二次創作
或る日の太宰
唐突ですが、私、霊導師は今、探偵社のお二人ともお茶(仮)をしています…
[漢字]先刻[/漢字][ふりがな]さっき[/ふりがな]座っていたカウンター席ではなく、目の前に(おそらく)年上の、ゆとりの有る服を着た黒髪のざんぎり頭の方と、昨日お会いした、砂色のコートを身に纏った黒髪の[漢字]蓬髪[/漢字][ふりがな]ほうはつ[/ふりがな]のお方がいて、誰も何も喋らない、なんとも云えない空気の漂うテーブル席に、今います。
ざんぎり頭の方は私が食べたものよりも数倍大きな(糖分も比例して多そうな)パフェを、
蓬髪の方はいかにも大人が飲むような[漢字]黒珈琲[/漢字][ふりがな]ブラックコーヒー[/ふりがな]をそれぞれ飲食しています。
かと云う私は(奢ってくださるそうでしたが)既に胃は満たされているので[漢字]温牛乳[/漢字][ふりがな]ホットミルク[/ふりがな]を頼みました。
なぜこんなことになったのか自分でも判りません。
なんで今心の中で語っているのかも判りません。
世の中、判らないものだらけです。
内心冷や汗をかきまくっていると、蓬髪の[漢字]方[/漢字][ふりがな]かた[/ふりがな]が口を開いた。
太宰:「さぁて、私が云いたいことは判っているだろうから単刀直入に云おう」
云いたいことなんて判らない。
判っている風に振る舞うのが上手いだけだ。
……と云うか、私、この人たちの名前も知らないんだけどな。
そんな言い訳がましいことを内心思った。
その時、お二人がこっちを見て、全て洗いざらい見透かされた……ような気がした。
太宰:「…そういえば、まだ名前も名乗ってなかったね。私は太宰。太宰治だ」
乱歩:「僕は江戸川乱歩。名探偵さ!」
新聞で何度か見たことがある名前だ。
その記事は〈警察も苦労した難事件を解決!〉や〈市民の怪我人0人!奇跡の[漢字]二人組[/漢字][ふりがな]コンビ[/ふりがな]!!〉とかだった気がする。
やはり、特務課とツテがあったり、只者ではないだろうなと思ったけれど、武装探偵社の精鋭の方だったとは。
太宰:「自己紹介も済んだところで本題に入ろうか。君個人については聞かない。[小文字] …既に報告書も[漢字]提出[/漢字][ふりがな]出[/ふりがな]しちゃったし[/小文字]」
霊導師:「ありがとうございます…?」
最後らへんがよく聞き取れなかったけれど、とりあえずよかった…
太宰:「[漢字]但[/漢字][ふりがな]ただ[/ふりがな]し一つだけ」
霊導師:「なんでしょうか…?」
太宰:「君は依頼主からの依頼が終わったら、二度と依頼のサイトや電話番号が繋がらないようにしているらしいね」
霊導師:「はい、そうですね」
私まだ12歳の約子どもだし。
防犯の観点からも…一応そうなるように知り合いにプログラムをしてもらった。
太宰:「だから伝言さ、君の"元"依頼主からね」
そう云って太宰さんは[漢字]覚え書き[/漢字][ふりがな]メモ[/ふりがな]を渡してきた。
霊導師:「??」
太宰:「これも私たちへの依頼なのだがね、『もし、興味があるのなら連絡して下さい』…だってさ。じゃあ私たちはこれで」
そう云い残してお二人は会計を済ませて行ってしまった。
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残ったのは私と、いつのまにか空になっていたカップとパフェグラスだけ…
霊導師:(…とりあえず[漢字]覚え書き[/漢字][ふりがな]メモ[/ふりがな]を見てみるかな)
丁寧に四つ折りにされた紙を開いていく。
霊導師:「え」
肝が据わっていると自負するほどの私でも驚いた。
そこにはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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[明朝体] 霊導師さんへ
ご連絡がつかない[漢字]為[/漢字][ふりがな]ため[/ふりがな]、このような形でご連絡させていただきました。
さて、早速ですが[太字]異能特務課[/太字]にご興味はありませんか?
現在、あなたはご自身の異能をご活用して生計を立てているようですが、特務課にその異能を役立てていただけるのであれば、それまでの学費、生活費等は補償いたします。
…これは私の考えになりますが、あなたの身体能力、忍耐力、判断力は現役の特務課の者でも目を見張るものがあります。
重ね重ねになりますが、もし、興味が、覚悟があるようなら異能特務課でお待ちしております。
TEL:***-****-****
[右寄せ]内務省 異能特務課 坂口安吾[/右寄せ]
[/明朝体]
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霊導師:「………………………え」
一連の文章(メモではなく、もはや手紙のレベル)を読み終えた私は、ひたすら驚きと混乱を感じていた。
確かに[漢字]諸々[/漢字][ふりがな]もろもろ[/ふりがな]の補助があるのはありがたい。
でも、私が異能特務課に入る?
あの?
無理だ。
礼儀作法もなっていないようなこんな、12歳の小娘には…。
…でも、このまま生きていくあてもない。
特務課の人がどんな人かも判った。
なら、一歩踏み出しても良いのかも知れない。
霊導師:「…よし」
お礼を云いながらカフェを出る。
覚悟は、生きていく道は、決まった。
もともと思い切りはいい方だ。
(もう私は霊導師ではないのだな)
そう思いながら私は携帯電話を取り出し、電話をかける。
れい:「…あ、もしもし、こちら、坂口安吾さんのお電話で間違い無いでしょうか?…………はい、覚悟、決まりました」
私は⬛︎⬛︎ れい。
異能者だ。
[水平線]
霊導師 その後 終わり。