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夢の中で逢いましょう

#7

七話

 昼休み、約束通り屋上に行った。もう陽翔くんは来ていた。いつも笑顔な陽翔くんだが、その表情は全く無く、表情が硬かった。
「八神さん」と真剣な表情で私の方を見て名前を呼んだ。
「な、何……?」
「八神さんは、碧に何を求めてるの?」
私は戸惑いながら「何って、ただ一緒に居たいだけ」と言った。
陽翔は目を伏せて「分かるけど、この夢は君のためじゃない。碧がここに君を引き込んだんだ」と意外なことを言った。
「ど、どういうこと……?」
彼はそれ以上説明することはなく、「来ないで。もうこれ以上ここにいたら戻れなくなる」
「嫌! 私は約束したんだ! 『また会おう』って! 嫌だよ……」
私は膝から崩れ落ちた。
「だけど、ダメなんだ。明日で六月一日。これ以上こっちの世界に居ると俺が消える。それに碧も、八神さんも。俺や碧、そして八神さんが助かる方法は一つ、『今、戻る』んだ」
そうしないと彼を助けることはできない……。まだ、ここに居たい。だけど、今戻らないとみんな助からない……。私は決めた。
「じゃあ、行く」
多分、今まで見たことが無い、真剣な顔をしているだろう。
陽翔くんは私の覚悟をしっかりと受け取ったというような表情をし、「じゃあ、またね」と言って私を突き飛ばした。
「えっ⁉︎」
一瞬、何が起こっているのか分からなくなった。
そうだ。私は陽翔くんに突き飛ばされて落ちているんだ。
──私、死ぬのかな。
すると、バッ! という音がして、誰かが私を抱き抱えてくれた。
顔を見ると碧くんだった。
「ダメだよ! 碧くん、死んじゃうよ!」と私は言ったが、碧くんは何も言わなかった。

 碧くんの部屋は今日も静かだった。碧くんの性格を表しているようだった。
私は、ベッドに腰かける碧くんの隣で膝を抱えて座った。
「碧くん」
「何?」
「どうして、あなたの部屋には時計が無いの?」
「時間なんてここには必要無い」
碧くんの声は、どこか遠くの水の底から聞こえるようにぼやけている。
「それに──この夢はずっと続かない」
陽翔くんと同じようなことを言っていた。私は首を傾げた。
「夢って……」
「八神の夢ではない」碧くんの顔が初めて真っ直ぐころらを見つめる。
その腫に映るのは恐ろしいほどに冷たい現実。
「ここは俺の夢の中。八神は俺の昔の夢に出てきた女の子なんだよ」
私の心臓がドクン、と音を立てて跳ねた。
「うそ……やだ、そんなの……私、ちゃんと現実で……」
「思い出せ。自の現実を語れたことがあったか?」
私は言葉を失った。思い出そうとしても、そこには“ノイズ”しかない。
「俺は八神を創った。もう一度会いたかったから。でもハ神のことをもう忘れなきゃいけない」
碧くんが立る上れる。静かな部屋に見えない風が吹く。壁が音もなく崩れ始めていく。
「八神──君に食えてよかった。多分君を望んでた。でも、これは俺の夢。いつか目を覚まさないと八神が消える。向こうの世界でも」
「待って! まだ話したいことが……!」と私は叫んだ。けれど、碧くんはただ最後にほほえんだ。
「るりちゃん。また逢えるといいね」
世界が、音も無く暗転する──。

 目を覚ますと知らない場所に居た。
「るり⁉︎ 大丈夫⁉︎ 一週間は目を覚まさなかったんだから!」と泣きながら心配する母と「意識が戻ってよかった」と安心する父の姿があった。
──よかった。私、無事に戻れたんだ!

 それから私はあの夢を見なくなった。
私はその出来事をすっかり忘れていた。

 夜、毎日の日課である日記を書こうとして、机の上にある日記帳に、手を伸ばし、しおりが挟まれているページを開いた。
「あ……」
そのベージには一通の小さな手紙が挟まれていた。
中身を見てみると『八神るりへ この世界での出来事は、夢だったって思うかもれない。でも、俺は君に出会った記憶をたとえ消えても、きっと心のどこかで覚えてる。ありがとう』
と書いてあり、一番下には『──水無月碧』と書かれていた。
ありがとう、と心の中で私はつぶやいた。

 次の日、私は普段通りに学校に行った。
友達が「本当に大丈夫?」と心配してくれた。
 すると、先生が入ってきて、「これかと転校生を紹介する。この人は水無月 碧だ」と言った。
「……よろしく」と彼はそっぽを向いて言った。
 となりのクラスにもう一人転校生がいると友達から聞き、教えてもらった。
「あの人だよ。あの人の名前は朝比奈 陽翔っていうの」
──朝比奈 陽翔って……あの陽翔くん⁉︎
私は嬉しくなった。
「また……会えたね」と、私は独り言のように呟いた。
「え? 知ってるの?」と質問されたが、私は「ひみつ」とだけ答えた。
私は碧くんと陽翔くんを屋上に呼んだ。
「あのさ、私、二人に会ったことがある……気がするんだ」
碧くんは目を細め、何を言わずに青い空を見つめた。
陽翔くんは「へぇ」といたずらっぽく笑う。
「……そう。だったらこれから仲良くしよう」と碧くんが微笑んで言った。
──それは多分、[漢字]陽翔くんと私[/漢字][ふりがな]私たち[/ふりがな]にしか見せない。
 本当に夢だったのか。答えはきっと出ない。
けれど彼らと過ごす日々が今、こうしてまた始まる。それが何より嬉しかった。
──夢で逢った人に、また逢えるなんで。
そんで奇跡を、私は信じることにした。

作者メッセージ

終了。自習の時に書きました。
おまけの話、ノートに書いてありますがいつか載せます。
ありがとうございました。
tap novelにも作ってあるのでどうぞ。
挿絵も頑張って描きますのでお楽しみに。

2025年5月4日〜2025年5月12日 アイディアノート No.1より

2025/07/15 11:50

貴志柚夏 ID:≫ .6w2wabuP06wQ
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