば。ってか今日も朝から飲んだのかよ」
少しきつい物言いだったが、俺の母親はこれくらい言わないと真面目に仕事をしてくれない。
母「道具取りに行くのはぁ~最初にやっとけよぉ~!」
呂律も回っていないのに、自信満々に人を叱る度胸だけはご健在のようで。もはや何語か分からない言葉を使って、母親は俺に説教を続けている。
しかし、急に母親は黙った。
母「本当は、ホントはこんなはずじゃ、こんな筈じゃなかったんだよぉ~!」
まるで赤ん坊のように泣き崩れる母親をなだめるのはもう何回目だろうか。
暫くすると母親は倉庫で寝てしまった。もう置いていこう。
帰りの廊下を一人で歩きながら、呟いた。
俺「父さんがいれば、こんなことにはならなかったのに………」
父さんとは、俺が10歳の頃に天使との戦争にパイロットとして招集されてから一度も家に帰って来ていない。
あの時は子供ながらに『死』を痛いほど理解した。
そういえば天使はさっき脱走しようとしていた。早く部屋に戻ろう。
駆け足で部屋に入ると、先程の天使が肩で息をしながら地面にへたり込んでいた。
天使「はぁ、はぁっ、はぁ………あっ!………すみません………」
彼女を縛っていたロープは千切れ、椅子は無造作に倒されている。恐らく俺が部屋を出て行った時のまま、必死に翼を動かしてロープをちぎり、窓から脱出しようとしたのだろう。窓枠には引っ掻いた痕が残されている。
よく見ると、翼に傷が出来てしまっている。
俺「………何てことしてくれてんだ………」
困ったようにつぶやいた俺を見て、天使の顔は一気に青ざめていった。
天使「あっ、あのっ………ご、ごめんなさいっ!」
俺「あー、悪ぃ。ちょっとこのベッドに横になってくれないか?」
天使は半ばあきらめた表情で俺の指示に従った。
俺「じゃあちょっと注射するぞ」
その言葉も耳に届いていないのかのように、天使はすぐさま眠りに落ちた。
ここからが俺のメインの仕事、天使の解体作業だ。
倉庫から持ってきたメスをよく消毒し、天使の腹部に切り込み線を入れる。何とも言えない、血生臭い匂いが部屋中に広がった。
ここからは臓器別に分け、ホルマリン漬けの容器に密閉保存する。臓器ごとに相場の違いはあるとはいえ、どの臓器も目玉が飛び出るほど高額だ。傷がつかないよう、丁寧に容器に移す。
しかし今回は違った。
俺「こいつ、堕天使か?」
真っ黒な翼。溶けかけた天使の輪。どう見ても堕天使だ。俺は少し動揺しながら、母親を呼ぼうと部屋を出ようとした。その時、堕天使には睡眠薬が効かないのか、堕天使が俺を呼んだ。
「ねーねーちょっと君、僕のこと殺したいわけ?」
思いがけない言動に俺は戸惑ったが、そんなこと気にしない、と言わんばかりに堕天使らしき少女は話す。
「そもそも天使は政府機関の研究対象。堕天使は見つけ次第政府機関に転送するように、言われてるでしょ?」
少女の強気な言動に少し腹が立った俺は、強い言葉で言った。
「いきなりなんだよ。てか、俺が呼びに行ったのは、母親に堕天使をどうするか聞くためだよ。お前に関係ないだろ!!」
しかし堕天使は、
「そっちこそなんだよ!ってか大人は堕天使を見つけ次第政府機関に転送しろって言われてるんだよ!?」
俺の予想を上回る堕天使の生意気さに俺はとても腹が立ったが、人間はどうやら腹が立ちすぎると逆に冷静になるらしく、少し落ち着いた。しかし堕天使はまだ合点のいかない所があるらしく、
「ここって噂になってる天使のオークション会場だよね、ここで売られた天使ってどうなるか知ってる?」
と答えた。
俺は知らなくて当たり前、というふうに答える。
「知ってるわけねぇだろ。第一、知ってても社長に守秘義務掛けられてんだし。」
天使は得意気に語った。
「だいたい富裕層に買われた天使は養子として迎えられるか…」
言葉をくもらせた堕天使に腹が立った俺は強く言った。
「養子として迎えられるか、もうひとつはなんだよ!」
堕天使は気まずそうに答えた。
「天使の心臓には不老の効果があるって知ってる?」
俺はその言葉を聞いて驚いた。確かに天使の心臓は他の臓器より高く売れるし、そんな使われ方をされてもおかしくないはずだ。
でも、それならわざわざ天使を丸ごと買うより心臓だけ買う方が解体する手間が省けるのに、どうしてだろう。
そしてその疑問を言葉にする前に、堕天使は俺の疑問の答えを俺に教えた。
「天使の眼球には千里眼、天使の輪には多幸感をもたらす、というふうに天使の体には人間が摂取すると人間に良い効果をもたらすことがあるの。だったらまるごと買った方がお得でしょ。そして、その効果を『ギフト』って言うの。『ギフト』の効果を特に感じる人をギフター、逆にあまり感じない人はアンチギフターとよばれるらしいよ。」
最もらしい質問をした堕天使は、突飛な事を言い出した。
「僕はテン、君、僕の主にならないか?」
「……は?」
俺は突然のテンの発言に目を丸くした。
「主ってなんだよ。てか、なんでまだ会ってちょっとしか話してない奴の主にならなきゃいけないんだよ。」
テンはさらに予想外なことを言った。
「君にはギフターの素質がある。僕の身を摂取して、この世界の、そして、天使がどうなってるかを僕と探しに行かないか?」
俺は少し考え、言葉を発した。
「お前の体を摂取するってどういうことだよ。まぁ捕獲された天使がどうなるかは気になるけどさ…」
しかし、テンは心配いらない、と言うふうに続けた。
「僕の体なら大丈夫。僕は天使だった頃、カミサマに『無限再生』の能力を授かったんだ。だから心臓を貫かれない限り、絶対に死なない。それに、僕の主になれば、沢山の美人な天使に会えるよ、それでも主にならないの?」
年頃の少年に、美人という言葉は破壊力が高すぎる。ここまで来たらしょうがない、テンにははっきり言ってやろう。
「俺は、お前の主になる。」
テンは嬉しそうに言った。
「え、!?ほんとに!?ありがとう!じゃあまずは僕と顔見知りの情報屋がいるから、その人のところに行こう!」
テンは頭の回転も思いついたことを口にするのも早いらしい。
俺は、テンに振り回されるしか無かった。
主ってもっとこう、従えたりしないんだろうか。
「はぁ。仕方ない。じゃあその人のところ行くか。」
「そうと決まればしゅっぱーつ!」
結果は人類の圧勝。人類の化学と兵器の前には天使の魔法など無力なものに過ぎなかった。そしてーーーーー
「さぁ、新鮮な天使の眼球、値段は500万コインから!」
威勢のいい声が響き渡る。ここは天使の臓器、又は天使そのものを富裕層へ売りつける非合法のオークション会場だ。買われた天使の臓器は富裕層が自慢のために保管しておくらしい。そして買われた天使がどうなるのか、それはオークション司会者と買った富裕層にしか分からない。
捕獲した天使を状態がいいならそのまま売りに出し、状態のいい臓器があるなら解体して売りに出すのだ。
もちろん、政府に見つかったら懲役なんかでは済まない。即刻死刑になるだろう。
俺は、捕獲した天使の状態を見て、解体する仕事を手伝わされている。解体の手順は、まず捕獲された天使に睡眠薬を飲ませて、くまなく状態をチェックする。ひとつでも傷があれば、その天使は解体してオークションに出す。傷が見当たらなければ、買って貰えるように着飾り、会場へ運ぶ。俺は今日も仕事場の椅子に腰掛けた。
[水平線]
天使「やっ、やめてぇ………私の事、殺さないでくださいぃ………!」
今日、最初に担当する天使は目の前の解体用の椅子に腰かけ、俺を見ながら震えている。
余程俺の事が怖いのだろう。隙あらばこの縄を解こうと純白の綺麗な翼を必死にばたつかせている。
俺「安心しろ。お前が変なことしない限り俺はお前を傷つけない。」
そう言っても目の前の天使は聞く耳を持たず、彼女を縛っている縄と格闘している。
こんなにも暴れているのなら、睡眠薬と解体器具をこの部屋に運び込んでもいいだろうと、俺はこの部屋を出た。
薄暗い廊下を歩き続ける。所々から吹き付ける隙間風の音が、ホラー映画のような雰囲気を作り上げている。
突き当りを右に曲がると、『倉庫』と書かれた薄汚れた看板が有った。ここに天使の解体に使うものや、オークションの時に天使に着させる服が全て収納されている。
普段なら誰も居ないこの部屋だが、今日は先客がいた。
母「あら、アンタ。こんなところで何やってんのさ。」
今日も朝から強めの酒を飲んでいたのか、酒臭い母親が絡んで来た。
俺「っ………道具取りに来ただけだってば。ってか今日も朝から飲んだのかよ」
少しきつい物言いだったが、俺の母親はこれくらい言わないと真面目に仕事をしてくれない。
母「道具取りに行くのはぁ~最初にやっとけよぉ~!」
呂律も回っていないのに、自信満々に人を叱る度胸だけはご健在のようで。もはや何語か分からない言葉を使って、母親は俺に説教を続けている。
しかし、急に母親は黙った。
母「本当は、ホントはこんなはずじゃ、こんな筈じゃなかったんだよぉ~!」
まるで赤ん坊のように泣き崩れる母親をなだめるのはもう何回目だろうか。
暫くすると母親は倉庫で寝てしまった。もう置いていこう。
帰りの廊下を一人で歩きながら、呟いた。
俺「父さんがいれば、こんなことにはならなかったのに………」
父さんとは、俺が10歳の頃に天使との戦争にパイロットとして招集されてから一度も家に帰って来ていない。
あの時は子供ながらに『死』を痛いほど理解した。
そういえば天使はさっき脱走しようとしていた。早く部屋に戻ろう。
駆け足で部屋に入ると、先程の天使が肩で息をしながら地面にへたり込んでいた。
天使「はぁ、はぁっ、はぁ………あっ!………すみません………」
彼女を縛っていたロープは千切れ、椅子は無造作に倒されている。恐らく俺が部屋を出て行った時のまま、必死に翼を動かしてロープをちぎり、窓から脱出しようとしたのだろう。窓枠には引っ掻いた痕が残されている。
よく見ると、翼に傷が出来てしまっている。
俺「………何てことしてくれてんだ………」
困ったようにつぶやいた俺を見て、天使の顔は一気に青ざめていった。
天使「あっ、あのっ………ご、ごめんなさいっ!」
俺「あー、悪ぃ。ちょっとこのベッドに横になってくれないか?」
天使は半ばあきらめた表情で俺の指示に従った。
俺「じゃあちょっと注射するぞ」
その言葉も耳に届いていないのかのように、天使はすぐさま眠りに落ちた。
ここからが俺のメインの仕事、天使の解体作業だ。
倉庫から持ってきたメスをよく消毒し、天使の腹部に切り込み線を入れる。何とも言えない、血生臭い匂いが部屋中に広がった。
ここからは臓器別に分け、ホルマリン漬けの容器に密閉保存する。臓器ごとに相場の違いはあるとはいえ、どの臓器も目玉が飛び出るほど高額だ。傷がつかないよう、丁寧に容器に移す。
しかし今回は違った。
俺「こいつ、堕天使か?」
真っ黒な翼。溶けかけた天使の輪。どう見ても堕天使だ。俺は少し動揺しながら、母親を呼ぼうと部屋を出ようとした。その時、堕天使には睡眠薬が効かないのか、堕天使が俺を呼んだ。
「ねーねーちょっと君、僕のこと殺したいわけ?」
思いがけない言動に俺は戸惑ったが、そんなこと気にしない、と言わんばかりに堕天使らしき少女は話す。
「そもそも天使は政府機関の研究対象。堕天使は見つけ次第政府機関に転送するように、言われてるでしょ?」
少女の強気な言動に少し腹が立った俺は、強い言葉で言った。
「いきなりなんだよ。てか、俺が呼びに行ったのは、母親に堕天使をどうするか聞くためだよ。お前に関係ないだろ!!」
しかし堕天使は、
「そっちこそなんだよ!ってか大人は堕天使を見つけ次第政府機関に転送しろって言われてるんだよ!?」
俺の予想を上回る堕天使の生意気さに俺はとても腹が立ったが、人間はどうやら腹が立ちすぎると逆に冷静になるらしく、少し落ち着いた。しかし堕天使はまだ合点のいかない所があるらしく、
「ここって噂になってる天使のオークション会場だよね、ここで売られた天使ってどうなるか知ってる?」
と答えた。
俺は知らなくて当たり前、というふうに答える。
「知ってるわけねぇだろ。第一、知ってても社長に守秘義務掛けられてんだし。」
天使は得意気に語った。
「だいたい富裕層に買われた天使は養子として迎えられるか…」
言葉をくもらせた堕天使に腹が立った俺は強く言った。
「養子として迎えられるか、もうひとつはなんだよ!」
堕天使は気まずそうに答えた。
「天使の心臓には不老の効果があるって知ってる?」
俺はその言葉を聞いて驚いた。確かに天使の心臓は他の臓器より高く売れるし、そんな使われ方をされてもおかしくないはずだ。
でも、それならわざわざ天使を丸ごと買うより心臓だけ買う方が解体する手間が省けるのに、どうしてだろう。
そしてその疑問を言葉にする前に、堕天使は俺の疑問の答えを俺に教えた。
「天使の眼球には千里眼、天使の輪には多幸感をもたらす、というふうに天使の体には人間が摂取すると人間に良い効果をもたらすことがあるの。だったらまるごと買った方がお得でしょ。そして、その効果を『ギフト』って言うの。『ギフト』の効果を特に感じる人をギフター、逆にあまり感じない人はアンチギフターとよばれるらしいよ。」
最もらしい質問をした堕天使は、突飛な事を言い出した。
「僕はテン、君、僕の主にならないか?」
「……は?」
俺は突然のテンの発言に目を丸くした。
「主ってなんだよ。てか、なんでまだ会ってちょっとしか話してない奴の主にならなきゃいけないんだよ。」
テンはさらに予想外なことを言った。
「君にはギフターの素質がある。僕の身を摂取して、この世界の、そして、天使がどうなってるかを僕と探しに行かないか?」
俺は少し考え、言葉を発した。
「お前の体を摂取するってどういうことだよ。まぁ捕獲された天使がどうなるかは気になるけどさ…」
しかし、テンは心配いらない、と言うふうに続けた。
「僕の体なら大丈夫。僕は天使だった頃、カミサマに『無限再生』の能力を授かったんだ。だから心臓を貫かれない限り、絶対に死なない。それに、僕の主になれば、沢山の美人な天使に会えるよ、それでも主にならないの?」
年頃の少年に、美人という言葉は破壊力が高すぎる。ここまで来たらしょうがない、テンにははっきり言ってやろう。
「俺は、お前の主になる。」
テンは嬉しそうに言った。
「え、!?ほんとに!?ありがとう!じゃあまずは僕と顔見知りの情報屋がいるから、その人のところに行こう!」
テンは頭の回転も思いついたことを口にするのも早いらしい。
俺は、テンに振り回されるしか無かった。
主ってもっとこう、従えたりしないんだろうか。
「はぁ。仕方ない。じゃあその人のところ行くか。」
「そうと決まればしゅっぱーつ!」