碧い海と星降る夜に、今日も私は祈りばかりを届ける。
『ひよを泣かせるヤツは俺が許さないから。』
『ひよの為なら、俺はなんだってするよ。』
幼なじみのりっくんは、その言葉が口癖だった。
生まれたときから家が隣同士で、親同士の関係も良好だった事から、よく2人で遠出したり、遊びに行ったりしていた事を思い出す。
でも小学校3年生の時、お父さんの転勤の都合で、引っ越すことになった。
その時は驚きが心一面を埋め尽くしてしまったせいで、りっくんの事なんて脳裏さえもよぎらなかったけれど、引っ越してから気がついた。
私、りっくんが居たから笑ってられたんだ。
私、りっくんが居たから何回も心が軽くなったんだ。
私、いつの間にかりっくんのこと好きになってたんだ__
りっくんと別れてもう6年以上経つ。
今度はいつ会える?いつ話せる?いつ遊べる?いつ一緒に笑い会える?
そんな事言ったって、りっくんはもういない事なんてとっくにわかりきっているのに。
会いたいよ。話したいよ。遊びたいよ。笑い合いたいよ。声が聞きたいよ。
まるですべての願いを閉じ込めた宝箱を、とても深い碧い海の底に投げ捨てるかのようにして。
自分の中にある最大限の希望と光を、すべて星降る夜に散らばすかのようにして。
ただひたすらと、淡々と。
碧い海と星降る夜に、今日も私は祈りばかりを届ける。
[水平線]
[漢字]榊[/漢字][ふりがな]さかき[/ふりがな]ひより、中学2年生。
この地に引っ越してから早6年。もう住み慣れたこの地は、自然豊かな、いわゆる"田舎"と呼ばれる場所だった。
スーパーも遠いし、学校も遠い。近くにコンビニもないし、遊ぶ場所といえば市内唯一の大きなショッピングモールまで1時間半ほど自転車を走らせなければならないという、なんとも不便な街だった。
でも慣れてしまえばお茶の子さいさいというのは本当で、毎日のように長時間足を動かすことにも最初は抵抗があったものの、この長い期間の積み上げの成果か、それほどきつく感じないまでに一応成長はした。
そしてそんな街には、全国でも有能と言われる医者が経営している病院が大きくそびえ立っている。
学校へ行く際いつも通る道筋に建っているけど、なかなかに立派だと思う。
派手な装飾が施されていたり、バカでかい看板があるとかそういうのではないけど、とにかく迫力がすごかった。
白く塗られた塀と柵が、より一層存在感を際立てている。
「ねえ...君。」
いつもなら、遅刻ギリギリの時間に家を出るからそんな事に目を留めている暇はないけれど、その日は違った。
淡い銀色の髪色に、漆黒に染まった黒色の瞳。
顔も綺麗に整っていて、すらりと長い手足が服からちらりと見えた。
そしてすぐ、世間一般的に"かっこいい"に分類される人なのだろうと、すぐに分かってしまう。
いつもならなんとも思わない、だって私にはりっくんがいるから___
けど、どうしてか彼に惹かれるものがあった。
「この近くに中学校があると思うんだけど、案内してくれないかな?」
学校というワードに少し引っかかったけれど、よくみれば彼は私の通っている中学の制服を着ている。
彼をひと目見た時点で分かる事じゃんって思うけど、そんな事そっちのけにしてしまうくらい、私は彼のまとう"雰囲気"に圧倒してしまっていた。
細い声で「うん」と言って、私は彼の手を引くようにして中学へと案内する。
そしてその間、私の胸の中の何かが動いたような気が、ずっとしていた。
[水平線]
「[漢字]天王寺[/漢字][ふりがな]てんのうじ[/ふりがな][漢字]律希[/漢字][ふりがな]りつき[/ふりがな]です。よろしくお願いします。」
2年1組に転校生が来るという事は、数日前から話題になっていた事だ。
あるところではかっこいい人、あるところではかわいい人、あるところでは外国人のハンサムな人など、よくわからない勝手な憶測が流れていた。
けれど、『かっこいい人』というのはどうやら本当のようらしい。
それは、目に映る全てが事実だった。
さっき学校まで案内した人が転校生...しかも同じクラスの転校生という事にもかなり驚いたけど、それ以上に、りっくんと同じ『律希』という名前をしていた事に心底衝撃を受けた。
もしかしてりっくん本人?なんて思ってしまいそうだけど、髪色も違うし、瞳も背丈も1ミリもりっくんにはかすっていない。
それに決定的なのは、名字が違う事だ。
今目の前にいる"律希"さんの名字は『天王寺』だけど、"りっくん"の名字は『[漢字]神[/漢字][ふりがな]じん[/ふりがな]』だから。
.......ただ。
ただ、一つだけ。
私の目がおかしくなったのか、他人の空似なのかはわからないけれど。
[太字]顔つきが、りっくんに似ている気がする。[/太字]
....まあでも、天王寺...くんがりっくんだったとしたら、病院前でのあの態度は明らかにおかしいし、こっちに来るって連絡の一つくらいはすると思うし...まあ天王寺くんがりっくんって事はまずないよね。
はあ.....会いたいな、りっくん。
次会えるの、いつになるんだろうね。
「もう待ちくたびれちゃったよ、りっくん....」
教室の一番端っこの、窓際で一番見晴らしが良い席。
私は1人、その場に到底合わないような暗い声でそう呟いていた。
『ひよの為なら、俺はなんだってするよ。』
幼なじみのりっくんは、その言葉が口癖だった。
生まれたときから家が隣同士で、親同士の関係も良好だった事から、よく2人で遠出したり、遊びに行ったりしていた事を思い出す。
でも小学校3年生の時、お父さんの転勤の都合で、引っ越すことになった。
その時は驚きが心一面を埋め尽くしてしまったせいで、りっくんの事なんて脳裏さえもよぎらなかったけれど、引っ越してから気がついた。
私、りっくんが居たから笑ってられたんだ。
私、りっくんが居たから何回も心が軽くなったんだ。
私、いつの間にかりっくんのこと好きになってたんだ__
りっくんと別れてもう6年以上経つ。
今度はいつ会える?いつ話せる?いつ遊べる?いつ一緒に笑い会える?
そんな事言ったって、りっくんはもういない事なんてとっくにわかりきっているのに。
会いたいよ。話したいよ。遊びたいよ。笑い合いたいよ。声が聞きたいよ。
まるですべての願いを閉じ込めた宝箱を、とても深い碧い海の底に投げ捨てるかのようにして。
自分の中にある最大限の希望と光を、すべて星降る夜に散らばすかのようにして。
ただひたすらと、淡々と。
碧い海と星降る夜に、今日も私は祈りばかりを届ける。
[水平線]
[漢字]榊[/漢字][ふりがな]さかき[/ふりがな]ひより、中学2年生。
この地に引っ越してから早6年。もう住み慣れたこの地は、自然豊かな、いわゆる"田舎"と呼ばれる場所だった。
スーパーも遠いし、学校も遠い。近くにコンビニもないし、遊ぶ場所といえば市内唯一の大きなショッピングモールまで1時間半ほど自転車を走らせなければならないという、なんとも不便な街だった。
でも慣れてしまえばお茶の子さいさいというのは本当で、毎日のように長時間足を動かすことにも最初は抵抗があったものの、この長い期間の積み上げの成果か、それほどきつく感じないまでに一応成長はした。
そしてそんな街には、全国でも有能と言われる医者が経営している病院が大きくそびえ立っている。
学校へ行く際いつも通る道筋に建っているけど、なかなかに立派だと思う。
派手な装飾が施されていたり、バカでかい看板があるとかそういうのではないけど、とにかく迫力がすごかった。
白く塗られた塀と柵が、より一層存在感を際立てている。
「ねえ...君。」
いつもなら、遅刻ギリギリの時間に家を出るからそんな事に目を留めている暇はないけれど、その日は違った。
淡い銀色の髪色に、漆黒に染まった黒色の瞳。
顔も綺麗に整っていて、すらりと長い手足が服からちらりと見えた。
そしてすぐ、世間一般的に"かっこいい"に分類される人なのだろうと、すぐに分かってしまう。
いつもならなんとも思わない、だって私にはりっくんがいるから___
けど、どうしてか彼に惹かれるものがあった。
「この近くに中学校があると思うんだけど、案内してくれないかな?」
学校というワードに少し引っかかったけれど、よくみれば彼は私の通っている中学の制服を着ている。
彼をひと目見た時点で分かる事じゃんって思うけど、そんな事そっちのけにしてしまうくらい、私は彼のまとう"雰囲気"に圧倒してしまっていた。
細い声で「うん」と言って、私は彼の手を引くようにして中学へと案内する。
そしてその間、私の胸の中の何かが動いたような気が、ずっとしていた。
[水平線]
「[漢字]天王寺[/漢字][ふりがな]てんのうじ[/ふりがな][漢字]律希[/漢字][ふりがな]りつき[/ふりがな]です。よろしくお願いします。」
2年1組に転校生が来るという事は、数日前から話題になっていた事だ。
あるところではかっこいい人、あるところではかわいい人、あるところでは外国人のハンサムな人など、よくわからない勝手な憶測が流れていた。
けれど、『かっこいい人』というのはどうやら本当のようらしい。
それは、目に映る全てが事実だった。
さっき学校まで案内した人が転校生...しかも同じクラスの転校生という事にもかなり驚いたけど、それ以上に、りっくんと同じ『律希』という名前をしていた事に心底衝撃を受けた。
もしかしてりっくん本人?なんて思ってしまいそうだけど、髪色も違うし、瞳も背丈も1ミリもりっくんにはかすっていない。
それに決定的なのは、名字が違う事だ。
今目の前にいる"律希"さんの名字は『天王寺』だけど、"りっくん"の名字は『[漢字]神[/漢字][ふりがな]じん[/ふりがな]』だから。
.......ただ。
ただ、一つだけ。
私の目がおかしくなったのか、他人の空似なのかはわからないけれど。
[太字]顔つきが、りっくんに似ている気がする。[/太字]
....まあでも、天王寺...くんがりっくんだったとしたら、病院前でのあの態度は明らかにおかしいし、こっちに来るって連絡の一つくらいはすると思うし...まあ天王寺くんがりっくんって事はまずないよね。
はあ.....会いたいな、りっくん。
次会えるの、いつになるんだろうね。
「もう待ちくたびれちゃったよ、りっくん....」
教室の一番端っこの、窓際で一番見晴らしが良い席。
私は1人、その場に到底合わないような暗い声でそう呟いていた。