喧嘩道
#1
夢
あの夜は雨が強かった。
その日、上陸した台風の影響もあったのだろう。
その台風はその年最大のものとなり、甚大な被害を出したことから忘れられないものとなった。
俺も今だにその日を忘れられていない。
だが、俺からすれば台風なんてどうでもよい。
それ以上に忘れられないことが起きた。
俺はその日、最も大切なものを失った。
家族だ。
その夜、暴走族らしき人物らが家に押し入ってき、母と妹を攫って行った。
母も初めこそは抵抗したものの、勝てないと判断した瞬間、俺達を隠すという選択をした。
俺は妹を連れて押し入れに隠れたが、妹はまだ幼かったこともあり、暗闇への恐怖かただお腹が空いていただけなのかわからないが泣き出してしまった。
俺は急いで妹の口を塞いだが妹が泣き止む事はなく見つかってしまった。
奥に居た俺は運良く、見えていなかったのか連れて行かれずに済んだ。
奴らが押し入れから離れた事を確認すると、俺はバレないように奴らの後を付けた。
奴らは妹を抱え、母を無理やり引っ張り玄関の方へ連れて行く。
そして外に停めてあった車に2人を無理矢理押し込んだ。
父が居たら何か違ったのかもしれないが、父はその数日前から姿を消しており、当時の俺には何もすることができなかず、連れて行かれる母と妹を見つめていただけだった。
妹が車に乗せられる直前に手を伸ばして何かを言う。
『助けて…。お兄ちゃん…。』
「結衣!!」
俺はそう飛び起きる。
そして数秒間停止した後、夢を見ていたと言う事実に気が付いた。
「んっ…」
先程の夢の事を考えると気持ち悪くなってしまい、トイレで吐いてしまった。
(またあの夢…。)
あの日からこの夢を繰り返し見るようになってしまった。
俺は、あの日母と妹を見殺しにした。
いくら吐いてもその事実が薄れる事も、消える事も無い。
俺は吐瀉物をしっかり流してから口を濯ぐ。
そのついでに顔を洗い目を覚まそうとした。
白いモヤのかかったまま家の中を見渡すが、やはり誰も居ない。
毎朝、微かな希望を見出して何事も無かった様に三人が帰って来ていないかを確認するが、やはりそんな筈は無かった。
虚しくなるだけだが、どうしても希望を捨て切れ無かった。
俺は時間を確認する為にテレビを付ける。
『先日、暴走族「関東連合」によって男女合わせて10人が誘拐され…』
真っ先に飛び込んで来たのは時間では無く、その情報であった。
昨日も、一昨日も同じ様なニュースを耳にした気がする。
毎日、毎日同じ様なニュースばかりでウンザリしてしまう。
いつ頃からだろうか。
ある日を境に暴走族が爆発的に増え、暴行、強盗、誘拐、破壊行為がいつの間にか日常になってしまっていた。
いつしか警察も手を付けられなくなり、奴らのやりたい放題になってしまっていた。
(7:30か。)
ようやく時間を確認することができた。
いつもなら時間だけ確認したらすぐにテレビを消すが、今回は少し時間がヤバそうなので、消す事は後回しで朝飯の用意をし始める。
(爺ちゃんと婆ちゃんに謝らねぇとな…。)
電気代も水道代も、金銭面を全て母方の祖父母の2人に負担して貰っている。
申し訳なさはあるが今回だけは見逃して欲しい。
そんな事を考えながら、俺は棚から食パンを出し、いちごジャムを少し塗って齧り付く。
美味しくも不味くも無い。
何とも言えない味だ。
俺はその食パンを口に詰め込んで制服に着替える。
そして急いで歯を磨き、鞄を背負った。
靴を履いて扉を開ける。
空は雲一つない晴天だった。
まだ5月だと言うのに、尋常じゃ無い暑さと日差しにやられそうになりながら俺は玄関の鍵を閉めた。
「行って来ます」の言葉は無い。
そもそも「行って来ます」と言うのは「行きますが必ず帰って来ます」という言葉を略したものらしいが、言う相手がいない俺には無意味な情報だった。
そんなどうでもいい事を考えながら学校への道をぼけーっと歩く。
ワイヤレスイヤホンで音楽でも聴きながら行こうかと考えたが、持って来ていないことに気が付いた。
昨日のうちに用意しておけば良かったと後悔するがもう遅い。
俺は殆ど歩きながら寝ている様な状態になる。
情報の8割は視覚からと言うが、俺は今視覚を遮断している為、情報は必然的に耳から入って来る。
車のエンジン音、電車が通る音の他に誰かが揉めている声が聞こえる。
聞いていて気持ちいいものでは無い。
だからいつも音楽を聴いているのだ。
(早く学校行こ…。)
俺はそう思い、走り出そうとしたその時だった。
「痛っあ。」
そう向かい側から来る男とぶつかってしまった。
ぶつかった、と言うかぶつかられたの方が正しいだろう。
この令和の時代に金髪リーゼントという、見るからに暴走族の奴とぶつかってしまった。
俺は無視して通り過ぎようとするが肩を掴まれる。
「おい兄ちゃん無視はねぇだろ。」
やばい、一番絡まれたくないタイプだ。
だが、次の瞬間、その考えが間違っていた事を俺はわからされる事になってしまったのだった。
その日、上陸した台風の影響もあったのだろう。
その台風はその年最大のものとなり、甚大な被害を出したことから忘れられないものとなった。
俺も今だにその日を忘れられていない。
だが、俺からすれば台風なんてどうでもよい。
それ以上に忘れられないことが起きた。
俺はその日、最も大切なものを失った。
家族だ。
その夜、暴走族らしき人物らが家に押し入ってき、母と妹を攫って行った。
母も初めこそは抵抗したものの、勝てないと判断した瞬間、俺達を隠すという選択をした。
俺は妹を連れて押し入れに隠れたが、妹はまだ幼かったこともあり、暗闇への恐怖かただお腹が空いていただけなのかわからないが泣き出してしまった。
俺は急いで妹の口を塞いだが妹が泣き止む事はなく見つかってしまった。
奥に居た俺は運良く、見えていなかったのか連れて行かれずに済んだ。
奴らが押し入れから離れた事を確認すると、俺はバレないように奴らの後を付けた。
奴らは妹を抱え、母を無理やり引っ張り玄関の方へ連れて行く。
そして外に停めてあった車に2人を無理矢理押し込んだ。
父が居たら何か違ったのかもしれないが、父はその数日前から姿を消しており、当時の俺には何もすることができなかず、連れて行かれる母と妹を見つめていただけだった。
妹が車に乗せられる直前に手を伸ばして何かを言う。
『助けて…。お兄ちゃん…。』
「結衣!!」
俺はそう飛び起きる。
そして数秒間停止した後、夢を見ていたと言う事実に気が付いた。
「んっ…」
先程の夢の事を考えると気持ち悪くなってしまい、トイレで吐いてしまった。
(またあの夢…。)
あの日からこの夢を繰り返し見るようになってしまった。
俺は、あの日母と妹を見殺しにした。
いくら吐いてもその事実が薄れる事も、消える事も無い。
俺は吐瀉物をしっかり流してから口を濯ぐ。
そのついでに顔を洗い目を覚まそうとした。
白いモヤのかかったまま家の中を見渡すが、やはり誰も居ない。
毎朝、微かな希望を見出して何事も無かった様に三人が帰って来ていないかを確認するが、やはりそんな筈は無かった。
虚しくなるだけだが、どうしても希望を捨て切れ無かった。
俺は時間を確認する為にテレビを付ける。
『先日、暴走族「関東連合」によって男女合わせて10人が誘拐され…』
真っ先に飛び込んで来たのは時間では無く、その情報であった。
昨日も、一昨日も同じ様なニュースを耳にした気がする。
毎日、毎日同じ様なニュースばかりでウンザリしてしまう。
いつ頃からだろうか。
ある日を境に暴走族が爆発的に増え、暴行、強盗、誘拐、破壊行為がいつの間にか日常になってしまっていた。
いつしか警察も手を付けられなくなり、奴らのやりたい放題になってしまっていた。
(7:30か。)
ようやく時間を確認することができた。
いつもなら時間だけ確認したらすぐにテレビを消すが、今回は少し時間がヤバそうなので、消す事は後回しで朝飯の用意をし始める。
(爺ちゃんと婆ちゃんに謝らねぇとな…。)
電気代も水道代も、金銭面を全て母方の祖父母の2人に負担して貰っている。
申し訳なさはあるが今回だけは見逃して欲しい。
そんな事を考えながら、俺は棚から食パンを出し、いちごジャムを少し塗って齧り付く。
美味しくも不味くも無い。
何とも言えない味だ。
俺はその食パンを口に詰め込んで制服に着替える。
そして急いで歯を磨き、鞄を背負った。
靴を履いて扉を開ける。
空は雲一つない晴天だった。
まだ5月だと言うのに、尋常じゃ無い暑さと日差しにやられそうになりながら俺は玄関の鍵を閉めた。
「行って来ます」の言葉は無い。
そもそも「行って来ます」と言うのは「行きますが必ず帰って来ます」という言葉を略したものらしいが、言う相手がいない俺には無意味な情報だった。
そんなどうでもいい事を考えながら学校への道をぼけーっと歩く。
ワイヤレスイヤホンで音楽でも聴きながら行こうかと考えたが、持って来ていないことに気が付いた。
昨日のうちに用意しておけば良かったと後悔するがもう遅い。
俺は殆ど歩きながら寝ている様な状態になる。
情報の8割は視覚からと言うが、俺は今視覚を遮断している為、情報は必然的に耳から入って来る。
車のエンジン音、電車が通る音の他に誰かが揉めている声が聞こえる。
聞いていて気持ちいいものでは無い。
だからいつも音楽を聴いているのだ。
(早く学校行こ…。)
俺はそう思い、走り出そうとしたその時だった。
「痛っあ。」
そう向かい側から来る男とぶつかってしまった。
ぶつかった、と言うかぶつかられたの方が正しいだろう。
この令和の時代に金髪リーゼントという、見るからに暴走族の奴とぶつかってしまった。
俺は無視して通り過ぎようとするが肩を掴まれる。
「おい兄ちゃん無視はねぇだろ。」
やばい、一番絡まれたくないタイプだ。
だが、次の瞬間、その考えが間違っていた事を俺はわからされる事になってしまったのだった。
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