二次創作
裏切り者なんて、いるわけない
—チーノside—
“知人が死ぬと、自殺率が上がるらしい”。どこかでそんなこと聞いたなぁ、とぼんやり思う。
(…現実逃避したいんかな、俺)
「違う…俺は、コネシマに死んでほしくてあんなこと言ったわけじゃ…」
ロボロが小刻みに震えている。そういえば、ロボロがコネシマのことを裏切者なんじゃないか、といった途端に矢が飛んできたんだっけ。記憶まで曖昧になってしまっているようだ。
「…」
ちらりとショッピを見ると、動かなくなったコネシマの横に、俺たちに背を向けるようにしてしゃがみ込んでいた。
「なんや、これ…」
トントンさんの声にそちらへ視線を移すと、真っ青な顔をした彼が立っていた。手にはどこから現れたのか、一枚の紙切れが握られていた。
「…なんて書いてあるん?」
大先生が震える声で問う。先ほどのようにトントンは内容を読み上げた。
「…[太字][斜体]”自らで殺し合う気がないのなら、我々が殺させてもらう。裏切者もそれを望んでいるであろう。”[/斜体][/太字]」
「……」
「違う…俺やない、俺やないんや…!!」
沈黙を疑いと感じたのか、ロボロが声を荒げる。
(…そんなの、わかってるよ)
仮にロボロが裏切者なら、こんな疑われそうなことをしないだろう。そんなのわかってる。
——ずっと、ずっと一緒にいたんやから。
「そんなこと、わかっている」
心の中で思っていたことと同じようなセリフが聞こえ、一瞬びくりとする。声の主は、我らが総統…グルッペンだった。
「私はお前らの中に裏切者がいるとは思っていない。…まぁ、どう考えるかはお前らの自由だ」
「……」
俺は…どうなんやろ。裏切者がいるって信じとるやろか…
(いないと信じたい…けど…)
コネシマとショッピが視界に入り、いたたまれなくなって目をそらした。
「…なぁ、この扉開いてるぜ」
ゾムさんのわずかに険しい声がした。見ると、この部屋の出入り口らしき扉が開いている。…さっきまで開いてなかったのに。
「…入ってみますか?あ、いや、出るのほうが正しいんかな…」
エミさんがブツブツと呟く横で、シャオさんが無言で歩み出した。
「…ふざけとるんか、これ」
ずっとだんまりを決め込んでいたシャオさんが言葉を漏らす。そっとうしろから覗き込んでみると、そこにあったのは…
「…俺たちの部屋?」
人数分の扉に、それぞれ俺たちの名が刻まれている。ホテルのような清潔感がそこには漂っていた。
(本気で、俺たちを帰すつもりがないんだ…)
両端の壁には、ところどころ茶色に変色した鎧がある。なんとなく気になって、ゆっくりと廊下を進んでみた。
[中央寄せ][太字][斜体]—茶色くさびた鎧—[/斜体][/太字][/中央寄せ]
トントンが読み上げた文章の一部が頭に浮かぶ。何か関係があるのだろうか。そんなことを思いながら鎧に近づく。そして…足が止まった。
「ッッ!!」
その鎧の背中には、何本かの鎧が背負われていた。いくつかは鎧と同じように茶色い錆がこびりついている。俺は、いや俺たちは、その矢に見覚えがあった。
「これ…コネシマさんに刺さってるやと、おんなじ…」
「…ほんとやん」
大先生も見にやって来た。いつものように煙草をふかしているが、いくらか顔色が悪い。正直入りたくないが、用意された自分らの部屋で休んだほうが良いかもしれない。そう思い提案してみたが、トントンに渋い顔をされた。
「休みたい気持ちはわかるんやが、この状況で一人になって大丈夫なんか…?」
「いえ、もしかしたら安全かもしれませんよ。…これを信じるかどうかですが」
エミさんの声に後ろを振り返ると、先ほど通った扉に張り紙が見えた。ゾムが内容を読み上げる。
「[太字][斜体]”この場所では、我々は誰も殺さぬ。安心して眠れ”[/斜体][/太字]」
「…本当なんか、それ」
俺が不安げに言うと、ショッピが素っ気なく呟いた。
「…疑っても疲れるだけや。俺は部屋に入る」
そう言って、一人部屋の中に入っていくショッピ。少し間をおいて、「俺らも入るか」とトントンが切り出したのをきっかけに、ぽつぽつとみんな部屋に入っていった。俺も、警戒しながら扉を開ける。
シンプルな部屋だった。ベッドと机とクローゼットに、浴室とトイレがあるだけの、ホテルのような部屋だった。…ただ一つ、机の上で異様な存在を放っている小瓶を除いては。
「…なんやこれ」
近づいて手に取ってみる。薄紫の液体が入っている。これ、どこかで見たことあるような…
「これ…毒、か?」
スパイとして敵対国の実験室に潜入した時に見た毒入りの小瓶が微かに脳裏に浮かぶ。もう一度よく見てみると、たしかにそれに似ていた。やがて恐怖とも怒りともつかない何かがこみあげてきて、俺は小瓶を机の上に戻した。
(なんやねん、この場所では俺たちを殺さないって張り紙に書いとったくせに毒なんか用意して。まるで自分で死ねって言ってるような…)
そこまで考え、俺の中に一つの想像が浮かんだ。それは妙に現実味を帯びていて、それでいて絶対に訪れてほしくない妄想だった。
「ッッ!!」
部屋を飛び出す。まっすぐにあいつの部屋に向かう。思い返せば、さっきからあいつの様子がおかしかった。いつもの彼は、そこにはいなかった。おそらく、コネシマが死んだその時から…
(頼むから、生きててくれよ…——"ショッピ”)
ノックもせずに扉を開ける。そこにショッピはいた。生きている。いつもと同じ冷め切った目が俺のほうを向く。でも、俺は少しも安心なんてできなかった。むしろ、絶望の淵に立たされることになった。
——だって、目の前に広がる光景は、俺の最悪な予想が的中していることを表していたから。
「何してんのショッピ…!!」
「…チーノ、邪魔せんといてや」
ショッピの手には、小瓶が握られている。妖しげな紫色の液体が入っている、あの小瓶である。その蓋は…開いていた。
「部長、また言わせてくださいよ…”クソ先輩”って」
[中央寄せ][太字][斜体]—水色の空に焦がれながら—[/斜体][/太字][/中央寄せ]
「待って、ショッピ…!」
[中央寄せ][太字][斜体]—紫色のギフトを飲み干す—[/斜体][/太字][/中央寄せ]
…“知人が死ぬと、自殺率が上がるらしい”。本当だったんだなぁ、と静かになった部屋の中でぼんやり思う。俺の声を聞きつけたトントンが来てくれるまで、俺は一歩も動くことができなかった。
——守れなかったんだ。俺はショッピを助けられたのに。俺は、俺は…
それ以上は考えたくなかった。もう、何も考えたくない…
“知人が死ぬと、自殺率が上がるらしい”。どこかでそんなこと聞いたなぁ、とぼんやり思う。
(…現実逃避したいんかな、俺)
「違う…俺は、コネシマに死んでほしくてあんなこと言ったわけじゃ…」
ロボロが小刻みに震えている。そういえば、ロボロがコネシマのことを裏切者なんじゃないか、といった途端に矢が飛んできたんだっけ。記憶まで曖昧になってしまっているようだ。
「…」
ちらりとショッピを見ると、動かなくなったコネシマの横に、俺たちに背を向けるようにしてしゃがみ込んでいた。
「なんや、これ…」
トントンさんの声にそちらへ視線を移すと、真っ青な顔をした彼が立っていた。手にはどこから現れたのか、一枚の紙切れが握られていた。
「…なんて書いてあるん?」
大先生が震える声で問う。先ほどのようにトントンは内容を読み上げた。
「…[太字][斜体]”自らで殺し合う気がないのなら、我々が殺させてもらう。裏切者もそれを望んでいるであろう。”[/斜体][/太字]」
「……」
「違う…俺やない、俺やないんや…!!」
沈黙を疑いと感じたのか、ロボロが声を荒げる。
(…そんなの、わかってるよ)
仮にロボロが裏切者なら、こんな疑われそうなことをしないだろう。そんなのわかってる。
——ずっと、ずっと一緒にいたんやから。
「そんなこと、わかっている」
心の中で思っていたことと同じようなセリフが聞こえ、一瞬びくりとする。声の主は、我らが総統…グルッペンだった。
「私はお前らの中に裏切者がいるとは思っていない。…まぁ、どう考えるかはお前らの自由だ」
「……」
俺は…どうなんやろ。裏切者がいるって信じとるやろか…
(いないと信じたい…けど…)
コネシマとショッピが視界に入り、いたたまれなくなって目をそらした。
「…なぁ、この扉開いてるぜ」
ゾムさんのわずかに険しい声がした。見ると、この部屋の出入り口らしき扉が開いている。…さっきまで開いてなかったのに。
「…入ってみますか?あ、いや、出るのほうが正しいんかな…」
エミさんがブツブツと呟く横で、シャオさんが無言で歩み出した。
「…ふざけとるんか、これ」
ずっとだんまりを決め込んでいたシャオさんが言葉を漏らす。そっとうしろから覗き込んでみると、そこにあったのは…
「…俺たちの部屋?」
人数分の扉に、それぞれ俺たちの名が刻まれている。ホテルのような清潔感がそこには漂っていた。
(本気で、俺たちを帰すつもりがないんだ…)
両端の壁には、ところどころ茶色に変色した鎧がある。なんとなく気になって、ゆっくりと廊下を進んでみた。
[中央寄せ][太字][斜体]—茶色くさびた鎧—[/斜体][/太字][/中央寄せ]
トントンが読み上げた文章の一部が頭に浮かぶ。何か関係があるのだろうか。そんなことを思いながら鎧に近づく。そして…足が止まった。
「ッッ!!」
その鎧の背中には、何本かの鎧が背負われていた。いくつかは鎧と同じように茶色い錆がこびりついている。俺は、いや俺たちは、その矢に見覚えがあった。
「これ…コネシマさんに刺さってるやと、おんなじ…」
「…ほんとやん」
大先生も見にやって来た。いつものように煙草をふかしているが、いくらか顔色が悪い。正直入りたくないが、用意された自分らの部屋で休んだほうが良いかもしれない。そう思い提案してみたが、トントンに渋い顔をされた。
「休みたい気持ちはわかるんやが、この状況で一人になって大丈夫なんか…?」
「いえ、もしかしたら安全かもしれませんよ。…これを信じるかどうかですが」
エミさんの声に後ろを振り返ると、先ほど通った扉に張り紙が見えた。ゾムが内容を読み上げる。
「[太字][斜体]”この場所では、我々は誰も殺さぬ。安心して眠れ”[/斜体][/太字]」
「…本当なんか、それ」
俺が不安げに言うと、ショッピが素っ気なく呟いた。
「…疑っても疲れるだけや。俺は部屋に入る」
そう言って、一人部屋の中に入っていくショッピ。少し間をおいて、「俺らも入るか」とトントンが切り出したのをきっかけに、ぽつぽつとみんな部屋に入っていった。俺も、警戒しながら扉を開ける。
シンプルな部屋だった。ベッドと机とクローゼットに、浴室とトイレがあるだけの、ホテルのような部屋だった。…ただ一つ、机の上で異様な存在を放っている小瓶を除いては。
「…なんやこれ」
近づいて手に取ってみる。薄紫の液体が入っている。これ、どこかで見たことあるような…
「これ…毒、か?」
スパイとして敵対国の実験室に潜入した時に見た毒入りの小瓶が微かに脳裏に浮かぶ。もう一度よく見てみると、たしかにそれに似ていた。やがて恐怖とも怒りともつかない何かがこみあげてきて、俺は小瓶を机の上に戻した。
(なんやねん、この場所では俺たちを殺さないって張り紙に書いとったくせに毒なんか用意して。まるで自分で死ねって言ってるような…)
そこまで考え、俺の中に一つの想像が浮かんだ。それは妙に現実味を帯びていて、それでいて絶対に訪れてほしくない妄想だった。
「ッッ!!」
部屋を飛び出す。まっすぐにあいつの部屋に向かう。思い返せば、さっきからあいつの様子がおかしかった。いつもの彼は、そこにはいなかった。おそらく、コネシマが死んだその時から…
(頼むから、生きててくれよ…——"ショッピ”)
ノックもせずに扉を開ける。そこにショッピはいた。生きている。いつもと同じ冷め切った目が俺のほうを向く。でも、俺は少しも安心なんてできなかった。むしろ、絶望の淵に立たされることになった。
——だって、目の前に広がる光景は、俺の最悪な予想が的中していることを表していたから。
「何してんのショッピ…!!」
「…チーノ、邪魔せんといてや」
ショッピの手には、小瓶が握られている。妖しげな紫色の液体が入っている、あの小瓶である。その蓋は…開いていた。
「部長、また言わせてくださいよ…”クソ先輩”って」
[中央寄せ][太字][斜体]—水色の空に焦がれながら—[/斜体][/太字][/中央寄せ]
「待って、ショッピ…!」
[中央寄せ][太字][斜体]—紫色のギフトを飲み干す—[/斜体][/太字][/中央寄せ]
…“知人が死ぬと、自殺率が上がるらしい”。本当だったんだなぁ、と静かになった部屋の中でぼんやり思う。俺の声を聞きつけたトントンが来てくれるまで、俺は一歩も動くことができなかった。
——守れなかったんだ。俺はショッピを助けられたのに。俺は、俺は…
それ以上は考えたくなかった。もう、何も考えたくない…