二次創作
みんなの異聞録
「御意」
私と私の隣で正座する冨岡さんはそう言ってその場を辞した。
御館様の御屋敷の門前
「では行きますか」
私はにこにこと笑んで冨岡さんに語りかけた。
「鬼と仲良くしたい」。そんな姉さんの願いを叶えるため、私は姉さんが好きだと言ってくれた笑顔を絶やさずにいた。
「胡蝶…」
何か物言いたげにつぶやく冨岡さん。それ以降だんまりした。
「黙りこくられても分かりませんよ」
言いたいことは大体分かっていた。でも言わなかった。死の間際の姉さんのように。
少し張り詰めた空気が漂ったので私は話を切り出した。
「それにしても、那田蜘蛛山───蜘蛛の山ですか。…蟲に非ずの者らの山。蟲柱としてほうっておけません! なかなか面白そうですね」
そう笑って言う私に彼はピシャリと一言言う。
「これは遊びじゃない、任務だ」
「いつも通り硬っ苦しいですね…」
笑顔のまま青筋を浮かせ、言い返そうとした。
「そんなだから…」
嫌われるんですよ、と言おうとしたのに…彼は空気を読まず、私の言葉を遮った。
「速度をあげるぞ」
そう言って足の動きを速める。
私は、素っ気ない態度の冨岡さんに流石に呆れ、挑発的な笑顔で言い返した。
「いいですよ。まあ、私の方が速いでしょうけど」
私はそう言い捨てて、チリン、と地を蹴って走った。
那田蜘蛛山
「那田蜘蛛山、着きましたね」
冨岡さんは無言で山に足を踏み入れる。
本当になんで喋ってくれないんでしょうね。
「ここも全滅。…冨岡さん、私はこちらに行きます。ですから冨岡さんはそちらへ言ってください。では」
私の言葉に彼はこくりと頷き、走り去った。私はもちろん、木の上を跳んでまるで空を飛ぶようにして進んだ。
木を足場にして進んでいると、向こうから鳥が飛んできた。その小さい鳥は、可愛らしい「雀」だった。
「こんばんは、雀さん」
雀に話しかけると、その雀は小さな翼を大いにはためかせて大きな声で鳴いた。
「チュン、チュンチュン(助けて、死んじゃうよ)!」
そう鳴かれて、思わず、
(お腹が空いているのかしら)
と思った。その時雀がいきなり私に背を向けて飛んで行ったので、きっとどうかしたんだ、と感じ取った。
「…!」
雀の案内でついて行った場所には、蜘蛛の糸が張り巡らされた広場に、浮いた一件の小屋。その小屋は穴が空いている。すぐ近くに、目立つ黄色い頭の少年が寝ていることに気がついた。隊服を着ているので、鬼殺隊の隊員であることを把握。よく見ると、服がだぼだぼになり、顔は一部紫色に腫れ上がっている。
私は、応急処置を施すため、少年が寝ている傍に降り立った。蝶のように。女神のように。それはもう神秘的に。
「もしもーし、大丈夫ですか?」
口から吐血したと見られる少年は、意識はあるのかこちらに視線を移した。安心したような眼差しでこちらを見る。
私は跪いて救急箱から解毒用の注射を取り出した。
「良かったですね。あなたの雀がここまで私を連れてきてくれました」
「隠の皆さん、あとはお任せしますね。カナヲ、鬼を見ればすぐにでも追って、ただただ首を刎ねなさい。考える必要はありませんよ」
同行していた隠達と継子のカナヲに簡単な命を下した。カナヲは薄っぺらい笑顔を貼り付けて、
「はい」
と短く答えた。
私は、半ば本気で心配した。私の───私たちの、可愛い妹を。
彼女は、引き取った頃から人形のようだった。
姉さんが言うには「好きな男の子が出来たらカナヲだって変われる」とのこと。しかし、こんなにも「お人形」を貫き通しているカナヲに好きな男などできるのだろうか。
私は、カナヲに、どんなことであれ、変われるきっかけになるような出来事が起きることを強く願った。
私と私の隣で正座する冨岡さんはそう言ってその場を辞した。
御館様の御屋敷の門前
「では行きますか」
私はにこにこと笑んで冨岡さんに語りかけた。
「鬼と仲良くしたい」。そんな姉さんの願いを叶えるため、私は姉さんが好きだと言ってくれた笑顔を絶やさずにいた。
「胡蝶…」
何か物言いたげにつぶやく冨岡さん。それ以降だんまりした。
「黙りこくられても分かりませんよ」
言いたいことは大体分かっていた。でも言わなかった。死の間際の姉さんのように。
少し張り詰めた空気が漂ったので私は話を切り出した。
「それにしても、那田蜘蛛山───蜘蛛の山ですか。…蟲に非ずの者らの山。蟲柱としてほうっておけません! なかなか面白そうですね」
そう笑って言う私に彼はピシャリと一言言う。
「これは遊びじゃない、任務だ」
「いつも通り硬っ苦しいですね…」
笑顔のまま青筋を浮かせ、言い返そうとした。
「そんなだから…」
嫌われるんですよ、と言おうとしたのに…彼は空気を読まず、私の言葉を遮った。
「速度をあげるぞ」
そう言って足の動きを速める。
私は、素っ気ない態度の冨岡さんに流石に呆れ、挑発的な笑顔で言い返した。
「いいですよ。まあ、私の方が速いでしょうけど」
私はそう言い捨てて、チリン、と地を蹴って走った。
那田蜘蛛山
「那田蜘蛛山、着きましたね」
冨岡さんは無言で山に足を踏み入れる。
本当になんで喋ってくれないんでしょうね。
「ここも全滅。…冨岡さん、私はこちらに行きます。ですから冨岡さんはそちらへ言ってください。では」
私の言葉に彼はこくりと頷き、走り去った。私はもちろん、木の上を跳んでまるで空を飛ぶようにして進んだ。
木を足場にして進んでいると、向こうから鳥が飛んできた。その小さい鳥は、可愛らしい「雀」だった。
「こんばんは、雀さん」
雀に話しかけると、その雀は小さな翼を大いにはためかせて大きな声で鳴いた。
「チュン、チュンチュン(助けて、死んじゃうよ)!」
そう鳴かれて、思わず、
(お腹が空いているのかしら)
と思った。その時雀がいきなり私に背を向けて飛んで行ったので、きっとどうかしたんだ、と感じ取った。
「…!」
雀の案内でついて行った場所には、蜘蛛の糸が張り巡らされた広場に、浮いた一件の小屋。その小屋は穴が空いている。すぐ近くに、目立つ黄色い頭の少年が寝ていることに気がついた。隊服を着ているので、鬼殺隊の隊員であることを把握。よく見ると、服がだぼだぼになり、顔は一部紫色に腫れ上がっている。
私は、応急処置を施すため、少年が寝ている傍に降り立った。蝶のように。女神のように。それはもう神秘的に。
「もしもーし、大丈夫ですか?」
口から吐血したと見られる少年は、意識はあるのかこちらに視線を移した。安心したような眼差しでこちらを見る。
私は跪いて救急箱から解毒用の注射を取り出した。
「良かったですね。あなたの雀がここまで私を連れてきてくれました」
「隠の皆さん、あとはお任せしますね。カナヲ、鬼を見ればすぐにでも追って、ただただ首を刎ねなさい。考える必要はありませんよ」
同行していた隠達と継子のカナヲに簡単な命を下した。カナヲは薄っぺらい笑顔を貼り付けて、
「はい」
と短く答えた。
私は、半ば本気で心配した。私の───私たちの、可愛い妹を。
彼女は、引き取った頃から人形のようだった。
姉さんが言うには「好きな男の子が出来たらカナヲだって変われる」とのこと。しかし、こんなにも「お人形」を貫き通しているカナヲに好きな男などできるのだろうか。
私は、カナヲに、どんなことであれ、変われるきっかけになるような出来事が起きることを強く願った。