蓮の言葉に、病室には重い沈黙が流れた。
しかしそれは、ただの気まずさからくるものではなかった。
メンバーたちは、蓮が背負ってきた計り知れない重荷を理解し、その痛みに寄り添おうとしていた。
最初に口を開いたのは、りうらさんだった。
彼の声は優しく、しかし確かな響きを持っていた。

「 氷室さん ... 俺たち、チームだから！ 」

蓮はゆっくりと顔を上げ、りうらさんを見る。
りうらさんは蓮の目をまっすぐに見つめ返してくれた。

「 ... 一人で抱え込まないでください、頼ってください。俺たちは、氷室さんの力になりたい。俺たちにできることがあれば、何でも言ってください 」

続いて、ないこさんが蓮の手を取り、ぎゅっと握りしめた。

「俺たちは 氷室さんのこと、家族みたいに思ってるんよ。家族が困ってるのに、見てるだけなんてできひんわ 」

他のメンバーたちも、それぞれ蓮に温かい言葉をかけていく。

「 無理は、もうやめようや。僕たちもいるんやから 」
「 氷室さんが倒れたら、僕も悲しいです ... 」

彼らの言葉は、蓮の心の奥底に染み渡るようだった。
これまでの人生で、蓮は常に一人で戦ってきた。
弱みを見せることは許されないと思っていた。
弱さを見せたら、一瞬で餌食にされると。
しかし、今、目の前にいる仲間たちは、自分の弱さを受け入れ、共に歩もうとしてくれている。
蓮の瞳の奥に、わずかな動揺が揺らめいた。
心の中に潜んでいた氷が、ゆっくりと溶けていく感覚。
それは、これまで蓮が感じたことのなかった、穏やかで温かい感情だった。

「…ありがとう、ございます」

蓮の口から出たのは、これまで彼がほとんど使ったことのない、素直な感謝の言葉だった。
その声は、掠れてはいたが、確かな感情を宿していた。
メンバーたちは、蓮のその一言に、安堵の表情を浮かべた。
彼らが差し伸べた手が、ようやく蓮に届いたのだと理解したからだ。
りうらさんは、蓮の手を握る力を少し強めた。
ないこさんは、蓮の額に貼られた絆創膏をそっと撫でた。
彼らの間に、言葉を超えた絆が生まれていく。

蓮は、閉じていた目をゆっくりと開いた。
その瞳には、まだ疲労の色が残っていたが、以前のような張り詰めた冷たさはなく、代わりに、わずかな安堵と、人間らしい温かさが宿っていた。

「 少し、眠ります 」

蓮はそう呟きゆっくりと目を閉じて、規則正しい寝息を立て始める。
彼の表情は、これまで見たことのないほど穏やかだった。
メンバーたちは、蓮の回復を信じ、静かに彼の眠りを見守った。

彼らは知っていた。
この日を境に、氷室蓮という存在が、これまでとは違う、新たな一歩を踏み出すことを。
彼の心の中に、仲間という温かい居場所ができたのだ。