二次創作
# 秘密厳守のマネージャー .
病室のドアが静かに開いた。
メンバーたちが一斉にそちらに目を向ける。
病室に入ってきたのは、蓮にとっても意外な人物だった。
「 蓮 !! 」
カラメル色の髪を短く切り揃え、横に編み込みが入ったスーツ姿の女は、足を踏み入れるなり 蓮に駆け寄る。
「 ほんっとうに心配したんだから ... 」
彼女は 今にも泣き出しそうなほどに目が潤んでいる。
女は、蓮の親友である [漢字]一条 朔[/漢字][ふりがな]いちじょう さく[/ふりがな] だった。
メンバーたちは、突然の来訪者に戸惑いを隠せない。
彼らは蓮と朔の関係性の謎を含め、目の前の光景をどう解釈すればいいのか分からず、ただ呆然とその場を眺めていた。
だが、蓮自身も 朔の登場に目を見開いていた。
混乱と、わずかな動揺が蓮の表情に浮かび上がる。
しかし、すぐにいつもの無表情へと戻った。
「 …なんで、ここに 」
蓮の冷たい声が、静まり返った病室に響いた。
朔は一瞬たじろいだが、すぐに蓮のベッドサイドへと歩み寄る。
「 ... 蓮が仕事で倒れたって聞いて、心配で 」
そう言って ベッドサイドの椅子に腰掛ける朔。
メンバーたちは、この状況にどう反応すべきか分からず、ただ沈黙している。
「 … 心配なんて要らないから、さっさと仕事に戻れ。 」
蓮はそう言い放ち、橘から視線をそらした。
蓮のその態度に、朔の顔から表情がすとんと抜け落ち、にこっと不気味な笑みを浮かべる。
「れーーーーん?」
ゴゴゴゴと音がしそうな程に威圧感がある美人の笑顔。
「 人の好意を無碍に扱うなんて、それ相応の覚悟はしてるのよね???? 」
朔は自身のスーツの袖を捲りアッパーを食らわそうとしてきたが、全力でメンバーたちが止めてくれて、蓮の不服ながらの謝罪によって収められた。
( ... 忘れてた 。怒ったら怖いんだったな ... )
「 あの ... どちら様で ... ?? 」
一通り事が済んだ後、りうらさんが遠慮がちに尋ねた。
朔はメンバーたちの方に振り返り、軽く頭を下げる。
「 一条 朔と申します。蓮の友人で。 」
朔は、メンバーたちの方を向いてにこやかにそう言った。
その言葉に、蓮が「 笑顔は怖いけど 」と小声で付け足したのが朔に聞こえたようで第二ラウンドが始まるギリギリで止まった。
メンバーたちは、オフな姿の蓮を見て、少しだけ警戒心を解いたように見えた。
「 そう、やったんですね ... !氷室さん急に倒れて、俺たちも驚いてたんで ... 」
いふさんが代表して、朔に頭を下げた。
ないこさんは心配そうにこちらの顔色を窺っている。
朔は相変わらず穏やかな笑みを浮かべているが、怒りの視線は自分へと向けられていた ... 。
「 ええ、仕事中だったんですが連絡を受けて。蓮は昔から ... どうも無理をしすぎる癖があって 」
朔の口調は、まるで子供の頃の蓮が熱を出し 大急ぎで迎えに来てくれた時の母にひどく似ていた。
『 ごめんね ... 蓮 ... 』
先月お見舞いに行った時に、母が涙ぐみながら謝ってきたことを思い出す。
( ... 金さえあれば、母さんは助かるんだ )
ふるふると頭を振る。
朔には家族がいない。
彼女が中学生になる前に両親とも交通事故で亡くなった。
残されたのは彼女一人。
高校生から実家で朔と同居し始め、お互いバイトを始めて生活費を稼いでいた。
朔は同年代とは思えないぐらい大人びていて、うちの母と仲が良かったため よく蓮と共に過ごしていた。
仕事で多忙な母の代理として、何かと世話になった記憶も多い。
親友であり、家族であるような不思議な存在だった。
メンバーたちは、朔の言葉に「なるほど」と頷き、蓮が日頃から無理をしていることを改めて認識したようだった。
「 … もう、いいだろ。悪いけど帰ってくれ 」
蓮がようやく口を開いた。
その声には、疲労と気遣いの念が混じっていた。
朔は蓮の言葉に少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「 ん、分かった。蓮も疲れてるだろうし今日は会社戻りますー 」
朔は手早く荷物をまとめ、颯爽と部屋を出て行こうとし、ぴたりと足を止める。
「 ... 無理だけは、しないでね、蓮。また近いうちに顔出すからさ 」
朔はどこか哀愁の漂う表情で振り返ってそう言い残し、メンバーたちにも軽く会釈をして病室を後にした。
ドアが閉まると、病室には再びメンバーたちと蓮だけが残された。