仕込みは完璧だった(なお、バレた模様)
#1
試験一週間前。
僕、三崎蓮(みさき れん)は悩んでいた。
進級のかかった期末テスト。今までのサボり癖がたたり、範囲の広さに絶望していた。まじめにやっても追いつかない。かといって落第は避けたい。
「……仕方ない」
僕は禁断の手に出ることを決意した。
――カンニングだ。
細心の注意を払い、シャーペンの芯ケースに数式を極小文字でびっしりと書き込み、ルーズリーフの隅にキーワードを隠し、腕時計の内側にも英単語を彫り込んだ。深夜までかけて準備したそのセットは、努力というにはあまりに歪な結晶だった。
そして試験当日。
いざ答案用紙が配られる直前――
「三崎。ちょっと来い」
背後から、冷たい声がした。振り返ると、鬼のような表情の担任・北村先生が立っていた。
「お前、これ何だ」
僕の鞄の中から、完璧に偽装したはずのカンニングペーパーが次々と出てきた。誰かが密告したのか、僕の詰めが甘かったのか、今となってはわからない。
「……カンニングするつもりでした」
観念した僕は、素直に頭を下げた。北村先生は溜め息をつきながら言った。
「今回は見逃すが、全部没収だ。潔く受けろ。……実力で、な」
絶望した。終わった。こんな広い範囲、覚えているわけがない――そう思っていた。
だが、答案用紙を開いた瞬間、違和感があった。
「……あれ?」
見覚えのある数式。覚えた英単語。対策した歴史の並び順。
――そうだ。カンニングのために“書き写した”記憶が、なぜか脳裏に焼き付いている。
必死に書いた内容を、体が覚えていたのだ。無意識に、記憶に定着していた。
終わってみれば、僕の点数はクラス上位。北村先生に呼び出されて、また怒られるかと思った。
「……三崎」
「はい」
「どういうことだ。お前、まさか別の手口で……?」
「いえ。……本当に、書いたことを覚えてただけです」
先生は数秒黙ってから、ぼそりと呟いた。
「だったら最初から勉強しとけ、バカ」
こうして僕の期末テストは幕を閉じた。
カンニングはバレた。没収もされた。けど、僕は思わぬ形で学んでいた。
人生には誤算もある。だけど、たまにはそれが、救いになることもある。
次の試験? 今度はちゃんと勉強するさ。
たぶんね。
僕、三崎蓮(みさき れん)は悩んでいた。
進級のかかった期末テスト。今までのサボり癖がたたり、範囲の広さに絶望していた。まじめにやっても追いつかない。かといって落第は避けたい。
「……仕方ない」
僕は禁断の手に出ることを決意した。
――カンニングだ。
細心の注意を払い、シャーペンの芯ケースに数式を極小文字でびっしりと書き込み、ルーズリーフの隅にキーワードを隠し、腕時計の内側にも英単語を彫り込んだ。深夜までかけて準備したそのセットは、努力というにはあまりに歪な結晶だった。
そして試験当日。
いざ答案用紙が配られる直前――
「三崎。ちょっと来い」
背後から、冷たい声がした。振り返ると、鬼のような表情の担任・北村先生が立っていた。
「お前、これ何だ」
僕の鞄の中から、完璧に偽装したはずのカンニングペーパーが次々と出てきた。誰かが密告したのか、僕の詰めが甘かったのか、今となってはわからない。
「……カンニングするつもりでした」
観念した僕は、素直に頭を下げた。北村先生は溜め息をつきながら言った。
「今回は見逃すが、全部没収だ。潔く受けろ。……実力で、な」
絶望した。終わった。こんな広い範囲、覚えているわけがない――そう思っていた。
だが、答案用紙を開いた瞬間、違和感があった。
「……あれ?」
見覚えのある数式。覚えた英単語。対策した歴史の並び順。
――そうだ。カンニングのために“書き写した”記憶が、なぜか脳裏に焼き付いている。
必死に書いた内容を、体が覚えていたのだ。無意識に、記憶に定着していた。
終わってみれば、僕の点数はクラス上位。北村先生に呼び出されて、また怒られるかと思った。
「……三崎」
「はい」
「どういうことだ。お前、まさか別の手口で……?」
「いえ。……本当に、書いたことを覚えてただけです」
先生は数秒黙ってから、ぼそりと呟いた。
「だったら最初から勉強しとけ、バカ」
こうして僕の期末テストは幕を閉じた。
カンニングはバレた。没収もされた。けど、僕は思わぬ形で学んでいた。
人生には誤算もある。だけど、たまにはそれが、救いになることもある。
次の試験? 今度はちゃんと勉強するさ。
たぶんね。
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