その頃、城の庭ではキャラが一人で立っていた。
冷たい夜風が吹き、彼女の金色の瞳が遠くの森を見つめている。
この戦争は避けられない——そう考えていた。
人間とモンスターが共存できる世界など、幻想にすぎない。
しかし、その時、背後から静かな声が届いた。
「君がキャラ……？」
キャラはゆっくりと振り向く。
そこに立っていたのは、モンスターの王子——[太字]アズリエル[/太字]だった。
彼は優しい目をしていたが、それがキャラにはどこか気に食わなかった。
「……お前が、モンスターの王子か。思ったより頼りなさそうだな。」
アズリエルは微笑みながら、静かに歩み寄った。
「君がキャラ……フリスクの姉なんだね。」
キャラは腕を組みながら、鋭い目を向ける。
「あぁ、その通りだ。私たち人間は、魔法で築き上げてきた栄光を守る。それを汚すような存在と、馴れ合うつもりはない。」
アズリエルはキャラの冷たい態度に一瞬戸惑ったが、それでも彼は穏やかな声で問いかける。
「でも……君の弟は違う。」
その言葉に、キャラはわずかに眉を動かした。
「フリスクは、魔法を持たない。なのに君たちと同じ王族として生きている。それは、人間の中でも異質な存在だよね。」
キャラは眉をひそめた。
「フリスクは異端者だ。私たち王族の中で唯一、魔法を持たない。それがどれほど恥ずかしいことか、分かるか？」
アズリエルは静かに頷く。
「……それなら、僕たちモンスターと同じだね。」
その言葉に、キャラは一瞬、言葉に詰まる。
アズリエルの言葉が、彼女の中に小さな違和感を生じさせた。
「……何が言いたい？」
アズリエルは落ち着いた声で続けた。
「君たち人間の世界では、魔法を持たない者が異端とされる。僕たちモンスターの世界では、魔法ではなく科学が発展してきた。でも、それだけの理由で僕たちは地下に閉じ込められた。君の弟も、魔法を持たないだけで異端とされている。……その違いは何だろう？」
キャラは軽く鼻で笑うが、心の奥で何かが引っかかる。
「理屈はともかく、私たち人間の誇りは魔法にある。科学なんて下らない技術に頼る必要はない。」
アズリエルは静かに問いかける。
「……でも、もし科学が人間の未来に必要なものだったら？もし、魔法と科学が共存できる世界があるなら？」
キャラは沈黙する。
その問いに答えるべきなのか分からなかった。
彼女はずっと「魔法こそが絶対」と信じてきた。科学は不要であり、モンスターは人間の敵だと。
だが、今初めて「それが本当に正しいのか」と考え始める。
「……もし、人間と科学が共存する世界があるのなら……私は、それを見てみたい。」
アズリエルは微笑みながら、静かに頷いた。