フリスクは王宮を抜け出し、夜の森を進んだ。
冷たい風が頬をなで、枝の影が月明かりの下に揺れる。彼の足音だけが静寂を破り、草のざわめきと重なって響く。
この先に、モンスターの隠れ里がある——そう聞いていた。
人間の王族として、モンスターと直接交流することは許されていなかったが、彼には確かめたいことがあった。
しばらく歩くと、視界が開けた。目の前に広がるのは、人間の王宮とは全く違う景色だった。
石造りの家々は温かな灯りを灯し、遠くから笑い声が聞こえる。
モンスターたちは穏やかに暮らしていた。
「あら、珍しいお客さんね」
突然フリスクは声を掛けられる。振り向くと、優しそうなヤギのモンスターが立っていた。
「私は[太字]トリエル[/太字]。この遺跡の管理人です」
「こんにちは、トリエルさん。僕はフリスク。」
「今日はどうしたのかしら？人間が来るなんて滅多にないことなのに」
「実は…僕は、モンスターについて知りたいんだ。みんな、魔法がすべてっていうけど、僕は魔法が使えないんだ。だから、少しはモンスターの気持ちもわかる気がする」
「まぁ…きっと、つらい毎日を過ごしているのね。大丈夫、私が守ってあげますからね」
優しい手つきで、トリエルはフリスクの頭を撫でる。
「トリエルさん…ありがとう」
「そうだ、ほかのモンスターも呼んできてあげるわ！」
そういってトリエルは駆け出していく。まもなく二人のモンスターを連れてきた。
 
「君が……フリスク？」
柔らかな声だった。フリスクは足を止め、じっとその少年を見つめる。
白色の毛並みを持ち、優しげな瞳をたたえた少年——[太字]アズリエル[/太字]だった。
「うん。君は……？」
「僕はアズリエル。モンスターの王子だよ。」
フリスクは少し驚いた。彼は敵ではなく、穏やかに微笑んでいる。
そんな彼の隣で、背の高いモンスターが誇らしげに立ち上がる。
「おお！貴様が人間なのか！素晴らしい！」
「この[太字]パピルス[/太字]様が歓迎しよう！」
フリスクは笑顔を浮かべながら、二人ともすぐに打ち解けた。


しかし、平和な空気は長くは続かなかった——。


鋭い足音が響く。
「おい、待て！」
その声と共に現れたのは、戦士の鋭い眼を持つモンスターだった。
彼女は力強く歩み寄り、フリスクをじっと睨んだ。
「お前が人間か……本当に信用できるのか？」
[太字]アンダイン[/太字]——モンスターの戦士。
彼女は人間の侵略からモンスターたちを守るため、戦うことを誓っていた。
「僕は戦うつもりはないよ。」
フリスクは静かに答える。
「それを証明しろ。先制攻撃は譲る。思う存分かかってこい。」
辺りの空気が張り詰める。
アズリエルたちが緊張した面持ちで見守る中、フリスクはゆっくりとアンダインへ歩み寄った。


——そして、彼女の肩を軽くつついた。


「これが僕の本気だよ。」
微笑むフリスクを前に、アンダインは僅かに動揺した。
その無邪気な笑顔に、彼女は戦士としての直感を狂わされた。
「……バカか、お前は。」
しかし、その言葉には、どこか親しみが込められていた。



続く...