太陽の匂い
「おはよう、真央」
真央がリビングに降りると、お父さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはよう」
真央は寝ぼけた頭で食パンに蜂蜜を塗り、牛乳を入れた。
「いただきます」
真央はお父さんの斜め前の席に座って、手を合わせる。
お箸を持ちながら手を合わせたから、カチャ、という音が鳴る。
椅子が二つ余っているけど、真央の座る位置は変わらなかった。
左にお父さん、右にお母さんで、お父さんの前にお姉ちゃん、その隣に真央だった。
だから前と変わらず、真央はお父さんの斜めに座っている。
これだと広く使えて、便利だ。
「今日が始業式だっけ?」
「うぉん」
真央はパンを齧りながら答える。
久しぶりに来た制服はしわしわで、ところどころ折れ曲がっている。
「もう二年生か。早いな」
「そお?」
スカートの上に積もったパンの粉をばさっと立ちながら払って床に落とす。
お父さんはそれを見て少し顔を顰めたが、何も言わなかった。
「お母さんに連絡したか?」
「まだだよ」
お父さんとお母さんが離婚して、お母さんとお姉ちゃんが出て行った後も、真央はお母さんと毎日のようにLINEか電話をしている。
だから正直、ご飯がすこししょぼくなっただけで、真央の生活にそんな変化はなかった。
部屋も、カーテンで仕切ったままで、お姉ちゃんの部屋は空き部屋になっている。
「行く前に連絡しなね」
真央は、ん、と返事をして、牛乳を一気飲みした。
早食いは好きじゃないのだが、しょうがない。
「行ってきます!」
今は投稿時間から、十分も遅れているのだから。
体育館に着くと、すでに始業式は始まっていた。
真央が一年生の列に並ぼうとすると、「浅田さんはこっち」となんか見たことのある先生に二年生の列に押しこくられた。
そうだ、今日は二年なんだ、と真央は気づいた。
自分が何組かみていなかったから、適当な列の最後尾に座った。
みんなからは、「あいつこのクラスだっけ?」のような目で見られる。
真央はそんな人たちには気づかず、バッグからスケッチブックを取り出した。
このスケッチブックは真央のお気に入りだ。
絵にハマった真央が、お母さんに買ってもらった、オレンジ色の大きなスケッチブック。
これで八冊目になるが、いつも同じものを買ってもらっている真央はいつも紙全体に絵を描く。
絵の具は使わない。
鉛筆だけで、全てのページにきちんと書く。
書くのは人だったり、景色だったり、物だったり。
なんでも、いつでも描きたくなる時に描きたいものを描いた。
舞台の方で髭の生えたおじさんがなにかを話しているが、真央はさっき道で拾った桜の絵を描いていて、話など頭に一切入っていなかった。
周りの先生も半分呆れていて、何も言ってこない。
いつもの光景だったはずだ。
「なんてこと!集会中に絵を描いているだなんて!!」
真央の視線の先にあったスケッチブックが、一瞬で消えた。
正しくは、一瞬で移動した。
真央のスケッチブックは、一人の女の先生の手の中にあった。
真央がリビングに降りると、お父さんがコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
「おはよう」
真央は寝ぼけた頭で食パンに蜂蜜を塗り、牛乳を入れた。
「いただきます」
真央はお父さんの斜め前の席に座って、手を合わせる。
お箸を持ちながら手を合わせたから、カチャ、という音が鳴る。
椅子が二つ余っているけど、真央の座る位置は変わらなかった。
左にお父さん、右にお母さんで、お父さんの前にお姉ちゃん、その隣に真央だった。
だから前と変わらず、真央はお父さんの斜めに座っている。
これだと広く使えて、便利だ。
「今日が始業式だっけ?」
「うぉん」
真央はパンを齧りながら答える。
久しぶりに来た制服はしわしわで、ところどころ折れ曲がっている。
「もう二年生か。早いな」
「そお?」
スカートの上に積もったパンの粉をばさっと立ちながら払って床に落とす。
お父さんはそれを見て少し顔を顰めたが、何も言わなかった。
「お母さんに連絡したか?」
「まだだよ」
お父さんとお母さんが離婚して、お母さんとお姉ちゃんが出て行った後も、真央はお母さんと毎日のようにLINEか電話をしている。
だから正直、ご飯がすこししょぼくなっただけで、真央の生活にそんな変化はなかった。
部屋も、カーテンで仕切ったままで、お姉ちゃんの部屋は空き部屋になっている。
「行く前に連絡しなね」
真央は、ん、と返事をして、牛乳を一気飲みした。
早食いは好きじゃないのだが、しょうがない。
「行ってきます!」
今は投稿時間から、十分も遅れているのだから。
体育館に着くと、すでに始業式は始まっていた。
真央が一年生の列に並ぼうとすると、「浅田さんはこっち」となんか見たことのある先生に二年生の列に押しこくられた。
そうだ、今日は二年なんだ、と真央は気づいた。
自分が何組かみていなかったから、適当な列の最後尾に座った。
みんなからは、「あいつこのクラスだっけ?」のような目で見られる。
真央はそんな人たちには気づかず、バッグからスケッチブックを取り出した。
このスケッチブックは真央のお気に入りだ。
絵にハマった真央が、お母さんに買ってもらった、オレンジ色の大きなスケッチブック。
これで八冊目になるが、いつも同じものを買ってもらっている真央はいつも紙全体に絵を描く。
絵の具は使わない。
鉛筆だけで、全てのページにきちんと書く。
書くのは人だったり、景色だったり、物だったり。
なんでも、いつでも描きたくなる時に描きたいものを描いた。
舞台の方で髭の生えたおじさんがなにかを話しているが、真央はさっき道で拾った桜の絵を描いていて、話など頭に一切入っていなかった。
周りの先生も半分呆れていて、何も言ってこない。
いつもの光景だったはずだ。
「なんてこと!集会中に絵を描いているだなんて!!」
真央の視線の先にあったスケッチブックが、一瞬で消えた。
正しくは、一瞬で移動した。
真央のスケッチブックは、一人の女の先生の手の中にあった。