彼方の星の物語
シャンシャンとなる鈴の音。セント・ニコラス……或いはもっと単純に、サンタクロースがやってくる時期。そう、世はまさにクリスマス。というか、早いもので今日はもう前日、12/24である。
そこにいるのは、そんな楽しげなクリスマスに似つかわしい筈の夜空の色の髪にトナカイの角らしきカチューシャを装着した、濃い紫の三白眼の彼。しっかり角まで作り込まれており、中々愉快な事になっている。
彼を知らない人が後ろ姿を見たのなら、なんともはやこの雰囲気に似合いだと思っただろう。
だが悲しいかな、彼……星見留歌、早生まれのため現在15歳……は自他共に認めるいわゆる“陰キャ”と呼ばれる生き物であったのだ。
必然、どんなに見た目がクリスマスに適していようと本人の内心は(帰りたい……俺、絶対に場違いっすよ……)のみである。
というわけで、彼の目の前に広がるのはクソデカサイズのもみの木にバカの量のキラキラテープ、壁を埋め尽くさんと増殖を続ける柊によく似た魔法界の植物、そして七色のオーナメントに魔法学校らしからぬデジタルなイルミネーションなどなど、彼からすればなんとも自身に似合わない……いや失敬、煌びやかで愉快な飾り付けの数々だった。
「……人間界の陽キャのイベントが……なぜ……魔法学校に……」
いや、まあ、別に否定はしないっすけど……と小さく呟きながら、声と同様に小さくなりつつ大広間の隅を向いて彼は鎮座している。
端的に言って、大変哀れな姿だ。
「しかもプレゼント交換って……いやまあ嬉しいんすけど……嬉しいんすけど……!!!」
絶対に俺のセンスの無さが浮き彫りになる……と呟きながら、相も変わらずの自信喪失。もはやすみっこぐ◯しなのでは? とやや怒られそうな発言すら言われかねない様相だ。
さて、ここで本日の彼を振り返る。そうは言ってもなんのことはない。
まずは彼の愉快な同室たちが当然のように彼を学校全体のクリスマスパーティーとその事前準備に誘い出した。
ところが彼らの後輩が転んだ拍子に罰ゲーム用のアイテムカゴをひっくり返し、この時期人気のジョーク魔道具、【[漢字]君もトナカイセット[/漢字][ふりがな]別名:クリスマス終わりまで取れない悪夢[/ふりがな]】を三人揃って装着してしまった。
それでもどうにか準備が終わった後で『25日当日のパーティーが終わった後、二次会として甘いお菓子やコーヒーと共に小さな催しと夜更かしを行おう』と提案されただけだ。
しかしその催しの内の一つ……さっき彼本人が言っていた【プレゼント交換】が、先程から頭を悩ませている原因である。
曰く『俺が選んだ物なんて貰って本当に嬉しいと思うんだろうか』と。
言い換えてしまえば簡単だ。
彼らは揃いも揃って十分すぎるほどに善人であり、生来後ろ向きで卑屈な留歌にも真っ直ぐに向き合って、三人でドタバタと楽しい寮生活を謳歌して来た。
だからこそ『彼らが喜ぶような物を探したい』という思いから留歌は珍しく前向きにスタートした……はずだったのだが。
色々考えた結果、どうやら何が良いのか訳が分からなくなったらしい。懲りろ。
「つっても……今んとこ『とりあえず街に出る』くらいしかないっすかね……」
しかし。そそくさと荷物をまとめて、逃げるようにすっかり準備の済んだ大ホールから逃げ出した彼は気付いていなかった。
本日はクリスマスの前日……即ち、クリスマス・イヴ。
ところで話は変わるが。
日本人同士の恋人たちは、どちらかと言えばクリスマス当日よりもイヴの方をより優先しているイメージがないだろうか?
[中央寄せ]🎄 🎄 🎄[/中央寄せ]
「……ヒュッ」
……ものすごい人だかりだ。話は一ミリも変わっていなかった。
場面は変わって今留歌がいるのは、外出許可を得て転移した魔法界の中のショッピングモールだ。彼の実家周辺からは少し離れているが、度々来る事もあったので、勝手知ったる、と言えなくもないだろう。
ちなみに留歌の名前が示すとおりここは日本のテクスチャの裏側にあり、文化も植生も当然同じ。大抵の魔法使いは[漢字]こっそり[/漢字][ふりがな]頻繁に[/ふりがな]人間界の日本を訪れている、魔法界に於ける日本だ。
そして、文化が同じと言う事は。
「人混み……すげえっすね……」
もはや種田山頭火に倣って、「分け入っても分け入っても恋人たち」(※冬季自由律俳句・改)とでも言うべき様相だ。うっかりメインストリートに足を踏み入れた留歌は完全にもみくちゃである。おまけにそこかしこにどこか甘ったるい空気が漂い、恋人を求める人間からすれば地獄のような環境だろう。
なお、その点に関してだけは留歌にダメージはない。彼はただただ、リア充の空気と人の多さにビビっているだけである。
おまけに、彼にはクソデカサイズのリアルめなトナカイカチューシャがついている。
あくまでも見た目だけで、もしぶつかっても透過すると大抵の人は分かっているため気にもしていないが、うっかり忘れていた事に気づいてしまった留歌は顔面蒼白だ。
「……絶対、サッサと買って帰るっす……」
少し外れた場所にある洋菓子店。ショーウィンドウのややお高めのチョコレートが目に入る。無難と言えば無難だが、消え物というのも疑問が残る、と留歌は通り過ぎた。
続いてはファッション系。手袋、マフラー、ふわもこのルームソックス、ルームウェア……温かそうなアイテムばかり。だがいかんせんデザインは男が使うのに適していない、と留歌は通り過ぎた。
本屋。自分より頭の良い二人に本を贈ってどうする……と自嘲しつつ、そばに売られていた栞とブックカバーのセットを手に取る。絶妙に不細工な猫をあしらったデザインで、老若男女誰が使っても大丈夫そうな色味。
これにしようか、と思いかけたその時だった。銀髪の女性がショーウィンドウにへばりつき、背の高い黒髪の少年に引き剥がされようとしているし、紫の紙の青年はまあまあと両人を落ち着かせようとしている。
「だからこのクソ主!!! ヘンなモン買おうとしてんじゃねえよ!!! サッサと帰んぞ!!!」
「変なモノなんて言わないでくださいよ!!! 私にとっては面白いモノなんです!!!」
「いや、店長の面白いはシャレにならんの間違いやろ……ホラ、用も済んだし帰るで。」
周囲はひどい人だかりだ。おまけに。
「まあまあ二人とも。良いじゃあないか、それくらい許してやってもさ。ワタシの小説のネタになるかもしれないし。」
「あ、じゃあじゃあ、ボクあっちでお菓子買ってきて良いっ? 友達にあげたいんだよね!」
「……まあ、そっちはアレがなんとかなったら買ってあげよう。」
「やったー!!」
彼の[漢字]愉快な[/漢字][ふりがな]おかしな[/ふりがな]先輩の弟でもある小説家で黒髪の少年と、派手に転んで彼の頭に角をつけた張本人である赤メッシュの後輩もその一団に入っている。
「……あれ? やっぱ留歌先輩だ!やっほー!!ところでちょっと手伝ってほしいんだけど……」
そしてその当人が留歌に気づいた。全力で手を振っている。一気に周囲の視線が向いて、引き攣ったような表情の留歌。
しかし、留歌はヘタレである。
ヘタレである以上、知り合いを見捨てて逃げる事もまたできなかったのだ。
[中央寄せ]🎄 🎄 🎄[/中央寄せ]
「ひ、酷い目に遭ったっす……」
「ホントごめん! まさかボクもここまでになるとはちょっと思わなかった!!」
パン、と顔の前で手を合わせて謝る彼ないし彼女からは、本当に申し訳ないと思っている事が伝わってくる。
それもそのはず本当に大変な事になったのだ。それこそ、ここに書くにはあまりにも文字数が足りないほどに濃い出来事だった。敢えて言うなら留歌の胃は爆散した。
「いや、まあ、大丈夫っす……そんじゃ、これで……」
そう言いつつ、手を振って去ろうとした瞬間。
「おいお前。」
「っうぇ!? あ、すんません……えっと、何すか……」
銀髪の女性を連れ帰ろうとしていた、背の高い少年に話しかけられる。彼はいわゆるイケメンだった。おまけに眼光も鋭く、威圧感のある容貌である。当然留歌は怯える。
「……あー、なんだ、その。呉れてやる。」
ぶっきらぼうに差し出されたのは何かのチケット。と言うより、達筆で『割引』とだけ書かれている紙だった。
「お詫びだと言う事くらい言っておけば良いだろう? マヌケじゃあるまいし。」
「ンなもんじゃねえ! これは……あれだ、迷惑料だよ。ウチの沽券に関わるからな。」
「それ多分、意味同じやねんなぁ。あといきなりそれだけ渡してもワケ分からんで?」
やれやれと息を吐いた紫髪の青年曰く、彼らは魔法の込められた道具……魔道具を売る店の店員らしい。ちなみに後輩たちはアルバイトとの事だった。
想定外の事実に困惑する留歌である。
「ワタシも兄さんから聞いたからね。あの二人へのプレゼントで悩んでいるんだろう? なら来ると良いさ、何かしらは見つけられるだろう。」
「ボクもさんせー! せっかくだしボクらの仕事っぷりも見ていってよ!」
「え、ああ、行くっす……つーかなんであの人、知ってんすかね……」
さあね、と肩をすくめた彼も彼で、何故それを聞く事になったのか大変疑問に残る。残るが、深く詮索するべきではないと留歌は思考に蓋をした。
「では今度こそ左様なら。店で会える日を楽しみにしているよ、今日中になりそうだけどね。ホラ店長くん、立って。」
「いーやーでーすー!!まだ帰りません!! 私、絶対アレをお店に並べますとも!!」
「良いから帰んぞ!!」
背の高い少年によって拳骨を受け、強制的に連れ帰られる女性。
「あの、アッチの方引き摺られていったっすけど……大丈夫なんすか……?」
「まあ気にせん方がええで……」
「じゃあ、またね!!」
最後まで騒がしく、彼らはショッピングモールから去っていった。
「……まあ、とりあえず探すの再開するっす……」
なお、そう呟いた留歌は知らないが。
結局なんだかんだで良いものに巡り会えずにその店でクリスマスプレゼントを選ぶ事になり、交換会で一悶着あったのはまた別の話である。
そこにいるのは、そんな楽しげなクリスマスに似つかわしい筈の夜空の色の髪にトナカイの角らしきカチューシャを装着した、濃い紫の三白眼の彼。しっかり角まで作り込まれており、中々愉快な事になっている。
彼を知らない人が後ろ姿を見たのなら、なんともはやこの雰囲気に似合いだと思っただろう。
だが悲しいかな、彼……星見留歌、早生まれのため現在15歳……は自他共に認めるいわゆる“陰キャ”と呼ばれる生き物であったのだ。
必然、どんなに見た目がクリスマスに適していようと本人の内心は(帰りたい……俺、絶対に場違いっすよ……)のみである。
というわけで、彼の目の前に広がるのはクソデカサイズのもみの木にバカの量のキラキラテープ、壁を埋め尽くさんと増殖を続ける柊によく似た魔法界の植物、そして七色のオーナメントに魔法学校らしからぬデジタルなイルミネーションなどなど、彼からすればなんとも自身に似合わない……いや失敬、煌びやかで愉快な飾り付けの数々だった。
「……人間界の陽キャのイベントが……なぜ……魔法学校に……」
いや、まあ、別に否定はしないっすけど……と小さく呟きながら、声と同様に小さくなりつつ大広間の隅を向いて彼は鎮座している。
端的に言って、大変哀れな姿だ。
「しかもプレゼント交換って……いやまあ嬉しいんすけど……嬉しいんすけど……!!!」
絶対に俺のセンスの無さが浮き彫りになる……と呟きながら、相も変わらずの自信喪失。もはやすみっこぐ◯しなのでは? とやや怒られそうな発言すら言われかねない様相だ。
さて、ここで本日の彼を振り返る。そうは言ってもなんのことはない。
まずは彼の愉快な同室たちが当然のように彼を学校全体のクリスマスパーティーとその事前準備に誘い出した。
ところが彼らの後輩が転んだ拍子に罰ゲーム用のアイテムカゴをひっくり返し、この時期人気のジョーク魔道具、【[漢字]君もトナカイセット[/漢字][ふりがな]別名:クリスマス終わりまで取れない悪夢[/ふりがな]】を三人揃って装着してしまった。
それでもどうにか準備が終わった後で『25日当日のパーティーが終わった後、二次会として甘いお菓子やコーヒーと共に小さな催しと夜更かしを行おう』と提案されただけだ。
しかしその催しの内の一つ……さっき彼本人が言っていた【プレゼント交換】が、先程から頭を悩ませている原因である。
曰く『俺が選んだ物なんて貰って本当に嬉しいと思うんだろうか』と。
言い換えてしまえば簡単だ。
彼らは揃いも揃って十分すぎるほどに善人であり、生来後ろ向きで卑屈な留歌にも真っ直ぐに向き合って、三人でドタバタと楽しい寮生活を謳歌して来た。
だからこそ『彼らが喜ぶような物を探したい』という思いから留歌は珍しく前向きにスタートした……はずだったのだが。
色々考えた結果、どうやら何が良いのか訳が分からなくなったらしい。懲りろ。
「つっても……今んとこ『とりあえず街に出る』くらいしかないっすかね……」
しかし。そそくさと荷物をまとめて、逃げるようにすっかり準備の済んだ大ホールから逃げ出した彼は気付いていなかった。
本日はクリスマスの前日……即ち、クリスマス・イヴ。
ところで話は変わるが。
日本人同士の恋人たちは、どちらかと言えばクリスマス当日よりもイヴの方をより優先しているイメージがないだろうか?
[中央寄せ]🎄 🎄 🎄[/中央寄せ]
「……ヒュッ」
……ものすごい人だかりだ。話は一ミリも変わっていなかった。
場面は変わって今留歌がいるのは、外出許可を得て転移した魔法界の中のショッピングモールだ。彼の実家周辺からは少し離れているが、度々来る事もあったので、勝手知ったる、と言えなくもないだろう。
ちなみに留歌の名前が示すとおりここは日本のテクスチャの裏側にあり、文化も植生も当然同じ。大抵の魔法使いは[漢字]こっそり[/漢字][ふりがな]頻繁に[/ふりがな]人間界の日本を訪れている、魔法界に於ける日本だ。
そして、文化が同じと言う事は。
「人混み……すげえっすね……」
もはや種田山頭火に倣って、「分け入っても分け入っても恋人たち」(※冬季自由律俳句・改)とでも言うべき様相だ。うっかりメインストリートに足を踏み入れた留歌は完全にもみくちゃである。おまけにそこかしこにどこか甘ったるい空気が漂い、恋人を求める人間からすれば地獄のような環境だろう。
なお、その点に関してだけは留歌にダメージはない。彼はただただ、リア充の空気と人の多さにビビっているだけである。
おまけに、彼にはクソデカサイズのリアルめなトナカイカチューシャがついている。
あくまでも見た目だけで、もしぶつかっても透過すると大抵の人は分かっているため気にもしていないが、うっかり忘れていた事に気づいてしまった留歌は顔面蒼白だ。
「……絶対、サッサと買って帰るっす……」
少し外れた場所にある洋菓子店。ショーウィンドウのややお高めのチョコレートが目に入る。無難と言えば無難だが、消え物というのも疑問が残る、と留歌は通り過ぎた。
続いてはファッション系。手袋、マフラー、ふわもこのルームソックス、ルームウェア……温かそうなアイテムばかり。だがいかんせんデザインは男が使うのに適していない、と留歌は通り過ぎた。
本屋。自分より頭の良い二人に本を贈ってどうする……と自嘲しつつ、そばに売られていた栞とブックカバーのセットを手に取る。絶妙に不細工な猫をあしらったデザインで、老若男女誰が使っても大丈夫そうな色味。
これにしようか、と思いかけたその時だった。銀髪の女性がショーウィンドウにへばりつき、背の高い黒髪の少年に引き剥がされようとしているし、紫の紙の青年はまあまあと両人を落ち着かせようとしている。
「だからこのクソ主!!! ヘンなモン買おうとしてんじゃねえよ!!! サッサと帰んぞ!!!」
「変なモノなんて言わないでくださいよ!!! 私にとっては面白いモノなんです!!!」
「いや、店長の面白いはシャレにならんの間違いやろ……ホラ、用も済んだし帰るで。」
周囲はひどい人だかりだ。おまけに。
「まあまあ二人とも。良いじゃあないか、それくらい許してやってもさ。ワタシの小説のネタになるかもしれないし。」
「あ、じゃあじゃあ、ボクあっちでお菓子買ってきて良いっ? 友達にあげたいんだよね!」
「……まあ、そっちはアレがなんとかなったら買ってあげよう。」
「やったー!!」
彼の[漢字]愉快な[/漢字][ふりがな]おかしな[/ふりがな]先輩の弟でもある小説家で黒髪の少年と、派手に転んで彼の頭に角をつけた張本人である赤メッシュの後輩もその一団に入っている。
「……あれ? やっぱ留歌先輩だ!やっほー!!ところでちょっと手伝ってほしいんだけど……」
そしてその当人が留歌に気づいた。全力で手を振っている。一気に周囲の視線が向いて、引き攣ったような表情の留歌。
しかし、留歌はヘタレである。
ヘタレである以上、知り合いを見捨てて逃げる事もまたできなかったのだ。
[中央寄せ]🎄 🎄 🎄[/中央寄せ]
「ひ、酷い目に遭ったっす……」
「ホントごめん! まさかボクもここまでになるとはちょっと思わなかった!!」
パン、と顔の前で手を合わせて謝る彼ないし彼女からは、本当に申し訳ないと思っている事が伝わってくる。
それもそのはず本当に大変な事になったのだ。それこそ、ここに書くにはあまりにも文字数が足りないほどに濃い出来事だった。敢えて言うなら留歌の胃は爆散した。
「いや、まあ、大丈夫っす……そんじゃ、これで……」
そう言いつつ、手を振って去ろうとした瞬間。
「おいお前。」
「っうぇ!? あ、すんません……えっと、何すか……」
銀髪の女性を連れ帰ろうとしていた、背の高い少年に話しかけられる。彼はいわゆるイケメンだった。おまけに眼光も鋭く、威圧感のある容貌である。当然留歌は怯える。
「……あー、なんだ、その。呉れてやる。」
ぶっきらぼうに差し出されたのは何かのチケット。と言うより、達筆で『割引』とだけ書かれている紙だった。
「お詫びだと言う事くらい言っておけば良いだろう? マヌケじゃあるまいし。」
「ンなもんじゃねえ! これは……あれだ、迷惑料だよ。ウチの沽券に関わるからな。」
「それ多分、意味同じやねんなぁ。あといきなりそれだけ渡してもワケ分からんで?」
やれやれと息を吐いた紫髪の青年曰く、彼らは魔法の込められた道具……魔道具を売る店の店員らしい。ちなみに後輩たちはアルバイトとの事だった。
想定外の事実に困惑する留歌である。
「ワタシも兄さんから聞いたからね。あの二人へのプレゼントで悩んでいるんだろう? なら来ると良いさ、何かしらは見つけられるだろう。」
「ボクもさんせー! せっかくだしボクらの仕事っぷりも見ていってよ!」
「え、ああ、行くっす……つーかなんであの人、知ってんすかね……」
さあね、と肩をすくめた彼も彼で、何故それを聞く事になったのか大変疑問に残る。残るが、深く詮索するべきではないと留歌は思考に蓋をした。
「では今度こそ左様なら。店で会える日を楽しみにしているよ、今日中になりそうだけどね。ホラ店長くん、立って。」
「いーやーでーすー!!まだ帰りません!! 私、絶対アレをお店に並べますとも!!」
「良いから帰んぞ!!」
背の高い少年によって拳骨を受け、強制的に連れ帰られる女性。
「あの、アッチの方引き摺られていったっすけど……大丈夫なんすか……?」
「まあ気にせん方がええで……」
「じゃあ、またね!!」
最後まで騒がしく、彼らはショッピングモールから去っていった。
「……まあ、とりあえず探すの再開するっす……」
なお、そう呟いた留歌は知らないが。
結局なんだかんだで良いものに巡り会えずにその店でクリスマスプレゼントを選ぶ事になり、交換会で一悶着あったのはまた別の話である。