無気力探偵の事件簿
#1
目覚め
あー、しっかし頭痛ぇな…
いやホント、どうなってんすかねコレ。正直な所、もはや比喩とかのレベルじゃなくリアルで割れそうな気すらするんすけど…
つーかなんなんすか、さっきからチラチラ見えるこのワケ分かんねぇ景色。目の前のリビングと重なって気味が悪い。
しかも誰っすかコレ。せめて俺が知ってる相手にしてほしいっすよマジで。それなら何が見えてんのかだけでも分かるだろうし。
いや、分かった所でどうにもできねぇか……
あーホント、考えんのもだりぃし痛ぇ……
「ちょっと界人?どうしたの!」
母親が心配そうに叫んでいる声が聞こえるが、鈍痛は悪化するばかり。正直、意識保つのもキッツイっす。
目を閉じても脳内にフラッシュバックか何かのように再生されていく、知らない光景に、知らない人々に、知らない街。
「お、おおおおおちつけ、救急車、救急車を…」
「アンタそれ携帯じゃないよ、リモコンだよ!」
慌てふためく両親の声を最後まで聞くことなく、俺の意識はあっという間に沈んでいった。
[中央寄せ]☆ ☆ ☆[/中央寄せ]
「ん…」
あーよく寝…ってどこっすかココ。
真っ白な、見慣れない天井…
この手のドラマじゃ良くある点滴が無いモンで一瞬気づかなかったが、多分病院っすね。あーなるほど、ちゃんと携帯は見つかったワケだ。
「ああ良かった、界人起きたよ!もう頭は大丈夫?」
「本当だ、もう頭は大丈夫そうだな?」
そう聞いてくる両親に、まずは言いたい事が一つ。
「頭大丈夫って聞かれると、語弊しかないんすけど!?」
「「本当だ。」」
ダメだコイツら。
いや親にコイツとか、自分でもちょっとどうかと思うっすけど。
でもダメだコイツら。
なんで当人の俺の方が落ち着いてるんすか。
「あ、そうだ先生呼ばなきゃ!」
ソレ多分、一番最初にやんなきゃいけないヤツっすよね。我が親ながら少々小っ恥ずかしいというか…正直、何やってんだオイ、と全力で言いたい所っす。
「あー、大丈夫大丈夫。もう来てるから。」
あなた達声ちょっと大きすぎね、嬉しいのは分かるけどさぁ、と言いながら部屋に入ってくる、白衣を着た爺さん…もとい、初老の男性。
首にかかった名札を見るに、天木さんという名前らしいっす。
「えっと、そんじゃとりあえず質問ね。いろんな記憶とか見たって聞いたけど、自分が誰か、ちゃんと分かる?」
「あ、ハイ。大丈夫っす。」
そこだけは多分問題ないっすね。
俺の名前は影廼界人、種族は魔法族。
下から数えた方が若干早いぐらいの成績の、ごく平凡な魔法使い志望。
「はい、じゃあこの機械で計測するから、上に手を置いてちょっとばかり待って。」
そう言った天木さんは、何やらカチャカチャと機械を動かして、その上に俺の手をポンと上に乗せた。
複雑な魔法陣がパッと浮かび、ベッドに座ったままの俺を取り囲んで七色に光る。
「先生、これは?」
そう尋ねる父親にも、天木さんはじきに分かりますよ、としか答えねぇっす。ちょっと不安になってきた。大丈夫なんすかコレ。
しかしそう思っている間に、魔法陣はパッと散ってしまった。
後に残ったのは透明な…それでいて輪郭がほのかに金色の、不思議な色の光。
いや、なんなんすかコレ。すげぇまとわりついてくるんすけど。
「ほう、ほう…」
「いや、ほうほうじゃなくて、コレがなんなのか教えてほしいんすけど…」
どうなってんすかコレ。もうワケ分かんねぇっすよ。
あー、まだ回りふわふわ飛んでるっすね。
「結論から言おうか。君、固有魔法持ってるね。」
…え?
……ん?
「………は?」
いやいやいや、え!?何言ってんすかこの爺さん!?!?
あまりの混乱に思考がまとまらない。
それもそのハズ、固有魔法なんて持ってるヤツは俺の親戚にゃ一人だっていねぇっす。少なくとも、俺が知ってる限りでは。
「うーん、その様子だと説明した方がいいかね。固有魔法は、魔法使える人の一割ぐらいだけが持ってるってのは当然知ってるよね?」
「え、あぁ、ハイ…そっすね?」
俺の混乱混じりの返事をどう受け取ったのか、天木さん…いや、天木老先生は語り始めた。
曰く、俺がさっき妙な光景を見たのは固有魔法のせいだとか。
しかもソレは、空間属性とかいう聞いた事もない属性の魔法で。
現在起きている、あらゆる物事を見渡すモノ…らしいっす。
正直、一切意味が分かんねぇ。
「えっと…つまりアレっすか。珍しいんすか。」
「うん。基本属性の5種類にも、発展属性の5種類にも含まれない特殊属性だね。おめでとう。」
あー…
なんつーかこう、平穏ライフ終焉の鐘の音が聞こえるっすね…
いや別に、そんなに平穏を求めてるワケでもねぇっすけど。でもやっぱ、ソレとコレとは話が違ぇと思うんすよね。
「まぁまぁ、いいじゃないか。望むと望まないとに関わらず、かなりいい環境で学べる事になるんだから。」
置いてけぼりを食らった俺と両親の気持ちはどこへやら、どこの学校に行く?推薦は取り放題だし、転校だってできるよ?とノリノリで話す天木老先生。
「待って下さい、今通ってる学校は?一体どうするんですか…」
「お父さん、無茶言っちゃいけないよ。今は攻撃性はなくても、この先変な方向に変化するかもしれないからね。」
そもそも、固有魔法があったらどっかの専門校には通わないといけないでしょう?とからからと笑いながら言っている。いや怖ぇっすよ。なんなんすかこの人。
「ま、君の固有魔法だとこの辺りから選んでくれって事になるかね。」
そう言ってサッと出した一覧表には、俺でさえ名前を知っているような有名校の数々。
偏差値は実に70を超えてるっす。バケモンじゃねぇか。
「あんた、コレ…」
母親がもの言いたげにコッチを見ているが、言いたい事は分かるっす。
「あのー、俺、こんな授業さすがに受けれねぇっすよ?」
「ああ大丈夫、この辺りの学校なら固有魔法持ちは無条件で入学できるし学費もいらない、よほどの大やらかしをしなきゃ留年もないからね。」
「え?」
いやいやいや、「サポート体制は万全さ!」じゃねぇんすよ!!
俺、自分で言うのもアレっすけど結構なバカっすよ!?!?
しかしまぁ、それを言う前に天木老先生はトンチンカンな回答を返してきた。
「ああ、それとももう少し上のランクがいいのかい?それでも推薦はかなり取りやすくなるけ…」
「違ぇっすよ!?つーか、なお悪化してるんすけど!?!?」
ああ、そう…とか残念そうに言ってるっすけど、この人は一体なんなんだろう。
「まぁまぁ良いってコトさ!直感でパッと選んじゃいなさいよ!!」
「いや無理っすけど!?!?何言ってんすか!?!?!?」
しかしどうも、どこかの専門校に通わなきゃなんねぇのはもう決定事項らしいっすね…
パッと出された資料を読んで、とりあえず家からの通学が楽そうな所を選ぼうとしたのだが…
「界人、せっかくならココはどう?」
「いやいや、コッチもいいかもしれないぞ?」
なんで俺の親、寮ばっかり出してくるんすかね。まぁ良いっすけど。
あ、でもココは確かに設備整ってんな……
「ま、その資料あげるし、とりあえず家でゆっくり考えてよ。数週間したら政府の方から確認の人来るしね。」
そう言った天木老先生は、あまりに考え込む俺達に業を煮やしたのか、馬鹿みたいな冊数の書類をポンと俺の手の上に置いて部屋を出ていった。
その後、紆余曲折あって俺が選んだのは“アッシュフォート魔法学校”という所なんすけど……
その決断をその後しばらくは後悔するコトになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。
いやホント、どうなってんすかねコレ。正直な所、もはや比喩とかのレベルじゃなくリアルで割れそうな気すらするんすけど…
つーかなんなんすか、さっきからチラチラ見えるこのワケ分かんねぇ景色。目の前のリビングと重なって気味が悪い。
しかも誰っすかコレ。せめて俺が知ってる相手にしてほしいっすよマジで。それなら何が見えてんのかだけでも分かるだろうし。
いや、分かった所でどうにもできねぇか……
あーホント、考えんのもだりぃし痛ぇ……
「ちょっと界人?どうしたの!」
母親が心配そうに叫んでいる声が聞こえるが、鈍痛は悪化するばかり。正直、意識保つのもキッツイっす。
目を閉じても脳内にフラッシュバックか何かのように再生されていく、知らない光景に、知らない人々に、知らない街。
「お、おおおおおちつけ、救急車、救急車を…」
「アンタそれ携帯じゃないよ、リモコンだよ!」
慌てふためく両親の声を最後まで聞くことなく、俺の意識はあっという間に沈んでいった。
[中央寄せ]☆ ☆ ☆[/中央寄せ]
「ん…」
あーよく寝…ってどこっすかココ。
真っ白な、見慣れない天井…
この手のドラマじゃ良くある点滴が無いモンで一瞬気づかなかったが、多分病院っすね。あーなるほど、ちゃんと携帯は見つかったワケだ。
「ああ良かった、界人起きたよ!もう頭は大丈夫?」
「本当だ、もう頭は大丈夫そうだな?」
そう聞いてくる両親に、まずは言いたい事が一つ。
「頭大丈夫って聞かれると、語弊しかないんすけど!?」
「「本当だ。」」
ダメだコイツら。
いや親にコイツとか、自分でもちょっとどうかと思うっすけど。
でもダメだコイツら。
なんで当人の俺の方が落ち着いてるんすか。
「あ、そうだ先生呼ばなきゃ!」
ソレ多分、一番最初にやんなきゃいけないヤツっすよね。我が親ながら少々小っ恥ずかしいというか…正直、何やってんだオイ、と全力で言いたい所っす。
「あー、大丈夫大丈夫。もう来てるから。」
あなた達声ちょっと大きすぎね、嬉しいのは分かるけどさぁ、と言いながら部屋に入ってくる、白衣を着た爺さん…もとい、初老の男性。
首にかかった名札を見るに、天木さんという名前らしいっす。
「えっと、そんじゃとりあえず質問ね。いろんな記憶とか見たって聞いたけど、自分が誰か、ちゃんと分かる?」
「あ、ハイ。大丈夫っす。」
そこだけは多分問題ないっすね。
俺の名前は影廼界人、種族は魔法族。
下から数えた方が若干早いぐらいの成績の、ごく平凡な魔法使い志望。
「はい、じゃあこの機械で計測するから、上に手を置いてちょっとばかり待って。」
そう言った天木さんは、何やらカチャカチャと機械を動かして、その上に俺の手をポンと上に乗せた。
複雑な魔法陣がパッと浮かび、ベッドに座ったままの俺を取り囲んで七色に光る。
「先生、これは?」
そう尋ねる父親にも、天木さんはじきに分かりますよ、としか答えねぇっす。ちょっと不安になってきた。大丈夫なんすかコレ。
しかしそう思っている間に、魔法陣はパッと散ってしまった。
後に残ったのは透明な…それでいて輪郭がほのかに金色の、不思議な色の光。
いや、なんなんすかコレ。すげぇまとわりついてくるんすけど。
「ほう、ほう…」
「いや、ほうほうじゃなくて、コレがなんなのか教えてほしいんすけど…」
どうなってんすかコレ。もうワケ分かんねぇっすよ。
あー、まだ回りふわふわ飛んでるっすね。
「結論から言おうか。君、固有魔法持ってるね。」
…え?
……ん?
「………は?」
いやいやいや、え!?何言ってんすかこの爺さん!?!?
あまりの混乱に思考がまとまらない。
それもそのハズ、固有魔法なんて持ってるヤツは俺の親戚にゃ一人だっていねぇっす。少なくとも、俺が知ってる限りでは。
「うーん、その様子だと説明した方がいいかね。固有魔法は、魔法使える人の一割ぐらいだけが持ってるってのは当然知ってるよね?」
「え、あぁ、ハイ…そっすね?」
俺の混乱混じりの返事をどう受け取ったのか、天木さん…いや、天木老先生は語り始めた。
曰く、俺がさっき妙な光景を見たのは固有魔法のせいだとか。
しかもソレは、空間属性とかいう聞いた事もない属性の魔法で。
現在起きている、あらゆる物事を見渡すモノ…らしいっす。
正直、一切意味が分かんねぇ。
「えっと…つまりアレっすか。珍しいんすか。」
「うん。基本属性の5種類にも、発展属性の5種類にも含まれない特殊属性だね。おめでとう。」
あー…
なんつーかこう、平穏ライフ終焉の鐘の音が聞こえるっすね…
いや別に、そんなに平穏を求めてるワケでもねぇっすけど。でもやっぱ、ソレとコレとは話が違ぇと思うんすよね。
「まぁまぁ、いいじゃないか。望むと望まないとに関わらず、かなりいい環境で学べる事になるんだから。」
置いてけぼりを食らった俺と両親の気持ちはどこへやら、どこの学校に行く?推薦は取り放題だし、転校だってできるよ?とノリノリで話す天木老先生。
「待って下さい、今通ってる学校は?一体どうするんですか…」
「お父さん、無茶言っちゃいけないよ。今は攻撃性はなくても、この先変な方向に変化するかもしれないからね。」
そもそも、固有魔法があったらどっかの専門校には通わないといけないでしょう?とからからと笑いながら言っている。いや怖ぇっすよ。なんなんすかこの人。
「ま、君の固有魔法だとこの辺りから選んでくれって事になるかね。」
そう言ってサッと出した一覧表には、俺でさえ名前を知っているような有名校の数々。
偏差値は実に70を超えてるっす。バケモンじゃねぇか。
「あんた、コレ…」
母親がもの言いたげにコッチを見ているが、言いたい事は分かるっす。
「あのー、俺、こんな授業さすがに受けれねぇっすよ?」
「ああ大丈夫、この辺りの学校なら固有魔法持ちは無条件で入学できるし学費もいらない、よほどの大やらかしをしなきゃ留年もないからね。」
「え?」
いやいやいや、「サポート体制は万全さ!」じゃねぇんすよ!!
俺、自分で言うのもアレっすけど結構なバカっすよ!?!?
しかしまぁ、それを言う前に天木老先生はトンチンカンな回答を返してきた。
「ああ、それとももう少し上のランクがいいのかい?それでも推薦はかなり取りやすくなるけ…」
「違ぇっすよ!?つーか、なお悪化してるんすけど!?!?」
ああ、そう…とか残念そうに言ってるっすけど、この人は一体なんなんだろう。
「まぁまぁ良いってコトさ!直感でパッと選んじゃいなさいよ!!」
「いや無理っすけど!?!?何言ってんすか!?!?!?」
しかしどうも、どこかの専門校に通わなきゃなんねぇのはもう決定事項らしいっすね…
パッと出された資料を読んで、とりあえず家からの通学が楽そうな所を選ぼうとしたのだが…
「界人、せっかくならココはどう?」
「いやいや、コッチもいいかもしれないぞ?」
なんで俺の親、寮ばっかり出してくるんすかね。まぁ良いっすけど。
あ、でもココは確かに設備整ってんな……
「ま、その資料あげるし、とりあえず家でゆっくり考えてよ。数週間したら政府の方から確認の人来るしね。」
そう言った天木老先生は、あまりに考え込む俺達に業を煮やしたのか、馬鹿みたいな冊数の書類をポンと俺の手の上に置いて部屋を出ていった。
その後、紆余曲折あって俺が選んだのは“アッシュフォート魔法学校”という所なんすけど……
その決断をその後しばらくは後悔するコトになるとは、この時の俺はまだ知らなかった。
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