国姫が転生したのに、歌えないってどういうことですか!?〜0からやり直し人生〜
次の日。
早起きの習慣がついてしまったベルは誰もいないことを好都合に、いつもの紅茶ポットで薬草を煎じた。
ふわっと匂う、いい香り。
帰りが遅く、夕食を抜きにされたため空っぽのお腹に、香りが空腹を押してくる。
「じゃあ、いざ!」
薬草を口につけると、味はハーブティーに似ていた。
少し口の中に残る、しかし美味しい味だった。
それから朝食や掃除屋で慌ただしくしていると、あっという間に時間が過ぎた。
本には『三時間空けること』と書いていたが、すでに五時間は立っている。
ベルはドキドキしながら力を込めた。全身の力を手に集中させ、無心になる。
「あれ?」
治そうと思ったのは、昨日できてしまったささくれなのだが、何も起こらなかった。
「やり方が違うのかな」
本に書いてある通りにもう一度やったが、何も起こらない。
「まさか、魔法料が足りてないとか?」
本には詳しいやり方も、呪文も載っていない。
別の本を見るが、同じ感じのことしか書いていなかった。
「なんでできないの?」
その後も何度も試したが、うまくいかない。
失敗の悔しさと日々の疲れが出て、ベルは一旦休憩を取ることにした。
天気も良いため、散歩とシンの様子を見に、外に出た。
外ではフローラが魔法の練習をしていた。
最近のフローラは歌以外にも風や火の魔法も操れるようになったが、練習には必ず父や母がそばにいる。
今日は風魔法でものを浮かす練習をしているようだ。
(がんばれ、フローラ!)
ベルは横目でフローラを応援しながら、家族には姿がバレないように庭を歩いた。
その時だった。
強い風が吹き、フローラが浮かした椅子がぐらついた。
「危ない!」
ベルは急いでフローラの元へ走った。
しかし間に合わず、がしゃーんと大きな音が響いた。
「痛いっ痛いわお母様!」
フローラの足が、椅子の破片で擦り切れていた。
「誰か!早く神父様を!!」
「フローラ!」
ベルはフローラのそばに駆け寄った。
「ガーベル!離れなさい!!」
「フローラ!大丈夫!?」
「おねぇさま…」
フローラは焦ったが、何かできるわけでもない。
思い返せば、神父様は昨日の今日のため、くることはできないのではないか。
どうしよう…。
その時、あたりが眩い光に包まれた。