朔はどこか哀愁の漂う表情で振り返ってそう言い残し、メンバーたちにも軽く会釈をして病室を後にした。
ドアが閉まると、病室には再びメンバーたちと蓮だけが残された。

メンバーたちはまだ蓮の顔色を心配そうに見つめている。
蓮は天井を見上げたまま、ぽつりと呟いた。

「 ... 心配をかけて、申し訳ありません 」

普段の無感情な声色だが、その中には微かに後悔の念が滲んでいるように聞こえる。
りうらさんがベッドのそばに座り込んだ。

「 氷室さん ... もう無理しないで。見てるこっちが辛くなるから 」

ないこさんも続けて言った。

「 そうですよ。いつも完璧な氷室さんだけど、倒れたって聞いたら、正直 肝が冷えました 」

蓮はゆっくりと瞬きをした。
彼らは本当に、自分を心配してくれている。
その純粋な感情に触れ、蓮の心の奥底に眠っていた何かが、少しだけ揺れ動くのを感じた。

「 ... 父が、早くに亡くなったんです」

突然の告白に、メンバーたちは息を呑んだ。
蓮がプライベートな話をすることはごく稀だったからだ。

「 それからは、母が一人で俺を育ててくれました。昼夜問わず働いて 本当に無理をして ... そのせいで、近年 病気になってしまった 」

蓮の声は、いつもよりずっと静かで、まるで遠い過去を語るかのように響いた。
彼の瞳は、天井の白い模様の奥に、何かを見ているようだった。
蓮は 母を延命させるには、金が必要ですから と付け足す。

「 だから、俺が稼ぐ必要がある。母を、楽にしてあげたい。そのためなら、どんな仕事でもどんな無理でも ... 」

そこで言葉が途切れた。
蓮の握りしめた拳が、白いシーツの上で震えている。
彼のプロ意識の根底には、家族への深い愛情と、壮絶なまでの責任感があった。
メンバーたちは、蓮の知られざる一面に触れ、ただただ彼の言葉に耳を傾けていた。
彼らが今まで見てきた蓮の「完璧さ」は、全て家族を守るためのものだった。
りうらさんがそっと蓮の手に触れた。
その温かさが、体に、心に じんわりと染み渡る。

「 氷室さん ... 」

いふさんも言葉を詰まらせる。
彼らは、蓮の抱える重荷を初めて知った。
そして、その重荷を少しでも分かち合いたいと、心から願った。