太陽の匂い
その女の人は、紺色のスーツを着ていて、紫の鋭い眼鏡をかけている。
髪は短くてツンツンしていて、怖そうで硬そう。
「返してください」
鉛筆を紙につけていたから、桜の絵に真っ直ぐな線が入ってしまっている。
角の一箇所は折れてるし、スケッチブックが可哀想だ。
真央は急いで立ち上がって言った。
するとスカートに乗せていた桜がポトリと床に落ちる。
髪のツンツンした、ツンツン先生はそれも見逃さなかった。
虫を見るような目で桜を一瞥し、ふんっと花を鳴らした。
「もちろん、あなたが放課後、職員室に来たら返しますわ」
「なんで今じゃないんですか?」
真央は必死だった。
我が子を取り返すかのように、ツンツン先生につっかかった。
「なんで?お言葉がなってませんこと!」
「どうして、今返してくれないんですか?」
真央はツンツン先生にムカついたが、こういう時こそ、と思い冷静に言い直した。
「わからないのですの?」
真央はこの人と話すくらいなら地獄に行った方がマシ、と思った。
「…はい」
大、大、大嫌いだ、この人。
「次はーあれ、安田先生?」
その瞬間、ツンツン先生は後ろを振り向いて笑った。
「おほほほっすみませんねぇ」
そして、スケッチブックを真央に押し付けるように渡す。
それからぱたぱたと小走りに壇上に向かい、マイクの前に立つ。
どうやら、新任の先生だったようだ。真央は渡されたスケッチブック埃を払って、折れ曲がった部分を丁寧に伸ばした。
真央は怒っていた。
それはツンツン先生がムカついたことでも、花を虫のような目で見られたことでもない。
ただ、スケッチブックをさわれたことだ。
真央はこのスケッチブックを誰にも触らしたことがない。
唯一あるとするなら、スケッチブックを買ってもらった時のお母さんだろう。だがもらったその後は、家族も友達にも触らしていない。
中身を見せたこともない。
それなのにあのツンツン先生は、スケッチブックを触り、その上真央の描いた桜の絵に傷をつけ、スケッチブックを折ったのだ。
真央は無心で折れた紙を伸ばした。
そのうち手が赤くなったが、真央は伸ばし続けた。
髪は短くてツンツンしていて、怖そうで硬そう。
「返してください」
鉛筆を紙につけていたから、桜の絵に真っ直ぐな線が入ってしまっている。
角の一箇所は折れてるし、スケッチブックが可哀想だ。
真央は急いで立ち上がって言った。
するとスカートに乗せていた桜がポトリと床に落ちる。
髪のツンツンした、ツンツン先生はそれも見逃さなかった。
虫を見るような目で桜を一瞥し、ふんっと花を鳴らした。
「もちろん、あなたが放課後、職員室に来たら返しますわ」
「なんで今じゃないんですか?」
真央は必死だった。
我が子を取り返すかのように、ツンツン先生につっかかった。
「なんで?お言葉がなってませんこと!」
「どうして、今返してくれないんですか?」
真央はツンツン先生にムカついたが、こういう時こそ、と思い冷静に言い直した。
「わからないのですの?」
真央はこの人と話すくらいなら地獄に行った方がマシ、と思った。
「…はい」
大、大、大嫌いだ、この人。
「次はーあれ、安田先生?」
その瞬間、ツンツン先生は後ろを振り向いて笑った。
「おほほほっすみませんねぇ」
そして、スケッチブックを真央に押し付けるように渡す。
それからぱたぱたと小走りに壇上に向かい、マイクの前に立つ。
どうやら、新任の先生だったようだ。真央は渡されたスケッチブック埃を払って、折れ曲がった部分を丁寧に伸ばした。
真央は怒っていた。
それはツンツン先生がムカついたことでも、花を虫のような目で見られたことでもない。
ただ、スケッチブックをさわれたことだ。
真央はこのスケッチブックを誰にも触らしたことがない。
唯一あるとするなら、スケッチブックを買ってもらった時のお母さんだろう。だがもらったその後は、家族も友達にも触らしていない。
中身を見せたこともない。
それなのにあのツンツン先生は、スケッチブックを触り、その上真央の描いた桜の絵に傷をつけ、スケッチブックを折ったのだ。
真央は無心で折れた紙を伸ばした。
そのうち手が赤くなったが、真央は伸ばし続けた。